【ライブレポート】Ken Yokoyama、異例の新曲披露とバンドの劇的覚醒
2017年、<THE GIFT TOUR>で全国を回り、結成から25年以上、再始動から6年を経た伝説的なパンクバンドの健在ぶりをアピールするどころか、全盛期の1990年代を超えるパフォーマンスで老若男女を圧倒したHi-STANDARD。そのメンバー横山健は久しぶりに自身のバンドKen Yokoyamaへ戻ってきた。
◆Ken Yokoyama 画像
Ken Yokoyamaは6月6日、NAMBA69とのスプリット盤『Ken Yokoyama VS NAMBA69』のリリースを控えており、すでに大きな注目を集めている。もちろん、これはとんでもないニュースだ。しかし、2018年に入ってからのKEN BANDのライブも劇的な変化を遂げていて、できることなら全ライブを目撃したいという欲求に駆り立てられた。2018年は彼らにとって大きな転機になるのではとすら思っている。
▲<Ken Yokoyama「Very Very Strawberry Tour」>5月09日(水)@宮古 KLUB COUNTER ACTION
そう感じるきっかけとなったのは、3月に横浜BAY HALLで行われたKEN BANDの2018年3本目となるライブだ。あの日は、1曲目から明らかにメンバーのテンションが違っていた。もちろん、KEN BANDらしい緩さはあるのだけど、その場に賭ける思いがこれまでとは段違いだった。ステージへの集中力が尋常でなく、観客とも真正面から向き合い、いつでも帰ってきたくなるようなホーム感を演出していた。「俺たちはお前らと一緒に生きていく」──言葉には出さないものの、そんな気概すら横山から感じたのだった。
後日、横山本人から聞いたところによると、2017年の<THE GIFT TOUR>の存在が大きかったらしい。難波章浩、恒岡章、そして横山が演奏面、精神面ともにバンドの3分の1を担う、あの絶妙なバランス感。それは横山がワントップを務めるKEN BANDには圧倒的に欠けている要素だった。そのことに気付いた彼は、バンド内の意識改革に着手した。「メンバーそれぞれがKEN BANDの4分の1として関わってほしい」と。この日のライブでは、その結果が如実に現れた。
▲<Ken Yokoyama「Very Very Strawberry Tour」>5月09日(水)@宮古 KLUB COUNTER ACTION
それから2ヶ月後、筆者は岩手のカウンターアクション宮古で再び彼らのライブを見る機会に恵まれた。さらに、楽屋でのメンバーの様子を観察することもできた。一見すると、普段と変わらずリラックスした雰囲気。まるで10代かと思うぐらいの馬鹿話やエロトークも通常運転だ。しかし、誰ともなく自然と曲を合わせ始めたり、楽曲やセットリストについて熱く意見を交換するような場面もあり、内心かなり驚いた。そんなきっちりとした姿を見せる一方で、横山は「ステージの上で困りたいよね」とハプニングを求めていた。そして、最後に彼は言った。「ペースはさておき、たるんだライブはやりたくないよね」と。
上記の変化は、非常に意識的であることが後日わかった。横山は次のように語っている。「人前に出てロックンロールするのに緊張なんかしてる場合じゃない。でも、そのステージに上るにはバンドでしか生み出し得ないなにかを持って出なくてはやる意味がないわけで、そのための意思統一をするために、お互いの関係性に緊張感を発生させている」──これは今のKEN BANDの状況を非常にわかりやすく説明している。
▲<Ken Yokoyama「Very Very Strawberry Tour」>5月09日(水)@宮古 KLUB COUNTER ACTION
そんなバンドの変化のせいか、カウンターアクション宮古という特別な会場が生み出す磁場の強させいか、はたまたその両方か、ライブは1曲目の「Cherry Blossoms」からとんでもない熱量で進行した。ステージ、フロアともに予定調和なんてものはなく、完全なる無秩序。自分なりの踊りを踊るヤツ、飛び跳ねているヤツ、壁にもたれて腕を組んでいるヤツ、父親の肩の上で手を叩いているちびっ子──見た目は違えど、誰もが等しく楽しんでいる様子が伝わってくる。続出するクラウドサーフで横山のマイクスタンドが蹴り倒され、一瞬ヒヤッとする空気が流れたが、「気にすんな! 俺は全然OKだからな!」──この横山のひと言が、この夜のテンションを決定づけた。
