“フジロックが育てたアーティスト”に訊く【検証】フジロックが20年愛され続ける理由 ~clammbon編~
■ どんな音楽をやっていてもフジはちゃんと受け入れてくれる──
■ いちポップ・バンドとして、そういう前例を少しは残せたのかなという気はします
──2003年以降は1年置きに2011年まで5回出演。しかも最初の3回はオリジナル・アルバムが出た年に必ず出演している。これ以上ない理想的なローテーションですよね。
ミト:そうか、ほんとにそうですね!(笑)。
──そして2009年には初めてフィールド・オブ・へヴンのトリを飾ります。この時のことは覚えてますか。
ミト:覚えてますよ。確か雨が降って、裏(グリーン・ステージ)がオアシスで。あれが日本でやった最後だったんですよね。オアシス観たいなー!と思ってた(笑)。あと、すぐ隣のオレンジコートでGONGをやってたんですよ。GONGはどうしても観たかったから、頭の5分だけ観て、慌てて戻って自分たちのライヴをやったという。
──自分の演奏のことよりも、裏でやっていた人のことを先に話し出すんですね(笑)。
ミト:あはははは!(笑) なんかあそこにいるといち音楽ファンに戻ってしまうというか。もはやみんなと一緒の気分なんですよ、お客さんと演奏してる側が。不思議なもんであまり責任感を感じない……絶対みんなと一緒にうまく作れるという不思議な自信みたいなものが湧いてくる。そういう場なんですね、フジロックは。
──最近はいろいろなフェスに出る機会もぐっと増えていると思いますが、フジロックと他のフェスの違いってなんでしょう。
ミト:僕らが最初にフジロックに出た2003年の時点では、フェスも今ほどカジュアルな時代じゃなかったですからね。でも今でも、ほかのフェスとは何かが違う気がします。見せ方や作り方が根本から異なっている。それはやはりあの都市部から離れた、自然に囲まれた環境にあると思います。環境の違うところで音楽を鳴らすスペシャルな感じを、すごいポップにプレゼンしている。都心部や公園内のフェスとは、そういう意味で少し違う気がしますね。もちろんそういうフェスを否定しているわけじゃなくて、フジロックみたいな環境で行われているフェスはほかにないと思うんです。ああいう場所が人の手によって作られて、しかも20年も続いて、ある意味で日本のフェス文化を象徴する存在として親しまれている。すごいワン&オンリーな存在だと思いますね。
──フジロックがああいう形でやってフジロック文化のようなものをしっかり確立したからこそ、サマソニは違うものを求め、あえて都市型のフェスに特化した。
ミト:そういうことだと思います。サマソニはサマソニですごいバランスでやってると思うし、ロック・イン・ジャパンは日本のロック文化をしっかりプレゼンできてるし、ロック・イン・ジャパンなりの個性を確立してますからね。
──そうですね。
ミト:フジのチームってすごくファミリー的なんですよ。私たちも、フジロックという文化を形作っているミュージシャンだったりスタッフだったりするファミリーのひとつに、おこがましくも入ってるんだなと思わせてくれる。最初はただのお客さんだったし、自分たちがやっている音楽とはまったく別ものだと思ってたんですけど……でもどんな音楽をやっていても、フジという場はちゃんと受け入れてくれるんだという、いちポップ・バンドとして少しはそういう前例を残せたのかな、という気はします。
──たぶんROVOや渋さ知らズがあれだけ出てるんだったら俺たちも、と思うバンドはいっぱいるだろうし、同様にクラムボンも、若いアーティストに希望を与えているんじゃないでしょうか。
ミト:そういう流れですよね。これで成り立つのかって思わせるようなバンドだって一杯出てますからね。でもそれが面白い。踊らせるわけでも盛り上げるわけでもないけど、でもすごく感動できるようなライヴをやれれば、音楽の形態はどうあれ、ちゃんと受け入れてもらえる。それがフジロックですよね。
──何をやればフジロックで受け入れてもらえるんですか。
ミト:人と違うことやればいいんじゃないですか(笑)。同じことをやってもフジロックのファミリーには入れない気がする。人と違うことをやって、それが面白ければいいんじゃないかと。そうすればあなたもフジロックのファミリーに入れるかもしれないですよ(笑)。
◆ ◆ ◆
フジロック初年度の体験談、クラムボンとフジロックの親和性、そしてフジロックと他の大型フェスとの比較論など、多角的に本心から語ってくれたミト。中でも、「フジロックのライヴは絶対みんなとうまく作れるという不思議な自信みたいなものが湧いてくる」という話は、感覚的なエピソードでありながら、この特集でこれまで提示してきた“フジロック=祭り=みんなのもの論”に非常に通じる。“一体感”や“共有”という言葉にすると陳腐な響きになってしまうが、 やはりアーティストにとっても、会場にいる人々と共に作り上げるのがフジロックというフェスティバルの特異性なのだろう。
そして注目したいのが、「山の中で音楽を鳴らすスペシャルな感じを、“ポップ”にプレゼンしている」という見方だ。フジロックというフェスティバルの偉大さは、主催者側があの環境に身を置くことの覚悟を参加者に強く促しながらも、その扉は大きく開かれていることにある。都市生活者からするとフジロックと言えば過酷な環境というイメージが先行しがちだが、アクセスの方法も多様であるし実際特に近年は子ども連れも多く、あれだけの異空間を作り出しながらも、人を選ばないフェスだ。
そしてそこでは、他の誰にも似ていない個性を放つアーティストが、さらに自身の音楽の可能性を広めているという意義深い構図を描いていることが、今回のミト、そして前回のROVO勝井のインタビューからよく伝わったことだろう。(BARKS編集部)
◆ ◆ ◆
撮影協力:CHUM APARTMENT(http://chum-apt.net)
(編集部注:記事の公開当初、clammbonの結成を1996年と表記しておりましたが、正しくは1995年です。関係者ならびに読者の方々にお詫び申し上げます。)
※2016年2月からおこなわれた<clammbon 2016 mini album 会場限定販売ツアー>(全国26カ所27公演)にて販売されてきたmini album 『モメント e.p.』が、現在、全国各地の取り扱い店舗にて販売中だ。店舗の情報は、clammbonオフィシャルサイトからチェックを。
なお、アートワークは製本会社の「篠原紙工 http://www.s-shiko.co.jp/」と原田郁子によるもので、“タグ付き特殊紙ジャケット仕様”。ドローイングも原田郁子が手がけている。
TRP-10007/tropical
¥2,500(税込)
■タグ付き特殊紙ジャケット仕様
【収録曲】
1. Slight Slight -e.p.ver.-
2. 希節
3. フィラメント
4. Flight!
5. 結のうた
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