ビートルズの名場面と“if(もしも)”が蘇る…トリビュート・ライブショー<LET IT BE>の魅力
ビートルズへのリスペクトをこめて制作されたトリビュート・ライブショーが、新パートを加えた<LET IT BE ~レット・イット・ビー PART II~>として全国6都市にて6月2日(土) ~6月17日(日)の期間開催された。公演からのレポートを以下にお届けする。
◆<LET IT BE ~レット・イット・ビー PART II~>写真
いまなお世界中にファンを増やし続けているロック・バンド、ザ・ビートルズ。そんな偉大なアーティストであるファブ・フォーと会うことが叶わなかった大勢の夢を叶えるステージが<LET IT BE~レット・イット・ビー>だ。彼らのデビュー50周年を記念して制作されたこのトリビュート・ライヴ・ショウが2014、2015年に続いて3度目の日本上陸を果たした。
今回の上陸では全国6都市、これまで世界中で100万人以上が体験しているというこの舞台は、ビートルズが存在した遠い時代へと観客を運んでいくタイムマシーンの役割を果たすと同時に、もしも彼らがあのとき〇〇をしなかったら?というような、もうひとつの選択肢を提示する実験装置でもある。よって、そこには再現を超えたイマジネイティヴな世界が広がり、あり得ないことが展開されるのだが、そこの部分こそがまさにこのショウの醍醐味であることを、今回新たな演出が加えられた<PART II>は如実に伝えていた。
改めてこのトリビュート・ショウの魅力について語っていきたい。第1部では、アメリカの有名な音楽番組<エド・サリヴァン・ショー>に出演したときの模様や、初来日にして唯一の日本公演となる日本武道館ライヴなど、ビートルズが現役で活動中だった頃の有名なコンサート・シーンをよみがえらせていくのだが、素晴らしいのは、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリソン、リンゴ・スターを演じる4人の演者の再現力、そして演奏力の高さだ。うるさ型のマニアも思わずほくそ笑んでしまうような細かい部分まで彼らはしっかりと習得しており、左右に振るようにして叩くリンゴ・スターならではのハイハット・ワーク、喉が破けるんじゃないかと思えるようなポール・マッカートニー名物の高音シャウトなど、遠目に見ていると何度も錯覚を起こしそうになる。なかでも憑依度が高いのはジョン・レノンを演じたマイケル・トーマス・ガグリアーノだろう。ビートルズが1964年に英国王室主催の<ロイヤル・バラエティ・ショー>に出演の際にジョンが発した「安い席の人は拍手を。高い席の人は宝石をジャラジャラ鳴らしてください」という有名なセリフを再現するのだが、彼の生来の悪戯っ子ぶりなところまで見事に演じ切っており、こちらも本気で笑ってしまったほど。
特に印象的だったのは、映画「レット・イット・ビー」のエンディングに登場するゲリラ・ライヴ<ルーフトップ・コンサート>の場面。そこでは実際に演奏されてはいない“The End”が登場するのだが、もしこの曲であの映画が締め括られていたらもっと感動が味わえただろうな、なんて想像を巡らせてしまった。実際に会場でもこの幸福極まりないセッションは大いに盛り上がりを見せ、前半のハイライトのひとつとなった。
4人の美麗なハーモニーが披露される“Because”で幕が開く第2部は、もっとありえない光景が続いていく。というのも、ここではバンド解散後に発表された4人それぞれのソロ・ナンバーを、ビートルズが演奏するという趣向が凝らされているのだ。さらに感動が増すのはこちらかもしれない。ジョージの“My Sweet Lord”、リンゴの“It Don’t Come Easy”、ポールの“Live And Let Die”など70年代の音楽シーンを飾る名曲が次々と登場していくにつれて、このドラムがリンゴだったならば……ベースをポールが弾いていたならば……というように<if もしも>がいくつも頭のなかを駆け巡るのだが、そこで得られる心地良い混乱は初めてビートルズの2006年作『LOVE』(シルク・ドゥ・ソレイユのサントラ盤として制作されたマッシュアップ・アルバム)を初めて聴いたときの感覚にかなり近いもの、と言っておこうか。
そんな後半のハイライトは“(Just Like)Starting Over”の演奏シーンだろう。1980年、長い沈黙を破ったジョンが発表したこの高らかな復活宣言は世界中のビートルズ・ファンに喜びと感動を与えたわけだが、もしもそこにポールやジョージのコーラスが添えられていたならば……そんなあり得ない想像を掻き立ててくれるこのパフォーマンスにはとにかく胸が熱くならずにいられなかった。心躍るような名演ということでは、“While My Guitar Gently Weeps”をいちばんに挙げたい。なにせここではジョージ役のジョセフ・ティモシー・カーティスがジョージ本人とゲスト・プレイヤーのエリック・クラプトンの2役を見事に演じ切っているのだ。それはある意味でキース・リチャーズ印のギターを弾きながらミックさながらに“(I Can’t Get No)Satisfaction”を歌うようなもの。そんなことを難なくやり切ってしまったのだから、やっぱりスゴイというほかない。
コアなロック・リスナーから音楽ファン一年生まで幅広い層が思いっきり楽しめるロック・エンターテイメント・ショウ<LET IT BE~レット・イット・ビー~>。夢のタイムマシーンにして高性能な“もしもボックス”といえるこの舞台、次なる機会をぜひ楽しみにしておいて欲しい。
<LET IT BE ~レット・イット・ビー PARTⅡ~>
2018年6月3日(日) アイプラザ豊橋・講堂(愛知)
2018年6月6日(水) サンケイホールブリーゼ(大阪)
2018年6月7日(木) サンケイホールブリーゼ(大阪)
2018年6月9日(土) 高知県立県民文化会館・オレンジホール(高知)
2018年6月10日(日) 松山市民会館・大ホール(愛媛)
2018年6月15日(金) 東急シアターオーブ(東京)
2018年6月16日(土) 東急シアターオーブ(東京)
2018年6月17日(日) 東急シアターオーブ(東京)
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