【インタビュー】「楽器が買えないわけじゃない」Nagie Laneが語る、アカペラ&シティポップ

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■挑戦を続けていきたい

──最新作となるミニアルバム『Dramatique』はカヴァー曲含め全7曲入りです。まずタイトルの由来は?

バラッチ:がっくんがいろいろ調べてくれたんですけど、過去にリリースされたシティポップのアルバムのタイトルに“romantique”という言葉があって。

がっくん:シティポップのバトンをつなぎたい気持ちがあるので、前作の『ナギービートで唄わせて』というタイトルも、竹内まりやさんの「マージービートで唄わせて」から引用しているんです。アルバムタイトルは大貫妙子さんの『ROMANTIQUE』、ピチカート・ファイヴさんの『ロマンティーク96』──この文脈で“romantique”に因んだタイトルをつけようかと思っていました。

みかこ:今回の楽曲たちはいろんなシーンを切り取っているし、5曲目の「Good-bye」は人生の曲なので、ドラマチックな作品にしたいねという話をしていて。そのときにバラッチがポンと“Dramatique”とだけグループLINEで送ってくれたんです。字面もいいし、満場一致でそれにしようって。

──3曲目の「楽器が買えないわけじゃない」は「SHIBUYA A CAPPELLA STREET」テーマソングで、渋谷の風景のなかに歌への決意が綴られています。ソングライターの山口夕依さんとどんなやり取りがあって生まれた曲なのでしょう?



がっくん:僕がもともとOB訪問関係の仕事をしていて、そこで山口さんとやり取りをするなかで、同じ関西出身で、東京に住んでいることがわかったんです。その後、彼女が幼少期から作詞作曲をしていることを知って、「SHIBUYA A CAPPELLA STREET」のテーマソングを作る人を探していることを相談したら“ぜひ書きたい”と言ってくれて。

バラッチ:その制作会議で、曲のフックになるキャッチフレーズを探しているなかで“楽器が買えないわけじゃない”というキラーワードがある人から出てきて、“面白いね”という話になったんです。その言葉と“渋谷”に引っ張られて、山口さんがああいう曲を作ってきてくれました。アカペラをする意味、ハモる意義を提示できる、いい曲になったと思います。やっぱりアカペラはうまくハモった時が、いちばん一体感があって……すごい現象が起きてるなと思う。その瞬間が好きで今も続けてるんですよね。そんなことを代弁してくれてる歌詞だと思います。

▲バラッチ

がっくん:渋谷で大きなアカペラのストリートイベントを開催するのは初めてだったので、“アカペラの魅力が伝わる曲ってなんなんやろ?” “アカペラの魅力ってなんなんやろ?”という話をしてるときに出てきた言葉やったんです。結果、面白い言い回しで意思を伝えられるものになりましたね。

ブリジットまゆ:わたしは、ハモる喜びがあることを高校生の時に知って、ずっとやりたかったアカペラを大学に入ってから始めました。ハモるのがすごく好きなんです。

──なるほど。アカペラは歌う喜びだけでなく、ハモる喜びが大きいんですね。

全員:そうです!

ブリジットまゆ:今回収録してるカヴァー曲の「LA・LA・LA LOVE SONG」や「NIGHT TOWN」みたいに、ブレスきっかけのハモりから始まる曲をライブでやると、みんなの息遣いとかが聴こえてくるから、一糸乱れず合わせられた瞬間はかなり気持ちいいんです。



みかこ:わたしは、もともと中高時代から誰かと音楽をするのがすごく好きで、ギター部に所属してたんです。なかでも一人ひとりの良さがぎっしり詰め込まれているステージがすごく好きで、当時からソロパートをそれぞれに入れたり、パートごとの良さを考えながら楽譜を書いていたんです。大学に入ってアカペラを始めて、“それぞれがまったく違う声を持っている者同士で、どうやってハモろう?”と考え、母音や発音を変えるだけで、みんなでほかの人の良さを引き立てることができることを知って。

──それはNagie Laneのハーモニーに綺麗な調和がとれている理由のひとつかもしれないですね。

みかこ:練習を重ねていくうちに相手のクセがわかってきて、いつの間にか発音が合っている瞬間があったり、“ここはこの子を目立たせたいから自分は控えめに歌おう”という判断ができたり──そういう“5人でひとつになって歌えてる!”と思う瞬間がどんどん増えてきてるんですよね。5人で2年近く活動してきて、言わなくてもわかるようになってきたのは、すごくうれしいです。

──音作りも面白いですよね。「楽器が買えないわけじゃない」では《ヒカリエから駅に伸びる橋は左に傾き》でパン(定位)がじょじょに左に振られていくという仕掛けもあって。

バラッチ:あんなアホみたいなミックスなかなかしないですよね(笑)。エンジニアさんに頼んだら“そんなことするの?”と言われて……でもやり始めたらやり始めたで細かいエディットの数字まで凝り始めるっていう(笑)。イントロの雑踏音も実際にあのあたりを歩いてiPhoneで録音したものをそのまま使ってます。

