【インタビュー】スティーヴ・ハウ、来日直前!超ロングインタビューで故クリスのエピソードを披露
――あなたは現在「イエス」に専念していますが、何か新しいプロジェクトのアイディアなどはありますか?
S:確かに私は「イエス」に専念しているが、実は3週間後に3週間のソロ・ツアーを始めるんだ。そこではソロ・ギターを弾くんだが、おそらくこれが私の一番好きな音楽の作り方だと思う。人と話し合ったり、人の同意を得たりする必要がないからね。私のギター・サウンドが良ければそれでいいんだ。チャレンジだけどね。良いギター・サウンドでソロを弾くというのは簡単ではない。とても難しい。テニスの選手が逆風の中、太陽の光がまぶしい中、影が視界を遮る中でプレイするようなものだ。ギタリストは、振動やガタガタ言う音で音がうまく伝わらないといい状態でいられない。逆に、音が良ければいいプレイが出来るようになる。ソロで自分の好きな曲や、「スケッチズ・イン・ザ・サン」「ムード・フォー・ア・デイ」「クラップ」といった私がギターのために書いた曲を弾くのがいいんだ。それが私のやっていることなんで、10月6日からステージに立って、10月23日まで行なう。UKで毎年ソロ・ツアーをやるようになって、今年で4年目になる。機会があれば、必ず英国でライヴをやるようにしている。私は英国人だから、英国でライヴをやる。英国でライヴをやらなければ、私は時間を無駄にしていることになる。だから、それがやれるのは当然のことだ。私の評判は英国から発信されていると思う。トゥモローも「イエス」も、全てブリティッシュ・サウンドだ。トゥモローは英国のサイケデリック・バンドだったし、「イエス」は英国のプログレ・バンドだ。私の音楽は全て英国、ブリティッシュなんだよ。ベンジャミン・ブリテンほどにブリティッシュだ。言い訳はしない。アメリカやスペインのギタリストに影響されていないとは言わないよ。フランスやイタリアのギタリストや音楽にも影響されている。影響は果てしなくあるが、基本は英国なんだ。
なんということだ、我々(英国)はEUに留まるべきだった!私は英国びいきではあるが、あの決定は悔やんでいる。ほとんどのミュージシャンはそうだ。音楽家ユニオンもそうだよ。ビジネスの世界を知っている人間はみんなそうで、EU離脱は最もしたくないことだ。あれは最も愚かなことだ。私は政治に関心はないが、あれはデーヴィッド・キャメロンが無分別に選択した国民への置き土産だ。どうやら、質問に対する答から逸れてしまったようだな。
とにかく、私がやっている他のことは私にとってとても重要なんだ。2人の息子とも一緒にプロジェクトをやっている。ディランとはスティーヴ・ハウ・トリオをやっていて、ニュー・アルバムが出る。まだ2枚目のスタジオ・アルバムで、1枚目の『ザ・ホーンテッド・メロディ』は5年ほど前に出たが、今度のアルバムは全くのオリジナルだ。あまりにもオリジナルなんで、ビル・ブラッフォードが書いた曲も収録されている。すごいことだ。というわけで、我々の素晴らしい音楽のコレクションと、私が常々一緒にやりたいと思っていたビル・ブラッフォードの曲がある。まだリリースはされていないがね。次男のヴァージルもディランと同じくドラマーなんだが、彼はキーボードも弾いている。これまたほぼ完成したアルバムだ。だから、ここでプロジェクトが2つあるわけだ。ヴァージルとのはギターとキーボードのアルバムだが、ヴァージルはベースも弾く。彼のキーボードとベースの腕前は大したものだ。それに加えて、私のソロ・アルバムにも取り組んでいる。これも進行中だ。去年、TOTOとのツアーの前にクリスが休養したいと言ったんで、その合間に私はいろいろなことをやっていた。だから、かなり活動しているんだ。どれも何年も前に始めたことだが、やっと実を結んで完成に近づいている。とてもエキサイトしている。
『アンソロジー』も出た。ライノから出たのは、私にとって初のソロ・アンソロジーで、これまで出した12枚のソロ・アルバムとその他の曲から選んだ。だが今度出るのは3枚組で、来年『アンソロジー、グループ&コラボレーション』として出る。こんなこと話していいのかな?でも、チャットはしたからいいか。ある意味スクープだよ。まだ曲順も何も決まってはいないが、来年には間違いなく出る。前回のアンソロジーはソロ・アルバムだったが、今回のはグループ&コラボレーションなんだ。1964年以来、私はバンドに加入してレコードをリリースして来た。ステージに上がる前からね。バンド歴がとても長いんで、このコラボレーションにはたくさんのバンドが入っている。系統的に、始めから一番最近のコラボレーションまで網羅されている。「イエス」と「エイジア」には何度か出入りしたが、他のバンドに関しては時系列に沿って登場する。
