【検証】フジロックが20年愛され続ける理由 ~序章~
■「フジロックの進化」
堺:そこまで認知されるに至ったフジロックのこれまでの流れについて、一度おさらいしたいです。
烏丸:まずは、フジロックが始まったのが1997年の富士天神山スキー場。ドラミちゃんは初年度から参戦しているんだよね?
ドラミ:当時は学生で、フェスもよく知らず「面白そうなことを富士山でやるらしい」という噂を耳にして、じゃあ行かなきゃ!と。たまたまそういう世代に生まれてラッキーでした。あれを経験したことで「フェスとはなんぞや」と目を向けるきっかけになったし、フェスの裏方で働くことにも興味を持ちましたから。日本の音楽の歴史的に見ても、もう二度と体験することのない事件だったと思います。
烏丸:日本にフェスが誕生したと言うべき1997年…富士山でいったい何が起きたんですか?
ドラミ:あの時はみんなそこら辺のライブへ行く感覚だったと思います。夏だし、一晩ぐらい野宿しても平気だと思ってた。半袖でヒール13cmのロンドンブーツを履いて。でも着いたら雨が降っていたので野宿は無理で、とにかく寒かった。行き当たりばったり近隣ホテルをあたったんですがどこも満室なわけで…。
堺:当時は、みんなそんな程度の装備だったって聞きますね。
ドラミ:現地ではスタッフにも会えず交通整理もなく、看板も見つけられなかった。セカンド・ステージで電気(グルーヴ)とかMAD(THE MAD CAPSULE MARKETS)とか観たかったのに、私は最後までどこにステージがあるかがわからなかったのが悔しかったことですね。
堺:もはやサバイバルですね。
ドラミ:台風による荒天のせいで気力も体力も限界でした。雨は吹き荒れるわ、友達は倒れるわでどうしていいのかわかりませんでした。でも、そんな中でレイジ(アゲインスト・ザ・マシーン)の時、「大丈夫、大丈夫、まだまだ行ける!」って声をかけながら、タトゥーを入れた怖そうなおにーさんが私を抱え上げてくれたんですよ。
堺:すでにフジっぽいコミュニケーションが発生していますね。
烏丸:もう一体感が出てきている。
ドラミ:ライブで助けられるという体験が初めてで。その後、連れの子がレッド・ホット・チリ・ペッパーズが観たくて行ったのに、直前で気絶してしまって。前の方にいたので完全失神中の彼女を引きずって後ろへ連れていった。少ししたら意識が戻ってきたので、もう諦めて下山しようと決めました。
烏丸:観たいのに観られない。悔しいね。
ドラミ:下山前にレッチリを1曲だけ根性で観たんですけど、アンソニーはギブスしてて、すごく太ってて「え、偽物?」っていうくらいの風貌で…あれはすごい光景だったなあ。傾き始めていたステージが崩壊寸前で、30分くらいで演奏中断。その年のフジロックはそのまま開催中止になりました。
烏丸:初回のフジロックは、とにかく寒さと疲労で大変だったと聞きますね。翌年、場所が豊洲に変わって開催されました。
ドラミ:ミッシェル(・ガン・エレファント)の時にモッシュがすごくて何度も中断した年ですよね。あれも伝説的に語られるエピソードです。行かずに後悔したのをよく覚えている。
烏丸:その翌年は苗場に移って1発目になるんだよね。
堺:レイジ(・アゲインスト・ザ・マシーン)、ブラー、ZZトップがヘッドライナーですね。レイジは翌年に一度解散しています。
ドラミ:そうでしたね。で、記念すべきミレニアム2000年は、邦楽から初のヘッドライナーとなったブランキー(・ジェット・シティ)とミッシェル。とうとう日本のバンドがトリをとる!って大騒ぎでした。
堺:洋楽とレベルが並んだ!みたいな。
ドラミ:嬉しかったな。フジロックが日本のバンドもきちんと扱ってくれている、みたいに当時は感じていました。その後、邦楽からグリーン・ステージでのヘッドライナーは輩出されていないのを見ると、自分はミッシェルで育った世代でしたから、継承するミュージシャンが未だ出ていないのを残念に思います。
烏丸:そうだね、これ以降グリーンでは洋楽のヘッドライナーが15年続いている。ラインアップもさることながら、フジロック史のキーポイントは、やっぱり始まりである1997年と、会場が移った1998年と1999年かな?
ドラミ:確かに、場所が2度移るというのはあまりないことですよね。今でこそ、フジロック=苗場のイメージですが、富士山はそこにはないっていう。
堺:ネーミングの由来はやはり第一回目の富士山でのフジロックですもんね。そこを知らない人も結構いると思います。
烏丸:歴史があるからこそ、こういう検証も必要だね。ドラミちゃんは初回の次はいつ参加したの?
ドラミ:2000年でした。当時友人から「ドラちん、フジロックって知ってる?すごく楽しいから来ない?」って誘いを受けたんです。で、私、初回の時のことを説明して「だからフジロックはちょっと…」と答えたら、「いやいや、今、すんごい変わったから」って。かなり背中を押される形で半信半疑のまま、でもミッシェルの初ヘッドライナーも、ブランキーの最後も見届けたくて行ったんですよ。
烏丸:実際どうでした?
