植物が音楽を奏でる、先端テクノロジー
3月1日~3日にかけて、植物が音楽を奏でるという先端テクノロジーが公開された。都内青山のニコライ バーグマンフラワーズ&デザイン フラッグシップ ストア 2Fに開園された植物公園では、鉄砲百合やカークリコといった植物によるオブジェが会場にセットされ、それら植物の葉が穏やかな音楽を奏でていた。
◆植物公園 画像
このイベントは、植物をスピーカーに変えるテクノロジーを体感すべくSinging Nature 制作委員会が提供したもので、特殊剣山や樹脂パイプを音響用などのアンプ出力で駆動させ、切花や葉に音振動を伝え、植物から直接音が聴こえるようにする「植物音響発生装置・生け花スピーカー」が用いられている。生け花スピーカー発明者の古賀敬司は、地上から緑が失われかけているとともに人々も優しさを失いかけていると警鐘を鳴らし、花や草木の優しさを五感のすべてを使って感じ取ることができるこの技術で環境貢献活動に勤しんでいる。
会場で植物が鳴らしていた音楽は、大沢伸一がこのイベントのために制作した楽曲「Photosynthesis #1」で、ピアノとストリングスによる柔らかで穏やかな作品だった。大沢伸一の私設オーケストラプロジェクトThousand Tears Orchestraによるピアノ&弦四重奏のインストで、会場ではどこから音が鳴っているのかわからないような定位感のない不思議な空間が生み出されていた。
BARKS編集部は、プロジェクトのために作品を書き下ろした大沢伸一に話を訊いてみた。
◆ ◆ ◆
──会場を満たしていた楽曲「Photosynthesis #1」はThousand Tears Orchestraによる作品なんですね。
大沢伸一:Thousand Tears Orchestraはプライベートな楽団なんですが、そもそものコンセプトがクラシックで使われるようなエレメントを電子音楽とどこまで面白い取り組みができるか、というものだったんです。そんな取り組みを行っていたところに今回のお話を頂いて、電子音の強烈なローを抜いた上モノを中心としたアレンジで取り組むのは面白い、という話から協力させていただくことになりました。
──花や葉から音楽を鳴らすというコンセプトをきいた時点で、ボトムは不要と判断したわけですね。
大沢伸一:そうですね。性質上、こういう室内で行う分には出す必要もないと思いますので。ダンス・ミュージックをやるなら話は別ですけど、そういう話ではないですから。むしろ森の中に自然に存在しているような音を音階を付けて再現する、みたいなくらいの気持ちで取り組みさせていただきました。
──その時点で、使用楽器も自ずと絞られてきたのですか?
大沢伸一:既存の楽曲を鳴らして再現能力がどの辺に寄っているのか、色々試させていただいたんです。それによって最も得意な帯域に合わせて楽器も集めて、結果カルテット+ピアノくらいが一番いいのかな、と。ピアノもね、グランドピアノのようなダイナミクスを再現させようとしても意味が無いので、あえてアップライトを使っています。
──なるほど、おもしろい。
大沢伸一:全て生楽器で録りました。電子音を再現するのは葉は向いていないんですよね。やっぱりオーガニックなもののほうが馴染みはいいみたいです。
──葉の持つ音楽の再現力って、いかがでしたか?
大沢伸一:意外と普通に鳴るのでちょっとびっくりしたんですけどね。カフェとかのダウンライトの位置に付いているような小さなスピーカー、あれくらいの音は出ていると思います。
──よく考えると、スピーカーのコーン紙も紙でできていますから、もともとは植物ですもんね。
大沢伸一:そうですね、似ているといえば似ていますよね。これが第一歩だと思うので、より大きな音や、より低い音/高い音を再生するために植物の吟味も進んでいくことと思いますよ。
──花や葉のみならず、木々にも可能性がありそうですね。文字通り森のオーケストラが実現するかも。
大沢伸一:オーケストラが全部できたら気持ちいいでしょうね。
──観葉植物が音楽を奏でてくれるって、とても素敵なことです。
大沢伸一:意味が変わってくるとも思いますね。音楽をただ単に再生しているんじゃなくって、植物を介して音楽を聴いているというのは、なかなか意味の深いことだなと思います。
──こういった取り組みは、デジタル化が進む世の中に対するアンチテーゼにも映ります。
大沢伸一:いや、まさしくアンチテーゼだと思います。音質合戦だとか、低音がどこまで入るかみたいな、実際には鳴っていない低音をどこまで擬似で増幅して聴かせるかという競争が、この10年位ずっと続いていますよね。そういう点で言うと、この植物が鳴らす音は可聴帯域のさらに中域に絞ったようなところしか鳴らないにもかかわらず、意味があると感じます。スペックに踊らされてきたところに、水を浴びせるようなところがあるかもしれません。
──確かに、こうやって聞いていると「これで過不足ありますか?」と言いたくなります。
大沢伸一:「これで良くない?」みたいなね(笑)。もっとシステムは進化していくとも思いますので、そうするとダンスミュージックも行ける可能性が出てきますよね。
──これは楽しみですね。貴重なご意見をありがとうございました。
昨今、街は液晶ビジョン、看板やスピーカーから流れる広告コンテンツで溢れているが、人々はそういった広告に疲れる一方で、自然から得られる癒しを求めていると、Singing Nature制作委員会は指摘する。彼らは、自然の癒しとともに、疲れることなく受け入れられる体験を創り出し、地球中のすべての自然が広告媒体となっていく未来を思い描いている。
取材・文・撮影:BARKS編集長 烏丸哲也
◆「Singing Nature」オフィシャルサイト
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