【音踊人19】美しい音の海に沈んでいくような夜(なおりん)
2016年8月4日 the HIATUS@Zepp Sapporo
2013年の<COUNTDOWN JAPAN>で観たthe HIATUS。
その時聴いた歌詞も知らない曲が、とても苦しくて辛くて悲しくて、声をあげて泣いた。次の日空港に向かうリムジンバスの中、YouTubeで曲を探して歌詞を調べた。それを読んで、また涙が止まらなくて、知らない女性に優しく声をかけられた。
その曲は「Insomnia」だった。
私は救われたいと、赦されたいと思っている。何から? 誰から?
自分は何に飢えているんだろう。認められること?誰に? 何を?
言葉にすることが難しい自分の内面のこの感覚が、この曲を聴くと優しく撫でられるような、激しく刺激されるような気がしていた。その後何度もライブで聴いたが、いつも辛くて泣いてしまった。
縁あって譲ってもらったチケットを持って指定席に座った。
「誰にでもあると思うんだ、誰にも言えない、仲のいい友達にも、言ったら引かれるくらいの辛い過去って。もしかしたらそんなこと全くない順風満帆な人もいるかも知れないけど。そういう人はすごく弱いんじゃねえかな。最近気がついたの。齢40にして。自分がそういう辛い過去に囚われてるなあって。自分と同じ思いをして欲しくないからこの曲を書きました。」そう紹介された「Clone」。歌詞をアニメーションにしたMVをバックに歌う細美さんの言葉は嘘じゃない。
私が生きてきて感じている苦しさや経験した出来事と、彼の経験や思いは同じではない。でも過去から逃れられない、そこを抜け出したい。過去の自分も否定しない、未来の自分も救いたい。その気持ちはきっと似ている。
後悔や、恨みや、そんなものだけを感じるために生きているのではない。強く心を揺さぶられながら観る彼らの音は、照明の効果もあるだろうが、美しい音の海に沈んでゆくようだった。
「スペシャっていう、俺たちのことをずっと応援してくれてる番組があるんだけど、それの再放送でthe HIATUS始めたばっかりの頃の映像も流れてさ、俺がNYで飯食ってるだけなんだけどさ、その頃の俺、すごいおどおどしてんの。周りの目を気にしてビクビクしさ。そいつ、細くて筋肉も全然なくてさ、ダセーの。観ていて大っ嫌いだって思った。でも、強くなりてえ、強くなりてえって思い続けてさ、7年やってたらここまで来ました。だけどそいつが作った音楽も愛していこうと思います。」と過去の自分を、他人のように距離を置いて話す細美さん。だけどそれは過去の否定ではない。
今のthe HIATUSの「Insomnia」は、初めて聞いたときのような強い悲しみや辛さは伝わらなかった。海の底から海面を見上げた時に、きらりと太陽の光が輝くような希望が見えた。その希望の美しさと、前に進む彼の強さがまぶしくて涙がこぼれた。
彼はこの曲を書いた時から前に進んだのだ。
きっと私も前に進めるんだ。
フェスでライブを観るのも素晴らしい体験だ。
だが、ライブハウスで本人の言葉とともに聴く曲は、人生を変えるかも知れない。
映画の「Le Gran Blue」のラストシーンが脳裏に浮かんで、夜は終わった。
そして次の朝が来る。
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