【インタビュー】寺尾紗穂、新作『たよりないもののために』で歌う“目には見えない世界”

■ 音楽は受動で、書くのは能動、ですかね

▲アルバム『たよりないもののために』

── 今まで寺尾さんを知らなかった人に、このアルバムが届いてほしいです。リリース後は、ライブもやりますか。

寺尾：ツアー情報は、発売と同時に出ます。あとは、マヒトゥ・ザ・ピーポーと一緒に、前野健太さんと共演するライブを6月27日に渋谷WWWでおこないます。

── 寺尾さん、バンドとしての作品も出ますね。ベースの伊賀航さん、ドラムのあだち麗三郎さんと組んだ、“冬にわかれて”というバンドのデビュー・シングル。アナログのみのリリースで、だいたい8月リリースと聞いてますけど、これについてもひとこと、もらっていいですか。

寺尾：二人には、アルバムのほうにも参加してもらってるんですけど、音楽的引き出しがすごくある方々で。アルバムのほうは、私が直感で「この人と一緒にやりたい」とか、アレンジを決めることが多いんですが、こっちのバンドのほうはもうちょっと二人に投げてというか、より練ってというか、その中で生まれたものですね。ダイナミックなバンド感が出ていると思います。

── そして、寺尾さんには文筆家、ルポライターとしての顔もあって、8月には『あのころのパラオをさがして──日本統治下の南洋を生きた人々』（集英社）という、歴史ルポルタージュの本が出ます。よく聞かれると思うんですが、音楽と、文筆と、自分の中ではどういうバランスを取っていますか。

寺尾：音楽の方が、呼吸している感じに近いというか……こんなのを作ろうとか、今回はこういう風にしてみよう、という感じの能動性は働いてないです。調べて書くことはもろ能動的なので、そういう意味では、音楽は受動で、書くのは能動、ですかね。

── どっちも並行して、これからもやっていく。

寺尾：はい。そのつもりです。

── 最後に、めんどくさい質問していいですか（笑）。寺尾さんの作る音楽って、現代的なポップスなんですけど、すごく日本的で、それこそわらべうたとか、昔の唱歌とかを思い起こさせるような郷愁を感じるんですね。シンプルだけどとても独特な、ちょっと名付けづらい音楽だと思ってるんですけど、自分では、どういうタイプの音楽をやっていると思いますか。

寺尾：一番苦手なタイプの質問です（笑）。どういう音楽なんでしょうね？……まあでも、童謡的なものとか、わらべうた的なものとかも、使わせてもらってるのはメロディだけで、自分の好みの和音を当ててるんですよね。そういうジャンルなのかな（笑）。

── 確かに、去年出した『わたしの好きなわらべうた』の曲も、わらべうたそのままというより、寺尾さんの曲になってました。

寺尾：うん。なんの曲でも、自分の好きな和音を当てたら、自分の曲になるのかな？って思います。違うかな。

── いえ、そうだと思います。

寺尾：あんまり、音楽を聴いていないんですよ。引き出しが少ないんです。音楽用語も知らないし（笑）。だから本当に、受動的に作っている感じがしますね。何かを参照するとか目指すとかはないんです。受動プラス直感、みたいな感じですね。

取材・文◎宮本英夫

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