【ライブレポート】上杉昇「次から次へと言いたいことが出てくる」

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2018年秋に12年ぶりのソロ・アルバム『The Mortal』をリリースし、11月にはそれにともなう東名阪ツアーを行った上杉昇だが、その追加公演3本が4月28日、新代田FEVERでファイナルを迎えた。バンドのメンバーや全体の構成は基本的に2018年と同じだが、アレンジが変化していたり表現がより進化した曲や、新たにセットリストに加わったカバー曲もあり、前回を観ている人も観ていない人も新鮮に楽しめる内容となっていた。

オープニング・ナンバーはリラックス感のあるギターで始まる「Sleeping Fish」。上杉は脚を軽く曲げて気合いを入れると、優しげな声で歌い始める。柔らかなメロディーラインとはいえサビは高いキーを使うこの曲だが、ボーカルは安定していて調子も良さそうだ。続いて『The Mortal』から本作のメインテーマでもある戦時中の先人たちを歌った楽曲を4曲。トレモロ奏法のギターが何とも言えない哀愁を誘う「紅い花咲く頃には」、若きゼロ戦パイロットたちの映像をフィーチャーした「青き前夜」、現代の都会の風景と戦時中の若者をクロスオーバーさせた映像演出の「Survivor's Guilt」と、胸が締め付けられるようなナンバーが続く。特にタイトル曲である「The Mortal」では歌い方がポエトリーリーディング的に変化している部分もあり、楽曲で描かれる情感がよりリアルに迫ってくる。これは2018年のツアーを経て、表現がより深化したのだろうなと思わされた。

中盤のMCでは、彼らしいちょっと政治的な発言も。「『The Mortal』を作っていろいろ思ったのは、日本はアメリカを特別視しすぎている。アメリカが守ってくれるから大丈夫、みたいなところから抜け出さないと…。最近は書いても書いても次から次へと言いたいことが出てきます」。そのMCの後で演奏された「Pearl Harbor Blues」は、歌詞のメッセージがとてもストレートに訴えかけてきた。やはり“どういう気持ちで書いたのか”を補足されてライブで聴くと、入ってくるものがまるで違う。また、この曲ではドラムがエネルギッシュに叩きまくっていて、そこにマニピュレーターがキュルキュルした効果音でフックを付けていくという、まさにエレクトロ・ロックな仕上がり。アルバム制作時に上杉が標榜していた“ラウドなロックで、エレクトロニカで、強烈なメッセージを持っているもの”というのが具現化されたひとつの形と言えるだろう。


SEをはさんで後半は、ロック的なアプローチのセクション。温かいエレピとワイルドなギターに彩られたal.ni.co楽曲「晴れた終わり」では、観客にヘドバンの波が広がった。ボーカルも、肩の力が抜けたA・Bメロ部分から急激にテンションを上げるサビへの緩急が素晴らしく、グランジ/オルタナ・ボーカリストとしての面目躍如な表現力を見せた。続くMCでは「日本ではサウンドガーデンって過小評価されていると思うんですけど…俺はハイテンションになりたい時ではなくて、落ち込んでる時とか…癒やしを求めて聴きます。“Ativan”はサウンドガーデンのクリス・コーネルが飲んでいた精神安定剤の名前。5月6日発売のライブ会場限定販売シングルにも入っている“The Promise”は、彼の曲に俺が日本語の歌詞をつけて歌いました。原曲のイメージに忠実に書いたつもりです」と、クリス・コーネルがらみの楽曲を2曲続けて。CDでも孤高の存在感を放っていた「Ativan」だが、ライブではアシッドな映像も相まって、その世界観が増幅する。ツアー中に自死したというクリスの心中を追体験するような“映像+音+言葉”の迫力がすごい。一方「The Promise」は飾り気のないバンド・サウンドで“未来への約束”を歌う、穏やかだが力強いナンバー。昨年12月の弦カルテットライブで初披露されたが、レコーディングを経た成果もあるのかその時よりもずっと楽曲を自分のものにしている感がある。グランジ・シーンを牽引していたボーカリストたちは不幸なことに次々と若くして亡くなっているが(クリス・コーネルをはじめ、チェスター・ベニントンやカート・コバーン、レイン・ステイリーetc.)、彼らの魂の継承者となれる者は上杉以外にいないと、この時の演奏を観て思った。

