【インタビュー】ネイ・オブリヴィスカリス、プログレッシブの極致のような『アーン』
オーストラリアのエクストリーム・プログレッシヴ・バンド、ネイ・オブリヴィスカリスが、3枚目のアルバム『アーン』で日本デビューを果たす。エクストリーム・メタルにヴァイオリン、そしてフラメンコやジャズまで何でもアリという、アルバム『アーン』はプログレッシブの極致のような作品である。
美しいメロディを歌い上げるクリーン・ボーカルに、火の出るような熱いヴァイオリン・ソロをたっぷりと積載させた本作だが、小難しさはなく、45分ほどのコンパクトなアルバムは一気に最後まで聴けてしまう。オーペスあたりが好きな人はぜひチェックしてみてほしいバンドだ。
日本デビューにあたり、ヴァイオリン/クリーン・ヴォーカルを担当するティム・チャールズに、話を聞いてみた。
──ニュー・アルバム『アーン』はどのような仕上がりになりましたか?
ティム:俺たちはアルバムをリリースするごとに、あらゆることを学び成長している。演奏、作曲、そしてもちろんレコーディングやプロデュースの仕方もね。『アーン』は、これらのことすべてにおいて、大きく進歩していると思うよ。このアルバムでも俺たちは挑戦を続け、アーティストとして新たな領域に踏み込んでいるし、現時点のネイ・オブリヴィスカリスとして最高のものを仕上げたと思っている。
──エクストリーム・メタル色が多少減った気がしたのですが、意図的なものなのでしょうか。
ティム:…どうだろう。俺たちが作曲するときに意図的であることはないんだ。何というか…曲は自ら旅をして、どこであろうとそれが望むところへ俺たちを連れて行ってくれる感じなのさ。それと同時に、俺たちは思いつく限り多くの音楽の街角を探索しようとしているのも事実だ。『Citadel』はエクストリームでヘヴィだったけれども、トータルでは非常にプログレッシブな感触を持っていたと思う。今回の作品も、タイトル・トラックのように14分間全体が激しいエクストリーム・メタルらしい部分も多く残っている一方で、「アイリー」みたいにメロディックな要素を持った、過去の俺たちがやったものとは違う曲もある。「リベラ」なんかは1曲中に、あらゆるネイ・オブリヴィスカリスの要素が出てくる(笑)。いずれにしても、自然な発展だよ。俺たちはただミュージシャンとして、自分たちらしくあろうとしているだけなんだ。自分たちの中にユニークな要素を見つけようとトライし続けているのさ。
──歌詞のテーマはどのようなものですか?「骨壺」というタイトルは随分と不吉なものですが。
ティム:究極的には、『アーン』は死という俺たちがみな共有している主題についての考察だよ。「骨壺」は死を象徴している。この広大な宇宙の中では、俺たちの生や死というのはほとんど意味をなさない。だけど俺たちは生きている間、みずから生の意味というものを作りだすんだ。
──コンセプト・アルバムと考えて良いのでしょうか。
ティム:そういうわけではないよ。確かに、ゼンの書いた4曲すべての歌詞が死に関連したテーマにしている。すべて曲が先に書かれていて、後からそれらを関係づける歌詞を書いたからね。音楽としては様々なスタイルが含まれていてバラバラのものを、歌詞で結びつけて、アートとしての統一感を出すようにしているけれど、コンセプト・アルバムではないな。面白いことにゼンと俺は全く違うタイプで、押し引きがあるんだよ。これもバンドを興味深いものにしている理由のひとつだと思う。ゼンは物事を非常にダークな見方をするのだけど、俺はもっとポジティブなタイプなんだ。例えば「イントラ・ヴィーナス」も死について歌っているんだけど、ラストのクリーン・ボーカル・パートは多少明るい感じだろう(笑)? だから歌詞と音楽がフィットするか、ゼンとじっくり話し合う必要があった。
──あなたたちの歌詞は、非常に詩的で抽象的ですよね。ダイレクトにメッセージを伝えるのではなく。
