ミスター・ビッグ、パット・トーピー追悼コンサートでヒット曲を熱演

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ミスター・ビッグが、5月23日にカリフォルニアのキャニオン・クラブにてパット・トーピー追悼コンサートを開催した。その模様を紹介しよう。

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国民性の違いなのかもしれないですが、今回のこのイベント、パット・トーピー追悼ではなく、<彼の人生・生涯を祝福>を強く打ち出しており、だからこそ、“Celebrating The Life Of Pat Torpey”というイベント・タイトルがつけられていました。

パットの死後、ミスター・ビッグのメンバーが集まって演奏することはなく、それぞれが別のバンドや、個人プロジェクトで多忙な中、ピンポイントで空いていた5月23日に、去年も演奏したアゴーラのキャニオン・クラブに集結と相成ったわけです。

ついにマット・スター以外、みんなLAとは別の場所に住むようになったメンバーたちは、それぞれのスケジュールの関係で前日に現地入り。当日リハーサルのみのぶっつけ本番状態でこのイベントに臨むかたちとなりました。

正直無茶なスケジュールです。それでもやろうとした背景には、やはり決意があったと思います。パット・トーピーなしでミスター・ビッグは存続できるのか? ミュージシャンにしか言えない「演奏してみなければ分からない」というのがあったかと思います。だからこそたった1回のショウなのに、ミスター・ビッグ・ファミリーのクルー全員に召集がかかりツアーはまだ終わっていないよ、という頼もしい空気が流れ、バンド29年目の重要な局面でもあったわけですが、実際にはリハーサルはいつも以上のまったりモード。午後4時には終了していなければならないサウンドチェックは盛大に押し、そのあおりからリッチー・コッツェンやサウンドチェックが必要なゲストのサウンドチェックも押し、開演間際までスタッフもてんてこ舞いという状況の中、本番前にそれぞれの分担をチェックすることもままならず、あっという間にショウはスタートしました。

暗転した会場のステージ前に降ろされたスクリーンにまず最初に映し出されたのはパットのドラム・ソロの映像。叩きながらビートルズの「イエスタデイ」を歌うあの有名なソロ。これが終わりスクリーンが上がるとリッチー・コッツェンの演奏がスタート。すぐに演奏と思いきや、リッチー、いきなりの追悼MC。彼らしい友への言葉はまだ半分の入りだった会場のファンにも熱く伝わったと思います。演奏中に観客が続々入場してくるという、集中するのが難しい時間帯の演奏だったにも関わらず、演奏のテンションは高く。ショウが終わる頃にはしっかり会場をひとつにまとめ上げる入魂のパフォーマンスを披露。お世辞抜きで素晴らしかったですね。今日のリッチー。


セット・チェンジを経て、いよいよパット・トーピーがいなくなってから初めてのライヴとなるミスター・ビッグ。パットゆかりのある人々がジャム・セッションを繰り広げる第3部があるため、この日は短縮1時間セット。冒頭、マネージャーのティム・ハイニーがパット追悼、イベントへ参加してくれたファンに対する謝辞を述べ、再びスクリーンが降ろされ、ショートアニメが流れ、2017ツアーと同じジェームス・ブラウンの曲に乗りステージに登場し、「ダディ~」(セットリストは別途掲載)でスタート。テンションは高めで、2017年ツアーでは気になったエリックのヴォーカルの高音部の伸びもかなり改善されており、一気に観客をヒートアップさせていく姿は、2017年どころか2014年も飛び越え、あのパットがフルでドラムを叩いた最後のジャパン・ツアーだった2011年の緊張感が復活しているように思えました。計11曲構成だった短縮セットは『ディファイング・グラヴィティ』の曲がなく、ベスト盤のような選曲でしたが、2014年以降どこかちんまりとしたものになっていた「アンダートウ」がオリジナルを想起させるエネルギーの放射を感じさせるものに戻っていたり、ちょっとベテラン・バンドの余裕みたいなものが出始めていた14、17年のツアーの雰囲気とは異なる、このバンドだけが持つ圧倒的高揚感が再び宿ったかのような印象を強く受けました。


特にコメントをしゃべらせると良いこと言うくせに、MCは軽く流しちゃうエリックの覚悟みたいなものはひしひしと感じました。パットの奥さんカレン、息子のパトリックJr.も見守る中の演奏です。エリックはバンドにエネルギーを注ぎ込み、パットが、そしてその家族がこよなく愛したミスター・ビッグはこういうバンドだっただろう?と言わんばかりの気迫はミスター・ビッグがこのままでは終わらないという強い意志を発信していたと思います。


そして、MR.BIGまだまだ先を見据えています。本番では実現しませんでしたが、「テイク・カバー」はサウンドチェック時に、オリジナルのパットの演奏したドラム・トラックのみを抜き出し、それに合わせ演奏しようと試みたのですが、ドラム・ミックスのスネアとタムのミックスが弱く、ポールのあの印象的なリフがうまく乗せられないため、この日はマットが叩く演奏パターンとなりましたが、こうした新たなアイデアが次々と生まれており、本人たちはもう一枚アルバムを制作する意志を持っています。さらなる可能性を追求する強靭な意志を感じさせてくれるショウでした。

第3部はパット所縁のミュージシャンたちによるセッション・パート。ほとんどの友人ミュージシャン達はぶっつけ本番での演奏となりました。印象的だったのは最初に登場したポール・ギルバート脱退後のミスター・ビッグ再結成ともいえる冒頭の3曲、マット・スターがナックのベーシスト、プレスコット・ナイルズのファミリー・バンドをバックに歌う「マイ・シャローナ」、生前のパットと親交が特に深かったチャック・ライト主導の一連のセッション。グレッグ・ビソネット、ビリー・シーンをバックに本気でヴァン・ヘイレンに取り組んだポール・ギルバート・セッション、ナイトレンジャーのケリー・キーギー、REOスピードワゴンのデイヴ・アマトらによるほんわかしたアコースティック・ビートルズ・セッションなど挙げればきりはありません。進行がバタバタで途中転換に手間取る場面もありましたがパットの人となりが描き出された楽しいセッションでした。

そしてラストは多数のゲストが再び呼び込まれ、「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」の大合唱。そして最初に戻ります。「演奏してみなければ分からない」の答えはどうだったのでしょう? 前向きに続くと思います。バンドの30周年をもっとも楽しみにしていたのはパットでした。そのパットのためにも“Celebrating The Life Of Pat Torpey”を実践していく上でもミスター・ビッグは更なる高みを目指すと確信します。そうであれば、今日のこのイベントはスタート地点でしょう。キャニオン・クラブを悪くいうわけではありませんが、本当にパットの人生・生涯を祝福し、30周年を祝うのであれば、この地球上でもっともそれにふさわしいのは日本武道館でしょう。みんながそう思うと確信しています。

深民 淳

セットリスト

「Celebrating The Life Of Pat Torpey」
2018.05.23 @Canyon Club-California

・Richie Kotzen
・MR.BIG
1. Daddy, Brother, Lover, Little Boy
2. Alive & Kickin’
3. Green Tinted Sixties Mind
4. Price You Got To Pay
5. Undertow
6. Just Take My Heart
7. Wild World
8. Take Cover
9. Rock N Roll Over
10. Take A Walk
11. Addicted To That Rush
12. Colorado Bulldog

・Session by Friends of Pat
・Finale-To Be With You / MR.BIG and Vocalists
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