【インタビュー】INABA / SALAS、「唯一のルールは“クールじゃなきゃいけない”」

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■とにかくミュージシャンとして
■音楽に興奮したかった──スティーヴィー・サラス

──スティーヴィーの作品での歌い心地や肌触りは、いかがでした? 違和感などは感じなかったんでしょうか。

稲葉:曲によってはいろいろありましたよ。もちろん歌いやすいのもあれば、かなり手こずったものもありますね。

──「手こずる」というのは、今までの経験になかったような表現ということ?

稲葉:要するに……自分で歌ってる感じがなかなかしないっていうか、録音したものを聴いてみても、自分らしさというか「これは自分のものにできてないな」っていう感じが続いている感じ。

──でもそれこそ、自分のソロでは味わえない体験ですよね。

稲葉:自分のソロだったら、曲を変えちゃったりいじっちゃってると思うんですよね。でも今回は、自分流にもっていくのではなく、相手側に合わせる…ついて行くやり方をしようと思っていたので。自分の得意なものだけのゴリ押しはしないということが、ひとつの自分の中の約束事……ルールだったから。

──チャレンジングな側面も多々あったんですね。

稲葉:そりゃ、かなりチャレンジングですよ(笑)。

サラス:今のままで十分素晴らしいのに、KOSHIは気に入らないみたいで「いや……」ってやり直すんだよね。「いや、既に完璧なのにまだやっちゃうの?」「うわ、さらにまたやってるよ」みたいな(笑)。その驚きが毎回あってね、もちろん「より良くなる」こともあれば、良いというより「違うものになっている」時もあったよ。

稲葉:やっぱりね、ついやりすぎちゃうというか(笑)。ソロだと自分の納得いくまでやるんですけど、今回はいわゆるプロデュースされている感じですよね。俯瞰で見てくれているから「エネルギーという点ではあの時点のほうがよかった」とか「そうかなぁ?」とか思いながら聴き比べたりとか。行きつ戻りつしながらやってました。

──稲葉浩志の新たな魅力を、スティーヴィー風に引き出した感じなのかな。

稲葉:「まあ、そうなんだな」と思うところはけっこうありましたね。

──スティーヴィーは、自分も歌いたくなるんじゃないですか?

サラス:それはない。シンガーになりたかったことは一度もないから。

──え?

サラス:プロデュースはやるし、曲作りもするしギターも弾くけど、最初のバンドがロッド・スチュワートのバンドだったからね。さっきも言ったけど世界有数のヴォーカリストと一緒に仕事をしてきたから、やっぱり歌は素晴らしいヴォーカリストにお任せしたいよ。歌ってみたいと思っても、頭の中で聴こえてくるのを実際には再現できないから。

──まさかの発言(笑)。

サラス:自分のアルバムでは歌ってきたけど、それはレコード契約で「やって」って言われたから(笑)。まあやってもいいのかなと思ったし、それを聴いて楽しんでくれる人もいたから、それはそれでいいんだけど(笑)。

──『CHUBBY GROOVE』のレコーディング自体は順調でしたか?

サラス:どっちかといえば、昔ならではのレコーディング方法っていう感じ。曲によって適切なプレイヤーを呼んで、ミュージシャンに好きなように演奏してもらうんだ。そういう人たちが集まると、そこにある種のクリエイティブなエネルギーが生まれるからね。そこからまたこういったユニークな作品ができるんだ。ミュージシャンとして、とにかく音楽に興奮したかった。

──やっぱりバンド・サウンドなんですね。初期衝動のように純粋に音楽を楽しむのも大事だ、と。

サラス:計算されていたわけではないし制約も設けなかった。唯一のルールは「クールじゃなきゃいけない」ということ。「ジョージ・クルーニーが聴いたらカッコいいって言ってくれるかな?」「Tak Matsumotoがこれを聴いたらクールって言ってくれるのかな?」とか。友達に「いいね、クールだね」って言ってもらいたいからね。

──でも個性のぶつかり合いだから、蓋を開いたらどうもうまくいかないということも……。

稲葉:もちろん、そういう可能性はありましたよね。長年の知り合いとは言えど、一緒に演ってみると「あれ?」っていうことが出てくることも当然ありますし、「自分だったら、ここは変えたいな」と思うようなことも、事実あったわけですし、だからどう折り合いを付けるのかは、事あるごとに出てきますよね。

──それも、リスペクトがあるからこそできることなんでしょうね。

稲葉:そうですね。それが、今まで一緒に組んだことがない人とやる時のおもしろみでもあると思います。

サラス:お互いに新しいエネルギーが欲しいというか、せっかくだから新しいものを生みたかったね。

──歌詞の書き下ろしは大変じゃなかったですか?

稲葉:うーん……そんなに苦しかったっていう感じではなかったですね。今回はリフレインを増やしたくなるような気分が多かったかな。

──作曲の点では、稲葉浩志が歌うことを前提にメロディが書かれているんですよね?

サラス:もちろんそう。KOSHIにとって大変だったのは、歌詞の変更をお願いすることがあったことかな。歌詞とギターとドラムが違和感のないスムーズなひとつのサウンドになることが大事なので、歌詞の響きが違うと「変えてもらえないですか?」ってお願いしました。

稲葉:単語の意味を知らないのにね(笑)。そこも考慮してその言葉を選んで歌っているんですけど、でも、その言葉の聴こえ方が、いい感じじゃないんでしょうね。聴いた感じで「ん?」って思ったり「あんまりクールじゃないな」って感じるんだなと思って。そういう聴こえ方をしているんだってことが分かっておもしろかった。

──むしろ僕たちは、意味が分かってしまうだけ、純粋な響きが分からないかもしれない。

稲葉:意味がわかんない人が聴いてもカッコいいと思うことって、大事ですよね。当然なんだけど、改めて思いました。昔、僕らも英語の意味がわからないのに洋楽をカッコいいと思ってたわけですから、発音というかサウンドとしての日本語の乗り方とか、新しい気付きだった。

──B'zの新曲も一度スティーヴィーに聴いてもらうといいですね。

稲葉浩志:あははは、聴くといろいろ言いだすから聴かせない(笑)。

サラス:ぶははは(笑)。

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