【インタビュー】スティーヴ・ハウ、来日直前!超ロングインタビューで故クリスのエピソードを披露
11月に来日公演を行うイエスのギタリスト、スティーヴ・ハウの来日直前インタビューをお届けする。来日公演のこと、近年のツアーのこと、そしてバンドの心臓部であった故クリス・スクワイアのこと。ことクリスのことについてはこれまでにあまり語られたことがなかったようなエピソードも紹介してくれている。
◆イエス~画像~
――USツアーが終わりましたが、満足していますか?
スティーヴ・ハウ(以下S):とても良かった。別のドラマーが参加したことを考えると、驚くほどにとてもうまく行った。アラン・ホワイトの代役として、ジェイはとてもいい仕事をした。1週間リハーサルを行なって、とてもいいツアーをしたと思う。
――お客さんの反応はいかがでしたか?ジェイはすんなりと受け入れられましたか?
S:我々全員を受け入れてくれたよ。私は他にバンドをやっていないんで、(ライヴを観たいというファンからの)要望があった。それで、ジェイと一緒にやってみてどうなるか試してみたんだが、お客は満足していたよ。
――ここ数年のツアーはアルバムの再現という趣旨で行なっていますが、それまでに行なって来たコンサートと比べてやりにくいようなことはありませんか?
S:違いはあるね。4年ほど前に今の形を始めて、『究極』『イエス・サード・アルバム』『危機』ツアーをやった。これが最初だったが、もしかするとこれが一番向こう見ずなツアーだったかもしれないな(笑)。とてもエキサイティングだったよ。アルバムを丸々プレイするということは、音楽的により満足感が得られる。このアルバムから1曲、あのアルバムから1曲というのではないからね。そうするのが普通なんだろうが。こういうこと(アルバム完全再現)をやったのはもちろん我々が初めてではないが、「我々はアルバム・バンドなんでアルバムをやろう」と私は常々言っていた。そして遂に機が熟して全員が同意して、アルバムを丸々やるようになった。この構想を一貫してずっと保って来たわけではなく、去年TOTOと一緒にツアーした際には、様々な時代からの様々なレパートリーをやる通常のセットだったが、今年はまたアルバムに戻って、ヨーロッパでは『ドラマ』と『こわれもの』をやったし、アメリカでは『ドラマ』と『海洋地形学の物語』の1曲目と2曲目をやった。というわけで、構想全般は維持して来たが、義務ではないし、やらねばならないことでもない。だが、これは本当に「イエス」にとってふさわしいことだ。何と言っても我々はアルバム・バンドなんだから、やらない手はないだろう!やれて嬉しいよ。
▲『海洋地形学の物語』
――あなたは楽しんでいますか?
S:ああ、楽しんでいるよ。今後一生これだけをやりたいとは思わないがね。
――クリス・スクワイアが前回の来日公演では元気な姿で演奏していたのが今でも目に浮かびます。ほどなくして亡くなってしまったわけですが、彼との想い出など少しお話ししてくれませんか?
S:決して忘れないであろうことは、私が初めてクリスとビル・ブラッフォードと一緒にやった時のことだ。彼らのやり方を見て、彼らがいかに音楽を愛しているかがわかった。ビルは自分のプレイに対してものすごく厳しかった。それはクリスも同じだった。クリスはなかなかレコーディングを終えなかった。一応やっておいてから、後でベースをオーヴァーダブすることもあった。とにかく、私と同じく2人ともとてもうるさかった。自分がやりたいことに関して完璧主義だった。そして、ジョン・アンダーソン、ベノワ、トレヴァー・ホーン、そしてジョン・デイヴィソンのセカンド・ヴォイスであったとうこと。あれはとてもエキサイティングなことだった。クリスはそれがとても得意だった。子供の頃、教会の合唱隊をやっていたことに起因しているんだろう。一方私は、「イエス」に加入するまで一度として人前で歌ったことがなかった。それが1983年に歌わないといけなくなった。常に間違ったことを歌っていたが、それでも良かった。正しい歌い方はクリスが知っていた。だが、彼は私ほどきちっと準備をして来なかった。わりと緩い男だった。「俺はここにこれを入れるよ」とその場で決めて、きっちりと作り込んではいなかった。私はきっちり作り込むことをユーディ・メニューインから学んだ。ミュージシャンがきちんとコントロールしてきっちりと弾くと、最高のものを引き出せることをね。クリスはその方面では何をするかわからない人間だったが、私はそれが好きだった。個性があった。
――クリスの代役として加わったビリー・シャーウッドとは「イエス」として久しぶりの共演となりますが、違和感なく溶け込んでいますか?