長い答になったな。他に何かやっているかって?イエス。何を?「イエス」だ。最優先されるのは「イエス」だ。だが、他のこともエキサイティングか?イエス。今となっては、「イエス」には妥協が多い。50年近くもやっているバンドには問題がつきものだ。だから、このインタビューでずっと語って来たこの素晴らしい音楽の他に、くだらない部分もあるんだよ。だから、頭がおかしくなりそうになることもあるし、歯医者に行くのと同じくらいの痛みを味わうこともある。今はいい歯医者を見つけたんで大丈夫だがね。そういうことなんだ。いい歯医者を見つければいいんだよ。こんな冗談を言っているのは、「イエス」はもちろん大事だが、他のことがあるおかげでユーモアが言えるからなんだよ。音楽に対する愛情がまた戻って来たんだ。
私が一番インスピレーションを受けたのはチェット・アトキンスだった。彼は多彩なギタリストだったんで、私もそうなりたかった。ブルース・プレイヤーにはなりたくなかった。あれだと、50年のうち少なくとも45年は飽きていたんじゃないかな。初期「イエス」でビル・ブラッフォードと出会ったことはすごいインスピレーションだった。あれがどれほど大ごとだったか、彼自身気づいていないほどだ。私は、60年代当時に私が一緒にやっていたドラマーとは違うドラマーを探していた。そこへビルがやって来て、自由にやった。彼はサイケデリックな世界にいた私、もしくはボダストで曲を書いていた頃の私よりもインプロヴァイズしていたんで、ビルがインプロヴァイズの場を与えてくれたんだ。もちろん、クリスからも学んだよ。ビルとは音楽面ですごく気が合った。ドラミングは私にとってとても重要だったからだ。
――あなたは「エイジア」を脱退して「イエス」の活動に専念、「エイジア」からジェフ・ダウンズが「イエス」に参加ととてもおもしろい状況ですが、「エイジア」を脱退したのはどのような理由で?
S:それに関しては、2つの要因が明らかだった。私は「イエス」と過ごす時間の方が多かったが、そのことで「エイジア」から文句を言われたくなかった。実は同じく、私が「エイジア」をやることで「イエス」からも文句を言われていた。だから私は、どうにもならない立場に立たされていたんだよ。もう耐えられなかったんで、状況を変えないといけなかったんだ。もう1つ私が気づいたのは、「イエス」と「エイジア」を掛け持ちすることで、私にとって第3のキャリアであるソロをやる時間が全くなくなってしまったということ。そして、(スティーヴ・ハウ・)トリオはツアーを全く出来なくなっていた。私は、アルバム作りもツアーも出来なくなっていた。2008年にはアルバム『スペクトラム』(訳注:これは2005年で、2008年だと『モチーフ』だと思われる)を作ったが、何も出来なかった。あれには参った。腹が立った。そこで選択しないといけなかったが、簡単な選択だった。「私の音楽の中心は「イエス」なのか、「エイジア」なのか?」と考えたんだ。「私の音楽スタイルがより反映されているのは「イエス」なのか、「エイジア」なのか?」と考えた時、その質問に対する答は簡単だった。元々は、ジョン(・ウェットン)と私が曲を書いて「エイジア」が形成されたんだが、いわゆる「エイジア」のスタイルはむしろジェフとジョンが曲を書くようになってから出来上がった。だから、私は(「エイジア」を辞めたことを)後悔していない。誰を責めているわけでもないが、私よりも彼らのサウンドの方がバンドを表わしていたんだ。一方、「イエス」において私は不可欠な要素だった。70年代の私の音楽が重要な部分を占めた、ギターにおいても楽曲においても。ジョン(・アンダーソン)と私で『海洋~』「ラウンドアバウト」「悟りの境地」といった70年代「イエス」の往年の名曲の数々を書いたと、我々は誇りを持って言える。そういった楽曲が重要だったんで、「エイジア」よりも「イエス」の方が私の音楽と言えるんだ。「エイジア」も楽しかったけどね。3枚の新しいアルバムは好きだよ。再結成前は2枚しか作らなかったのに、再結成後は3枚も一緒に作ったんだからおかしいよね。『フェニックス』『オメガ』『XXX』は、それなりに良かった。特に、最後の2枚のアルバムにおけるマイク・パックスマンのプロダクションが大好きなんだ。彼は「エイジア」にとって素晴らしいプロデューサーだよ。だが、私は脱退した。悲しいことに、最近「エイジア」はあまり活動していない。オリジナル・ラインナップでないこともあるが、ジョンが健康に問題を抱えているからだ。彼が回復するようにと私は常に祈っている。私は彼らの曲が大好きだし、ジョン・ウェットンのことも大好きなんだ。「ワン・ステップ・クローサー」「ウィズアウト・ユー」「ときめきの面影」を最初に一緒に書いたんだったかな。我々が共作した曲をジョンがずっと歌ってくれたのは誇らしかった。彼は素晴らしいシンガーだし、曲そのものも本当に素敵だからだ。素晴らしい物語だが、ストップさせないといけなかったんだよ。
――今回の来日公演の一環である『イエスソングス』からのベスト・セレクション=ベスト選曲ということかと思いますが、選曲はもうお済みですか?
