【ライブレポート】新山詩織、「二十歳の私、みなさんの未来に向けて」

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街がクリスマスムードに包まれていた12月19日、シンガーソングライター新山詩織のワンマンライブが、EX THEATER ROPPONGIで開催された。<新山詩織 アーティストデビュー3周年記念ライブツアー「19」>と銘打たれたこの日のステージは、2016年2月10日に二十歳を迎える彼女が行う、十代での音楽活動の集大成。それと同時に、いやむしろそれ以上に、人生の新しい階段を昇る、最初の大きな一歩を踏み出したライブであった。

◆新山詩織 画像

2014年12月に開催されたアーティストデビュー2周年を記念するライブでは、アコースティック編成によるスペシャルなパフォーマンスが披露されたが、今回はフルバンド編成での、全国6ヶ所を周るワンマンツアー。その東京公演では、開場時間を待ちきれない多くのファンが、早くからEX THEATER ROPPONGIの周囲に集まり、彼女の歌声を心待ちにしていた。

そして、開演予定時刻を少し過ぎた17時7分。それまで場内で流れていたBGMがひときわ大きくなり、力強いアコースティックギターの音色が響く。彼女が敬愛するアーティスト、ポール・ウェラーの名曲「Foot of the mountain」だ。すると一瞬、ざわついていた会場は静寂に包まれ、そしてバンドメンバーがステージに姿を表すと、大きな拍手が巻き起こった。

その歓声が、ひときわ大きくクレッシェンドしていった時、ポール・ウェラーに背中を押されるように、ロングスカート姿の新山が登場。客席に向かって深々と一礼をした彼女が手にしていたのは、アコースティックギターではなく、エレクトリックギターだ。デビューライブの時から愛用しているフェンダー・テレキャスター(Sheryl Crow 1959 Custom)で、彼女が“D”のコードをかき鳴らすと、その歪んだ音色に厚みを加えていくかのようにバンドサウンドが重なっていく。そのまま、およそ2分のほどのオープニングセッションに続いて、金子健太郎(G)が1曲目となる「Looking to the sky」のイントロを奏でると、ライブの幕が切って落とされた。

1stアルバム『しおり』でも冒頭を飾っているこの曲を、しっとりと、そして力強く歌い上げると、すぐさま平陸(Dr)がノリのよいビートを刻み始める。そして、新山の「Dear friend」というかけ声と共に、赤、青、緑といったライトがステージというキャンバスを塗り替え、黒がベースの場内をカラフルに彩っていく。そして、彼女の歌声に呼応するかのように観客がタオルを回すと、会場の熱気は一気に上昇し、エンディングを迎えると、それまでやや緊張気味に見えた彼女の表情からも、ようやく笑顔がこぼれた。


ここで新山は、テレキャスターから、彼女の代名詞とも言えるアコースティックギターに楽器をチェンジ。お馴染みのフェンダーGA-45 SCE/NATを手にして「ひとりごと」、そして、自然と巻き起こった手拍子と共に「sunny day」を、素朴で、語りかけるような柔らかい歌声で聴かせてくれた。

「<新山詩織 アーティストデビュー3周年記念ライブツアー「19」>へようこそ! 今日は、新しい年を迎える前に、皆さんと素敵な時間を過ごせたらいいなと思っています。盛り上がっていきましょう!」──新山詩織

最初のMCで、ちょっと控えめに手を挙げながらこう語ると、「フィルム」と「今 ここにいる」を続けて演奏。そしてひと呼吸をおいて、ゆっくりと「絶対」のイントロを奏で始めた。まるで光の糸を紡ぐかのようなアコースティックギターの調べが会場を満たすと、新山は一瞬、ふっと天を仰ぐかのような仕草を見せる。中空に目をやり、大きく息を吸い、“何が怖くて何に怯えているの/何がそんなに不安なの”と、まるで自分に語りかけるように歌い始めた。

その言葉とメロディは、聴き手にとっては自分に語りかけてくれているかのように響いてくる。つまり、とても個人的な詞世界でありながら、同時に、誰の心にも存在する普遍的な痛み、苦しみ、不安を包み込んでくれるものなのだ。だからこそ彼女の歌は、静かに寄り添ってくれる優しさを持って入るのだ。


ここでバンドメンバーは一旦ステージ袖に下がり、ライブは、新山の弾き語りコーナーに進んでいく。ギターをチェリーサンバーストのアコースティックギター(フェンダーGA-45)に持ち替え、アーティストデビュー時に“0枚目シングル”として、当時のメルマガ会員限定でプレゼントされた「だからさ ~acoustic version~」を披露。3年間で得た経験と表現力をもって、彼女の“原点”とも言うべきこの曲が歌い上げられると、場内のすべての人はその歌に耳を傾け、酔いしれる。そして、最後の一音が消えていくと同時に、これまで以上に大きな拍手が起こり、この日、最初のクライマックスを迎えた。

