【特集 インタビュー vol.5】植田真梨恵、『W.A.H.』ディレクションを語る「私たちの日常のそばにある“和”」

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■淡々とした感じの日常感や心地よさ
■しかも和というのが今回のテーマ

──1曲目のインストから、「Bloomin’」「勿忘にくちづけ」「花鬘(はなかずら)」と、花のイメージが続きます。

植田:ほんとですね。

──「Bloomin’」はとても力強い曲。行進していくみたいなバンドサウンド。

植田:力強い曲になりました。この曲が『W.A.H.』のリード曲なんですけど、せっかく春にリリースするミニアルバムなので、みんなが口ずさめるようなシンプルなサビが作れたら、と思いながら作りました。

──卒業シーズンの歌ですかね。タイムカプセルとか、そういうワードが出て来るから。そして桜の花がひらひらと舞い落ちる。

植田:そうです。言ってないけど、まさに桜の歌です。

▲植田真梨恵 画像ページ (※画像6点)

──一転して「花鬘」は、淡々とした曲調がかえって切なさをそそるような、儚くも美しい曲。

植田:「勿忘にくちづけ」もそうなんですけど、淡々とさせることは、今回のミニアルバムのテーマとしてありました。“和チル”というのがテーマになっているんです。

──わちる? ああ、和チル。和のチルソングね(※Chill=くつろぐ、落ち着く)。

植田:そうです。「花鬘」のタイトルが決まるまで、この曲を“和チル”と呼んでました。そんな曲を集めたミニアルバムにしたいなという思いは、最初からありましたね。こんなふうに淡々とした感じの日常感や、心地よさを感じるもので、しかも和というのが今回のメインテーマなんです。

──「花鬘」は幸せな曲に聴こえる。

植田:良かったです。この曲は、何かを描きたいという感覚はなくて、美しい和の風景が1曲に収まればいいなというところから作りました。「勿忘にくちづけ」という曲ができて、そのあと弾き語りのツアーに出て、「勿忘にくちづけ」と一緒に歌えるような曲があったらいいなと思って作ったのが「花鬘」です。

──その次の「灯」は、いつでしたっけ。真梨恵さんが出演した映画の主題歌(※2017年5月公開『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』)。

植田:2年前です。今回、「灯」も入れたいなと思ったのは、千葉県銚子市の、少し前の日本の風景というか、あの町の感じと雰囲気の中で撮った映画にあてて書かせてもらったから生まれたメロディーであって、歌詞であると思ったからです。自然に溢れて、海があって、私たちの日常のそばにある和を感じる場所。

▲植田真梨恵 画像ページ (※画像6点)

──「長い夜」も、CM曲でした(※『三昭堂』TVCMソング)。

植田:これは元々、19歳ぐらいの頃に作った曲なんですけど、映像の専門学校に通っている友達がいて、「卒業制作で、『長い夜』という映画を作ったよ」と聞いて。当時から映画に対して曲を作るのが好きだったので、エンドロールで流れる主題歌を勝手に書いたんです。使ってくれる、くれないは置いておいて。

──ああ、それで歌詞の感じがほかの曲と違うのかな。この曲だけ、ちょっとダークで抽象的な匂いがする。映画のストーリーに関係あるのかしら。

植田:そうなんです。すごく抽象的な短編で、あるサラリーマンの男の人が、夢の中で知らない女の子と出会って、その子が案内してくれるいろんな場所に行くんです。抽象的な映像がいくつもあって、ごみの山とか、ぶかぶかの服を着てる子供とか、そういうシーンと出会っていく中で、男の人はいろんな感情に触れて、封印していたトラウマとか、忘れようとしていた記憶を思い出して、やっと泣くことができる。目が覚めて、いつも通りの日常に戻って、今日も会社に行くみたいなお話なんですけど、それが『長い夜』というタイトルの作品だったんです。

──その映画見たいなあ。無理かな。

植田:卒業制作なので(笑)。そんなふうに、映画に向けて勝手に曲を書くことはけっこうあります。

──あれもそうだよね。なんだっけ、『はなしはそれからだ』(※2015年発表 メジャー1stアルバム)に入ってた、記憶を消す……。

植田:「さよならのかわりに記憶を消した」ですね。あれも『エターナル・サンシャイン』に向けて、勝手に書いた曲です。好きすぎる映画には、曲を書く傾向にあるんです。

──勝手に書き下しシリーズ。そういえば真梨恵さん、記憶とか思い出とか、そういうテーマ好きでしょう。

植田:フラッシュバック系、デジャヴ系、二重人格ものの映画が大好きなんです。あと、お父さんものも大好きです。お父さんがかわいそうという映画。

──そんなジャンルあったかな(笑)。

植田:お父さんが切ないと、私の琴線に触れるんですよ。最近だと、『プーと大人になった僕』もお父さんものだし、『メリー・ポピンズ』の、リターンズではなくてオリジナルの映画もお父さんの姿にキュンとします。“この不器用な頑固おやじ!”って。『ロイヤル・テネンバウムズ』もそうですね。『ビッグ・フィッシュ』『リトル・ダンサー』も。『リトル・マーメイド』もそうですね。アリエルは海の底には帰らないで、ハッピーエンドになるんですけど、最後にお父さんのトリトンが「でも娘がいなくなるのは寂しい」と言うところで、必ず私は泣くんですよ。

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