S:済んでいる。同意も得られている。みんな満足していて、ツアーでも練習していた。これまでになく、サウンドチェック時に今度のセットの曲をやっていたよ。『ドラマ』の代わりに、『イエスソングス』からの曲を組み込んでいる。順調だ。もちろん「パーペチュアル・チェンジ」等、素晴らしい楽曲の数々だよ。ツアー中に一生懸命練習して、日本に備えたんだ。『イエスソングス』の主に(アナログ盤の)1枚目と3枚目からの抜粋になると思う。とても楽しみにしているよ。
▲『イエスソングス』
――今回の来日公演は『海洋地形学の物語』から“神の啓示”“儀式”の完全再現と『イエスソングス』からのベスト・セレクションとなっています。『海洋~』を演奏するのはとても珍しいのでファンも楽しみにしています。見どころを教えてください。
S:素敵なバランスだ。さっきも言ったように、『ドラマ』と『海洋~』にはある種共通するものがあるが、『イエスソングス』と『海洋~』にはまた別種で共通するものがある。『イエスソングス』の大半は『海洋~』の前にレコーディングされたものだから、『海洋~』への道筋を示しているとも言える。『海洋~』では、「俺たちの好きなことをやれるんだ」と言っているんだ。すごくスピリチュアルで、ジャジーで、変わった「イエス」のヴァージョンになっている。一方『イエスソングス』には、『危機』と同じく初期「イエス」の真髄が詰まっている。特にビルがいたことで、我々はとても独創的で、生産性がとても高くて、1年にアルバムを2枚作っていた。すごいことだ。だから、この2枚は相反する形で合っているんだよ。
それからもっと後になると、『ドラマ』というさらにモダンなアルバムが生まれた。あれは事実上パンクだ。我々が作ったアルバム中最もパンクしている。(笑)パンクというよりは、ヘヴィ・メタルだったかな。そういうことなんだ。『イエスソングス』は、「イエス」の真髄である3枚のアルバム『イエス・サード・アルバム』『こわれもの』『危機』のクリエイティヴなプロセスの一環だった。もちろん、全て一気にリリースされたわけではなかったが、それぞれが金の柱を動かして行って、『海洋~』にまでたどり着いたんだ。『海洋~』は、商業的なことを一切考えない音楽だった。シングルがないことなど気にしなかった。『海洋~』からのシングルはなかった。それは、アーミット・アーティガンやマイルス・デイヴィスといった、アルバム・フォーマットにインスパイアされた人たちから教えられたことじゃないかな。3分間のシングルなど必要なかったんだ。2分間だな!50年代から60年代にかけてのシングルはほとんど、2分しかなかった。そうでないとラジオでかからなかったからだ。あれは、音楽にとっては悲惨なことだった。あんなに短くしてしまうなんてね。私は音楽を愛しているが、自分の音楽を批評してもいる。自己批判するのが好きなんだ。私が何であろうとも、これが私なんだよ。これは「イエス」とは何たるかについて話し合ったことなんだが、それは私が何になったかとも密接に関係しているんだ。
――「イエス」の新しいアルバムを作る予定はありますか?