そして「俺が音楽を志すきっかけになったのはメタル/ハードロック。以前、新日本プロバンドでもジューダス・プリーストのカバーをやりましたけど、次の曲はロブ・ハルフォードがナイン・インチ・ネイルズの人と一緒にやったソロ・プロジェクト“TWO”の曲です」と、「I Am a Pig」をカバー。これぞヘヴィメタル!という感じのギター・リフに、トレント・レズナー節が炸裂した不穏なメロディー。日本では国内盤も発売されていないマイナーな楽曲なのに、観客は大盛り上がりで拳を上げる。ロブを尊敬しているという上杉も、本家ばりのスクリーミングを見事に決めてみせた。その盛り上がりのまま、演奏は「絶望」に突入するが、この曲が最もCDのバージョンから進化しているかもしれない。歪んだギターの歯切れ良いリフとスカッと抜けの良いドラム、幻惑SEにのせて、上杉はラウドボイスというかガナリ系のボーカルで攻める。オーディエンスはノリノリ、ソールドアウトでギュウ詰めの会場はこの曲でこの日一番のいい汗をかいたのではないだろうか。


そして上杉が「ちょっと暑いですよね。涼しい曲を」と言ってスタートしたのは本編のラスト「FROZEN WORLD」。イントロからシンセの白玉コードだけをバックに上杉がワンコーラスほど歌い上げるのだが、いつ聴いてもここの部分は歌の力が鮮烈すぎてハッとさせられる。瑞々しく艶やかに伸びるハイトーン。上杉の声の音色が最も活きる楽曲のひとつと言えるだろう。バックのスクリーンには降りしきる雪がゆっくり舞い落ちる映像。冷たく凍った世界を歌った曲ではあるけれど、そんな中で上杉のボーカルが一筋のぬくもりのようで、癒やされていく感覚に包まれる。上杉昇の音楽に興味があるけどまだ彼のライブに来たことがないという方がいたら、ぜひともこの曲はライブで体験して欲しいと思う。

アンコール1曲目は、なんとWANDSの「Same Side」。静かに始まるAメロでのソフトな表現から、意表を突く展開のブリッジ部分での強靱な歌声、そして解放感に満ちたシンプルなサビ。20年以上前の曲だが、ドラマティックな構成といい変化に富んだメロディーといい、今聴いてもまったく色あせていない。観客も“懐かしい”という感じではなくて自然に楽曲に反応しているように見えた。このサプライズな名曲のプレゼントに会場はもちろん大喜びで、上杉がマイクを観客に向けて煽るような合図を送ると、サビでは♪Same Side~ Same Side~の大合唱となった。「OK、準備はいいか!」と上杉が叫び、アンコール2曲目もWANDSの「FLOWER」。前曲の勢いのまま、バンドも観客も一丸となってテンションアップ。上杉も水を得た魚のように生き生きとしていて、まさにロックボーカリストの王道的なアクションでオーディエンスを沸かせる。歌い終わると高々とピースサインを掲げ、アウトロでは床にかがみ込んでハードにシャウト。大きな歓声と満場の拍手の中、メンバーとともにステージを後にした。

と、そこですかさずバックのスクリーンに「上杉昇 2019年 第一弾DISC」の文字が映し出され、会場からは歓声が上がる。今日も演奏された「The Promise」を含む3曲を収録したシングルがライブ会場限定盤としてリリースされること、5月に行われる「爆音試聴トークライブ」で発売が開始されること、その後のアイテムも絶賛レコーディング中であることなどが告知された。MCでも「書いても書いても言いたいことが出てくる」と語った上杉だが、アーティストとしての衝動はまだまだ尽きないようである。

文:舟見佳子
写真:三浦麻旅子


上杉昇 2019年第一弾DISC「火山灰(Not Song of War)」

5月6日よりライヴ会場限定販売(¥1,574+tax)
1.火山灰(Not Song of War)
2.The Promise
3.Red Spider Lily-Orig.

上杉昇ライブ&イベント

<「上杉昇 2019 第1弾DISC」爆音試聴トークライブ+先行販売+サイン会>
5月6日(祝)東京・下北沢440
5月10日(金)名古屋・新栄スペードボックス
5月12日(日)大阪・ロフトプラスワンウエスト

<栄ミナミ音楽祭'19>
5月11日(土)
@矢場公園特設ステージ
開演:16:10(観覧無料)
https://sakaeminami.jp/event/ongakusai/
※「火山灰(Not Song of War)」を300枚限定、直筆サイン入りポストカード付きで販売。
※出演後に、購入者対象の握手会も開催。

<上杉昇ACOUSTIC TOUR2019 OKINAWA SPECIAL>
7月6日(土)@沖縄・那覇Top Note
開場17:30 開演18:00info:http://www.wesugi.net/
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