【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】第38回『レインボー・キャピトルの“ブラウン・アルバム” を追って』

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さて、レーベルです。



ご覧の通り、レインボー・キャピトルです。
連載第10回で取り上げたThe Bandの1st『Music From Big Pink』のオリジナルレーベルと同じレーベルデザインが使われています。ただしリム部の印字は、『Music From Big Pink』のものとは記載内容もフォントも違っており、同時期のレーベルとは思えません。

さてレーベル面に右側に記載されているカタログ番号を見ると、
STAO-8-0132
となっていますが、これが通常のグリーン・キャピトル盤とは違っているのです。
もともと『The Band』のカタログ番号は
STAO-132
であり、グリーン・キャピトル盤のレーベル面にはもちろん、ジャケットにも印字されています。どうやらクラブ・イシュー盤には通常盤とは別のカタログ番号が与えられていたようです。
ところがこのクラブ・イシュー盤、もう一度ジャケットを見てみると、裏ジャケット右上には通常盤と同様、
STAO-132 STEREO
と印字されているのです。



ここで考えられるのは2つ。
(1) クラブ・イシューではジャケットは通常盤と同じものを使い回していた。
(2) このクラブ・イシュー盤が、人の手を渡って行くうちに通常盤のジャケットにすり替わってしまった。

ですが、クラブ・イシュー盤がそれほど出回っていないことを考えると、クラブ・イシュー盤のためだけに別仕様のジャケットを作ったとはなかなか考えにくいので、おそらく(1)なのではないでしょうか。

しかしそうだとすると、ジャケットには「GOLD RECORD AWARD」認定の刻印があるので、プレスも当然遅い、ということになってしまいます。

さて、真実やいかに。
いよいよ気になるその「音」を聴き比べてみると、真実が見えてきます。

「ACROSS THE GREAT DIVIDE」から始まるこのアルバム。
レコードに針を落とし、リチャードのヴォーカルとピアノ、ホーンから始まった瞬間、グッと前に出て来たような気がして「おっ!?」と思いましたが、すぐドラム&ベースが入った瞬間、がっかり……。いや、悪いわけじゃないんです。ただ、聴き比べるために直前までメンバー印字ありのグリーン・キャピトル(前回参照)を聴いていたので、その差がありありと感じられてしまったのです。

音全体の深み、そして低音の響き、奥行きが全然違いました。比べてしまうと、クラブ・イシューの方は全然物足りなくて、固い。音が締まっていると言えないことも無いかな?と考えてみたりもしましたが、いやいや、やっぱり遅いプレスの音でした。残念。

結果、クラブ・イシューは単なるコレクターズアイテム、というところです。調べて行くうちにそんな気がしてきてはいましたが、その予感は残念ながら的中、というところです。これまでも何度も書いている通り僕が求めているのはオリジナルに近い音であって、特殊な仕様の盤や、レアなものを集めているわけではないのです。

とは言っても、僕が「一番好き」と言えるほど大好きなThe Bandのレアアイテムだけに、手に入れることができて嬉しいのも事実。今回のことに関してはこれで良しとしましょう。それに何と言ってもブラウン・アルバムのレインボー・キャピトル盤の正体、そしてクラブ・イシュー盤の実体を知ることが出来て良かった。レアということでのプレミア価格がついているだけで、プレスが早くて音が良いというわけではないのだから、もう僕は気にしなくて良いのです。それにしても奥が深い、レコードの世界……。

オリ盤探求の旅はまだまだ続くのであります。


text and photo by 鈴木健太(D.W.ニコルズ)

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