【インタビュー】レイ・バービー、「13年ぶりのアルバムは音符やメロディを気にせずにサウンドや音色だけで曲を作ることが楽しかったね」
13年ぶりのセカンド・アルバム『Tiara for Computer』が発売された、ストリートで大きな影響力を持つ現役プロスケーター、レイ・バービー。
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トーマス・キャンベル、ジョン・ハーンドン(トータス)、トミー・ゲレロ、ジョシュ・リッピら、仲間が関わり、先行で発売された「What's His Neck | Ocra Vs. Jaba (7INCH)」も話題となっているのはご存知の通り。
そんなレイ・バービーにアルバムについて語ってもらった。またアルバム『Tiara for Computer』のダイジェスト映像公開が公開されているので、合わせてチェックしてほしい。
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■手で実際にシンセに触れて
■音を変えるのが好きなんだ
──シンセサイザーを中心としたアルバムを作ろうというアイデアはどこから?
レイ・バービー(以下、R):昔からアナログ・シンセに興味があったんだ。5年前にシンセサイザーについての本を入手して最後まで読んでいなかったんだけど、いつかもっと勉強したいと思っていた。数年後にKorg MS20 Miniという新品のシンセサイザーを買って、遊びで曲を作って、トーマス・キャンベルに送ったんだ。その数週間後にIndependent Trucksから連絡があって、僕のシグネイチャー・トラックを作ろうというオファーをもらった。トーマスがコレクションと一緒にリリースしたら面白いんじゃないかと提案してくれて、アートワークも彼が担当してくれることになった。その時に「ギターの曲じゃなくて、シンセの曲でやろうかな」って言ったら「いいね」と言ってくれた。
さらにジョン・ハーンドン(トータス)に参加してもらえることになって、そこからトーマスが「EPを作って、彼の新しいレーベルUm Yeah Artsからリリースしよう」とアイデアを出してくれたんだ。まずEP用に5曲作って、サンフランシスコのモンティ・ヴァリエのスタジオに入ってレコーディングした。僕は自分のパーツを基本的に家でレコーディングしたんだけど、それを土台にジョン・ハーンドンのドラムはサンフランシスコでレコーディングした。ジョンが参加することで、僕の構想をはるかに超えるサウンドになったんだ。そこで、もっと大規模な作品を作れると思って、アルバムを作ることにしたんだ。
──Korg MS20 Miniはヴィンテージ・シンセではないんですよね?
R: ヴィンテージ・シンセのリメイクだ。新品だからそんなに高くないんだけど、サウンドはオリジナルとほぼ同じだね。古い70年代後半〜80年代前半らしいサウンドなんだ。
──最初にトーマスに送ったのはどの曲ですか?
R:日本用のボーナス・トラックとして提供した「Push Process」なんだ。オリジナルのままこのアルバムに入れたわけじゃなくて少し変更した。でもこの曲から全てが始まったんだ。
──何故、このシンセに興味を持ったのでしょうか?
R:今発表されている新しいシンセの中で、Korg MS20 Miniにしか興味が持てなかった。僕は手で実際にシンセに触れて音を変えるのが好きなんだ。色々なアナログ・シンセが出ているけど、最近はアナログとデジタルのハイブリッドが多いんだ。Korg MS20 Miniは歴史のあるシンセでパッチベイがある、セミモジュラー・シンセなんだ。パッチベイを使うことで、自分独自の音作りが出来るんだ。これを使って、シンセの仕組みを勉強出来るとも思ったんだ。
──シンセの曲を作っている時と同時にギターでも作品は作ってたんですか? それともギターで曲を作ることに飽きてシンセで作るようになったのでしょうか?
R:いや、ギター中心の曲も作っていたんだけど、シンセの作品を作るチャンスが舞い込んで、実験しながら楽しめるチャンスだと思ったんだ。それがアルバムにまで発展出来たから嬉しいね。別にギターで曲を作ることに飽きたわけじゃなくて、実験がしたかった。僕は同時に色々なことに興味があるし、それぞれを学んで新しい経験がしたいんだ。今までの人生でスケートボード、カメラ、音楽などで常にそういう姿勢でやってきたんだ。
──あなたはギター・プレイヤーとして知られていますが、このアルバムを作ることで今までのファンを遠ざけてしまうということは心配しましたか?
