【インタビュー】J、メディアを語る「面白い時代。すべてが人の感覚にかかってくる」

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■リアリティのみの情報と
■人の気持ちに影響する情報は違う

──その人なりの編集と、処理能力が必要になってくる。そこで、音楽雑誌の話です。この種の紙媒体は年々減ってきて、もうこれ以上減りようがないくらいのところまできた結果、最近はまた少しずつ新たな雑誌が出るようになっていたりもします。ただ、音楽雑誌に求められるものというのも変わってきていると思うんです。たとえばJさん自身の場合も、毎月のように自分が掲載される雑誌がいくつかあった時代には、それぞれの雑誌の読者層やスタンスを踏まえながら、そこに出ていく側としての意識というのが働いていただろうと思うんです。今みたいな時代、それはなくなってきているんじゃないでしょうか?

J:気が付くと、すごい時代を経てきたわけですよね、俺たちって。90年代の、ものすごい数字の時代を。今でもよく憶えてるんだけど、あの頃ってシーンのみんなが何かと闘ってたような気がするんです。シーン自体がそうだったと思う。世の中を驚かせようとしてた、というか。その頃の想いみたいなものに、何かちょっとヒントがあるんじゃないかなと思うんです。当時はやり尽した感みたいなものもあったり、やり過ぎちゃったがゆえに読者のみんなが実はもう信じてなかったり、というような事態も生んでしまってたような気がする。音楽シーン自体が、ですよ。メディアに限ったことではなく。ただ、いわゆる資本主義の世界のなかでは、いろんな勝負があるわけじゃないですか。飲食店とかだってそうですよね。ずーっと洋食だけをやってきた老舗もあれば、“何でもあるからみんなで行ったら楽しいよ”みたいなお店も当然必要だろうし、“うちはもう短期決戦でいいんです”というようなあり方のお店もあるだろうし。うちは先代から受け継いでるこの秘伝をずっと守らなきゃいけないんです、みたいなのもね(笑)。

──LUNA SEAの場合はどれに近いんでしょうね?

J:どうなんでしょう? 一代でここまで来てますからね(笑)。

──確かに(笑)。飲食店の話が出たところでふと思い出したんですが、4月にリンキン・パークのメンバーが来日していたんですよ、ニュー・アルバムのプロモーションのために。今作はまた、かなり作風が変わっているんですけど。

J:うん。でも俺、好きですよ。いいですよね。

──実験精神というか冒険心を感じますよね。ただ、音楽的な変化を求めないファンもいるし、1stアルバムのような世界がいまだに求められがちな傾向もある。それを認めながらチェスター・ベニントンが言っていたのは「自分たちは開店当初に特定の料理が評判になり、それが看板メニューとして定着してしまったレストランのようなもの」ということ。そのうえで「ただ、それをずっと提供し続けるんじゃなく、その料理が好きだという馴染み客にも新しい客層にも自信を持って出せる新メニューを作ることが大事なんだ」ということを語っていたんです。そういうことですよね、バンドが長く続いていくことって。雑誌もそうなのかもしれません。

J:これは俺の持論なんですけど、ものすごいバンドって、やっぱり1枚目ですべて一度、完結してるんですよ。そこで出来上がってる。そういうバンドこそが絶対、天下を獲ると俺は思っていて。ただ、それは“その先がない”ということじゃなくて、それをどう聴かせていくか、見せていくかにかかってくる。

──そこで1枚目の劣化コピーを出し続けながら減速していく人たちもいれば、なんとかして毎回何かしらの新しい要素を捻り出していこうとする人たちもいる。

J:最初のオリジナル・メニューを大事にしながらね。要するに、“そこに新しいものが加わっても、お店自体は変わらないでしょう?”ということですよね。看板は変わらないというか。ずーっと洋食をやってるわけですよ。途中でお蕎麦屋さんにはならないわけで(笑)。

──ただ、秘伝のデミグラスソースを守ろうとするあまり、何でもかんでもその味にしてしまうというのは違うんでしょうし。いろいろそこは考えるわけですよね。

J:そうなんです。……というか、なんか話が脱線してますよね(爆笑)。

──すみません(笑)。そんなふうに、バンドの生きていき方にもいろいろあるわけですけど、そんな人たちと対峙するメディアというものも、二極化する傾向にあるのかも知れません。敢えてちょっと極端な言い方をしますけど、リアリティを伝えるか、想像力を使わせるか。僕は、世に出るのに時間のかかる紙媒体には後者のような部分も必要だと思っていて。今の世の中、リアリティがいとも簡単に伝えられる。僕は、自分の書くべき記事というのは、事実をそのまま伝えるだけではなく自分なりのフィルターを通した主観のあるものだと考えているんですが、読み手がすべてを把握した気になれるような単純な事実の羅列が求められるケースもある。そこでは読者が想像力を使う必要がないように思うんです。だからこそ、インターネットのニュースで事実が手に入るならば紙媒体は想像力を刺激するものであるべきなのではないか、と。

J:それもやっぱり、情報が何層にも分かれているということに繋がってくると思うんですよね。だって今、ニュースも追いついてないじゃないですか。実際俺も、高速道路とかを走っていて“わっ、渋滞だ”ということになった時、そこでニュースをチェックしようとは思わないですもんね。SNSとかで検索したほうがリアルタイムで情報が伝わってくる。“ああ、この先で工事してるのか”とか、そういうものが瞬時に出てくる。そういうリアリティのみの情報と、人の気持ちに影響する情報というのは違うような気がするんです。音楽は人の気持ちを左右するものだと思うし。そこで事実を伝えるだけだったら、ミュージシャン自身のインタビューとかライヴ・レポートというのは存在理由がなくなってくる。

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