【ライブレポート】フラカン、壮絶な演奏と“グダグダ”なMCに刻まれたあまりにもリアルな姿
Faces of Strummer that fell from the wall
But nothing is left where they hung
(ジョー・ストラマーのポスターが壁から剥がれ落ちて、その後に貼るものは何もない)
── Aztec Camera「Walk Out to Winter」(1983)
壁のポスターが色褪せて 剥がれかけてきて
ジョニー・ロットンが吐き捨てた未来へ落ちていく
── フラワーカンパニーズ「HAPPY!」(2017)
◆ ◆ ◆
9月6日にリリースされるフラカンのニューアルバム『ROLL ON 48』。一足先にこのアルバムを聴かせてもらっていたときに頭を過った一曲がある。それが冒頭に引用した、イギリスのバンド、Aztec Cameraの「Walk Out to Winter」。1983年のアルバム『High Land, Hard Rain』に収録されたこの曲は、1970年代後半に勃発したパンク・ムーヴメントの終焉と、その後のポストパンクの時代の幕開けを歌った曲だと言われている。部屋に飾られたパンクロック界最大のヒーロー、ジョー・ストラマー(ザ・クラッシュ)のポスターが剥がれ落ちる── この描写は、“パンク”という熱狂の時代の終わりを告げていたのだ、と。しかし、そのタイトルが示すように、この曲は、絶望や悲しみに打ちひしがれるための曲ではない。ヒーローのポスターが剥がれ落ちたとき、子供たちは部屋から飛び出す。たとえそこが冬の荒野であろうと、子供たちは、歩き出さずにはいられない。
8月25日に恵比寿LIQUIDROOMで開催されたフラカンのワンマン公演<走れ!ハイエース野郎>。この日、LIQUIDROOMのステージにいたのは、様々な逡巡や、どうしようもなくチラつく“終わり”の予感すら抱えながら、それでも走り出さずにはいられない……そんな、キラキラとして、同時にヒリヒリとしたフラカンの姿だった。冒頭、1995年の1stアルバム『フラカンのフェイクでいこう』から「フェイクでいこう」に始まり、続く2曲目が、この時点での最新フルアルバムに当たる『Stayin’ Alive』から「マイ・スウィート・ソウル」という流れ。この時点で、この日のフラカンが、28年に及ぶバンド人生のなかに一貫してあり続ける何かを伝えようとしていることがわかる。それ以降も「チェスト」、「恋をしましょう」、「馬鹿の最高」、「ロックンロール」と、衝動的な楽曲群を、強烈な熱量の演奏でたたみ掛けていく。続いて、今年に入ってからライブ会場やライブハウスでリリースされたシングル『あまくない』から「すべての若さなき野郎ども」、そして『ROLL ON 48』から初披露された「人生Roll On」といった最新曲たちのキレ味も抜群。歌声、ハーモニカ、それに相変わらずの奇妙な動き……それら鈴木圭介のフロントマンとしてのパフォーマンスも、グレートマエカワ、竹安堅一、ミスター小西の演奏やコーラスも、技術と初期衝動が同居した「今日のフラカン、ヤバい!」と思わせる凄まじいものがあった。特に竹安のヘヴィかつソリッドなギタープレイ、圧巻。
しかしながら、その空気が一変したのが「人生Roll On」後の鈴木のMC。ここでのMCは正直、かなり異様だった。内容はといえば、大腸検査の話。500円で受けられる健康診断に行ったが、「血便が出ています」と言われ、内視鏡検査を受けることに。そこで職業を訊かれたとき、「バンドマン」と答えると、バンド名まで訊かれてSNSで拡散される恐れがあるので、「役者(しかも、ミュージカルの)」と答えた……という。いつもなら合いの手を入れたり、突っ込んだりするはずのマエカワも押し黙った状態で、やたらひょうきんに喋り続ける鈴木。会場は大爆笑だったのだが(診断結果は、何事もなかったそう)、話の異常な長さ(5分以上は喋っていたのではないか?)、そして「なんで、そんなことを長々と喋るんだ?」といった感じの他の3人の空気感も含めて、このMCがかなり異常事態であったことは確かだ。筆者も、そう簡単に笑って聞くことはできなかった。
長いMCが終わり、鈴木がアコギを持って披露された「雨」〜「この胸の中だけ」の、深くあたたかみのある演奏によって、大腸MCの空気も一気に払拭された。その辺りはさすがとしか言いようがないのだが、「この胸の中だけ」における鈴木と少年の対話部分がいつも以上に重たく響いたのは、MCの影響でもあるはず。そして、「あまくない」〜「また明日」と続き、『ROLL ON 48』に収録される新曲「ハイエース」へ。このライブの時点ではMVもまだ公開されていなかったが、歌詞を全掲載したポスターの影響などにより、SNS上では既に“フラカンの新たな名曲”という前評判が広がっていた曲だ。
