【インタビュー】杉山清貴、日本のポップス/AORの王道を行く作品『Rainbow Planet』
外に出られなくても、会いたい人に会えなくても、そんな時でも音楽は、時間と空間を超えて、自由になった心を遠くまで運んでくれる。杉山清貴、2年ぶりのニューアルバム『Rainbow Planet』。20代のフレッシュな才能あふれるクリエイターをはじめ、豊かに構築されたプロダクションに身を任せ、ボーカリストに徹することで生まれた、日本のポップス/AORの王道を行く素晴らしい作品だ。アルバムの制作秘話、若い作家たちとの交流、揺るぎない人生哲学、オメガトライブへの思い、そしてアニメ好きという意外な素顔も明かされた、元気の出るインタビューをお届けしよう。
■楽曲は「自分で作りたい」という思いがなければ作りたくない
■作家の作品を自分の世界観の中で消化していくほうが楽しい
──今ここにある資料に、「杉山清貴っぽいアルバムだなと自分で思いました」というコメントが書いてありまして。
杉山清貴(以下、杉山):そうですね(笑)。
──まったく同感なんですけども、それは具体的に言うとどのへんが。
杉山:楽曲のセレクションなのかな?と思いますけども。この、(Martin)Naganoさんというプロデューサーと3作つくったんですけど、1作目はお互い探りながら作っていて、Naganoさんも「杉山さんがこういうのをやったら面白いかな」みたいな楽曲を集めてやって。で、2作目の時には、1作目がこういう感じでできたから、「2作目はこういう楽曲を増やしたほうが面白いかもしれない」と言ってNaganoさんが作り始めて。で、3作目は完全にお互いのことがわかったから、「よし、王道で行こう」みたいな感じになったと思います。
──Naganoさんって、もともと、南佳孝さんの繋がりで?
杉山:そうです。佳孝さんが紹介してくれたんです。面白い人を紹介してもらいました。素晴らしいと思います。
──最初から、共感するところがあったわけですか。
杉山:いや、最初は、どんな人かわからないじゃないですか。僕らが言うプロデューサーって、サウンドを作る人だったり、詞を書いたり曲を書いたりする人だけど、そういうことを一切やらないんですよね。だから、何だろうな?と思ったんです。彼は音楽の教育を受けているので、譜面もばっちりだし、エンジニアもやっていたので音にめちゃくちゃこだわりがあって、とにかく音をいじっているのが大好きな人です。だから、先に話をしちゃうと、レコーディングが終わりました、ミックスが終わりました、「杉山さん、ばっちりの、作りましたから。じゃあ、アビーロードに行ってきます」って、アビーロード・スタジオに行ってマスタリングしてくるっていう。
──おおー。マスタリングだけのために。
杉山:3作とも、アビーロードでのマスタリングです。すごいですよね。こだわりなんですよ。そんな人と出会って、自分の中にない人脈を持って来てくれるので、すごく広がります。
──確かに、Naganoさんとの第一作『Driving Music』から、それ以前の作家陣とはがらりと顔ぶれが変わって。
杉山:そうです。ミュージシャンとか、アレンジャーもそうですし。
──そして面白いのが、杉山さんの自作曲がどんどん減っていくという。
杉山:はい。いいんです、全然(笑)。
▲『Rainbow Planet』【通常盤】
▲『Rainbow Planet』【初回限定盤】
──『Driving Music』は、6曲あったんですよ。作詞作曲に関わった曲が。で、第二作『MY SONG MY SOUL』が4曲で、今回3曲になりました(笑)。
杉山:いやもう、楽曲はね、「自分で作りたい」という思いがなければ、作りたくないんですよ。「こういう曲を作りたい」というものがあれば作りますけど、アルバムの数合わせで曲を作るのは面倒くさいというか。あと、大きな理由は、いろんな人が作ってくれたほうが、面白いんですよ。正直なところ、自分の世界観というものはだいたいやりつくしたかなと、ある意味思っていますんで、そのあと、これから自分でやっていくとしたら、また違う方向が見えたらやればいいし、今はどちらかというと、いろんな作家の作品を自分の世界観の中で消化していくほうが楽しいというのが、正直あります。
──ボーカリストに徹するというか、
杉山:そうです。
──面白いのは、それが形としては、80年代のオメガトライブに似ているという。
杉山:まさに。原点回帰ですね。オメガトライブの再集結ライブをやってみて、当時の曲を久しぶりにたくさん歌った時に、「これは勉強になるな」と思ったんですね、今さら。集中して歌わないと、完成されない楽曲なんですよ。人の楽曲を歌うのって、その人に対するリスペクトがないとダメだなと思っているんですね。自分で作った楽曲は、自分の雰囲気で全部歌っちゃえばいいんですけど、人が作ってくれた曲は、それをどこまで理解して、どこまでちゃんと再現して、最終的に自分のものにしていくか?という、瞬時のうちにいろんなことを考えなきゃいけないので。
──大変そうですけど。楽しそう。
杉山:めちゃくちゃ楽しいです。自分で作る場合は、限界を作るんですよ。キーにしても、「これちょっと高いな」とか、でも人が作ってくれたものだと、「これ高くねえか?」というものがあっても、「キーを落としてください」と言うのも悔しいんで、そのキーで歌うわけですよ。今まで出さなかった声をレコーディングできたりとかするので、それも楽しいですね。