R:いや、それは全くないよ。僕はとにかく自分を表現しないといけないわけで、そのプロセスの中で自分の表現がどう受け入れられるかは意識していないんだ。このアルバムを聴いて、僕が頭がおかしくなったと思う人もいるかもしれないけど、それは別に構わない(笑)。楽しむことが一番大事なんだよ。
人を驚かせること、それに自分を驚かせることって大切だと思うんだ。だから、リスナーの反応は特に意識しなかった。どのレーベルがリリースしてくれなくても僕はこの作品を作りたかったんだ。トーマスやRUSH! X AWDR/LR2がリリースしてくれてとても感謝しているよ。もちろんファンはこのアルバムを喜んでくれると思うけど、ファンを喜ばすことが第一の目的ではない。自分の音楽を人とシェアしたい気持ちはあるけど作品は作品として独立しているものなんだ。
──アルバムのコンセプトは?
R:音の探求だね。あと、音符やメロディのことを気にせずにサウンドや音色だけで曲を作ることが楽しかった。あえてモノシンセを使ったんだけどコードを演奏するんじゃなくて、音符を一つずつ重ねて曲を構築していくことが新鮮だった。知らない世界に踏み込んで慣れてないことに挑戦したかったんだ。テクニックよりも新しいことに挑戦する喜び、好奇心、興奮の方が強かったんだよ。自分が何をやっているのかわからない時期が一番エキサイティングだし、その時に作る音楽はすごく興味深いんだ。その気持ちは一度しか訪れないからね。
既にシンセの知識とテクニックを身につけ始めてるから、今、同じ作品を作ろうとしても出来ないんだよ。どっちがいいかわからないけど確実に感覚は違うんだよ。そういう意味でシンセを学んでいる過程をこの作品の中で記録するっていうことは一つのコンセプトだったね。完全な初心者だった自分がシンセについて学んでいる時期を作品として残したかったんだ。自分がやっていることが正しいかわからないまま挑戦しているから、そこから面白い音が生まれるんだよ。
──アルバム・タイトル『Tiara for Computer』の意味は?
R:EMSという50年代〜60年代の初期に開発されたシンセサイザーのパイオニアの会社があるんだけど、彼らは軍隊が残したテクノロジーを使ってシンセを開発した。EMSは音をトリガーさせるための道具が必要だったから、シーケンサーを開発したんだ。そのためにはコンピューターが必要だったのだけど、当時のコンピューターは家一軒と同じくらい高価で大きさも一部屋くらいだったんだ。創始者の奥さんが高価なティアラを持っていて、そのティアラを売って、コンピューターを買ったらしいんだ。それは初めて一般人の家の中で使用されたプライベートなコンピューターだった。シンセを作るために奥さんのティアラを売るというストーリーがすごく印象的でこのタイトルにしたんだ。
──このアルバムはIndependent Trucksから共同でリリースされると聞きました。
R:Independent Trucksは数年前から、プロ・スケーターのためにシグネイチャー・トラックを限定で作って販売してるんだ。シグネイチャー・トラックを出す時は他の商品を含むコレクションをリリースするんだけど、グラフィックは外部のアーティストに頼んで、スウェット、キャップとかもリリースするんだ。トラックと一緒に何をパッケージするか?の話になった時に7インチを入れようという話になったんだけど、それが発展してアルバムになった。アルバム自体はトーマス・キャンベルのUm Yeah Artsからリリースされるけど、シグネイチャー・トラックのパッケージに限定でレコードも入るんだ。
──何年前からIndependent Trucksにスポンサーされてますか?
R:クリスマスに親に買ってもらった初めてのスケートボードにIndependent Trucksのトラックがついてたから1984年から使ってるんだけど、スポンサーされたのは1989年だったね。コンテストに出るようになってから、まずVentureトラックにスポンサーされたんだけど、その後にIndependent Trucksにスポンサーされたんだ。
──初めてエレクトロニック・ミュージックのアルバムを作る上で、インスパイアされたアーティストやアルバムはありますか?