「ハイエース」は、序盤、ゆったりとした曲調のなかで、長いキャリアを持つツアーバンドとしてのフラカンの心象が、そして、48歳のバンドマンとしての鈴木圭介の心象が綴られていく。
◆ ◆ ◆
最近じゃ続ける事だけが目標になってる 簡単にできるんなら目標になんかしない
打ち上げ花火みたいに ぱっと散らない限り 燃えカスになってくすぶり続けてゆく
── 「ハイエース」
◆ ◆ ◆
淡々と紡がれる言葉からは、“続けたい”という意志以上に、“続けていけるのか?”“続けていいのか?”── そんな自問自答が見え隠れする。このタイミングで、このような歌が生まれた理由には、恐らく、先のMCで語られたような健康面での、身体的な要因もあるのだろう(だからこそ、あのMCで筆者は笑うことができなかった)。どうしたって、人の体は衰えていく。今は大丈夫でも、明日どうなるかわからない。ただ、これは年齢だけの問題でもない。生まれたばかりの赤子の前にも、48歳のおっさんの前にも、“いつかは終わる”という事実だけは平等に存在している。それゆえに、“続けること”を目標にすることは、絶対に叶わない夢をみるようなものでもあるのだ。だって、人の命は有限だから。どんな人にだって、絶対に約束された明日などないから。永遠なんてないから。それでも“続けること”を夢みたとき、人は未来への希望より、“明日、終るかもしれない”という恐怖の方を強く抱いてしまうものなのかもしれない。
実際のところ、“続ける”ことは、あり得ない永遠や、不明確な未来を踏まえた希望的観測でしかない。“続けてきた”ということは、過去を踏まえた結果論でしかない。もちろん、結果は大事だ。しかし、結果は動かすことも手を加えることもできない。では、人には何ができるのか?── 人は、“やる”しかない。人には、今、この瞬間をやり切ることしかできない。何かを“やめる”ことが、その人にとっての今、やるべきことなら、やめればいい。とにかく、今、やるしかない。その積み重ねでしか過去も未来も産み出すことはできない。ゆったりと始まった「ハイエース」は後半、一気に曲調を変え、疾走感を増していく。
◆ ◆ ◆
やめたくないとか やめられないとか 誰かのためとか どうでもいいわ
◆ ◆ ◆
そう、どうでもいいのだ。だって今、“やる”しかないのだから。「ハイエース」が終わったとき、会場中から大きな拍手が巻き起こった。そして、その拍手は長く鳴り止むことはなかった。
その後、「白眼充血絶叫楽団」、「脳内百景」、「最高の夏」、「三十三年寝太郎BOP」、「最後にゃなんとかなるだろう」というアッパーチューンの連打で本編を締め、アンコールでは「消えぞこない」と「真冬の盆踊り」を、そしてダブルアンコールでは、「深夜高速」と「サヨナラBABY」を披露した。この日のライブは総じて、壮絶な演奏にも、いつも以上にグダグダなMCにも、あまりにリアルで生々しいフラカンが刻まれていた。音楽もロマンも諦念も欲望も、全てが一緒くたになって吐き出されていた。その姿がただただ、フラカンらしい素晴らしいライブだったと思う。
そして同時に、「早く、早くこの先のフラカンが見たい!」と思わせたライブであったことも事実だ。「ハイエース」は名曲だが、すぐにでも更新されなければならない曲でもある。何故なら、選手宣誓ばかりでは、試合は開始されないからだ。「深夜高速」前のMCで、鈴木とマエカワは口々に、「俺ら、まだまだ売れる気だから!」と言っていた。この時代において、“売れる”とはなんだろうか? ひとつ確かに言えることは、“売れる”とは、“期待される”ということだ。人々に、来るかどうかもわからない明日を期待させることだ。NO FUTURE? そんなこと、当たり前じゃないか。部屋に飾られたポスターが剥がれたのなら、それは“進め”の合図なのだ。
取材・文◎天野史彬
撮影◎吉田圭子
◆ ◆ ◆
2017年8月25日(金)@恵比寿LIQUIDROOMレポート
1.フェイクでいこう
2.マイ・スウィート・ソウル
3.チェスト
4.恋をしましょう
〜MC〜
5.馬鹿の最高
6.ロックンロール
7.すべての若さなき野郎ども
8.人生Roll On
〜MC〜
9.雨
10.この胸の中だけ
11.あまくない
12.また明日
13.ハイエース
〜MC〜
14.白眼充血絶叫楽団
15.脳内百景
16.最高の夏
17.三十三年寝太郎BOP
18.最後にゃなんとかなるだろう
〜ENCORE〜
19.消えぞこない
20.真冬の盆踊り
21.深夜高速
22.サヨナラBABY
2017年9月6日(水)発売
品番:XQNG—1001 ¥3,000(税込)
発売元:チキン・スキン・レコード
[収録内容]
