【インタビュー】エルヴィス・コステロ「実は、ひとりならではの大胆な行為に出られるんだ」

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photo by ray di pietro

エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ名義での前作『ルック・ナウ』から約2年、しかも、その『ルック・ナウ』は第62回グラミー賞最優秀トラディショナル・ポップ・ヴォーカル・アルバムに輝くなど、精力的に活動を続けるエルヴィス・コステロ。

ただし、がんの切除手術とその影響でツアーがキャンセルなどで心配されたこともあった。今回は、ヘルシンキとパリでレコーディング、そして、ニューヨークのマイケル・レオンハートやビル・フリゼールらとのリモートによるレコーディング…と、コロナ禍の現代ならではのスタイルで、創意あふれる新作を完成させたエルヴィス・コステロに、近況とその新作について話を訊いた。


──『ルック・ナウ』に続いて今回の『ヘイ・クロックフェイス』の素晴らしさに接すると、体調を心配するのは不要かと思いますが、それでもファンからすると心配です。2018年の手術以降、大丈夫ですか?

エルヴィス・コステロ:いまはとても元気だよ。そうでなければ、こんなに働いていられないからね。ぼくの病状は幸いにしてごく初期だったし、迅速かつ効率的な治療をしてくれたので、いまはこれ以上ないくらいに調子がいいよ。

──現在は、新型コロナウイルスで音楽業界にも計り知れない影響が出ています。ライヴができない・仲間たちと一緒に音楽ができない…日本でも音楽家たちはいろんな思いを抱えています。あなたは影響を受けませんでしたか?

エルヴィス・コステロ:幸いというか、なによりも家族のもとに帰れたのがありがたかったね、UKツアーの最終日に近づき、ファンもコンサートに来ることに不安を感じ始めているのがわかるようになってきていた。イギリス国籍の人間はカナダ国内に入れなくなるので、ぼくは慌ててカナダへ。2週間の隔離生活の後、フェリーでバンクーバー島に渡り、小さなキャビンで3か月過ごした。ダイアナ(・クラール)と息子たちと小さな家ながらも一緒にいられたこと…しかも周りには森があり新鮮な空気を吸って毎日生活ができたのは良かったよ。都会のように常にサイレンが鳴り、食料を買いに行った先で感染したのではないかと怯えることはなかったからね。


photo by Lens_O'Toole

──今回のアルバムですが、『ヘイ・クロックフェイス』というタイトルと、そのタイトル・ソングについて教えてください。

エルヴィス・コステロ:例えば、待ち合わせで好きな相手が来るのを待っているとき、家で早く帰ってきて欲しいと願っているとき、時間はゆっくりにしか流れない。まるでこちらを騙そうとたくらんでいるかのようにね。ところが、別れの時間になってさよならを言わなければならなくなると、時間は途端に速度を速め、愛する人をさらっていく。とても思わせぶりな実は陽気な内容なんだ。


──そこで、ファッツ・ウォーラーの「ハウ・キャン・ユー・フェイス・ミー」を組み合わせたのは?

エルヴィス・コステロ:どちらの曲でも言わんとしているのは「時計は時を自分から奪っていく恋敵」ということだからだよ。ふたつの曲には同じフェイスという言葉が出てくるし、ふたつの曲の雰囲気が良く合っていると思ったのも理由だね。ファッツ・ウォーラーを最初と最後に持ってくることで、楽しい世界を作り出すことができて、パリでのセッションでもアンサンブルがとても楽しんで演奏してくれた。聴いていても、それは伝わって来るだろ?

──ええ、確かに。そのパリでは僅か2日間で9曲もレコーディングされたそうですが、その前にヘルシンキで一人で3曲をレコーディングしたんですよね?

エルヴィス・コステロ:フィンランドという独自の文化があって自分がそんなに詳しくない国で、自分一人で誰とも一緒にやらないっていうのも面白いと思ったから。着いて小さなスタジオを見た瞬間、ここでならサウンドに対する先入観を一切捨てて没頭できると感じた。アイディアに応じて素早く作業できるエンジニアだったのも助かった。ドラムやベースではなくサウンド編集によってリズミックな音楽を作りたいと願っていたから。

──そして、パリでスティーヴ・ナイーヴが集めたル・クインテット・サンジェルマンと一緒にやったんですね。理想的なレコーディングだったとか。

エルヴィス・コステロ:そうだね、パリに着いたその夜はスティーヴ・ナイーヴの誕生日でね、彼がフランスのパスポートを取得したお祝いもかねて、彼のアパートで全員腕を組んで乾杯しケーキを食べ、フランス国家「ラ・マルセイエーズ」を大合唱した。今じゃ感染にいちばん悪いとされることばかりだね。今日もその写真を見ながら、しみじみとなんて楽しかったことかと思っていたところさ。そんな日がまた来ることを心待ちにしているんだけど、その翌日にはスタジオに行き、素晴らしいミュージシャンたちと会い、2日間でレコーディングした。無駄話をすることなく、ただただレコーディングをね。9曲もだよ。それまでもスタジオで短期間で多くの曲ができ上がったことはあったけど、今回のようにプレイヤーの数人とはほとんど初対面だったことを考えると、賞賛されるべきは彼らだね。彼らが耳を澄まし、オープンにアプローチしてくれたおかげだよ。

