【ライブレポート】エルヴィス・コステロと同時代を歩む、至高の満足感
2024年4月8日から、8年ぶりの来日公演がスタートしたエルヴィス・コステロのレポとライブ写真が到着したので、ご紹介しよう。この公演にあわせて来日記念盤『The Boy Named If(Alive at Memphis Magnetic)』も4月3日に発売となり、会場ではCD即売抽選特典としてエルヴィス・コステロ直筆サイン入りアナログ・7インチ・シングルのテストプレス盤が当たるキャンペーンが実施されている。
◆ ◆ ◆
定刻を3分ほど過ぎたところでエルヴィス・コステロ、スティーヴ・ナイーヴが登場、「久しぶりだね、特別なショーにするよ」と挨拶したコステロがさっそく1曲目の「ホエン・アイ・ワズ・クルーエル No.2」をプレイし始め、すみだトリフォニー・ホールを埋め尽くした観客の心を解きほぐしていく。
ヘヴィに響き渡るリズムマシン、エレキ・ギターを手にしたコステロがステージやや右手側、左手にはグランド・ピアノとエレクトリック・キーボード、曲により鍵盤ハーモニカを操るスティーヴ・ナイーヴが位置して座る。2002年のアルバム『ホエン・アイ・ワズ・クルーエル』のタイトル・トラックだが、オリジナル以上にヘヴィなサウンドにアレンジされ、ズシンと迫ってくるし、ナイーヴは早速鍵盤ハーモニカを手に客席に降りてくる。
もう45年ほどありとあらゆるステージやレコーディングを共にしてきた二人だけに、何があっても、すべて対処できる自信がステージ上から溢れ出すし、伝説の1978年初来日に始まり20回以上来日しているコステロだけに、日本にいかに熱心なファンがいるかもよくわかっているので余裕綽々だ。
続いて『トラスト』(1981年)からの「ウォッチ・ユア・ステップ」、『キング・オブ・アメリカ』(1986年)からの「ジャック・オブ・オール・パレーズ」といった比較的地味な曲や未発表の「Like Licorice on Your Tongue」が続き反応もおとなしめだったが、初期の大ヒット・アルバム『アームド・フォーセス』(1979年)からのおなじみ「アクシデンツ・ウィル・ハプン」で大きな拍手がわく。もともとは畳み込んでいくようなテンポの良い曲ながら、ここでは大胆なアレンジが施され、しかもピアノだけをバックに歌いこまれる。と書くといかにも重そうだが、そうじゃなく曲に新しい滋味を加えていくといった趣で、それがスリリングに響いてくるのだ。さすがコステロ!
そしてここからが前半のハイライトで『トラスト』からの「クラブランド」がプレイされ、それがスペシャルズのNo.1ヒット「ゴースト・タウン」へとつながる流れにびっくり。登場してきたスペシャルズを気に入りファースト・アルバムをプロデュース、2トーン・ブームを盛り上げたあの時代を振り返るようにキーボードがリーダー、ジェリー・ダマーズのフレーズを奏でる。と感傷に浸ってるとそれが日本ではアニマルズで知られる「悲しき願い(Don't Let Me Be Misunderstood)」へつながる。『キング・オブ・アメリカ』に入っているが、あまりステージにかけられることがないので日本での人気を知ってのピックアップだろう。ここらが嬉しい。
そしてMCで、日本といえばとアラン・トゥーサンと来たときの思い出を語り、彼と作った名盤『ザ・リヴァース・イン・リヴァース』(2006年)からの「アセンション・デイ」をアコースティック・ギター一本で披露(これもあまり取り上げられることのないレア曲)、同じくギターだけで人気の「ビヨンド・ビリーフ」をプレイし、さらに『ヘイ・クロックフェイス』(2020年)からのタイトル曲や『ブルータル・ユース』(1994年)からの「スティル・トゥー・スーン・トゥ・ノウ」などの珍しい曲が並び熱心なファンを喜ばせる。
驚かされたのは次の「レッド・シューズ」。初期コステロの代表曲の一つだが、最近ではあまり取り上げていなかったこの曲を大幅にアレンジしテンポも変えて歌い込み、さんざん聞き慣れた曲がとても新鮮に響いてくる。やや重くなった空気を切り裂くようにデジタル・ビートとラップが絡む「ヘティ・オハラ・コンフィデンシャル」(『ヘイ・クロックフェイス』)で、あっけに取られていると、次曲はもっとびっくり。なんと「オールモスト・ブルー」だ。昨年以前は20年近くやられていない曲で、名作『インペリアル・ベッドルーム』(1982年)からの曲だが、その前作アルバム『オールモスト・ブルー』(1981年)が、ナッシュヴィルでカントリー・ナンバーをカヴァーし当時かなり批判されたのを思い出す。