──「花と蜜」や「SPOON」では女性陣がギターやシンセフレーズを入れてますよね。なかなか斬新で、これにも驚きました。



バラッチ:アレンジ的にちょっと攻めたくなっちゃって(笑)。

れいちょる:ほんとにバンドでやるようなギターソロ、シンセソロを取り込んできたよね(笑)。

がっくん:女声リードでギターソロはあんまり聴いたことがないよね(笑)。

バラッチ:すごいエフェクトを掛けて本物の楽器みたいにするのではなく、Nagie Laneでアレンジをする場合は、女性3人の声で程よく可愛らしさを出すと、聴きづらさがなくなるんです。冒険したアレンジをしても、Nagie Laneっぽいサウンドになるというか。だからいろいろ試してみてますね。クラブミュージックが好きなので、その要素を入れたくて。

ブリジットまゆ:特にれいちょるがいろんな楽器になったね(笑)。

れいちょる:バラッチに試されました(笑)。“もうちょっとこういうことやってみて?”みたいに。でも楽しいレコーディングでしたね。真剣に楽しくやっているからこそ、勢いが伝わるものを目指しました。

──Nagie Laneはおしゃれなイメージが強かったので、こういうのもアリなんだなという音楽への本気度が垣間見られました。

バラッチ:アレンジを作ってる時に勝手にその音が鳴るので、そうなったらもうやってもらうしかないので(笑)。

ブリジットまゆ:素晴らしい、それはもう頑張るしかないね。

れいちょる:“どうやったらこんな音出せるんだろう?”という興味のほうが大きくなるかな。バラッチの音を参考にしてその音に寄せていくというか。ふたりのギターの音を合わせる難しさがありましたね。

みかこ:わたしたちも緊急事態宣言中に1日も会わないようにしていたので、「花と蜜」はバラッチが多重録音したものを聴いて、それぞれで歌ってデータを渡して……というなかで音作りしていきました。最初は“どうやって出すの!?”と思っていたけれど、家でひたすらひとりで練習をして。わたしのギターソロにまゆが合わせてくれたり、いろいろ挑戦してみました。声だけでいろんなことができることを見せられてうれしいですね。声だけでどこまでいろんな表現を出していけるかは、これまでもずっと考えてたんですけど、今作でいろいろバラッチが出してくれたと思います。

バラッチ:今までは正統派が好きだったはずなんだけどね……Nagie Laneを始めてから、そっち方面が開発されちゃったんだよね(笑)。

ブリジットまゆ:去年香川で開催されたアカペラのアジア大会にNagie Laneでも参加したのですが、インドのアカペラグループが聴いたこともないような楽器の音を重ねてたんです。アカペラの可能性を感じたし、わたしたちも対抗したい気持ちが芽生えて(笑)。それも影響しているかもしれないですね。

れいちょる:わかる! びっくりさせたい気持ちは強くなったよね。

ブリジットまゆ:うんうん、ほんとそうだよね。でも本音を言うとライブで口元は見られたくないスキャットも多々あります(笑)。

れいちょる:みんなに幻滅されないようにかっこよく口を隠して、ギターソロやシンセソロ、スキャットをやっていきましょう!(笑)

▲ブリジットまゆ

──全員が声で楽器の音が出せちゃうんだから、“楽器が買えないわけじゃない”という言葉にどんどん説得力が生まれますね(笑)。「Good-bye」はライブ開催の難しいコロナ禍で聴くと新しい意味も生まれる楽曲ですし、メッセージ性や挑戦もあって、ただおしゃれなシティポップを歌っているグループではないんだなと感じられる作品でした。

みかこ:ありがとうございます、なによりです。まだまだコロナ禍は続くと思うので、ひとりでも多くの人のおうち時間をわたしたちの音楽で満たしてほしいし、わたしたちも聴いてくれる人たちを満たせるもの、自分たちのことを満たせるものを、ただひたすら作っていきたい。2020年を“コロナで残念だったね”という1年には絶対にしたくないので、今作然り、来年の1月のワンマン然り、挑戦を続けていきたいですね。

がっくん:そろそろ来年の1月の渋谷ストリーム ホールのワンマンライブの準備もしていかないとね。そのためにもこのアルバムをひとりでも多くの人に届けていきたいです。あと、「花と蜜」の“蜜ダンス” が “恋ダンス”ばりに流行ってほしい!(笑)

ブリジットまゆ:“恋ダンス”や“恋するフォーチュンクッキー”に続きたいよね(笑)。音楽やワンマンはもちろん、MV制作なども頑張っていきたいです!

れいちょる:みなさんのおうち時間がたくさんあるうちに、アカペラもNagie Laneも知らない人に届く機会が増えてくれたらいいね。

バラッチ:そうだね。今作をリリースしたあともどんどん新曲を出していきたいと思っているので、これからも楽しみにしていてほしいです。

取材・文◎沖さやこ
撮影◎野村雄治



▲Nagie Lane/『Dramatique』

2nd Mini Album『Dramatique』

2020年7月5日(日)配信リリース&オンライン限定CD販売
[収録曲]
01. 花と蜜
02. SPOON
03. 楽器が買えないわけじゃない
04. ナギービートで唄わせて
05. Good-bye
06. LA・LA・LA LOVESONG(Cover)
07. NIGHT TOWN(Cover)

※01〜05:オリジナル曲/06・07:カバー曲

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