1. ピースフル
2. 人生Roll On
3. ハイエース
4. てのひら
5. NO YOUNG
6. 花のようでした
7. HAPPY!
8. あまくない
9. キャンバス
10. 最後にゃなんとかなるだろう
11. あなたはだぁれ?
2017年12月17日(日) 新宿BLAZE
開場17:15/開演18:00
出演:フラワーカンパニーズ、and more
チケット料金:前売¥4,200(税込・1drink代別途要)
一般チケット発売日:10月21日(土) 10:00~
問合せ先:ネクストロード TEL:03-5114-7444(平日14:00〜18:00) http://nextroad-p.com/
■2017年
10月21日(土)石川@金沢AZ
Open 17:00/Start 17:30
(問)FOB金沢 076-232-2424 http://www.fobkikaku.co.jp/
10月22日(日)長野@長野CLUB JUNK BOX
Open 17:00/Start 17:30
(問)FOB新潟 025-229-5000 http://www.fobkikaku.co.jp/
10月29日(日)山口@周南LIVE rise SHUNAN
Open 17:00/Start 17:30
(問)キャンディー・プロモーション広島 082-249-8334 http://www.candy-p.com/
11月1日(水)長崎@Studio Do!
Open 18:30/Start 19:00
(問)BEA 092-712-4221 http://www.bea-net.com/
11月3日(金・祝)大分@club SPOT
Open 17:30/Start 18:00
(問)BEA 092-712-4221 http://www.bea-net.com/
11月7日(火)大阪@十三ファンダンゴ
Open 18:15/Start 19:00
(問)清水音泉 06-6357-3666 http://www.shimizuonsen.com/
11月11日(土)秋田@Club SWINDLE
Open 17:30/Start 18:00
(問)ノースロードミュージック秋田 018-833-7100 http://www.north-road.co.jp
11月12日(日)青森@Quarter
Open 17:00/Start 17:30
(問)ノースロードミュージック秋田 018-833-7100 http://www.north-road.co.jp
11月19日(日)鳥取@米子AZTiC laughs
Open 16:30/Start 17:00
(問)キャンディー・プロモーション岡山 086-221-8151 http://www.candy-p.com/
11月21日(火)愛媛@松山W studio RED
Open 18:30/Start 19:00
(問) 松山W studio RED 089-953-8514 http://red.double-ustudio.com/
11月25日(土)茨城@水戸ライトハウス
Open 17:30/Start 18:00
(問)ネクストロード 03-5114-7444 http://nextroad-p.com/
11月26日(日)栃木@HEAVEN'S ROCK宇都宮 VJ-2
Open 17:00/Start 17:30
(問)ネクストロード 03-5114-7444 http://nextroad-p.com/
12月12日(火)京都@京都磔磔
Open 18:15/Start 18:45
(問)清水音泉 06-6357-3666 http://www.shimizuonsen.com/
12月13日(水)京都@京都磔磔
Open 18:15/Start 18:45
(問)清水音泉 06-6357-3666 http://www.shimizuonsen.com/
■2018年
1月20日(土)熊本@Django
Open 17:30/Start 18:00
(問)BEA 092-712-4221 http://www.bea-net.com/
1月21日(日)福岡@Live House CB
Open 17:00/Start 17:30
(問)BEA 092-712-4221 http://www.bea-net.com/
1月27日(土)群馬@高崎club FREEZ
Open 17:30/Start 18:00
(問)ネクストロード 03-5114-7444 http://nextroad-p.com/
1月28日(日)福島@Out Line
Open 17:00/Start 17:30
(問)ノースロードミュージック 022-256-1000 http://www.north-road.co.jp
2月10日(土)宮城@仙台darwin
Open 17:30/Start 18:00
(問)ノースロードミュージック 022-256-1000 http://www.north-road.co.jp
2月11日(日)岩手@盛岡club CHANGE WAVE
Open 17:00/Start 17:30
(問)ノースロードミュージック 022-256-1000 http://www.north-road.co.jp
2月17日(土)高知@X-pt.
