【インタビュー<前編>】清春、『エレジー』完成「ダークさとか、今までやってきたことは剥せない」
■“本物のファンじゃない”って言うのは
■これがいかに今、自分に自信があるかの裏付け
──たとえば、「GENTLE DARKNESS」の空気の震わせ方には、ブルース的なものを感じる人もいるのかもしれないですね。
清春:そうかなあ……。もっと、なんか、僕の中ではホントに真っ暗闇のなかで雨が降ってるイメージなんですけどね。夜以上に暗い夜のなかで、外に出たら雨が降ってるというイメージなんです。自分の歌がブルースみたいに聴こえるって言われると、ブルースを知らないので、あんまりこう……。“ブルースっぽいな、この人のギター”とか、そういうのはちょっとわかるんだけど。「GENTLE DARKNESS」って、元々が初期のsadsの『BABYLON』っていう2枚目のアルバムに入ってる曲で、ブルースのブの字もなかったと思うんですよ。
──なるほど。これ、選曲をざっと見た人は、黒夢、sads、清春という全キャリアを網羅しているアルバムなんだなってところから入りますよね。
清春:レコード会社的には“全キャリア”とか言いたがるのは分かります(笑)。
──ははは(笑)。その辺もお訊きしたかったんですが、清春さん自身、もはや、そういう括りをあまり気にしなくなっているとか。
清春:そうだね。<エレジー>公演のほうで、あの雰囲気が合う曲っていうのを選んでるんで。全キャリアとはいっても、たまたま復活後の黒夢でのシングルが2曲(「ゲルニカ」「アロン」)入ってるけど、ここではかなり清春に近いものだと思う。そこで「少年」とか「忘却の空」とか「MARIA」を選んでるわけじゃないじゃないですか。実際、この公演のほうではそういう曲は似合わないだろうなと思って、やらないので。もはや、僕のなかでは、全キャリアということよりも、<エレジー>っていう、あの空間に合う素材のひとつっていう感じだな。
──なるほど。その素材を使って新曲を作ったというような感じなんでしょうか?
清春:実際、<エレジー>とかプラグレス公演で初めて披露した曲もあるし、そのなかで、たまたまこの10曲の収録曲をいちばん多くやったんだと思うんですよね。繰り返し繰り返し、毎日メニューを変えるなかで、いちばん残っていったというか。
──アルバム用に選曲するにあたって、これは絶対に自分に似合うという自信のあるものが並んでいるわけですね。
清春:この、<エレジー>でのステージのムードにすごく似合うもの。仮にダンスアルバムとかを作った場合には、この曲達じゃないと思うんですよ。やんないけど(笑)。ダンス・ヴァージョンとかディスコ・ヴァージョンとか、なんでもいいけどさ。インストゥルメンタルとか、インダストリアルとか、いろいろあるじゃないですか。そういった場合には、これらじゃない。ジャズ風のアルバムを作った場合には、「GENTLE DARKNESS」とかが入るかもしれないけど。あ、新曲を入れてもよかったけど、次に『夜、カルメンの詩集』を出すんで、そこで初めて聴かせたいというのもあって。未発表曲って、すでに去年のツアーからやってるから、それは次に出すアルバムでね。『エレジー』はとりあえず、66公演やったものを形にして残したいっていう。あのマウントレーニアホールにしても、何年も前からやってるんで。やっと、来てる人に残せたっていう感じありますね。
──一昨年のマウントレーニアホールのシリーズ公演では、プラグレスという形式を前面に出していたけれども、“エレジー”という言葉が掲げられてから、より引き締まったというか。テーマが絞れてきた気がするんです。
清春:そうですね。
──そもそも、“エレジー”には、辞書で調べると、“哀歌”などといった意味があるんですが、いいなと思ったのは、ただ悲しみに浸るだけではなくて、歌を聴いているうちにそこから喜びに至るような瞬間が何回もあったところなんです。
清春:人間、泣いた後ってスッキリしてますからね。泣くまでがやっぱり辛い。泣くほど悔しいけど、泣いた後はスッキリするでしょ。日々、屈辱的なことがあったりとか、大事な人が死んじゃったりとかさ。ずっと悲しかったりするんだけど、一瞬その先に光が見えるっていうか、出口が見えるじゃない。見えない時にまた、ガーンって負の感情にさいなまれて、たまらなくなって泣くじゃない。最近、女の子が男の子と違って、美しいものとかすごくイイもの、ジーンとくるものを観て泣くのを知ったんだよね。悲しいとかじゃなくて、今ここに立ち会っている自分っていうか。生きてきて、たまたまタイミングが合ってるっていう。
──ポジティブな瞬間を共有できた時に泣くわけですね。
清春:歌を自分に投影してるのかもしれないけど。映画とかもそうじゃない? 泣く時って、自分と重ねちゃう。偶然重なっちゃった時に泣いたりすると思うんですけど。
──女性も確かにそうですけど、男性も結構<エレジー>公演を観に来てるなって思ったんですよ。
清春:そうですね。増えてきましたね。こういう形式なんで、最初のほうは、男性はやっぱsadsとかバンドのほうがいいっていう人も多いし、実際バンドのほうしか来ない人もいるよね。僕はそれはもう、本物のファンじゃないと思って、割り切ってますが(笑)。
──ははは!
清春:“ああ、じゃあ、sadsへどうぞ”っていう。“本物のファンじゃない”ってハッキリ言うことによって、いかにこれが今、僕が自分に自信のあることかっていう裏付けなの。“ソロの静かなやつに来ないなんて、普通に考えたらファンじゃないでしょ?”みたいなことじゃなくてさ。バンドを一生懸命にやってる人とか、バンドが大好きな音楽ファンには申し訳ないけど、僕のキャリア的には、体力さえあればバンドでの激しい音って目つぶっててもできちゃうんだよね。だけどこの<エレジー>は、もっとちゃんと真剣にならないとできないの。
──はい。
清春:音楽的な技量も高いし、集中力も高いし、同じチケット代でもこっちのほうが安いなと思うよ。物の価値でいくと、いかにその作者がそこに集中して、神経を費やして、愛情があるかっていうところなのかなって思う。絵にたとえると、大胆な絵があって、そこにはまぁまぁ価値はあるかもしれないけど、さらにすごい繊細かつ大胆っていうほうが、やっぱ家にずっと飾れるっていうか。友達とかお客さんが来た時にも、“これ見てよ!よく見て!”っていうさ。ただ“見てよ!”じゃなくて“よく見て!”っていうのがやりたい年頃なんでしょうか。
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