もしかするとこれは今に始まったことではないのかもしれないが、自分はKEN BANDのセットリストにいつの間にか大きな意味を見出さなくなっていた。以前は、セットリストに大きなストーリーのようなものがあった。もちろん、今もそれなりに考えている部分はあるだろうが、少なくとも見ている側にとってはあまり関係がなくなっている。何しろ、ライブのどこを切り取っても“熱い”のだ。
その熱さは、横山のパフォーマンスにも現れている。彼はKEN BANDの始動以来、できるだけステージとフロアの距離を縮めようとしてきた。観客とできるだけ同じ感覚で時と空気を共有しようとしてきた。そのために彼はまず、「Believer」を観客全員で大合唱させるところから始まり、マイクをフロアに放り投げて好き勝手に歌わせるようになり、曲によっては歌い出しを観客に任せるようになった。この日もそれは変わらない。それどころか、「Believer」ではステージ上にあるマイク全てをフロアに向けて曲を歌わせるほどだった。
▲<Ken Yokoyama「Very Very Strawberry Tour」>5月09日(水)@宮古 KLUB COUNTER ACTION
2018年のKEN BANDの大きなトピックとして挙げられるのは新曲の存在だ。それは『Ken Yokoyama VS NAMBA69』収録曲ではない。まだどの作品にも収録されず、いつリリースされるかすらわからないまっさらな新曲「Helpless Romantic」だ。横山はこの楽曲に並々ならぬ思いを注いでいる。
オレを狙ったヤツは
必ず自分の手で仕留めてやる
オレが流した血を ヤツらも流すのさ
(日本語訳)
という歌い出しで始まるこの曲は、8ビートに美しいメロディを乗せて歌われる音楽的にはGeneration X「Kiss Me Deadly」を彷彿とさせる楽曲だ。“オレはどうしようもないほど ロマンチックな男なのさ”(日本語訳)という一節が印象的。
横山はこの1曲に非常に強い思い入れを感じているようだ。曲調も歌詞の世界観もこれまでの自分にはなかったものができたと彼は自負している。KEN BANDは未発表の新曲をライブで披露する機会がほとんどなかったこともあり、「せっかくいい曲ができたんだから」ということで、出し惜しみすることなくライブで演奏していくことにしたらしい。KEN BANDはこのミディアムチューンを、今後しばらくライブの核として披露していくことになるだろう。
▲<東北ジャム2018 in 福島あだたら>2018年5月12日(土)@福島スカイピアあだたら
実際、この数日後に出演した<東北ジャム2018>では、「Helpless Romantic」を最後にプレイしている。未発表の新曲としては異例の扱いだ。実はこれにも横山の強い思いが反映されていた。彼は言う。「<東北ジャム>は、震災を受けての復興を主眼としているわけでしょ? 俺にとってはそれだけではなくて、放射能の風評被害、まだ仮設にいる人たちを身内に持つ人たち、とにかくいまだに心の傷が癒えていない人たちが多く観にくるフェスだと捉えてた。だから“俺たちはド新曲を最後に演るよ”ってことで、“もがきながらも必死に次に向かう KEN BAND”をみんなに見せたかったし、動けない人がいることはわかってはいるけど、そんな誰かの背中をソッと押してあげられたらな、という気持ちだった」と。この曲に込められた思いは、今後様々なライブで彼の口から語られることになるだろう。
▲<東北ジャム2018 in 福島あだたら>2018年5月12日(土)@福島スカイピアあだたら
話を宮古へ戻そう。最後は、カウンターアクション宮古の名物店長・太田氏からのリクエストで「Daydream Believer」をプレイし、90分以上に及ぶステージを終えた。楽屋に戻ったメンバーは疲労困憊といった様子で口数も少なかったが、それは120%全力を尽くした証拠でもあった。横山にベストパフォーマンスだった旨を伝えると、彼は「負けてらんねえから」と真顔で答えた。
2018年、KEN BANDの活動は徐々に勢いを増していく。まず、6月22日から始まるNAMBA69とのツアーを控えており、8月にはザ・クロマニヨンズとThe Birthdayとの合同ツアーという、横山にとって非常に大きな意味を持つツアーが開催される。
▲<Ken Yokoyama「Very Very Strawberry Tour」>5月09日(水)@宮古 KLUB COUNTER ACTION
