【インタビュー】山﨑彩音、内から外に心のベクトルを変化させたポップアルバム『METROPOLIS』

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■前みたいに“月に心を開く”みたいなことはなくなりました
■昔は「私は大丈夫ですか?」とか月に話しかけてましたけど


――「ロング・グッドバイ」はまさにメロディも歌詞もすごく素直な感じが出ています。踊れるサウンドでキャッチーなメロディで、なおかつ歌詞も素直で入ってくる。これは発明ですね。

山﨑:発明(笑)。たぶん、これは一人でやっていたら、そういう風に聴こえなかったと思うんです。こういうサウンドにできたからそう聴こえると思うし、そういう風に聴こえるべき曲だったと思うんです。「ロング・グッドバイ」は、バンドサウンドにして良かったと思います。

――バンドがいたからこそ完成したっていう実感がある曲は、他にもありますか?

山﨑:「世界の外のどこへでも」は、今まで詞先だったのを曲から作ったという意味で自分の中では新しいです。今までは詞が全部カッチリあった上で曲にしていたんですけど、今回はそうでもなくなってきて。

――「世界の外のどこへでも」は、サビの“ニューヨーク69(編注:ロクキュー)を乗りこなして”っていう歌詞の乗せ方やメロディの感じが佐野元春さんぽいと思いました。

山﨑:人それぞれ、「〇〇っぽい」っていうのがありますよね。そういうのって面白い。この曲は草間彌生さんの『ニューヨーク'69』という本を読んでいて、それをそのまま歌詞に使わせていただいたんです。

――歌詞でいうと、“飽きた”とか“考えない”っていう言葉が出てくるのが印象的です。

山﨑:次に行きたいという気持ちが強かったんですよね。振り切るっていうか、もういらないっていう。「FLYING BOYS」は、レコーディング間近に作った曲で、結構追い詰められていたときに作ったので(笑)。「もういいや」みたいな振り切りはありますね。タイトルから先に付けてそこから作り出して。


――「FLYING BOYS」というタイトルはどんな意味で付けたんですか?

山﨑:生まれた時代を間違えて来ちゃったとか、もっと違う時代に生まれたかったなと思っている人っていますよね。自分もそうだけど(笑)。そういう気持ちを象徴している言葉というか。最近は現代に不満はないんですけど、やっぱり憧れている時代ってあるんですよ。ヒッピーとかは今いないけど、「でも“FLYING BOYS”はいるんじゃないか?」と考えて付けたタイトルです。はみ出し者というか、ある意味一人で戦っている人の象徴ですね。

──同世代が聴いてくれる場に、これからはもっと出ていきたいという気持ちもあるのかなって。

山﨑:ああ、それはずっとあります。かわいい女の子が「彩音ちゃん好き!」って言ってくれたら嬉しいですし(笑)。そういう気持ちも込めて今作を作ったので。これから変わっていくかなっていう願いは込めています。

――そういう意味では、アートワークも同世代の遠井リナさんと一緒にやっていますもんね。

山﨑:そうなんですよ。イメージに縛られずに色んな人に好かれたいですね。

――アルバムが完成したときに、聴いてほしい人のイメージって浮かびました?

山﨑:“FLYING BOYS&GIRLS”ですね、まさに(笑)。

――なるほど(笑)。自分は「Wolf Moon」に泣かされました。これは本当に良い曲。名曲ですよ。

山﨑:ありがとうございます。私も良い曲だと思っています。この曲も、「ロング・グッドバイ」に匹敵する、色んな世代に人にグッときてもらえる曲なんじゃないかなって思います。

――1月の満月のことを「Wolf Moon」と呼ぶらしいですけど。月に毎晩「おやすみ」って話しかけたりしていたって言ってましたよね。

山﨑:そうですね、お付き合いが長いんです(笑)。最近はそうでもなくなってきましたけど。それも変化ですね。前は、“月信仰”があったというか、月あかりを意識的に浴びるっていうことを毎晩やっていたんですけど、最近は執着がなくなってきて。

――前は、内面的なものが月に向かっていたということ?

山﨑:本当、そうなんですよ。だから『キキ』などもできていたと思うんです。でも今はまったくそういうのがなくなったので。

――そこは、この作品に結びついている大きな要因かもしれないですね。

山﨑:そうかもしれないですね。結構スピリチュアルな占いとか月のことが好きなんです。だから新月がどうとかっていうのはチェックしてますけど、前みたいに“月に心を開く”みたいなことはあんまりなくなりましたね。昔は「私は大丈夫ですか?」とか月に話しかけてましたけど。でもみんなあると思いますよ?“FLYING BOYS&GIRLS”は!