ティム:歌詞はすべてゼンが書いているんだ。彼の書く歌詞は非常に神秘的でダイレクトなメッセージを伝えるものではないよね。ストーリーではなく、言葉でイメージを喚起するような感じだろう。これは非常にバンドのアーティスティックなイメージに合っていると思うんだ。ゼンに歌詞の本当の意味を聞いても、本当のことを言わなかったりするしね(笑)。彼は読む人それぞれに解釈をしてもらいたいと思っているんだよ。もちろん彼の頭の中に正解はあるのだろうけど、決してそれは公にせず、みんなに個人的な解釈をさせる方を好んでいるんだ。
──Robin Zielhorstがヘルプのベーシストとして参加していますが、彼を起用したのは何故ですか。
ティム:Robinのことを俺たちはずっと尊敬していたから。今回のアルバムで、彼は単にテクニカルな演奏をしたというだけではなく、音楽的スタイルについても、バンドに非常にマッチしていたと思うよ。彼は自分のバンドExiviousやONEGODLESSをやっていてとても忙しいので、長期バンドに参加してもらうのは難しいことはわかっていた。だけどぜひ彼にはアルバムに参加してもらいたかったので、他の長期参加できそうなベーシストを探すよりも、彼にお願いする方を選んだのさ。俺たちが欲していた音楽的ビジョンに的確に答えてくれて、彼とやりとりをするのは素晴らしい経験だった。俺たちは、ただギターをなぞるだけのベース・パートではなく、複雑なものやコードやハーモニーに対応するものを求めていたからね。間違いなく彼が参加したことで、アルバムはさらに素晴らしいものになったよ。
──今回は、前2作と違いイェンス・ボグレンではなく、マーク・ルイスがミックスを担当していますね。
ティム:もちろんイェンス・ボグレンは素晴らしいし、彼の手がけた作品にはたくさんのお気に入りがある。彼は非常に複雑なミキシングもやっているよね。だから最初の2枚は彼にお願いしたんだ。もちろんその2枚の仕上がりには非常に満足していているのだけど、一方で、バンドは実際はこれらの作品よりもずっとヘヴィだとも感じていたんだ。『Portal I』や『Citadel』を聴いたファンが、俺たちのライブを見ると、とてもヘヴィなので驚くんだ。なので今回は、アルバムのプロダクションやミキシングのアプローチを変えようと思った。もっとライブの感触を持ち込みたかったんだ。オーガニックで、それほどクリアではなく、ギターやドラムはさらにパワフルでヘヴィという風に。マーク・ルイスはWhitechapelやCannibal Corpseのような、とてもヘヴィなアルバムも手がけているだろう。Fallujahの『Dreamless』も素晴らしい出来だった。この作品はメロディが豊富であると同時にとてもヘヴィでもあったよね。それでマイクにコンタクトをしてみたところ、驚いたことに彼はすでにネイ・オブリヴィスカリスのファンで、このアルバムを手がけることにとてもエキサイトしていたんだ。これも彼を選んだ理由のひとつさ。彼との仕事は本当に素晴らしかったよ。5月にフロリダのオーランドに行って、彼とミキシングのプロセスについて話し合った。クリーン・ボーカルは彼と一緒に録ったんだ。だからクリーン・ボーカルの部分は彼のプロデュースだよ。彼は俺たちがこのアルバムに求めているものを理解してくれて、作業は非常にスムーズに進んだ。仕上がりは前の2作とは、とても違う音に仕上がっているよ。もちろん良い意味でね。
──あなたがバンドに加入した時、バンドはどのような音楽的コンセプトを持っていたのでしょう。例えば「何でもアリのブラック・メタルをやろう」というような感じだったのでしょうか。