──曲集めって、いわゆるコンペみたいな感じですか。
杉山:そうです。去年の秋ぐらいから、Naganoさんがいろいろ声をかけていて、いきなり20曲ぐらい送られてきました。その中から厳選していって、「こういう曲が足りないから誰かに発注しましょうか」とか、そういうやり方をしました。
──全曲、見事にカラーが違いますよね。実にバラエティに富んでいる。
杉山:はい。なので、七色という意味も含めて、RAINBOWが一つのキーワードになりますね。
──1、2曲目はまさにTHIS IS AOR。キターッ!と思いましたよ。
杉山:1曲目「Omotesando'83」は、デモテープを松下(昇平)くんからもらった時に、「うわ、懐かしいな」というのが、正直なところでした。完全に70年代後半、80年代前半だなと思って、音を聴いた瞬間、デビューした頃の自分たちが蘇ってきて、その頃、事務所が表参道にあったんですよ。骨董通りの突き当りに事務所があって、途中にパイドパイパーハウスというレコード屋があって、そこへ必ず寄って新譜を探していた、その頃の景色がぶわーっとフラッシュバックしてきて、この詞になっちゃったという感じです。こういう曲を今書こうと思っても、自分たちの中では終わっちゃったんで、書きたくても書けないんですよ。それを40歳ぐらいのアーティストがポンと書いてくれると、ありがたいなと思います。
──今回、もっと若い作曲家もいますよね。
杉山:二十代が二人いますね。福田(直木)くんが27歳、宮野(弦士)くんが25歳。それが一番AORっぽい曲を作ってきていますからね(笑)。僕らはその原体験が一度終わってしまって、過ぎてしまったんですね。だから自分の中でも、あの頃みたいな作品を作りたいなと思って、何度もチャレンジするんですけど、もう戻れないんですよね。やっぱり、自分がそこにハマっている時は、吸収して消化して吐き出せるんですけど、もう今は、そんなにあの頃の音楽ばかり聴いているわけじゃないので。でも彼らは、そういうのばっかり聴いてるわけですよ。
──彼らにとっては、今それが新しい。
杉山:そうです。それの違いはあるなと思いますね。彼らは、今が原体験であるわけですよ。だから、溢れるようにアイディアが出て来る。
──宮野さんの曲とか、すごいスティーリー・ダンっぽいなーと思って。
杉山:スティーリー・ダンですね、完全に(笑)。
──調べたら、すごい好きみたいで、やっぱりなと。
杉山:彼、全部自分で楽器をやっていますからね。機材も好きなんですよ。スタジオに来た時に、機材ばっかり見ていましたもん。「あ、この機材すごいっすね」とか言っていましたから。あれはもう、オタクです。福田くんは福田くんで、一人暮らしするのに、部屋にベッドを入れるかアナログ盤のレコードを入れるか悩んで、アナログ盤3000枚を選んだという(笑)。「ベッドは折り畳みにしました」って。
──素晴らしい(笑)。
杉山:彼のホームページとかブログを見ると、挙げてるアナログ盤が、まさに僕らの時代のどんぴしゃなんですよ。「イーグルス、いいっすよねー」とか。オタクですよね、彼も。
──世代差が一気になくなる。
杉山:だから、一番話が合います(笑)。
──あと、澤田かおりさんも二世というか、若い世代。
杉山:かおりちゃんは、そうですね。『Driving Music』で曲を書いてくれた時に初めて会ったんですけど、うちの娘と一歳しか違わないんですよ。そんな娘みたいな子が、「Daughter」という父と子の歌を書いてきたのが、面白いなと思いますね。
──この曲のボーカル、ものすごい思い入れを感じるんですよね。
杉山:これはレコーディングも、彼女のピアノと、僕のボーカルと、せーので録ったんですけど。彼女と顔を見合わせながら、呼吸を合わせて歌っている時に、本当に自分の娘と一緒にいるような感覚になってきて、余計に気持ちが入りますよね。
──ばっちり感じます。逆に、最年長は売野(雅勇)さんですかね。
杉山:完全にそうですね(笑)。
──売野さんの言葉の世界は、もうよく知っていて。
杉山:はい。やっぱり、言葉の持って行き方がさすがだなと思いますよね。言葉のプロってすごいなと思います。
──空気と時間が閉じ込められている感じが。
杉山:小物の使い方も、とてもうまいですよね。やっぱり、80年代を生きた人は、小物使いが素晴らしい。小物で、その世界を作っちゃいますからね。
──売野さんが書いた「Rainbow Planet」は沁みます。ラブソングでもあり、自然も含めた大きな愛でもあり、明るいノスタルジーがあって、まさに杉山清貴っぽい世界観だなと。
杉山:そうですね。何曲かに虹が出て来るんで、じゃあアルバム・タイトルも虹にちなんだほうがいいんじゃないかと言って、僕もいくつかアイディアを出したんですけど、やっぱりこの「Rainbow Planet」という、売野さんの言葉が非常に響いちゃって、これしかないなと思って、曲タイトルをそのままアルバム・タイトルにしました。
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