ある意味、緊張感を持って歌われた「だからさ ~acoustic version~」。それに対して、続いて“「大丈夫」だっていつだって/君に平気なフリして笑って”と、「「大丈夫」だって」の冒頭を歌った新山は、「よかったら、手拍子をお願いします」と告げ、会場の空気を和らげる。そして、アコースティックギターのボディを軽く叩いてバスドラムのようなリズム音を鳴らすと、そのリズムを彼女と観客が共有し、それぞれが自由に身体を動かしながら、彼女の歌を楽しむ様子が見受けられた。

「2012年12月12日に「だからさ ~acoustic version~」を出してから、あっという間に、3年が経ってしまいました。そして来年には、(私は)二十歳になります。早いですね(笑)。「だからさ」を出した時から、一緒にここまで歩んできた人、一緒の日々を過ごしてきた人が、きっと今、目の前にいるのかな、いるんだろうなと思いながら歌っていたら、胸にこみ上げるものがありました」

「今回が、私にとって十代最後のライブツアーになります。「だからさ」を出した頃は、何もかもすべてがゼロからのスタートで、がむしゃらに、必死に歌っていた姿が、自分の中にも強く残っています。そんな時から、日々を重ねて、その中でたくさんの出会いがあって、その出会いが、今の私を支えてくれるパワーになって。今、こんなにたくさんの方の前で、ステージに立つことができています。本当にみなさんのおかげです。ありがとうございます」

「来年、二十歳を迎えて、きっと私の中でも、変わっていく気持ちや想いが、たくさんあるんじゃないかなと思っています。でもやっぱり、「だからさ」を自宅のリビングで、一人で作って、ギターを弾いて、歌っていた時の素直な気持ちは、今も、これからも忘れずに、大切に持ち続けたいなと思うし、その気持ちを、これからもストレートに言葉にして、歌にして、みなさんに伝えていきたいなと思っています。その気持ちは、まったく変わることはありません。こんな私ですが、これからもよろしくお願いいたします」

この日、一番長いMCでこう語った新山は、感謝の言葉と、新たな決意を述べながら、「そんな感謝の気持ちを込めて歌いたい」と、バンマスである神座澄人(Key)のピアノと共に、「ありがとう」「たんぽぽ」を歌い、さらに金子のアコースティックギターも加わったトリオ編成で、「午後3時」「好きなのに」を演奏していく。

その流れのまま、弾き語りスタイルで歌い始めたのは、「分かってるよ Band ver.」だ。淡々と、しかしその歌声の奥底に宿る確固とした強い意志を感じさせる彼女の歌を、途中から入ってくるバンドサウンドが、さらにしなやかに、強固なものとしていく。しなやかで強く、優しくて揺るぎない、素朴で洗練された言葉とメロディ。一見すると相容れない二面性だが、その両方を併せ持つところが、彼女の歌の大きな魅力なのだ。そう改めて気付かされた演奏であった。


ここで新山は4人のバンドメンバーを紹介し、「ドンドンいきましょう!」とフロアに向かって呼びかけると、観客は大歓声で応える。「気まぐれ」「シャボン玉みたいに」と、ノリのよい曲を立て続けに演奏し、会場を十分に温めると、「準備はいいですか? まだまだいけますか!?」という、ロックな、でもちょっぴり不慣れなかけ声で、「しおりのR&R」に突入する。

新山の新たな扉を開いたこの曲で、彼女は再びテレキャスターをかき鳴らすと、EX THEATER ROPPONGIに設置されているLED内蔵のミラーボールが七色にきらめく。そして、堂々とした姿でギターソロを披露しながら、その一方で、「みんなも一緒に! せーの!」と、サビのワンフレーズ“It's gonna be all light”、つまり「大丈夫だよ。なんとかなるさ!」と一緒に歌うように観客を促し、そしてちょっと控えめに「イェイ!」叫ぶあたりが、いかにも彼女らしく、とてもキュートだ。

「まだまだ止まりませんが、みなさん、疲れてませんか? いけますか!?」

こう観客を煽り、ロックナンバーを連発。「Everybody say yeah」から、間髪入れずにドラムソロ、そして二家本亮介のベースソロから「ありったけの愛」に進み、そのままノンストップで、“あの”ギターリフが炸裂する。そう、デビューシングルのカップリングとして収録されていた、THE GROOVERSのカバー曲「現在地」だ。“大人拒んでも/俺に罪は無い”と、ダーティに歌う新山は、ラストサビに入る直前、15秒近くものブレイクを挟み、会場全体の時を止めた。そして、大きく息を吸い込むと、再び時を動かし、“ここに居ることを/君に知らせたい”と声を張り、そのボルテージにバンドの熱量も加速していき、大盛り上がりのエンディングを迎えた。

こうしたハードな“動”の世界は、一気に“静”へと景色を変え、漂うようなシンセパッドをバックに、印象的なイントロがピアノで奏でられる。「ぜひ、みなさんも一緒に歌ってください」と、デビューシングル曲「ゆれるユレル」が歌われ、そして自らがギターで弾くインロトから導かれた「Winding Road」で、ライブ本編のラストを飾った。


