【インタビュー 前編】清春、『夜、カルメンの詩集』完成「僕しか作ってはいけないアルバム」
清春が2月28日、『夜、カルメンの詩集』と題したソロ通算9枚目のオリジナルアルバムをリリースする。前オリジナルアルバム『SOLOIST』から約2年ぶりとなった本作は、すでにライヴでも浸透している楽曲をはじめ、全体にスパニッシュ的要素が色濃い。リリースに伴って開催中の全国14ヵ所15公演におよぶツアー<KIYOHARU TOUR 天使の詩 2018「LYRIC IN SCARLET」>でも、その美しさと味わい深さは破格だ。
◆『夜、カルメンの詩集』スペシャルティーザー 動画
2017年末発表の濃厚なリズムレスアルバム『エレジー』がいまだ大きな衝撃を残すなか、彼がこの数年間に渡って提示してきた“赤”の活動の集大成となる『夜、カルメンの詩集』の魅力について、デビュー25年目を迎えてさらに深化した美学など、現在の清春にしか成し得ない境地を語り尽くしたロングインタビューを前編と後編に分けてお届けしたい。まずはその前編から。
◆ ◆ ◆
■フラメンコやスパニッシュギターを
■自分の音楽に寄り添わせる
──『夜、カルメンの詩集』は豊潤という言葉では形容しきれないほどの気高さが漂う作品ですね。
清春:豊潤っぽいところもあるね、確かに。
──前作の『SOLOIST』から約2年ぶりのオリジナルアルバムですが、この間、さまざまなことを考えてこられたと思います。2017年末の『エレジー』からリリースが続きますが、現在の清春さんはどのようなモードなんでしょうか?
清春:ソロ活動というか、“清春としての活動がまた一瞬止まるのかな”って感じでしょうか。5月3日のEX THEATER ROPPONGIまでツアー(<KIYOHARU TOUR 天使の詩2018『LYRIC IN SCARLET』>)をやって、それ以降はsadsになるという噂なんですけど。“うまくいくのかなあ?”という感じですね。
──<LYRIC IN SCARLET>は、ここ数年の活動の集大成的なツアーになるんでしょうね。そこからさらに切り替えて、次のステージへ行くことを思い描かれています?
清春:そうですね、いや、どうでしょうか(笑)。オリジナルアルバムが今回で10枚目だと思ってたんですけど、どうやら9枚目らしくて。その痛手が大きいです。
──記念碑的な作品にしたいと考えてらっしゃったんですね。
清春:これ以降、オリジナルアルバムはしばらく出さないと思ってたので。『エレジー』とか『light~saw the light & shade~』(『shade~saw the light & shade~』)、ベスト盤やそ企画色の強い作品を除いて数えると、今回で9枚目らしいです。以前、「10枚目に向けて頑張ります」みたいなことも言ってた気がするんですけどね(笑)。
──ははは。前オリジナルアルバム『SOLOIST』(2016年3月発表)に伴うツアーが終わってから、この1~2年の活動は印象的でした。「赤という色をみんなに記憶してもらいたい」ということをよくおっしゃっていたのも。
清春:『SOLOIST』のツアー直後から<夜、カルメンの詩集>というツアーになったので。わりと僕のなかでは長いタームでひとつの作品を作る流れだったんでしょうね。
清春:はは。うまいこと言いますね(笑)。<夜、カルメンの詩集>ツアーの前からYouTubeでスパニッシュギターの演奏をよく観ていて、その先にエスタス・トーネ(Estas Tonne)っていうロシア人ギタリストがいたんです。“フラメンコ”で検索をかけて関連動画を漁っていったら、彼の映像に巡り会ってしまったんですけど、そのプレイが素晴らしくて。再生回数もすごいし、ああいうジャンルのなかでは、アルバムを何枚も出していて知名度も高いみたい。僕はまったく知らない人だったんですけどね。ルックスもカッコいいし、ギターのヘッドにお香を刺して弾いてたりしてて。街角で演奏してる映像なんか、さすらい人というかギターを弾いて放浪する人みたいな感じ。エスタス・トーネのギターの雰囲気と自分の歌の感じが“合う”と思っちゃったんですよね。“この人に弾いてほしいな。日本に来ないかな”ぐらいに(笑)。
──彼の音楽スタイルに共感したと。
清春:“こういうギターが鳴ってる音楽を作りたい。この雰囲気やコード感は絶対自分に合う”ということをきっかけに、曲をプリプロで作り始めたんですよね。それが『SOLOIST』のツアーが終わってすぐ、ツアー<天使の詩 '16 FINAL『夜、カルメンの詩集』>前のこと。「赤の永遠」はその時にできたのかな。<夜、カルメンの詩集>ツアーの開演前のBGMでスパニッシュギターが流れてたと思うんですけど、あれはエスタス・トーネの街角の演奏。
──あのムードのある音楽は耳に残りました。
清春:ギターケースを開けておいて投げ銭をもらう感じね。
──スパニッシュギターとの出会いがきっかけで、『夜、カルメンの詩集』のコンセプトが出来上がっていったんですね。
清春:いや、コンセプトというか、やる気になっていったというか。最初から“これがやりたい”みたいな感じではなくて、ロック、ジャズ、ポップス、クラシック……いろんな音楽があると思うんですけど、簡単にカテゴライズされないワールドミュージックっぽいものをたまたま検索していったんですね。僕らが知らないいろんな国の音楽を。そのうちのひとりがエスタス・トーネで。たとえばインドだったらシタールみたいなものがあるじゃないですか。エスタス・トーネには、そういった地域性を強く感じた。その土地の人やそういう音楽を好きな人に浸透しているサウンドを、よりカッコよく弾く。歌なしで、ギター1本でね。
──なるほど。
清春:もちろん彼の場合はインストゥルメンタルだから、これに歌があるようなものをという。僕らの知ってるスパニッシュギターとかフラメンコって本当に一部でしかなくて。複合的な技やジャンルがたくさんあるなかでの一部しか見えてないんです。
──面白いですね。ワールドミュージックに対する先入観を覆されるようなお話です。
清春:たぶん日本で聴かれているワールドミュージックはホントに一部だと思うし、そういう音楽を聴いてる人って、そもそもほとんどいないじゃないですか。iTunesにはワールドミュージックっていうジャンルがあるけど、なかなかそこまで辿り着かない。日本で言ったら、喜多郎さんみたいな感じなのかな。僕が聴いてるのは、それとはちょっと違うギタリスト寄りのものなんです。ある意味、スピリチュアルなんだけど、それをモロにやるわけではなく、あくまで自分の音楽に寄り添わせるというか。“僕が思うフラメンコやスパニッシュギターといえば、こういう感じかな? 今までと違う聴こえ方がすればいいな”とか。
──イメージ的な感じで?
清春:歌のメロディとか使ってるコード進行をヘンに変えるのではなくてね。だから、いざ作る時には、フラメンコということは一切考えず。「赤の永遠」「夜を、想う」とかでは考えてたんですけど、基本的には後から有能なフラメンコギタリストに弾いてもらうという想定のもと、進めました。
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