“フジロックが育てたアーティスト”に訊く【検証】フジロックが20年愛され続ける理由 ~ROVO編~

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■ フジのバックステージにはアーティストがくつろげる場所が一切ないし
■ ライブを観たければ僕たちも会場を歩かざるをえない。でもそれは当たり前のこと

▲ROVO


──そこもフジの特殊性というか、ほかのフェスだとアーティストがそんなに気軽にお客さんのいるところに出てくることはないと思うんですよ。なぜかといえば、バックステージの居心地がよくて、外に出る気がしないから。

勝井:そうそう。フジにはバックステージにアーティストがくつろげるような場所が一切ないんですよ。そこはすごいですよ。日高イズムですよね。バックステージでアーティストをケータリング・ルームとかで手厚くケアしてくれたのはたぶんライジングが最初だと思うんですよ。あまりに心地よくてそこから動けなくなる。1年に一回か2年に一回、そこで会えるミュージシャンの友だちが一杯いて、すごく楽しいんです。でもフジはそういうのは一切ない。でも、それがフジロックなんですよ。

──ミュージシャンの人たちを特別扱いしない。お客さんと同じように会場に出ろと。

勝井:そう。僕たちも歩かざるをえないんですよ。

──そこはあまり語られないことだけど重要で。アーティストの人が他のバンドを見ようとしたら、お客さんと一緒に山道を歩かなきゃいけない。裏道とかあるわけじゃないから。

勝井:そうなんですよ。でもそれは当たり前のことなんですよね。だから移動途中に雨に降られてケイタイ水没、とか何度もやってますよ(笑)。でもそんなもんじゃないですかフジロックって。

──そうですね。今回のテーマは失礼ながら「フジロックに育てられたアーティスト」というものなんですが、そういう実感はありますか。

勝井:実際フジロックがなかったら、バンドのありようも絶対違ったと思いますよ。フジロックって単なる娯楽ではなくて、ひとつの文化になったわけじゃないですか。そこで併走したっていうか、一緒に作ってきたって気持ちはありますね。

──なるほど。今年はどんな感じになりそうですか。

勝井:まだわからない。でもベスト盤も出ますし、新しいアルバムもちょうどレコーディング中なんで、その2つが混ざってくると思います。

──ベスト盤は2008年以降の楽曲集めたもので、最近のROVOのベスト盤という感じですね。

▲『ROVO selected 2008-2013』


勝井:そうですね。各アルバムからバランス良く、あとは代表曲を、ということですね。僕らフジロックにもよく出させてもらってるし、毎年日比谷野音のライヴもやってますけど、来てくれる人たちが全員アルバム買ってるわけではないので。

──たぶんそうですね(笑)。

勝井:曲名すら知らないって人が多数だと思うんで、そういう人たちに届けやすいと思ったんですよ。新しいアルバムは新しいものを提示したいという気持ちが強いですけど、ベスト盤は手にとって入りやすいものを作りたかったんです。前にもベスト盤を出したんですけど、それは中西宏司君(Syn)がいて7人編成だったころ(2001〜2004年)のベスト。今回のは彼が抜けて6人編成に戻ってから(2005年〜2013年)のベストなんです(2006年発売の『CONDOR』は除くので実質は2008年〜)。

──音楽的にはどういう時期だったでしょう。

勝井:ひとつは、すごくシンプルでミニマルなものでスタートしたバンドの音楽が、メンバーそれぞれの異なるバックボーンが滲み出るようになってきて、バンドのいろんな面が出てきた時期ですね。で、いろんなことがありながらも、一番最初の「踊れる」というコンセプトと、繰り返しの多いミニマルな音楽、という2つの大きな幹があって、そこからはずれないように、と確認をしながら進んできた感じかな。

──それにしても創立時のメンバーがそのまま代わらず残って20年間。なぜこれだけ長い間続けられたんでしょう?

勝井:面白いからじゃないですか? メンバーそれぞれが。「面白いなあこの人、ちょっと変わってるけど」と思える。あとは、これだけ長いことやってるとファミリーではあるんですけど、いわゆる運命共同体じゃない。学生時代の友だちがそのまま続いてるわけじゃなく、メンバー全員大人になってから始めたバンドだった。キャリアもバックボーンも年齢も全然バラバラな、それぞれがソロ・アーティストとしてやっていけるようなメンバーが作ったバンドだから、人のせいにできないんですよ。お前が詰まらないからツマンナイんだよ、ということがない。ツマラナイなら、それは自分のせいなんですよ。だから長続きしている。

──メンバー全員ほかに活動の場があるから、自分のエゴみたいなものはそっちで発散できてるのかも。

勝井:うん、そうなんでしょうね。もちろんエゴはそれぞれあるんだけど、それが全体としてまとまるような場所として機能している。それが機能しなくなる瞬間がきたら、終わるんじゃないですかね。

──なるほど。でも今の調子なら当分大丈夫そうですね。

勝井:まあ、みんな健康で長生きしてくださいって(笑)。

──(笑)健康上の理由ぐらいですか、やめる理由があるとしたら。

勝井:はっきり言ってそれしかないんじゃないかな。僕にとってはライフワークだから。ほかのメンバーは違うと思うけど(笑)。

──どういう意味でライフワーク?