ここらから中盤(もう後半か)の私的ハイライトで、これまた珍しい『ノース』(2003年)の「スティル」がじっくりと歌いこまれ、次の最初期のナンバー「ウォッチング・ザ・ディティクティヴス」へと続く。会場全体がかなり暗いブルーのトーンが包み込み、ドラマチックな空間を鍵盤ハーモニカとエレキ・ギター、リズムマシン、事前に入れておいた音とエフェクト処理なのかわからないがダブル・ヴォーカルにも聞こえる歌、それと対話するかの自由度の高いギターが響き渡る。もう本当に何千回も歌い、プレイしてきている曲だろうにこうして大胆にアレンジし、曲を活き活きとしたものする彼のアーティスト魂には、本当に熱くさせられた。
その興奮がさめる間もなくバート・バカラックとの共作盤『ペインテッド・フロム・メモリー』(1998年)からの難曲「アイ・スティル・ハヴ・ザット・アザー・ガール」が歌われる。正~直なこと言えば「ゴッド・ギヴ・ミー・ストレングス」が聴きたかったが、ナイーヴの素晴らしいピアノもたっぷりと味わえるこれでも大満足。そんな会場へのプレゼントのように続いて「She」がプレイされる。
日本ではコステロといえばコレというほど人気の高い曲は映画『ノッティングヒルの恋人』の主題歌として使われたシャルル・アズナヴールの名曲。ここでは、ロンドンの名門 Royal College of Music(王立音楽大学)に通った才人ナイーヴのみごとなピアノをバックに、1950年代風のヴォーカル・マイクで往年のポピュラー・シンガーのように歌い上げ感動が会場を包み込む。大拍手に送られステージ袖に引っ込むが、一瞬で再登場。アンコールに応えたということか(笑)。
平和への祈りを込め『コジャック・ヴァラエティ』(1995年)で取り上げていたモーズ・アリスンの「エヴリバディーズ・クライング・マーシー」を渋くきめ、次が観客全員が大好きなニック・ロウ・ナンバー「ピース、ラヴ・アンド・アンダスタンディング」が始まり、この日の充実したステージを観客が称えるように手拍子が広がっていくが、それに応えてなんとセカンド・ヴァースはナイーヴがヴォーカルを取って喜ばせてくれる。これ以上はないピースフルな空気のなか最後の必殺「アリソン」が歌われ、全ファンが本当に来てよかったと幸福感に酔いしれた。
こんなアーティストと同時代を歩む満足感は本当に特別なものだ。すぐにでもジ・インポスターズとの来日を実現してほしい。
Photo:Yuki Kuroyanagi
文:大鷹俊一
エルヴィス・コステロ『ザ・ボーイ・ネームド・イフ(アライヴ・アット・メンフィス・マグネティック)』
CD: UICY-16211 / 2,750円(税込)/日本のみCD発売
購入:https://umj.lnk.to/ec_bnia
1.Magnificent Hurt(Memphis Magnetic Version)
2.Truth Drug(Memphis Magnetic Version)*
3.Penelope Halfpenny(Memphis Magnetic Version)
4.So You Want To Be A Rock 'N' Roll Star*
5.What If I Can't Give You Anything But Love?(Memphis Magnetic Version)
6.The Boy Named If(Memphis Magnetic Version)
7.Let Me Roll It*
8.Everyday I Write The Book
9.Out Of Time*
10.Here, There And Everywhere*
11.Magnificent Hurt(chelmico Version)
*カヴァー曲
<ELVIS COSTELLO & STEVE NIEVE来日公演2024>
4/9(火)東京 すみだトリフォニーホール SOLD OUT!
4/11(木)大阪 ザ・シンフォニーホール SOLD OUT!
4/12(金)東京 浅草公会堂【追加公演】 SOLD OUT!
https://smash-jpn.com/live/?id=4079
◆エルヴィス・コステロ・レーベルサイト
この記事の関連情報
エルヴィス・コステロ、バカラックとのコラボAL『ペインテッド・フロム・メモリー』発売25周年記念リマスターを含む作品『ソングス・オブ・バカラック&コステロ』3月発売&新録曲3曲収録
エルヴィス・コステロ、ボーイ・ジョージら、テリー・ホールを追悼
ロッド・スチュワート、エルヴィス・コステロからの批判に嫌味
エルヴィス・コステロ、最初のバンドとリユニオンしデビュー・アルバムを発表
全英アルバム・チャート、ザ・ウォンバッツが初の1位
【コラム】エルヴィス・コステロ、67歳とは思えないすさまじい熱気
エルヴィス・コステロ、自身最大のヒット曲「Oliver’s Army」を「ラジオでかけるな」
エルヴィス・コステロ、オリヴィア・ロドリゴの楽曲類似性に「問題なし」
エルヴィス・コステロ、『SNL』出禁となったパフォーマンスを振り返る