【ライブレポート】MERRY、哀愁のダンスホール[羊想]異形 tiki」~浪花、華舞う~@梅田CLUB QUATTRO
死んであの世に還った霊魂が、この世に何度も生まれ変わるという輪廻転生が本当にあるのだとしたら、きっとそれは、その人に与えられた試煉であり、宿命であるのだろう。MERRYというバンドのライヴを観るとき、決まってそんなことを考える。反社会性を感じる攻撃的なサウンドと、ボーカルのガラが吐露するむき出しの生き様が露になる彼らのライヴは、まさしく彼らが生かされている意味だと思えてくるのだ。
2018年10月13日。彼らが10月12日の名古屋の地からスタートさせた『MERRY Autumn Tour 2018 「哀愁のダンスホール[羊想]異形 tiki」』(※名古屋Electric Lady Landで~尾張、華咲く~)の翌日、彼らは大阪の地でライヴを行った。今回は、名古屋・大阪・そして、11月7日の東京・恵比寿LIQUIDROOMで行われる3ヵ所と限られた本数のライヴとなるのだが、それ故に、彼らがここに詰め込んだ想いの深さを感じた。
MERRYのライヴといえば、バンド名が大きく誇らしげに刻まれたバンドフラッグを背負い、過剰な装飾を省いた自らを特攻とする素舞台で挑む印象が強いのだが、このツアーでは、現在オフィシャルサイトのトップ画面で再生される映像をオープニングVJとして用いた異空間に導かれるライヴ形態であった。
デカダン、インダストリアル、カオス、サイケデリック、そして、見世物小屋感漂う“どうしようもなくMERRY”な新曲が薄い紗幕の向こうで届けられていくという形でライヴは始まった。紗幕の向こうで蠢くエイリアンの様なお面(※何処かの部族が用いる羊の仮面らしい)を被ったガラの姿がシルエットとして浮かび上がると、オーディエンスはその怪異に息をのんだ。
シンバルを合図にギターリフへと繋がれていった「夜光」へと流れを移すと、ガラの煽りの声で紗幕が取り払われ、5人とオーディエンスの体温が直接的にぶつかった。マゾヒズムが描かれた歌詞が浮き彫りになったストレートな「犬型真性MASOCHIST」への流れはとても美しく、オーディエンスは激しくも切なげなメロディに拳を振り上げて応えた。
歯切れのいいスラップで幕を開けた「絶望」では、ガラはハットを取り、より生々しくその声を振るわせた。メジャーデビューアルバム収録曲でもある「迷彩ノ紳士」では、“この頃”のMERRYのいなたさを改めて強く感じた瞬間でもあり、原点となる音楽ルーツを感じさせる結生がガラと共に声を上げる「[human farm]」や「sweet powder」では、フロアのオーディエンスの歌声が力強く響き上がっていたのが印象的だった。
ドラムのリズムとオーディエンスの手拍子に乗せて、ガラがアドリブで節を付けたMCを届けた。
「ようこそ皆様『哀愁のダンスホール[羊想]異形 tiki』へ。今夜は浪花が花舞う日です。だからおおいに、だからおおいに舞っちゃって下さい」(ガラ)
場末のキャバレーのワンマンショーの様な愁いをおびた空気感が醸し出せるのは、ガラにしか与えられていない震えるような独特な声の指紋と、感受性の高いガラが背負ってきた人生を自らの年輪として深く心に刻んでいるからこそなのだろう。
ガラはここでメンバー紹介を挟んだ。ネロ、健一、結生、テツがそれぞれにソロプレイを魅せ、ガラは最後に自らを紹介し、“MERRYの雨を降らせます”と、「傘と雨」の曲紹介へと繋げたのだった。
昭和歌謡とハードコア・パンクの融合が生み出す、激しくもメロウな世界をまじまじと見せつけた「傘と雨」と「チック・タック」では、哀愁感漂う哀しく胸を締め付ける刹那なときにフロアから拍手が贈られた。
後半ブロックではアンダーグラウンド感漂うコアナンバーを間髪入れずに圧巻のMERRYを見せつけた。この景色は、昨年16年目にして、さらにMERRYの思想を極限まで追求したアルバム『エムオロギー』を作り上げ、それを引っ提げ『AGITATE♯1【妄想】』『AGITATE♯2【嗜好】』『AGITATE♯3【思想】』と括り、約10年ぶりとなる47都道府県ツアーをまわって、今年の2月に『AGITATE FINAL【禁断】』と題されたファイナルに相応しい景色を日本青年館で魅せてくれた、その先にあった未来であったことを確信できるものだった。
【MERRYとしてのイデオロギー】
それこそが『エムオロギー』のテーマ。
ガラ作詞・結生作曲で生み出された「エムオロギー」こそは、その想いが真っ直ぐに落とし込まれたこのアルバムのリード曲である。
彼らはこの日の本編のラストにこの曲を置いた。MERRYというバンドのパブリックイメージに反するかのような、メジャーコードの印象が濃いイントロを設ける楽曲であるが、しかし、何故かとてもMERRYらしいのである。切なさや刹那を感じる中に前向きさがあるそこに、MERRYという人生を感じるのだろう。
人は何かを捨てたとき、本当の意味で前向きになれるのだと思うとガラは言う。
「何か抱えてますし、何か背負ってますし、何か捨ててますからね、何かを得る為には。変わらない人はどんどん置いて行かれるだけですしね。待ってるだけじゃ何も生まれてこないですからね。人間は何かを捨てた瞬間に前向きになれてるんだと思いますよ。それの繰り返しなんだと思いますよ、人生」(ガラ)
『エムオロギー』のインタビューのとき、ガラが言った言葉が忘れられない。
17年。今、こうして10年を超えるバンド人生を生きてきた彼らだからこそ言える言葉である。悟り世代、ゆとり世代、そんな時代のせいなのかもしれない。簡単に発信出来てしまう世の中故、誰でも簡単に発言者になれてしまうからかもしれない。始めた責任も持たないまま、簡単に始めて簡単に辞めていく。たった2、3年の歴史で、何が分かると言うのだろう? 何を伝えられると言うのだろう? 自らを信じ、自らを信じてくれる人達を信じ、やり続けるからこそ歌える歌があるのだと思う。そして、そこに歌う意味を見つけるのだと思う。
