クイーン@ウェンブリー・スタジアム「俺たちは死ぬまで一緒だ。わかるだろ?」

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映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットを続け、毎週のように興行収益記録更新のニュースが伝わってくる今日この頃。クイーンに関する出版物の発売や復刻なども相次ぎ、ファンは嬉しい悲鳴をあげていることだろうが、3月のWOWOWは、そうしたクイーン再評価熱の高まりにさらに拍車をかけてくれそうだ。このバンドの歴史を象徴するライヴ映像3篇が、立て続けに放映されることが決まったのだ。

まずその先陣を切って3月3日に放映されるのは、1986年、ロンドンでのライヴ映像だ。映画においての物語の着地点として設定されていた<ライヴ・エイド>が開催されたのが、1985年7月13日のこと。実際、<ライヴ・エイド>はクイーンのためにあった、クイーンは<ライヴ・エイド>に救われた、とまで言われるほど、同イベントへの参加はこのバンドの歴史における重要な分岐点となったわけだが、今回放映されるのは、それから1年後に同じ場所、すなわちウェンブリー・スタジアムで行なわれた公演の模様だ。


クイーンにとっての1986年といえば、1980年代なりのクイーンの本道とでも言うべきものが示された『ザ・ワークス』(1984年)に続く2年4ヵ月ぶり、通算12作目のオリジナル・アルバムにあたる『カインド・オブ・マジック』が発表された年である。表題曲をはじめとする収録曲のいくつかは、そもそもは映画『ハイランダー 悪魔の戦士』(1986年)のサウンドトラック用に書き下ろされたもので、そうした楽曲群がこの作品の基盤となっているだけに、同作はオリジナル・アルバムとしてはやや変則的な成り立ちをしていると言えなくもない。

ただ、この作品からの先行シングルとなり、アルバム自体の幕開けを飾っていた「ONE VISION-ひとつだけの世界-」の作曲クレジットが、初めてメンバー全員の共作となっている事実を見落とすわけにはいかない。映画の終盤、ふたたび“家族のようなバンド”への復帰を望んだフレディ・マーキュリーと他3人のメンバーたちの関係修復への第一歩となった顔合わせのシーンがある。そこで4人の間で交わされていた、そうした作曲面に関するやり取りが思い出されるところだ。


『カインド・オブ・マジック』はそうした象徴的な作品だが、メンバーたちの動機がふたたびアメリカ市場に向かうことはなく、このアルバムに伴うツアーもヨーロッパのみで実施された。そうした影響もあって、同作は全米チャートでは最高46位にとどまっているが、英国では当然のごとくNo.1に輝いている。そして、この年の6月から8月にかけて実施された全26公演に及ぶ<マジック・ツアー>における最大のハイライトとなったのが、7月11日と12日に行なわれたウェンブリー・スタジアムでの公演だった。両日を通じての動員記録は実に15万人。今回はその第二夜のライヴ・パフォーマンスを、TVの画面を通じて堪能できるというわけだ。

『カインド・オブ・マジック』と同様に、このライヴは「ONE VISION-ひとつだけの世界-」で幕を開け、クイーンの代表曲の数々を網羅しながら、起伏とバラエティに富んだ展開で進んでいく。そのパフォーマンス全体からうかがえるのは、ライヴ・バンドとしての充実ぶりだ。4人の表情や振る舞いからも、ふたたび大観衆を前に演奏できる喜びに満ちているのが伝わってくるし、この日のステージ上でのフレディの発言にも、ここに至るまでの紆余曲折を感じさせる印象深いものがいくつかある。そのひとつが「地獄へ道づれ」を歌い終えた彼が、大観衆の熱狂ぶりに満足げな笑みを浮かべてビールを少し喉に流し込み、「みんなも聞いたかな?最近出回っている噂をさ。クイーンってバンドのことだ。噂によると解散するんだとか。ケツ野郎の戯言さ!」と語りかけた場面だ。フレディはこうしたいかにも彼らしい言い回しで、当時の彼らに付きまとっていた不穏な噂を笑い飛ばしてみせたのだ。

フレディがときおりニヤリとし、「どうだい?」とでも言いたげな表情でこんなことを言うのを聞きながら、ブライアン・メイが笑みを見せる場面もまた象徴的だ。そして、この言葉に導かれるようにして、曲が「リヴ・フォーエヴァー」へと続いていくのだからたまらない。また、ひとつ補足しておくと、実際のライヴ中には「俺たちは死ぬまで一緒だ。わかるだろ? 俺は辞めたいんだけど、メンバーたちが辞めさせてくれない。それに俺たち…年のわりには悪くないだろ?」という発言も。こうして観衆を笑わせながら実は意味深長なことを言っているのも実に彼らしい。


まさしく<ライヴ・エイド>の次、すなわち映画の物語の続きのようでもあるこのライヴの記録映像は、古くからのクイーン愛好家たちのみならず、今回の映画公開を機にこのバンドに興味を持ち始めた人たちにとっても、まさに必見といえるだろう。なにしろクイーンは、『カインド・オブ・マジック』に続く作品として発表された『ザ・ミラクル』(1989年)に伴うツアーを一切行なっておらず、結果的にはこの<マジック・ツアー>こそが、フレディ存命時代のクイーンにとって最後のツアーになってしまったのだ。

クイーンに対する世の再評価熱と注目度が尋常ではないほどに高まりを見せている今、こうしてWOWOWを通じてこの歴史的映像が広く伝えられていくのはとても意義深いことといえるだろう。なお、この先に放映されるもう2篇のライヴ映像とその時代背景についても、BARKSでは今後改めて紹介していく予定なので、こちらも併せて楽しみにしていて欲しい。

写真:Getty Images
文:増田勇一

『クイーン ライブ・アット・ウェンブリー・スタジアム 1986』

2019年3月3日(日)午後5:30 [WOWOWプライム]
2019年3月7日(木)夜9:10 [WOWOWライブ]
収録日:1986年7月12日
収録場所:イギリス・ロンドン ウェンブリー・スタジアム

『クイーン オデオン座の夜 ~ハマースミス 1975』

2019年3月7日(木)夜8:00 [WOWOWライブ]
収録日:1975年12月24日
収録場所:イギリス・ロンドン ハマースミス・オデオン

『クイーン+アダム・ランバート LIVE from SUMMER SONIC 2014』

2019年3月7日(木)夜10:30 [WOWOWライブ]
収録日:2014年8月17日
収録場所:千葉・QVCマリンフィールド

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