【インタビュー】ウルフ・ホフマン「みんなに愛されることを願っている」
アクセプトのギタリストでありメイン・ソングライターであるウルフ・ホフマンが、『CLASSICAL』(1997年)以来となる2枚目のソロ・アルバム『ヘッドバンガーズ・シンフォニー』を完成させた。7月1日の発売である。
◆ウルフ・ホフマン映像&画像
前作同様、クラシック音楽の有名曲をヘヴィ・メタル調に、あるいはギター・インストゥルメンタル曲にアレンジするという仕上がりだが、今回は本物のオーケストラを起用することで前作以上にダイナミックな作風となっている。かねてよりアクセプトの楽曲にもクラシック音楽のメロディやフレイバーを積極的に採り込んできたウルフであるが、彼のソングライター及びギタリストとして長年受けてきた影響や刺激の一端を改めて再確認させてくれる。5月中旬、ウルフが取材に応じてくれた。
――今回はあなたの2枚目のソロ・アルバム『ヘッドバンガーズ・シンフォニー』発売に合わせてのインタビューです。
ウルフ・ホフマン:ああ、何でも訊いてくれ(笑)。
――今回も、あなたの好きなクラシック音楽、影響や刺激を受けたクラシック音楽の楽曲を選んで、ヘヴィ・メタル/ハード・ロックのスタイルで演奏していますが、今回、あなたはチェコのプラハに飛んでチェコ国立交響楽団と共にレコーディングを行なったのだとか。
ウルフ・ホフマン:ああ、そのとおり。
――よりダイナミックでワイドなサウンドが欲しかったのですね?
ウルフ・ホフマン:実はこの作品は、俺の大切な友人のイタリア人メロウ・マファーリと取り組み始めたんだ。彼はコンポーザー/ピアニスト/アレンジャーで、このクラシック作品をやる上で欠かせないブレインのような存在であり、そのうえメタルやロックの話もできる相手だ。俺がギターで何かをプレイすると、それに合わせてピアノとストリングス・サンプルでもって最高のパートを生み出すことができるんだけど、今回まさにそのような作業を2人で行なった。つまりスタジオで2人で腰を下ろして、自分達の好きなクラシック音楽の要素を盛り込んだ4~5分のインストゥルメンタルの土台を築いていった。その後、ひとつひとつのトラックを再びレコーディングし、ヴァイオリン・パートやヴィオラ・パート等を順番に模倣していったんだ。よりリアリスティックなサウンドを生み出したかったからさ。そして、実際なかなか良い感じのサウンドに近づけた。でも俺は、最終的には100%は満足してはいなかった。そんな時、ある人にプラハのオーケストラを推薦してもらう機会に恵まれた。それで早速、彼らのもとへ飛んでいき、彼らに直接会い、そして彼らなら必ずやってくれるだろうと確信した。実際素晴らしい仕事をしてくれた。ああ、1年ほど前にメロウとプラハへ飛び、40ピースのフル・ストリング・オーケストラと共に、ストリング・アレンジを総て再録音しオーバーダブしたんだ。
――オーケストラ・パートのアレンジは誰が行なったのですか?あなたとメロウですか?
ウルフ・ホフマン:ああ、オーケストラ・パートのアレンジは総て俺達2人でやったんだ。どうしたかと言うと、まずメロウが総ての編曲をやってくれた。つまり、俺が彼に向かって「こういう感じで」と言って何かを歌ってみせ、それを彼がピアノでプレイしつつ、その過程で2人で話し合いながら俺が納得するまで(ピアノで)再現してみせてくれた。そして彼はそれらを家に持ち帰り、様々な声をオーケストラ用に書き直した。それはそれは凄い量の声で…凄く時間のかかる作業だし、完璧にこなすにはそれだけの腕と知識を要する作業だが、彼はまさにその作業に相応しい能力の持ち主なんだ。
――では、曲かについて解説をお願いします。
ウルフ・ホフマン:ああ、是非とも。
――まず「Scherzo」はベートーヴェンの『交響曲第9番』の第2楽章です。これはまるでアクセプトの曲に聞こえますね。あなたも「Teutonic Terror」を思い出すリスナーは多いだろうと資料の中でコメントしていました。
ウルフ・ホフマン:まさに(笑)。「Teutonic Terror」のコンセプト…曲はすべて何年も前にレコーディングされていたんだが、アクセプトが再び一緒に活動し始めて『BLOOD OF THE NATIONS』(2010年)に取り組み始めた頃、これをアンディ・スニープ(プロデューサー)とその他のメンバーにプレイしてみたんだ。そしたら、みんなこのリフをあまりにも気に入ってしまい、結局それを基礎としてアクセプトの曲を作ることになったのさ。
――つまり、こちらが先にあったのですね。
ウルフ・ホフマン:そう、それでその「Teutonic Terror」のオリジナル・バージョンを、このベートーヴェンの曲に書き加えたものを、ファンに聴いてもらうのも面白いんじゃないかと思ったんだ。それで、こうして「Teutonic Terror」から盗んだような形になった(笑)。でも自分の作品から盗んだわけだから別に問題はないだろ(笑)。
――チャイコフスキーの『白鳥の湖』「Swan Lake」については?これも誰もが聴いたことのある曲です。