2ndアルバム『ハローグッバイ』リリース時のインタビューで、彼女は次のように述べている。

「この曲(「Winding Road」)は、まさに今の自分とすごく重なるところがあって。手探りの状態から、これから自分の進む道、生き方を探していくという曲なんです。“じゃあ自分は、ここからどうしたいんだろう?”と考えた時に、やっぱり今までも、ずっと真っ直ぐなきれいな道を辿ってこれたわけではないし、これからも絶対に、いろんな出来事や人と出会ってぶつかりながら、曲がりくねった道を行くんだろうなと思ったんです。同時に、私はゼロから自分で道を作って堂々と歩いて進んでいくようなタイプじゃないとも思って。だから、たとえ誰かが作った道であっても、ゆっくりでもいいから、少しずつ自分の歌で、どんどんと自分の色に塗り変えていきたいな、塗り変えていくんだと。それが見えた時に、詞もバッと出てきました」と語っていた。

まさに、これまでの自分の歩みを見つめ直し、そして未来に向けて歩み始めるための歌である。その歌を彼女は、「最後に、二十歳の私、みなさんの未来に向けて」とメッセージを送った後に歌い、ライブ本編の幕を閉じた。

今回のツアーは、アルバムのリリースツアーとは、ひと味も、ふた味も違った充実感に満ちていたし、その手応えは、彼女自身もしっかりと感じていたであろう。全シングル曲に加え、『しおり』『ハローグッバイ』という2枚のアルバム収録曲の大半を網羅したセットリストで、まさに“新山詩織十代の集大成”と呼ぶに相応しいものだった。

しかし、彼女の“音楽”、そして“歌”は、まだまだ完成してはいないはずだ。あらゆる面で、まだまだ成長していくことは間違いないだろうし、むしろその伸びしろの大きさ、つまりどんどん音楽的に向上していく可能性の大きさこそが、新山詩織の一番の魅力であり、“力”なのではないだろうか。

そういう意味からしても、2016年に二十歳を迎えた彼女が、人間として、女性として、そして音楽家として、どのような飛躍を遂げるのか、興味は尽きない。「19」と「20」。数字にしてみれば、たったひとつの違いだが、その差はとても大きい。しかも、その差を彼女は一度、既に音楽の糧としている。高校在学中に完成させたアルバム『しおり』と、卒業後に作った『ハローグッバイ』。この2作で、歌に対する意識が大きく変わったと語った新山詩織が二十歳を迎えた時、彼女の心から湧き出てくる言葉とメロディは、どのような深みを増し、彩りを帯びてくるのか。

そのオーヴァーチュアが、2月10日、彼女の誕生日にリリースされる新曲「隣の行方」、そして2月14日のバレンタインデーの開催が発表された、バースデーライブ<新山詩織 20th Birthday Live『20』>だ。今までを振り返るだけではなく、未来に楽しみになり、期待したくなる、そんなライブであった。

取材・文◎布施雄一郎

■<新山詩織 アーティストデビュー3周年記念ライブツアー「19」>
12月19日@EX THEATER ROPPONGIセットリスト

01. Looking to the sky
02. Dear friend
03. ひとりごと
04. sunny day
05. フィルム
06. 今 ここにいる
07. 絶対
08. だからさ~acoustic version~
09. 「大丈夫」だって
10. ありがとう
11. たんぽぽ
12. 午後3時
13. 好きなのに
14. 分かってるよ Band ver.
15. 気まぐれ
16. シャボン玉みたいに
17. しおりのR&R
18. Everybody say yeah
19. ありったけの愛
20. 現在地
21. ゆれるユレル
22. Winding Road
encore
EN1 Hello
EN2 Don’t Cry

■7th Single「隣の行方」

2016年2月10日発売
【初回限定盤(CD+DVD)】JBCZ-6035 1,300円+税
特典DVD:「隣の行方」Music Video収録
【LIVE盤(CD+DVD)】JBCZ-6036 1,800円+税
特典DVD:新山詩織 2ndライブツアー「ハローグッバイ」2015.7.18@LIQUIDROOM(東京公演)からライブ映像を約50分収録
【通常盤(CD)】JBCZ-6037 1,000円+税
1.隣の行方
作詞:新山詩織 作曲:小林章太郎 編曲:楠野功太郎
2.もう、行かなくちゃ。
作詞:新山詩織 作曲:小澤正澄 編曲:笹路正徳
※映画「ホテルコパン」主題歌
3.隣の行方(instrumental)」

■<新山詩織 20th Birthday Live「20」>

2016年2月14日(日)渋谷CLUB QUATTRO
時間:開場16:30/開演17:00
オールスタンディング4,500円(税込)
※入場時ドリンク代別途必要
※当日は整理番号順の入場となります。
※6歳以上有料。5歳以下入場不可
(問)DISK GARAGE 050-5533-0888 (平日12:00~19:00)
一般発売日:2016年1月31日(日)
●新山詩織 無料会員制サイト「新山詩織 my place & your place」にてチケット先行受付を実施中
http://niiyama-shiori.com/member/auth/login
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