ドラミ:同じものとはまったく思えなかった。なにこれ、パラダイスじゃん! 1回目のあれ、いったいなんだったの?っていうくらい違ってびっくりしました。たった3~4年しか経ってないのに、場所も変わったとは言え1回目とは比較にならないほどすべてが素晴らしかったということは、制作側は大変だったのではないかと容易に想像できます。
堺:加えて、来場者側の意識にも「このフェスを続けるために、絶対に成功させたい」という結束も苗場で芽生えたようですね。会場のゴミだけじゃなく最寄り駅のゴミまで拾って帰るという現象も起こったようですし、そういった連帯感が多幸感につながったのかもしれません。それにしても、全部が素晴らしいと言えるって、ものすごく大きな変化。
ドラミ:はい。飲食エリアのオアシスにもびっくりでした。満足に食べられない、飲めない、合羽も買えない。そんな1回目の経験に比べたら、本当に“オアシス”でしたよ。今のフジロックは案内が行き届いていて好きなようにライブを観ることができて、生命安全レベルは保たれているし、楽しいこともおいしいご飯も充実してある。フェス自体、年々進化を遂げていますよね。
烏丸:となると、参加する側のフェスに対する心構えや準備によっても、楽しみ方も多様化しそうだね。
ドラミ:そうですね。実際に参加してみて、「また来たい」と言う人と「もう来たくない」という人と意見が分かれるのも、アウトドアへの意識やライブを観る環境に求めるものへの各自の違いかもしれません。
堺:分かれ道のポイントはどこにあるのでしょう。
ドラミ:結局は自分がどうしたいか、じゃないですか? フジロックって一種の旅行で、合宿のような感じもあって、山の中で楽しい数日間を音楽と共にストレスなく過ごせるかが大切だと思います。
堺:普段は付き合いが浅くても、フジロックでは合流する人もいますよね。
ドラミ:その輪が毎年広がっていくのも面白くて、普段知り合えないような人と同部屋になったりするし。
堺:フジは人との関わりがあるフェスですね。大人になってから、仕事以外での新たな出会いって貴重ですもん。
ドラミ:多国籍のミュージシャンが奏でる音楽三昧で過ごせる3日間は楽しくないわけないという信頼と、新たな音楽と出会える信頼がフジロックにはある。「これ、誰?」という出演者が多くて、自分の知識のなさも痛感するけれど、通り過ぎざまにいい音が聴こえてきてフラっと寄っていくとか、発見も見逃すのも自分の嗅覚と運次第、というのも魅力なんです。
堺:自分の足でその音までたどり着けた達成感、冒険感があるのも非日常で楽しい。
ドラミ:「見つけた!」みたいなね。それって普段の生活では得られない感覚だから、あの3日間だけはアンテナを全開にして集中して、雨でも頑張るようにしてます。
烏丸:強烈な出会いの場だね。音楽好きにはとても刺激的な場所だ、と。
堺:一人でも絶対さみしくない。現地で友達にも会えるし。
ドラミ:去年は私も一人で行きましたけど、フジロックでは必ず誰かに会えますね。今はSNSも便利だからメッセージを送って場所と時間を決めて会う。
堺:あそこで会えたときのうれしさって、異常なものですよね。
ドラミ:3万人いる中で、なんで毎年カレー食べてるこの人に会うんだろう?とか(笑)。みんなで行っても現地ではみんな個々に行動するから、団体行動って感じはないですね。最初の頃は一緒にいたけど、参戦を重ねると勝手もわかるし、もっと自由に見たいし、気を遣う必要もないし。そこで自分を解放できなきゃもったいない。
堺:もっと自由であっていい、みたいな本来的な意識が芽生えてきます。
烏丸:都市型フェスはコンビニもあるし家にも帰れるし、とても便利でしょ? それと比較すると山ゆえの不便さがあるフジロックって、何が魅力なんだと思います?
堺:あの大自然ですよね。山の中を歩くとか、土の上を歩くとか。石が転がってたら避けるとか、雨が降ってきたら雨宿りをするとか。
烏丸:人間が持つ生命力みたいなものと対峙するのかな?
ドラミ:20代前半の頃は会場を何往復もしたり、もっとがつがつしてたけど、今は人と会うのが一番かな。
烏丸:面白さも変わってきているんですね。
堺:フジロックって、場外も充実していますよね。飲食店の出店もいろいろあるし、パレス・オブ・ワンダーにはROOKIE A GOGOのステージがあったり、壮大な世界が広がってる。
ドラミ:場外はチケットがなくても無料で入れるんですよね。2008年には、パレス・オブ・ワンダー内のクリスタル・パレス・テントでシーナ&ザロケッツが観れて感動したんですけど、でもこれも無料なの?って思ってしまいました。だって目の前に鮎川誠さんとシーナさんですよ?
堺:それはお得すぎ。アーティスティックなオブジェとか、バイクのパフォーマンスとかサーカスとか、観るモノも食べるモノもたくさんありますよね。場内のフジならではのエリアとしては、会場の東西を進むドラゴンドラに乗って景色を見たり、辿り着いた先の雲の上にはサイレント・ブリーズがあったり。ここでは朝方にラジオ体操もおこなわれてます。
ドラミ:犬連れでキャンプできるオートキャンプのエリア(ムーン・キャラバン)もありますね。さすがにそれは他のフェスにはないんじゃないですか。それと、ここ数年、夜中にピラミッド・ガーデンでまったり神秘的な音楽を聴いてクールダウンするというのがお決まりになりつつある人が周囲でも続出中です。
堺:キャンドル・ジュンさんプロデュースのエリアですね?
ドラミ:そうそう。アンビエントな音楽がよく似合うエリアで、テントも張りやすそうな平らな場所で過ごしやすいです。あと、ステンシルのワークショップとかも楽しめますね。
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