ティム:当時ゼンは、俺をヴァイオリニストとして加入させたんだ。彼は「クラシックから影響を受けたブラック・メタル」というコンセプトを持っていた。オリジナルのラインナップにはソプラノの女性シンガーもいて、ブラック・メタルにクラシカルなアプローチをしていたんだ。だけどその後ラインナップ・チェンジが続いて、俺も曲を書くようになった。当時俺の書いていた曲は、Opethのようなバンドから影響を受けたものだったんだ。13分くらいあったり(笑)、プログレッシブなデス・メタルさ。それでだんだんバンドとして持っている要素が広がっていたんだ。「ブラック・メタルやクラシカルなものはもう止めよう」とか、「もっと新しい要素を入れていこう」と決断をしたわけではない。ただ単に俺たちが得意なことをやるようになったら、自然とそれまでとは違うものになっていったというだけのことさ。それでゆっくりと、今のようなあらゆるものをミックスしたスタイルに行き着いたんだ。デス・メタル、スラッシュ・メタル、メロディック・デス・メタルからブラック・メタルまで、あらゆるリフをミックスして、さらにプログレッシブ・メタルやメロディック・メタル、アコースティックなサウンドにフラメンコやラテン音楽まで入ってきた。これはメンバーがみんな異なる音楽の趣味を持っていた結果だと思う。気に入れば、それがどんなジャンルであるかは関係ない。気に入ったものをどんどん採り入れていった結果、クレイジーなサウンドに行き着いたんだよ(笑)。
──あなたのヴァイオリン・プレイは、他のメタル・バンドで聞かれるものとまったく違うスタイルですよね。
ティム:俺はDream Theaterのジョン・ペトルーシやNevermore、というか今はArch Enemyのジェフ・ルーミスみたいなギタリストに大きな感銘を受けた。特にジェフ・ルーミスのエネルギッシュなプレイを聴いて、「俺もヴァイオリンでこんな風に演奏したい」なんてトライしてみたよ。ヴァイオリンでもギターみたいなスクリーチやノイズを出してみたりね。『アーン』でも、通常のアプローチではないヴァイオリンの演奏が色々と聴けると思う。今ではメタルの世界にもヴァイオリン・プレイヤーは何人かいるけれど、彼は皆クラシカルかフォーキーなアプローチをしているだろう?俺はそれを避けて、もっとメタル・ミュージシャンらしいプレイを心がけているのさ。
──ネイ・オブリヴィスカリスは、これまでに日本で2度プレイしていますが、この国の印象はいかがですか。
ティム:日本のことは大好きだよ。できれば明日にでもまた行きたいくらいさ(笑)。俺は日本をツアーするのが一番好きなんだ。ファンもとてもよくサポートしてくれて最高だし、プロモーターも非常によく扱ってくれる。日本の文化はオーストラリアと全く違うけれど、日本という国、文化に大きなリスペクトを持っているよ。ぜひまた行きたいね。次回はツアーだけでなく、何日か余計に滞在したいと思っている。もっと日本のことを知りたいからね。まだ具体的にいつかはわからないけど、来年には行けると思うよ。
取材・文:川嶋未来/SIGH
Photo by Xenoyr
ネイ・オブリヴィスカリス『アーン』
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【CD】¥2,300+税
※歌詞対訳付き/日本語解説書封入
1.リベラ パートI - サタナイン・スフィアス
2.リベラ パートII - アセント・オブ・バーニング・モス
3.イントラ・ヴィーナス
4.エアリー
5.アーン パート1 - アンド・ウィズイン・ザ・ヴォイド・ウィ・アー・ブレスレス
6.アーン パート2 - アズ・エンバーズ・ダンス・イン・アワ・アイズ
【メンバー】
ゼン(ハーシュ・ヴォーカル)
ティム・チャールズ(ヴァイオリン/クリーン・ヴォーカル)
ベンジャミン・バレット(リード/アコースティック・ギター)
マット・クラヴィンズ(ギター)
ダン・プレスランド(ドラムス)
◆ネイ・オブリヴィスカリス『アーン』オフィシャルページ