2018年のKEN BANDは、フェスも含めてまだ10本もライブを行っていない。しかし、バンド内はものすごい勢いで、もしかすると、これまでで一番ドラスティックでポジティブな改革が進行している。それは今のところ上手くいってるし、観客からも熱狂ともに受け入れられている。これは筆者の勘だが、KEN BANDはまだまだ隠し玉を持っているような気がする。いや、持っていてほしい。今の抜群のコンディションを反映させた新曲を記録して残してほしいのだ。はっきり言う。KEN BANDが始動して14年、間違いなく彼らは今が一番格好いい。
取材・文◎阿刀大志
撮影◎石井麻木 (宮古 KLUB COUNTER ACTION / 東北ジャム2018)/岸田哲平 (東北ジャム2018)
■<Ken Yokoyama「Very Very Strawberry Tour」>
5月10日(木) 石巻 BLUE RESISTANCE
5月17日(木) 長崎 DRUM Be-7
5月18日(金) 佐賀 GEILS
6月02日(土) 帯広 MEGA STONE
6月03日(日) 旭川 CASINO DRIVE
6月05日(火) 苫小牧 ELLCUBE
6月06日(水) 札幌 PENNY LANE24
※各公演共通:OPEN 18:00 / START 19:00
■Ken Yokoyama vs ザ・クロマニヨンズ vs The Birthday
8月04日(土) 新潟市西川多目的ホール
ザ・クロマニヨンズ vs The Birthday vs Ken Yokoyama
▼<越中・小矢部の乱 2018>
8月05日(日) 富山県クロスランドおやべ
Ken Yokoyama vs ザ・クロマニヨンズ vs The Birthday
▼<信州・松本の乱 2018>
8月07日(火) 松本キッセイ文化ホール・中ホール
The Birthday vs Ken Yokoyama vs ザ・クロマニヨンズ
■スプリットCD『Ken Yokoyama VS NAMBA69』
2018年06月06日発売
PZCA-83 1,800yen(税抜)
▼TRACK LIST
1. Support Your Local (Ken Yokoyama)
2. Malibu Beach Nightmare (Ken Yokoyama)
3. Come On,Let's Do The Pogo (Ken Yokoyama)
4. FOR LIFE (NAMBA69)
5. PROMISES (NAMBA69)
6. SONG 2 (NAMBA69)
■全国ツアー<Ken Yokoyama VS NAMBA69 Tour>
6月24日(日) 新潟 LOTS
7月04日(水) 東京 Zepp DiverCity
7月05日(木) 東京 Zepp DiverCity
7月10日(火) 福岡 DRUM LOGOS
7月12日(木) 大阪 なんばHatch
7月13日(金) 名古屋 DIAMOND HALL
OPEN18:00 / START19:00 ※各公演共通
※全公演2マン
この記事の関連情報
【インタビュー】Ken Yokoyama、90sパンクカバーアルバムを語る「愛しているんですよね、僕はこの頃のバンドとか曲を」
Ken Yokoyama、90sパンクカバーアルバム発売日に都内某所より配信ライブ開催
Ken Yokoyama、90sパンクカバーアルバム『The Golden Age Of Punk Rock』を10月発売+レコ初ツアー決定
PIZZA OF DEATH REOCRDS、Ken Yokoyamaカバーアルバム『The Golden Age Of Punk Rock』発売記念キャンペーン実施
【速レポ】<京都大作戦2024>Ken Yokoyama、変わらぬ本質と拡大する挑戦「なるべく多くの人に気持ちが伝わったらいいと思ってステージやってます」
【速レポ】<SATANIC CARNIVAL>Ken Yokoyama、ポジティブな挑戦が生んだ感動的シンガロング「一緒に歌える歓びを味わおうじゃないか」
Ken Yokoyama、夏の九州ツアー<Fanning Flames Tour>にKUZIRAも帯同
【レポート】Ken Yokoyama、ツアー<Indian Burn>完遂「まるで明日なんかないようなライブをしてしまったな」
10-FEET主催<京都大作戦2024>、第二弾発表にKen Yokoyama、SUPER BEAVER、スカパラ、Dragon Ashなど18組+日割り発表