──ニューヨークとのレコーディングは、どういう方法でやったんですか。

エルヴィス・コステロ:カナダで家族と一緒にいて、暇な時間を利用して少しずつ曲を書くようになっていた頃、ニューヨークのマイケル・レオンハートから曲が届いてね。それが今回の「ニュースペーパー・ペイン」になるんだけど、即興的にノートに書いていた文章をのせて送り返した。もう一曲送られてきた曲にも歌詞とメロディーをのせて返すと、彼からホーン・アレンジを加えたのが返ってきた。そうやって、気が付くと何千マイルも離れた二人の間で音楽を送りあい、対話を始めていたんだ。これまでは役者が舞台に上がって演技をするように、僕らはスタジオに行きパフォーマンスをしたけど、今は不可能だ。考え方を変えなければならない。それは臆病で脆弱で劣る方法だと思われがちだけど、実はひとりで誰にもみられていない環境で、仲間もいない中でやっていると、ひとりならではの大胆な行為に出られるんだ。「ニュースペーパー・ペイン」のように、音楽に合わせて言葉を読むのも、スタジオでみんなと一緒だったらできなかったかもしれない。


──オープニングの「レヴォリューション #49」もスポークンワードで、それだけでも強いメッセージが感じられましたが、これで幕開けしようと思った理由を教えてください。

エルヴィス・コステロ:これはプロデューサーのセバスチャン・クリスの助言なんだ。ぼくは、最後じゃないかと思っていた。「love is the one thing we can save(愛はぼくらが守れる唯一のもの)」という歌詞が伝える感情でアルバムを終えるのが良いのではないかと、ね。でも彼は「この曲で始めれば、前にも聴いたことがあるアルバムではないことを公言することができる」と言った。実際、彼は正しかった。あれは即興的にできた曲だ。ぼくがピアノを弾いて最初にバンドに聴かせ、そこにみんなが自由に乗っかっていってくれた。2分くらい経ってピークに達したところで、ぼくは何かをすべきか?と手帳を取り出し、別の曲で歌うつもりだったヴァースを朗読したんだ。全てその場の思い付きだよ。バンドの演奏がぼくにキューを出してくれたんだろう、「さあ、いいぞ」ってね。

──逆に、アルバムの最後はとても印象的な恋の歌「バイライン」になったわけですが。

エルヴィス・コステロ:あれはシンプルなストーリーだね。互いが好きなことを認めなかった友人ふたりが、もしラヴレターを投函していたら、ふたりの人生はどうなっていただろうという。バレンタインカードを送っておきながら「いや、あれは冗談だった。本気じゃなかった」と言ってしまうような、そういう感情を伝えたかったんだ。ロマンティックになれなかったラヴ・ソングだけど、そういうラヴ・ソングってあまりないなと思ってね。歌にすべき愛の形の種類はまだまだ尽きはしていないってことだよ。

──この「バイライン」でもそうですが、アルバム全体でフリューゲルホーンやトランペットが印象深く使われていますよね。意識して使ったんですか?

エルヴィス・コステロ:祖父も父もトランペット奏者だったので、ぼくもトランペットを吹くべきだったのかもしれないけれど、一度として吹かなかった。当然ジャズの…中でもバラードでのソロ・トランペットの音色にはとても惹かれるんだ。マイルス・デイヴィス、クリフォード・ブラウン、彼らは父のお気に入りだった。チェット・ベイカーとは1980年代に仕事もしたが、彼はフリューゲルホーンもよく吹いた。サックスもフリューゲルホーンも好きだが特にトランペットは好きだね。バート・バカラックのオーケストラではフリューゲルホーンが良く使われているね。

──『ペインテッド・フロム・メモリー』ですね。

エルヴィス・コステロ:そうだね、アレンジの中でシグネチャー・サウンドを狙う…つまりこれはぼくの曲だよって強調したくてサインの代わりのように使うのがフリューゲルホーンだよ。曲の中でフリューゲルホーンかバスクラリネットを入れられる場所があれば、好んで入れようと思ってしまうんだ。



インタビュー・文:天辰保文
通訳:丸山京子
編集:BARKS編集部

エルヴィス・コステロ『ヘイ・クロックフェイス』



2020年10月30日(金)リリース
UCCO-1224 SHM-CD
1.レヴォリューション #49
2.ノー・フラッグ
3.ゼイア・ノット・ラフィン・アット・ミー・ナウ
4.ニュースペーパー・ペイン
5.アイ・ドゥ(ズーラズ・ソング)
6.ウィ・アー・オール・カワーズ・・ナウ
7.ヘイ・クロックフェイス / ハウ・キャン・ユー・フェイス・ミー?
8.ザ・ワールウィンド
9.ヘティ・オハラ・コンフィデンシャル
10.ザ・ラスト・コンフェッション・オブ・ヴィヴィアン・ウィップ
11.ホワット・イズ・イット・ザット・アイ・ニード・ザット・アイ・ドント・オールレディ・ハヴ?
12.レディオ・イズ・エヴリシング
13.アイ・キャント・セイ・ハー・ネーム
14.バイライン
15.フォノグラフィック・メモリー*
*日本盤ボーナス・トラック
https://jazz.lnk.to/ElvisCostello_HeyClockfacePR

◆エルヴィス・コステロ・レーベルサイト
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