【2016年グラミー特集】グラミー主要4部門、栄冠は誰の上に輝くか?【宮本英夫コラム】

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合計83部門に及ぶグラミー賞の中でも、最も注目されるのはやはり主要4部門。昨年はサム・スミスが旋風を巻き起こし、その前はダフト・パンク、4年前はアデルと、実力派の複数受賞が続いている。今年はケンドリック・ラマー、テイラー・スウィフト、エド・シーラン、ザ・ウィークエンドの4組が複数ノミネートされているが、果たしてどうなるか。意外な伏兵の受賞はあるのか。様々なドラマをはらんで今年も目が離せない“グラミー・ショー”の展開を、4部門を見渡して予想してみよう。


●年間最優秀レコード

今回のノミネートを見て浮かんだキーワードは、“オーソドックスな回顧感覚”と、“新しいファンク/ソウル・ムーブメント”との両立。ディアンジェロ・アンド・ザ・ヴァンガードの「Really Love」は1970年代ニュー・ソウルを現代的なヒップホップ・トラックに乗せたような素晴らしくメロウな逸品で、マーク・ロンソンft.ブルーノ・マーズ「Uptown Funk」はタイトル通り、とにかく明るいニュー・ファンクの代表曲。ザ・ウィークエンド「Can’t Feel My Face」も、クールでタイトなファンク・チューン。エド・シーラン「Thinking Out Loud」はアコースティックなバラードで、英国人らしい小粋でソウルフルな感覚がたっぷり。テイラー・スウィフト「Blank Space」も、テイラーの怒りの演技がちょっとコワいミュージックビデオとは裏腹に、派手さ控えめでメロディアスなR&Bチューン。アデルやサム・スミスなどいかにも英国的なアーティストのブレイクが続いたあと、今回はよりアメリカ的なセンスで選ばれた5曲という印象がある。

受賞予想はディアンジェロ・アンド・ザ・ヴァンガード。他4曲はビルボード総合チャート1位か2位の大ヒットだが、「Really Love」のみR&Bチャート43位が最高というのが逆フラグのような気がしてならない。“グラミー賞はセールスよりも楽曲を重視します”というアピールには、格好の1曲と見た。


●年間最優秀楽曲

年間最優秀レコードはアーティストと制作者に贈られるもので、年間最優秀楽曲はソングライターに与えられるもの。この部門のキーワードは“ソツなくまんべんなく”そして“スロー・チューン中心に”といった印象で、人気者のテイラー、英国の若手実力派エドに加え、ケンドリック・ラマー「Alright」はラップ代表、リトル・ビッグ・タウン「Girl Crush」はカントリー代表、そしてウィズ・カリファft.チャーリー・プース「See You Again」は映画音楽代表。どれもスロー/ミドルテンポのじっくり聴かせるタイプの曲で、ケンドリック・ラマーがトリッキーなビートとライミング、メッセージ色の濃い歌詞で異彩を放つものの、普通に“いい曲”を素直に選んだ感じがある。このあたり、政治も世情も保守化の傾向にあるアメリカ社会との関係があるような、ないような?

受賞予想は、エド・シーラン。ヒットの規模からいうとテイラーやウィズのほうが上だが、素朴でオーソドックスなタイプのシンガー・ソング・ライターを好む過去の傾向から、彼が選ばれそうな気がする。


●年間最優秀アルバム

ここにもテイラー、ザ・ウィークエンド、そしてケンドリック・ラマーがノミネート。それぞれポップ、ソウルやR&B、ラップを代表するトップ・アーティストで、他2組はカントリーのクリス・ステープルトンと、幅広いアメリカン・ルーツ・ミュージックを内包するロックバンド、アラバマ・シェイクス。この部門のキーワードは“実力派と人気者のガチンコバトル”といった感じで、5作すべてがビルボードで1位を獲った大ヒット作ばかり。あえて色分けするなら、現代アメリカンポップの王道を作ったテイラー・スウィフトを真ん中に、右隣に保守層受けのするクリス・ステープルトン、左隣に伝統と革新を併せ持つアラバマ・シェイクスがいて、もう一本の王道にブラック・カルチャーを代表するケンドリック・ラマー、そこをちょっと横に曲がったところにアメリカでもイギリスでもないカナダ生まれ、独特のセンスを持つザ・ウィークエンドがいるという配置か。

あまりにキャラが違うので予想は難しいが、昨年のベックのように、派手さはなくともアート性の高さを尊重するこの部門の傾向から言って、ザ・ウィークエンドが獲るのではないか。あるいは、アラバマ・シェイクスの可能性もあると見た。


●最優秀新人賞

この部門に関しては、主要4部門の中でも最も華やかでバラエティに富んだ、“百花繚乱”といった印象がある。オーストラリア生まれの、可愛らしさと激しさを兼ね備えたガレージロック系の女性シンガー、コートニー・バーネット。渋めのオルタナ・ロック系、ワイルドなイケメンの英国人ジェイムス・ベイ。カントリー・シンガーなのだが、どう聴いても王道ポップなサム・ハント。ローティーンの頃からテレビのオーディションなどに出まくり、才能に磨きをかけてついにブレイクした美しい女性シンガー・ソング・ライターのトリー・ケリー。そして昨年のグラミー賞に大ヒット「All About That Bass」で複数ノミネートされ、1年遅れでもまだ新人賞の資格があったメーガン・トレイナー。アデルやサム・スミス並みの大ヒットではないものの、ルックスの良さ、キャラの濃さ、曲を作る才能と、いずれ劣らぬ実力派が揃った。


受賞予想はこれも難しいが、最も知名度があり、すでにソングライターとして評価を確立しているメーガン・トレイナーが、すんなり受賞するかもしれない。ちなみにミュージックビデオを見る限り、コートニー・バーネットのセンスの良さはちょっと独特だ。面白いので、ぜひチェックしてほしい。

ここまで読んでもらって、「今回最多となる9部門11ノミネートのケンドリック・ラマーは?」「7部門でノミネートされたテイラー・スウィフトは?」と思ったあなた。そう、あくまで個人的予想だが、新人賞を除く3部門でラップが受賞するのは非常に難しいという前例から、ケンドリックはなし。同じく、(例外は多々あるが)セールスやポップ性よりも伝統やアート性の高さを重視する過去の傾向から、テイラーもなし。アメリカ音楽の魅力を世界に発信する“グラミー・ショー”は、今回は派手さよりも渋さ、手堅くオーソドックスなところに着地させるのではないかと予想するが、果たしてどうなるか。答えが出るのは2月15日。当たっても外れても、予想しないよりもしたほうが気持ちの入り方がまるで違うので、みなさんもぜひ予想してほしい。10倍楽しめますよ。

Text:宮本英夫

<WOWOWオンエア情報>

「生中継!第58回グラミー賞授賞式」 ※生中継 ※二ヵ国語(同時通訳)
2016年2月16日(火)午前 9:00 WOWOWプライム
同日夜は、字幕版でリピート放送
★「第58回グラミー賞授賞式」※字幕
2016年2月16日(火)よる 10:00 WOWOWライブ

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