それこそが、MERRYの唱える『エムオロギー』なのだ。今回のツアーは、MERRYをやり続けてきたからこそ歌えた歌達があってこそのライヴであると改めて感じた。17年というバンドの歴史を感じさせる新旧織り交ぜられたが曲の並びは、その時期ごとの彼らのマインドが、とてもリアルに伝わってきたのだった。
「辞めちゃったらそこで終わりですからね。いつ何があるから分からないから続けてるっていうとこありますからね」(ガラ)
そんな今を生きるガラの生々しい言葉こそがMERRYになる。人がこの世に生まれ、この世を去るまで、人生と呼ばれる物語を歩む上で起るひとつひとつの出来事や、ひとつひとつの出逢いすべては偶然ではなく必然であると、そう感じさせてくれる唄をガラは、そしてMERRYは裏切ることなくくれるのだ。
アンコールでは、新曲「sheeple」が届けられたのだが、ガラはこの曲を届ける前に、この曲のタイトルの意味を語った。
「今回のライヴのオープニング映像に出てきた羊人間みたいなのはワタクシなんです。これはMERRYの新しいテーマでもありまして、いままでは社会とか世界に向けて発散する方だったんですが、もう少し内に秘めたパワーというか怒りをテーマに歌っていけたらと思っているんです。「sheeple」というのは羊と人間を合体させた造語なんですけど、人間は羊飼いと羊の関係みたいに、社会に飼われている存在なんじゃないかなと。みんな会社に務めている中で、そんなことを日々感じているかもしれない。“こんな所、早く抜け出したい”って思っている人もいるだろうし、“絶対に変えてやる!”って思っている人もいるだろうし、そこで満足している人もいるかもしれない。ただ“くそったれ!”って言うのは誰にでもできることだと思うので、みんなが感じているいろんな思いをひっくるめて、この先MERRYはもっと世の中に対して歌詞と曲を通して届けていきたいなと思っています。その第一歩となる「sheeple」は、MERRYの中で初めて結生くんが書いた歌詞でもあるんです。いままで絶対歌詞は僕が書いていたので、作詞作曲共に結生くんというのは、本当にMERRYにとって新たな一歩となると思います」(ガラ)
これに対し、ギターの結生は、今回歌詞を書く上で、初期作から最新作まで、改めて歌詞をしっかりと目で追いながら楽曲を聴き返して作詞に挑んだのだと語り、改めてこれまでMERRYのすべての歌詞を手掛けてきたガラを労うと同時に敬い、“過去曲の歌詞は本当に頭おかしかったよね……(苦笑)”と、称賛したのだった。ちなみに、結生の好きな歌詞は「頭がザクロ」、ガラ本人の好きな歌詞は「バイオレットハレンチ」と「チック・タック」であると語った。
アラビア音階を感じさせるフレーズを含むタイトでヘヴィなサウンドの中で、何度も“探し物はなんですか?”と問われる「sheeple」は、『エムオロギー』から約1年ぶりの最新音源として、恵比寿LIQUIDROOMで行われる『MERRY Autumn Tour 2018 「哀愁のダンスホール[羊想]異形 tiki」~帝都、華散る~ 』で会場限定販売されるという。
11月7日のツアーファイナルでは、この日以上のむき出しのMERRYという個性が、さらに熱く、聴く人の耳と目に焼き付けられることとなるだろう。
写真◎中村卓
取材・文◎武市尚子
セットリスト
2018年10月13日(土)@梅田CLUB QUATTRO
新曲
夜光
犬型真性MASOCHIST
絶望
迷彩の紳士
[human farm]
sweet powder
傘と雨
チック・タック
The Cry Against ME
スカル
SIGHT GLASS
千代田線デモクラシー
Black flag symptom
F.J.P
エムオロギー
梟
Carnival
SWAN
sheeple
MERRY 最新情報
9th ALBUM『エムオロギー』の発売から約1年、待望の最新音源が発表されることが決定致しました。2018年11月7日(水) MERRY Autumn Tour 2018 「哀愁のダンスホール[羊想]異形 tiki」~帝都、華散る~恵比寿LIQUIDROOM公演にて販売いたします。
『sheeple』
DRG-025 価格:¥1,000 (tax in)
紙ジャケット仕様
[CD]1. sheeple
※2018年11月7日(水) MERRY Autumn Tour 2018
「哀愁のダンスホール[羊想]異形 tiki」~帝都、華散る~
恵比寿LIQUIDROOM公演にて販売
ライブ・イベント情報
2018年10月30日(火) HOLIDAY SHINJUKU
2018年10月31日(水) HOLIDAY SHINJUKU
MERRY Autumn Tour 2018 「哀愁のダンスホール[羊想]異形 tiki」~帝都、華散る~
2018年11月7日(水) 恵比寿LIQUIDROOM
「MEMBERS' CLUB CORE」限定クリスマスイベント開催決定。12月25日、クリスマス。このスペシャルな日に、MERRYとCOREだけのプレミアムなイベントを開催することが決定致しました!メンバーから持ち上がった本企画。詳細は後日発表
VERY MERRY CHRISTMAS ~CORE Premium Night~
2018年12月25日(火)品川Club ex
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