R:この作品を作り始めた時に「シンセを演奏する時の自分の個性とは?」、「シンセの何に自分は魅力を感じてるのか?」って考えてたんだ。エレクトロニック・ミュージック、シンセサイザー・ミュージックは多種多様だからね。僕は古いシンセのサウンドが好きなんだ。クラフトワークや初期のデペッシュ・モード、初期のヒューマン・リーグ、ヤズーも好きだし、70年代のジャズ・ミュージシャンがシンセをドラム、ベース、ギターと組み合わせていたサウンドも好きなんだ。チック・コリア、ハービー・ハンコック、ジョージ・デュークはシンセを使ってクレイジーなことをやっていた。
あの時代のシンセには特殊なサウンドがあるんだ。それらのサウンドは好きだけど真似しようとは思わなかった。僕はシーケンサーを使ったタイトでロボットっぽいサウンドにしたかったんじゃなくて、呼吸している生身の人間のようなサウンドにしたかった。古いアナログ・シンセは不安定なところがあるんだけど、個性的なサウンドがあるから、それが人間っぽいんだ。ちょっと音がズレていたりするんだけど、それが魅力なんだ。
──曲作りとレコーディングのプロセスは? スタジオでのジャム・セッションから曲を作ったのか?自宅で曲を作ったのでしょうか?
R:Reasonというソフトを使って、曲の土台を作ったんだ。僕はMIDIは使ってないから、ReasonをPro Toolsのようにレコーダーとして使って簡単なループを作った。まずはシンセでパッチを作って、その後はベースラインを演奏したり、ドラム・ループを入れたりして、中で音を重ねていったんだ。後で生ドラムと取り替えたんだ。
──家でデモを作ってから、スタジオでレコーディングし直したのでしょうか?
R:いや、僕が作ったベーシック・トラックをそのまま使って、その上にさらにスタジオで演奏を重ねていった。
──なるほど。モンティのスタジオではシンセはレコーディングしなかったということですね?
R: ほとんどレコーディングしてないね。モンティのスタジオに入った時は、僕のシンセのパーツはほとんど完成していた。スタジオでは、ジョンのドラムを主にレコーディングした。シンセを少し演奏することはあったけど、あまりやらなかったね。
──スタジオでレイとジョンが一緒に演奏しているようなダイナミックなサウンドに聴こえました。
R:それは嬉しいね。家でトラックを作った時に、後でジョンがドラムを叩くことはわかってたから、わざと複雑なドラム・ループを入れておいたんだ。ジョンが自由に演奏出来るようにしたかったんだ。ジョンと実際にジャム・セッションをしているかのようなサウンドに仕上げたかったんだ。ジョンがドラムを叩いてから、家で作ったドラム・ループは基本的に削除した。何曲かは残してるけどね。
──ジョンが叩いたドラムを使って、新たな曲を作りましたか?
R:2曲でやったね。モンティから、ジョンのドラムのループを送ってもらって、そこから曲を作ったんだ。「Ocra Vs. Jaba」と「Holding Company」はそうやって作った。
──このアルバムで全くギターを演奏してないのでしょうか?
R:「What's His Neck」ではエレキ・ギター、「Holding Company」ではアコースティック・ギターを演奏しているよ。
──他に参加したミュージシャンは?
R:(トミー・ゲレロ・バンドのメンバーでもある)ジョッシュ・リッピが何曲かでスタンドアップ・ベースを演奏してくれて、「What's His Neck」や数曲でエレキ・ベースを演奏してくれた。曲がもっとダイナミックになった。ジョンのドラムを録てってから、ジョッシュに来てもらった。モンティが1曲でちょっとだけベースを演奏してくれた。ゲストはそれだけだよ。
──トーマスはどういう形でアルバムに参加してくれましたか?
R:彼は本当の意味のプロデューサーで作品のヴィジョンをクリアにして、良いアイデアを提供してくれた。サンフランシスコでレコーディングしている間はずっと居たよ。
──具体的にどのようなアイデアを提供してくれましたか?
R:よく話し合ったのは、僕らが無理やり作品の方向性を決めるより、自然な形で作品にするというとだった。ジョンに僕が作った素材をリミックスさせるというアイデアも彼が提案してくれた。あと、インスピレーションになる曲を聴かせてくれて、それに合わせてジョンがドラムのリズム・パターンを考えたり、僕も曲作りをした。そういう意味でトーマスは重要な役割を果たしたよ。
◆インタビュー(2)