Open 18:00/Start 18:30
(問)X-pt. 088-885-2626 http://www.x-pt.jp/
2月18日(日)徳島@club GRINDHOUSE
Open 17:00/Start 17:30
(問)club GRINDHOUSE 088-655-5175 http://www.c-gh.jp/
2月24日(土)北海道@札幌PENNY LANE24
Open 17:30/Start 18:00
(問)マウントアライブ 011-623-5555 http://www.mountalive.com/
3月3日(土)大阪@心斎橋BIG CAT
Open 17:15/Start 18:00
(問)清水音泉 06-6357-3666 http://www.shimizuonsen.com/
3月4日(日)愛知@名古屋BOTTOM LINE
Open 17:00/Start 17:30
(問)JAIL HOUSE 052-936-6041 http://www.jailhouse.jp
3月10日(土)東京@赤坂BLITZ
Open 17:00/Start 18:00
(問)ネクストロード 03-5114-7444 http://nextroad-p.com/
<全公演共通>
チケット料金:前売¥3,800(税込/ドリンク代別途要)
一般チケット発売日:
[石川〜京都公演]2017年8月27日(日)
[熊本〜札幌公演]2017年10月21日(土)
[大阪〜東京公演]2017年12月10日(日)
※オフィシャルサイト先行受付(全公演):8/5(土)〜8/11(金)【URL】 http://eplus.jp/fc48hp/ (PC・携帯・スマホ)
<フォークの爆発2017~座って演奏するスタイルです~>
■2017年
9月9日(土)福岡@住吉神社能楽殿
open16:00/start16:30
(問)BEA 092-712-4221 http://www.bea-net.com/
9月12日(火)兵庫@神戸クラブ月世界
open18:30/start19:00
(問)清水音泉 06-6357-3666 http://www.shimizuonsen.com/
9月14日(木)愛知@名古屋TOKUZO
open18:00/start19:00
(問)JAIL HOUSE 052-936-6041 http://www.jailhouse.jp
9月24日(日)新潟@新潟ジョイアミーア
open16:30/start17:00
(問)FOB新潟 025-229-5000 http://www.fobkikaku.co.jp/
10月1日(日)広島@本願寺広島別院・安芸門徒会館「共命ホール」
open16:00/start16:30
(問)キャンディー・プロモーション広島 082-249-8334 http://www.candy-p.com/
10月4日(水)宮城@仙台retro Back Page
open18:15/start18:45
(問)ノースロードミュージック 022-256-1000 http://www.north-road.co.jp
10月6日(金)東京@東京キネマ倶楽部
open18:00/start19:00
(問)ネクストロード 03-5114-7444 http://nextroad-p.com/
<全公演共通>
※チケット料金:前売¥4,000(税込/ドリンク代別途要 ※福岡、広島はドリンク代なし)
※一般チケット発売日:2017年7月15日(土)(※神戸の発売日は7/29(土)、仙台の発売日8/19(土))
2017年10月14日(土) 名古屋DIAMOND HALL
開場17:00 開演18:00
出演:フラワーカンパニーズ、スキマスイッチ、ザ・ライターズ(フラカン×スキマスイッチスペシャルバンド)
前売りチケット:¥4,000(税込/ドリンク代¥500別途要/整理番号付/オールスタンディング)
チケット:2017年7月29日(土)10:00
問い合わせ:JAIL HOUSE 052-936-6041
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<FM802 RADIO CRAZY>にaiko、Superfly、緑黄色社会、マカえん、Vaundy、羊文学ら63組