S:ビリーは「イエス」でいくつかのことをやって来た。『KEYS TO ASCENSION』と、あとそれ以前、私がいなかった頃の『BIG GENERATOR』や『TALK』ツアーの時もいたのかな? ビリーと「イエス」との関係はほとんど特異であるとも言えるが、私は楽しんでいる。彼はミキシングやプロダクションも手掛けて来た。『OPEN YOUR EYES』や『LADDER』の時期にもいた。あれはかなり向こう見ずな時期だったな。他の人間が関わっていたから。ABWHのツアーの際にも、何人か加えて音を補った。我々だけでは出来ないパートをやってもらったんだ。だが、今のビリーの役割は完璧に変わった。彼がクリスの代役を務めたのは初めてだった。彼がクリスのパートをプレイするのは初めてだった。だから、彼がいかに多彩で才能に溢れているかがわかる。あれやこれやとやって来て、今ではクリスが立っていたところに立っているんだからね。そして、素晴らしい仕事をしている。
この世には、確かなものなど何もない。10秒後に起こることも含めてだ。だから、「イエス」について確かなことなど誰にも言えないし、誰も予測して来なかった。「我々は永遠にやる!」と言ったら陳腐なものになってしまう。そうではないことを我々は学んだ。私はそんなことは言いたくない。だから私は残酷なまでに現実的で、決して予測しない。予測など出来ないからだ。だが、ビリーは素晴らしい仕事をしている。彼がやっているクリスのパートをファンがいたく気に入った話を私はしょっちゅう耳にしている。そして、他の人間がやっていることで、クリスの音楽パフォーマンスの真の価値がさらに増幅されたと思う。もちろん、クリス本人がやっていたってそれは素晴らしいものになっていただろう。だが、彼にはそれが出来ないのだから、次に最も良いのはビリーのようにクリスの代役を務めることに情熱を傾けている人間がやることだ。これほどドラマティックなものになるとは誰も予想していなかった。ビリーがやっていることを我々は気に入っている。うまく行っている。彼は才能を発揮している。
バンドをやるにあたって、歌が歌えたりベースが弾けたりすればそれでいいと思っている人たちがいるが、そういうことでは全くない。メンバーにはハイ・レベルなコミュニケーション能力が要求される。彼はバンドが期待していることを理解し、そして期待以上のものを提供しないといけない。そしてビリーはそれをやってのけている。プログラミングもやっている。彼が弾いているのはリッケンバッカーではない。彼が生み出している音はそこから出ていると思いがちだが、私がLINE 6ペダルボードで音作りをしているように、彼もまた同じことをやっている。曲毎に固有の色合いを出しているんだ。単にベースをプラグに差し込んで弾いているわけではない。もしくは、クリスを真似てリッケンバッカーを弾いているわけでもない。彼は、リッケンバッカーを弾かない方がいい。彼は模倣しているのではない。ビリーは役者ではない。真剣に取り組んでいるミュージシャンで、クリスがやったことを素晴らしく理解している。だから、我々にとってビリーは大きなメリットなんだ。彼は重要な存在だよ。彼が提供してくれた究極の形で、それはベース・ペダルを使いながらベースを弾き、歌も歌う。それは大仕事だ。あれを全てこなせる人間が他にいるかな。クリスのスタイルでベース・ペダル、ベース、そしてヴォーカルを操ること。だから、彼は素晴らしいよ。
▲クリス・スクワイア(写真:右端)
――クリスはバンドの心臓部とも言えるプレイヤーでした。彼が亡くなった後もあなた達はツアーをやり遂げました。彼の喪失がバンドに与えた影響はありますか?
S:クリスはビリーのことが大好きだったし、ビリーが回復中の自分の代わりを務めることも認めていた。実際にはクリスは回復せず、残念なことに亡くなってしまった。あれは予想外のことだったんで、「じゃあ、どうすればいいんだ?」と思ったよ。我々はてっきりクリスが元気になるものと思っていたのに、それが突然変わってしまって、我々は足元をすくわれてしまった。そこで、我々はずっとビリーが好きだったが、今度は我々やクリスではなく、オーディエンスによって認められないといけなくなった。だから、ビリーと一緒にTOTOとのツアーに出た時は、果たしてこれが一時的なものになるのか、それとも正式なものになるのかわからなかった。だがビリーと一緒にやってみると、彼がバンドに正式に迎えられない気がしなかったね。彼はクリスから多くのことを学んでいたんで、クリスのように振る舞うことが出来た。そして、彼の音楽のスキルは「イエス」のためになる。厳しい要求、特にドラムからそれがあるにも拘らず、彼は自分のやっていることをちゃんと理解していて、ちゃんと相手に応えている。立派だよ。だから、ビリー自身が軌道に乗せたんだと私は言いたい。私はこのことをよく人に言うんだ。誰かがバンドに入ろうとする時に、「僕はこれをやりたいんで、君たちとうまく付き合いたいんだ。どうすればいい?」と言う人が多いけど、「君の方からうまくやらないといけないんだ」と私は言っている。それと同じようなことをビリーにも言ったよ。「君がうまくやらないといけないんだ」とね。だから、我々が認めるというよりも、彼が自分に出来ることを証明しないといけないんだ。そして、彼はそうした。彼はわりとおっとりしていて、楽しんでいて、常に全てのことをあまり深刻に受け止めないような人間だが、それでもクリスの後釜を務めるという周りの期待に応えている。だから、彼はテストに合格したと思う。そして、実に見事にやってのけている。私に言えるのはそれだけだし、ほとんどの人も彼のことをそう捉えているんだと思う。ビリーがこんなことをしているなんて、信じられるかい?(笑)クリスのベース・プレイのあらゆる音、あらゆるニュアンス、あらゆる緩急を再現しているし、ヴォーカル面だって完璧に網羅している。なのに、さっきも言ったように、リッケンバッカーは使っていないし、クリスのような恰好もしていない。そんなことをしたら、失礼だよ。だから、ビリーには全てが備わっているんだ。
――アランは背中の痛みの療養中ですが、経過は順調でしょうか?
S:ああ、回復しているよ。
――彼が離脱したのち何かお話はしましたか?
S:内部事情については話せない。これは、「イエス」の未知の部分についてではなく、「イエス」の音楽について語る場ではなかったのかな?今我々はいつもとは違う状況と対峙しているが、ベストを尽くしている。そして、素晴らしくうまくやっている。この間のツアーも、誰もがライヴを気に入ってくれた。だから、これ以上のことはもう言えないよ。これが今の「イエス」だし、「イエス」はこれまでにもこういうこと(メンバーが変わること)と向き合って来た。メンバー・チェンジが何度もあった。ベノワ、オリヴァー、ジェフ…。このバンドは複雑かつ繊細だが素晴らしいんだ。
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