――月と自分の間にあったものがなくなったことが、大きな変化として曲にも表れているんですね。

山﨑:だって、前は本当に、階段があって月まで行けるんじゃないかっていうくらいの気持ちがありましたから。そういうファンタジーなところが幼い頃からあったんですが、今を生きていかなきゃっていう方が大事なので。

――それで、どんどん外向きになっていった?

山﨑:もともと、そうしたい気持ちがあったんですけど、今がそのタイミングだったのかなって。

――「Wolf Moon」の冒頭に“壊れそうなバイクの音して走る車”って出てきますけど、乗り物を乗り物で例えているのが、意味がよくわからなくていいなって(笑)。

山﨑:確かに(笑)。本当に外から聴こえてきたんですよね。それをメモっておいて。車だったかどうかもわからないんですけど。

――そういう、整合性を持たせようという堅苦しさがないところが、このアルバムが軽やかに聴ける理由だと思うし、重たく感じないんだと思います。前は、正直重たかったですよね?

山﨑:うん、自分でも重たいと思っていました。

一同:(爆笑)。

山﨑:結構ヘヴィでしたから。曲も長かったですし。今回はどの曲も短いというのが、ポイントですかね。でも逆に、一人でやっていた『Yer』(1st EP)の曲を今バンドでやったらどるなるかなっていうのは楽しみの一つですね。

――「恋は夢の中」は、懐かしいような雰囲気を持った曲ですが、どうやって生まれた曲ですか。

山﨑:これは、J・D・サリンジャーの短編集『ナイン・ストーリーズ』に入っている「バナナフィッシュにうってつけの日」を読んで、詩が書けた曲です。

――じゃあ、今回も詞が先にできている方が多いですか。

山﨑:いや、半々くらいです。タイトルが先っていうのが多くて。「メェメェ羊とミルクチョコレイト」とかがそうですね。

――「メェメェ羊とミルクチョコレイト」は、一番、山﨑彩音らしい曲という気がします。

山﨑:ああ~、よくわかっていらっしゃる(笑)。放っておくとこういう曲しかできないんですよね。これは何故かツイン・ドラムで録っているんですよ。いい感じのカオス感が出ました。本当に大好きな曲で、練習しているときも「ここをこうして」とか一番言えたかもしれないです。詞とか、ゆったりした感じとか、自分でも自分らしいなって思います。こういうアンビエントな感じが好きなんですよ。

――最後の「海へ行こう」もゆったりしていて、チルアウトする感じですね。藤沢出身の彩音さんにとって海はキーワードの一つですか。

山﨑:本を読んでいると、海辺の話がよく出てくるんですよ。だから、湘南の海よりも、西海岸とか日本じゃない海のイメージがありますね。

――ライヴ復帰するのが、まさに海ということで、三浦海岸で開催される海の家の音楽イベント「OTODAMA SEA STUDIO」への出演ですね。8ヶ月ぶりのライヴということですが、どんなことを考えていますか。

山﨑:久しぶりなので、初めてライヴをやる人くらいの気持ちでやっちゃおうかなって思っています。それ以降も、ライヴは数より質で、絞りながらやって行こうかなと考えています。ライヴのバンドはレコーディングとは違うメンバーなんですけど、アルバムに収録された曲とはまた違う感じで、すごく良いのでオススメです。

――このアルバムを持って、色んな所に飛んでいけると思うのですが、今後はどんな活動をしていきたいですか。

山﨑:自分でも想像以上のものが作れたので、本当にアルバムを買ってほしいです。作った以上は売れてほしいという気持ちは前もありましたけど、今作は、よりそういう気持ちが強いです。CDっていう一つの作品としての価値が伝わればいいなって思います。ぜひ聴いてみてください。

取材・文●岡本貴之


リリース情報

『METROPOLIS』
2018年7月25日発売
FLCF-4515 ¥2,400 (税込)
1.アフター・ストーリーズ
2.世界の外のどこへでも
3.ロング・グッドバイ
4.Nobody Else
5.FLYING BOYS
6.恋は夢の中
7.メェメェ羊とミルクチョコレイト
8.ナイトロジー
9.Wolf Moon
10.海へ行こう

ライブ・イベント情報

<OTODAMA SEA STUDIO 2018 supported by POCARI SWEAT~OCEAN MUSIC 2018~>
7/31(火)OTODAMA SEA STUDIO(神奈川県三浦市三浦海岸)
http://otodama-beach.com/2018/
出演(五十音順)
関取花/ネクライトーキー/majiko/森恵/山﨑彩音
お問い合わせ
OTODAMA運営事務局:03-6421-7735

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