【インタビュー】布袋寅泰、「目の前にある現実」と「今こそ大切にすべき言葉」
35年にもわたって今もなおトップギタリストとして輝き続ける布袋寅泰が刻んできたアーティスト活動を振り返れば、それはそのまま華々しい日本のロック史とシンクロする。神々しいほどの戦歴を重ね、華々しい順風満帆のアーティスト人生を歩んできたようにみえる布袋寅泰だが、一方で今、音楽シーンは深刻な変革をみせている。
ここ10年で音楽自体が売れなくなるという事態を招き、原盤ビジネスは崩壊の一途を辿る状況だ。変革を見せるミュージックシーンは、アーティスト自身に直接的な刺激を与え、活動スタイルや作品制作への内的動機にもじわじわと影響を与えているようにも見える。かつての爆発的とも言える瑞々しさを失った音楽シーンは、巨匠・布袋寅泰にどのような影響を与えているのか?
◆ ◆ ◆
■14歳のころと変わらないよ、今も
■目の前にあるこの現実を描きたい
──3年ぶりのアルバムですが、『Paradox』の制作に3年かかったということですか?
布袋寅泰(以下、布袋):このアルバムの制作に3年かけたわけじゃないけど…一言でこの3年~5年の変化を伝えるのは難しいかな。ロンドンに移住して5年間の間に、海外での作品のリリースがあり、ライブハウスからライブ活動もスタートし、いろんな経験をしましたから。昨年はアーティスト活動35周年。それまでは前だけを見て突っ走ってきたし、過去を振り返る余裕すらなかったけど、35年という月日は重いものだったし、このタイミングで自分の作ってきた作品や自分の辿った道、ファンやスタッフへの恩返しも含め、あらためてもう一度自分と向き合えた、とても貴重なアニバーサリーだったと思います。
──音楽業界は音楽が売れないとあえいでいますが、そういう状況はアーティスト/ギタリスト:布袋寅泰に影響を与えますか?
布袋:そういう意味合いだと、今は売ることをあまり意識しなくてもいいですよね。昔は、例えばカラオケ全盛の時代は「キャッチーでみんなが歌いやすい曲作り」とか、タイアップやコマーシャルのようなものに貪欲に積極的にアプローチすることで実際売上に繋がったりしたけど、今はターゲットあってないようなものだから、自由と言えば自由(笑)。
──そうか、なるほど。
布袋:今50歳代になって作るべきものというのは、若い頃の冒険心や探究心とはまた違うものでね、僕はデヴィッド・ボウイがとても好きで影響を受けてきたけど、最期のアルバム『ブラックスター(★)』を聴いたときに、病を知りながら全エネルギーを作品に投じたアーティストとしての美学にとても打たれた。アーティストっていうのは「創作」と「ライブパフォーマンス」の2つしかありませんからね。ピュアな形で35周年というものを自分のなかで締めくくることができ、「よし、もう一歩前に行くぞ!」という節目をしっかり踏めたことも大きかった。海外でのキャリアのスタートによって、日本にいたときの感覚とはずいぶん違うものが曲作りやサウンド作りに現れたと思う。
──イギリスというアウェイ環境では、新人のような心境にもなれるでしょう?
布袋:ありますね。BOOWYの初期の頃ライブハウスに客が20人しかいなかったあの頃の悔しさを思い出しましたし、同時に「絶対やってやるぞ」っていう悔しさから湧き上がる自分自身のエネルギーを感じている。ニヤッと笑って「また始まっちゃったな」「やるしかないだろ?」って奮い立つという感覚は大切ですよね。
──そのへんのバイタリティは枯れることがなかった。
布袋:初めてロックのレコードを聴いて「この世界に身を投ずるしかない」と思った14歳のころと変わらないよ、今も。「プロになって成功したい…」というよりも「世界中でプレイしたい」「ギターを持って世界を旅したい」って夢見ていましたから。時間を経て今それが現実となってスタートしたところですよね。
──『Paradox』には、少年のような瑞々しさと初期衝動がそのまま宿っている気がします。
布袋:昔から変わらないとこは変わらないね。ロックに対する美意識とか。しかし日本で長年音を作っていると無意識に音を装飾をする癖が付いちゃっていたけど、イギリスのロックは飾らぬ無骨なまでのシンプルで太いビートやサウンド主流。そんな英国ロックから受け継いだ美学やスピリットが最近はストレートにサウンドに反映されるようになったかな。年齢的にも昔は大人びて背伸びをすることもあったけど、今は大人ぶる必要もなければ若ぶってもしょうがない。これ以上でもなければこれ以下でもない、「現在の布袋寅泰」という自分が誇るスタイルもある。
布袋:イギリスは今、EU離脱問題やテロ、移民や社会問題など、多くの悲劇や矛盾や混沌に溢れています。テロに対する注意勧告などのメールが大使館から連日届きますからね。ロンドンのみならず、世界中が混迷の時代を迎えた今、「目の前にあるこの現実を描きたい」と純粋に思いました。生々しいドキュメントやメッセージも、ビートやサウンドに乗せれば人の心に飛んでいきますからね。
──世界情勢が見える環境に身を置けていた、ということでしょうか。
布袋:若かりし頃は音楽に社会的メッセージをのせることはあまり好きじゃなかった。というより、自分の中に信じるべきメッセージなんてなかったんでしょうね。「大人は皆嘘つきだ!」「政治家なんかクソ食らえ!」「ネクタイ締めて満員電車に揺られて、疲れ切った顔のサラリーマンになるなんてまっぴらゴメンだぜ!」なんていう無謀な叫びも若さゆえの特権として許されたけど、大人になった今はそうは言ってられないよね。様々な社会問題に対して「NO!」と声を荒げることも間違ってはいないと思うけど、ただ「NO!」を繰り返すだけでいいの?曖昧な問題提起だけじゃ無責任じゃないの?そう考えるとなかなか難しいですよね。メッセージって。
──でもそれが音楽だったりする。
布袋:今回初めて真正面から向き合う気持ちになったかもしれない。ギタリストとして曲やサウンドはもちろん大事だけど、「歌う限りは、とにかく詞を大切にしたい」と思った。最近はテクノロジーが進歩し便利になりすぎちゃって、レコーディングでも使えるトラックも無限だし、様々な描写にしても、色鉛筆で例えたら何千色という選択があるわけじゃない?その中から本当に必要な色を選ぶのって個々のセンスだしね。ここのところ音楽作りの面でもちょっと迷ってた部分もあるかもしれない。
──正解がどこにあるかわからなくなる。
布袋:うん、色んな色を使って塗りたくっちゃう、というか。『Paradox』は僕の作品群の中では一番シンプルな音作りだと思うけど、それぞれのカラーが際立っている。カラフルにしなくても、とても艶やかで奥行きと広がりのあるサウンドができた。
◆インタビュー(2)へ
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