ウルフ・ホフマン:ああ。でも、これは、俺の知る限りでは、それほど頻繁には取り上げられていないように思ったし、俺にとってチャイコフスキーは、クラシック音楽を好んで聴くようになった10代から20代前半の頃、最初に好きになったコンポーザーなんだ。これも例の「取り上げたい曲リスト」にずっと入り続けていて、いつか必ずプレイしたいと思っていた。
――あなたのリード・ギターのために書かれた曲、というのは言い過ぎかもしれませんが、合っているのは確かですよね。
ウルフ・ホフマン:それはまたどうもありがとう(笑)。ああ、非常にドラマティックなパートもあれば、メランコリックなパートや色々なムードがあり、プレイしがいのある曲だ。
――プッチーニの『蝶々夫人』「Madame Butterfly」については? この曲がエレクトリック・ギターにここまで合うとは驚きです。
ウルフ・ホフマン:ああ、そうだな。しかし実はこれ、少々大変だった曲でね。こういうタイプの曲に取り組む場合、主にチャレンジングな点は、オリジナル・フォームには色々なタイミングがある点だ。つまり、ドラマティックな雰囲気を出すために、あるセクションで凄く遅くなったり、そうかと思えば再びペース・アップしたりする。彼ら(オペラ歌手)はそれを歌うことによって簡単に再現できる。しかしドラム・ビートを下支えとして足した瞬間、ドラムスをスロー・ダウンさせた後に再びペース・アップさせることなどできない。というか、それではサウンド的にピンとこない。だから、あのモダンなフィーリングをもたらすために一定のドラム・ビートを下に敷きつつ、メロディの美しさを失わないようにするのは非常にチャレンジングなことで、実際あるセクションを相当変えなければならなかった。結果的に上手くできて嬉しく思っているが、そういうわけで完成させるまでなかなか大変な曲だった。この曲と「Madame Butterfly」が大変だった。
――「Meditation」はマスネの歌劇『タイス』からの「瞑想曲」です。
ウルフ・ホフマン:ああ、そのとおり。
――あなたのギター・プレイには、オランダのギタリストで、FOCUSでも活動していたヤン・アッカーマンを彷彿とさせるトーンとタッチがあるように感じました。
ウルフ・ホフマン:あ、そう?それは考えたことはなかったな。彼もこの曲をプレイしているのかい?
――いえ、恐らく演奏していませんが、彼のインストゥルメンタル曲に近い雰囲気を感じました。
ウルフ・ホフマン:そんな話が出たついでだけど、俺は今回採り上げた楽曲の他の人達のバージョンは、意図的に聴かないようにした。他の人達からの影響を受けたくなかったからさ。これもまた前々からやりたいリストの入っていた曲なんだ。
――バッハの管弦楽組曲第3番『アリア』が元であり、アウグスト・ヴィルヘルミがヴァイオリン用に編曲した「Air On The G String」「G線上のアリア」もリッチー・ブラックモアやヤン・アッカーマンといったロック・ギタリストをインスパイアしてきた曲です。
ウルフ・ホフマン:ああ。
――ギター・プレイヤー、メロディ・メイカーとして刺激を受けてきましたか?
ウルフ・ホフマン:う~ん、正直言って、俺はバッハの大ファンではないんだ。でも、この楽曲はギターにあまりにもぴったりくるんで、「これもやりたい」と思っていた。そして実際プレイしてみたところ物凄く楽しかったし、演奏するプロセスで、この人物(バッハ)がどれほど偉大だったかを実感させられた。彼は言うまでもなく、非凡な才能を持った偉大な巨匠だ。そしてその作品は、分析してプレイして知ることにより、それがどれほど凄いものなのか、より深く理解できるようになる。背後のコードやそれからメロディなどの入れ方が本当に完璧で天才的な作曲家だったのだなと改めて実感する。こうして今回採り上げて良かったと思う。
――最後に、日本のファンにメッセージを。
ウルフ・ホフマン:今でも日本にファンがいること自体に俺は感激している(笑)。俺達に今でもファンがいることを、物凄く嬉しく思っている。そして、それも物凄く忠実なファンときている。30数年にもわたり、俺達を応援し続け聴き続けてくれている人達もいる。俺にとってそれはもう奇跡としか言いようがない。このクラシック・アルバムはアクセプト・ファンにも受け入れてもらえると思うし、と同時にそれ以外の人達にも聴いてもらえるかもしれない。どんなことになるか、楽しみにしている。俺には大々的な計画があるわけではない。こうして完成させ、リリースする運びになったことをとにかく嬉しく思っているし、聴き手のみんなに愛されることを願っている。でも、気に入ってもらえなかったとしても別にこの世の終わりではないし、あくまでも個人的なことに留まるだけだ(笑)。
取材・文 奥野高久/BURRN!
Photo by Tim Tronckoe
ウルフ・ホフマン『ヘッドバンガーズ・シンフォニー』
【CD】¥2,500+税
1.スケルツォ(ベートーヴェン)
2.禿山の一夜(ムソルグスキー)
3.耳に残るは君の歌声(ビゼー)
4.2つのチェロのための協奏曲 ト短調(ヴィヴァルディ)
5.アダージョ(アルビノーニ)
6.交響曲第40番(モーツァルト)
7.白鳥の湖(チャイコフスキー)
8.蝶々夫人(プッチーニ)
9.悲愴(ベートーヴェン)
10.タイスの瞑想曲(マスネ)
11.G線上のアリア(バッハ)
◆ウルフ・ホフマン『ヘッドバンガーズ・シンフォニー』オフィシャルページ