S:『マグニフィケイション』以来10年ぶりに『フライ・フロム・ヒア』を作ったのは素晴らしいことだった。『マグニフィケイション』は難しかったし、『ラダー』もかなり難しかったし、『オープン・ユア・アイズ』はさらに難しかった。だから、アルバム作りが難しかった時期というのがあったんだ。初期のアルバムとは違っていたんで、ある意味私は失望した。『キーズ・トゥ・アセンション』はかなり大胆だった。だから、10年ぶりに異なるラインナップで『フライ・フロム・ヒア』を作った時は…。シンガーすら違っていた。私は『ドラマ』が大好きだったが、おかしなことにトレヴァーは『フライ・フロム・ヒア』の時はプロデューサーとして関わった。だが、『ヘヴン&アース』には様々な面で非常に失望した。全ての面で非常に失望した。楽曲は、基本的にはそれほど悪くなかったが、やり方、我々が一緒に仕事をしていた人々からの影響がかなり悲惨だった。だから私は、『ヘヴン&アース』については話すらしたくない。
またアルバムを作るかって?まずは、作るだけの価値のあるものでないといけないということ。それは金銭的なことではないし、スティーヴ・ハウによる曲がいくつあるかも関係ない。私が言う成功とは、『危機』のような過去の作品に匹敵するものであるということだ。そういったものと無縁なものではだめなんだよ。だから、目標はとてつもなく高い。だから、『危機』と同じくらい良質なものが出来るとわかるまでアルバムを作るべきではないと思う。それはとてつもなく難しいことだ。晩年のマイルス・デイヴィスが、「『スケッチ・オブ・スペイン』『カインド・オブ・ブルー』『ビッチェズ・ブリュー』と同じくらい良質なアルバムを作りたい」と言うのと同じことだよ。アーティストは、アートを創造するためにどこかに身を置く必要はない。『ヘヴン&アース』のように、コンセプトがあって、素敵なジャケットがあって、曲があって、出て行ってツアーをしただけ、というわけにはいかない。『危機』を作った時はそうではなかった。我々には使命があった。そしてその使命とは、我々が類稀な可能性を秘めた類稀なバンドであることを世間に知らしめることだった。「イエス」は、(アルバムを作ることを)気にするべきではないと思う。アイディアが湧いて、我々が過去の偉大なる音楽と肩を並べられるくらいのものを生み出せるという気がしなければ必要ない。だが、それは不可能かもしれない。妥協して、別の形のアルバムを作ることになるかもしれない。だが、理想は今言った通りだ。
アルバム作りは決して楽ではない。棚ボタというわけにはいかないんだ。かなりの痛みを伴う。コラボレーションとは何かを理解しなければならないし、共有しないといけないものも多々あるし、決断を下さないといけないことも多々ある。「イエス」はたくさんのアルバムをアメリカで作って来たが、次はどうなるかわからない。最高のアルバムはもちろん、英国で作られたんだからね。だから、(ニュー・アルバムを作るには)何を求め、どれだけ満足出来るかによるんだ。『ヘヴン&アース』にかなり満足した人もいるからね。私は文句など言っていない。嘆いてもいない。気に入ってくれたのなら嬉しいよ。ただ、もっと素晴らしい作品があるということだ。
――11月の来日公演を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします。
S:世界中をツアーして来た我々にとって、最もユニークな国は間違いなく日本だ。私は英国については多くを語って来たし、アメリカも何度もツアーして来た。オーストラリアにも寄っている。もちろん、ヨーロッパは玄関先だ。だが日本はとても個性的な国で、ユニークなクオリティを備えている。私と妻は、大阪の串焼きにインスパイアされたマクロバイオティック・レシピを考案したんだが、それを抜きにしても、我々は日本のオーディエンスと長い歴史がある。日本にも素晴らしい歴史がある。そしてそれは幅広い歴史だ。我々(英国)には忘れたい歴史がある。それは世界中どの国も同じだろう。他国に悲しみをもたらした罪があることはみんな知っている。だが、多くの喜びももたらした。そして日本も多くの喜びをもたらしたし、多くの平和を見いだした。日本人の価値観は私にとってとても大切なんだ。そしてそれが日本人にとってさらに大切なものであることを願っている。家族の価値観、環境に対する価値観、総体的な価値観、そしてとりわけコンピューターと音楽の発達が手に手を取っていることを理解する順応性。日本は携帯電話やメールの導入が早かった。CDを愛しているし、モバイル音楽を愛している。そして、日本が「イエス」の音楽に馴染んでいることも知っている。だから、我々もオーディエンスに馴染みたいんだ。そして今年日本に行った時にそれが出来たらと思っている。ショウをやって、我々の音楽に対する愛をみんなに届けたい。そして、その見返りがあることも知っている。「イエス」のファンはとても温かく迎えてくれるから、また日本に行くのをとても楽しみにしているよ。日本で会おう。
ライブ・イベント情報
〈東京〉
11/21(月)・22(火)・28(月)・29(火) Bunkamuraオーチャードホール
チケット料金 S¥10,000 A¥9,000 (座席指定・税込)
お問い合わせ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999 udo.jp
〈大阪〉
11/24(木) オリックス劇場
チケット料金 S¥10,000 A¥9,000 (座席指定・税込)
お問い合わせ:大阪ウドー音楽事務所 06-6341-4506 udo.jp/Osaka
〈名古屋〉
11/25(金) Zepp Nagoya
チケット料金 ¥10,000均一(1Fスタンディング/1F、2F指定席・税込)※ドリンク代別途
お問い合わせ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999 udo.jp
CBCテレビ事業部 052-241-8118
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