勝井:これをやるべきだってことをはっきり感じたからじゃないですか。

──20年前に。

▲ROVO


勝井:そう。それはもうはっきり、オレがやるべきだって思いましたね。オレしかできない。オレがやるべきことをはっきりと見つけた瞬間があったので。一回目のライヴの時ですよ。恵比寿みるく。いろいろ考えて準備してきたことが予想以上にうまくいって、お客さんの反応もよくて。その時ですね。「あっこれだ!」と思った。

──20年たってもそれが続いてるのは凄いですよ。状況だって変わるし、勝井さんだって変わるだろうし。

勝井:ねえ。たぶんROVOで大ヒット飛ばしてすげぇお金が入ってきて、みんなROVOのメンバーだけで食えてたら、たぶん揉めてるんじゃないですか(笑)。金のことで。「お前取り過ぎてるじゃねえか!」とか(笑)。要はみんな自立している。バンドに寄りかからないでも生活できてるから。もちろんこのバンドは大切だけど、このバンドがないと生活できないとか、音楽家として自立できないとか、そういう人は1人もいないから。だから続いてるのかもしれないですね」

  ◆  ◆  ◆

「フジロックは単なる娯楽ではなく、ひとつの文化になった」と勝井氏が話したように、フジロックは、言うまでもなく興行という枠にとどまらず、メッセージを大いに放ってきた場だ。そして、小野島氏がフジロックとは「ある意味で外界から切り離された大きなコミュニティ」と評したことも、フジロックがいかに“ひとつの文化”として独立した確固たる存在であるかということに通じるだろう。表面的な露出をしているわけではないアーティストをこの大舞台にフックアップすること自体も、主催者からオーディエンスに対するダイレクトな音楽的な提案であり、メッセージ。それが、ROVOのような現場主義のバンドとも出会えるチャンスを我々に与えるのであり、このような現場でのかけがえない出会いこそがフジロックの醍醐味だ。

音楽フェスとしてのフジロックのカラーが根付いた今、こうしたオルタナティブなアーティストを大自然のもとで全身で味わおうと会場へ向かう参加者も多いだろう。その一方で、こうした音楽に普段は馴染みのないフジロック未経験者に対しては、さまざまな音楽と触れ合いたいという欲求を持つ音楽ファンであれば、やはりその場に足を踏み入れて欲しいということを改めて提案したい。今回の取材で再認識したシンプルな本意である。(BARKS編集部)

ベストセレクションアルバム『ROVO selected 2008-2013』

2016年7月6日発売
全国流通盤
WRCD-69 ¥2,160(税込)
ROVO organization/wonderground music

1. ECLIPSE (from “RAVO”)
2. BATIS (from “PHASE”)
3. HINOTORI (from “Phoenix Rising LP”)
4. MELODIA (from “NUOU”)
5. D.D.E. (from “PHASE”)
6. SINO DUB (from “LIVE at MDT Festival 10th Anniversary 2012”)

オリジナルアルバム『NUOU』(2008年)、『RAVO』(2010年)、『PHASE』(2012年)、そしてROVO and System 7『Phoenix Rising LP』(2013年)の中から代表曲5曲と、2012年の日比谷野音LIVEアルバムから渾身の1曲を収録。珠玉の6曲74分の宇宙旅行!

<濱Jam祭 presents ROVO 20th Anniversary LIVE 横浜公演>

2016年8月26日(金) 横浜THUMBS UP
OPEN/START 19:00/20:00
※ROVOワンマンLIVE
チケット料金:前売¥3,500/当日¥4,000(ドリンク別 / 200名限定)
■前売りチケット:6月25(土)より、e+(イープラス)、THUMBS UP(電話予約のみ TEL:045-314-8705)にて、発売開始。6月26日(日)より、THUMBS UPでのメール予約、店頭販売開始 http://stovesyokohama.com(入場順は、イープラスと会場メール予約それぞれ整理番号順に2列での入場となります。)
横浜公演info.:横浜THUMBS UP Tel:045-314-8705

【ROVO プロフィール】

勝井祐二(Vln)、山本精一(G)、芳垣安洋(Dr/Per)、岡部洋一(Dr/Per)、原田 仁(B)、益子 樹(Syn)

「何か宇宙っぽい、でっかい音楽をやろう」と、勝井祐二と山本精一を中心に結成。バンドサウンドによるダンスミュージックシーンの先駆者として、シーンを牽引してきた。驚異のツインドラムから叩き出される強靱なグルーヴを核に、6人の鬼神が創り出す音宇宙。音と光、時間と空間が一体となった異次元時空のなか、どこまでも昇りつめていく非日常LIVEは、ROVOでしか体験できない。全国の大型フェス/野外パーティーにヘッドライナーとして連続出演し、毎年5月には自身オーガナイズによる“MDTフェスティヴァル”で、恒例の日比谷野音を熱狂させる。
2016年にはバンド結成20年を迎え、各地で20周年記念LIVEを行い、10月には4年ぶりのニューアルバムをリリース予定。
国内外で幅広い音楽ファンから絶大な信頼と熱狂的な人気を集める、唯一無二のダンスミュージックバンド。

<FUJI ROCK FESTIVAL'16>

2016年7月22日(金)23日(土)24日(日)
@新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※各券種、受付などの詳細はオフィシャルサイトへ http://www.fujirockfestival.co

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