【FUJI ROCK'15 ロングレポート】邦楽の増加&オレンジ・コートの廃止にも揺るがなかった夏フェス王者の風格
だから、フジロックを楽しむコツのひとつは、フラフラ歩くことだと思う。たとえば、コアな音楽と出会える苗場食堂。フジロック最大のホスピタリティエリアであるOASIS、つまりフジロック最大の休息の地において(今年は人の多さから人気店はほぼいつも長蛇の列だったが……)、昼間はとろろ飯をみんなが求め夜にはお店の裏側がステージと化すのがここだ。この、なんてことなさそうな場所に、これまでにもSAKE ROCK、二階堂和美、赤犬、DEERHOOF、曽我部恵一BAND、neco眠る、T字路s……などライブの猛者が集い、音楽好きのツボを突くアクトがいろいろと刻まれてきた。今年、苗場食堂のアヴァンギャルド枠(!?)を引き継いだのは、大阪のバンド、オシリペンペンズだろう。
東京のハコだと高円寺のUFO CLUBの自主企画のように、ボーカルの石井モタコは当たり前の面持ちでステージを覆うテントの上に座り、客を見下ろし、外界に降りてくるなり次から次へと爆弾を軽快に落とすように小気味よく曲を披露していく。初めてペンペンズを観ていると思われるカワイイ女の子2人組が「ウケる!」と何度も顔を見合わせながら、どんどんノッていくのであった。そしてモタコは、MCで「フジロックもいいけど、ライブハウスにも来てや」と言って、爪あとも残して帰っていった。
その直後、苗場食堂から近いRED MARQUEEで観たのが、EDM界注目のbanvoxだった。プロデューサーでありDJである彼はアヴィーチーにも認められているという若き日本のエースで、そのプレイでは絶妙なハイライトの作り方をする。穴蔵のようなRED MARQUEEだが、バウンシーで解放感に溢れた音を浴びた。
ここで少し、フジロックごはんの話を。OASISの名物タイ料理店「JASMINE THAI」のグリーンカレーは今年もおいしかった。あとおいしかったのは、場外エリアにあった「博多もつ鍋うみの」のもつ鍋ちゃんぽん。博多でもつを食べたことはないが、コクがあるのに後味があっさりとした本場の味だと思うので、是非。
OASISには、飲食以外にもさまざまなブースが出ている。たとえば、ソニーによるハイレゾ音源の試聴コーナー「Hi-Res SPECIAL STAGE」では、今回1日目のヘッドライナーだったフー・ファイターズの2005年度のフジロック出演時のライブアクト、2015年2月のニュージランドでのライブアクトなどがハイレゾ音源で聴くことができるのだ。そして、未だにわかるようでよくわからない人も多い現状に添って、「ハイレゾとは?」というお題に対する有識者からの回答パネルも掲出されていた。そして何を隠そう、ブースに入ってすぐ左手にはBARKS編集長の烏丸もコメントも。
ライブアクトに話を戻そう。オシリペンペンズに向かうために途中までしか観ることができなかったが、ミューズのライブには圧倒された。ソリッドなロックサウンドが完璧に、容赦なく、次々と刻まれていくのだ。デカいヴィジョンの場面切り替えもすごい速さで、なんだか観ているこっちは細胞が沸々としてくるようなスピード感のライブだった。3人は、ひと時もダレることなくパフォーマンスしていた。
おそらくミューズは好き嫌いがはっきり分かれるバンドで、どうも苦手だという人は彼らにどこか過剰な陰鬱さだったりスペクタクル映画的なイメージを抱いているからだと思う。だけど、この日のライブを観たら、その突き抜けた姿を好きになるんじゃないかなと思う。前日の金曜日にMステでも演奏していたアンコール曲の「Mercy」ではとてつもない量の花吹雪が舞ったらしいが、そういう派手な演出がしっくり来てしまうのがミューズだ。
今年の洋楽勢の中で話題をさらったニューカマーと言えば、FKAツイッグスだろう。自分も、再結成したライドの繊細で良質な轟音を聴いてから、WHITE STAGEへ移動した。
15年1月に初来日を果たした彼女がお目当てのオーディエンスも多かったようで、待ちわびる人々の期待感で緊張感が高まっていた。そして彼女が繰り広げたのは、私達の日常からは完全に逸脱している神秘的なステージだ。10代の頃から、カイリー・ミノーグなどのバックダンサーを務めている元々はダンサーのアーティストだけあって、その体の動きには一瞬で目を奪われる。というか、見たことがない体の動き。漠然とした表現だが、肉食動物のような豪快さと多肉植物のような静かな暴力性がある。ステージのスペースを端から端まで存分に自由に使用し、規格を設けずに全身で表現する彼女の姿は、コンテンポラリー・ダンスという形容で片付いてしまいそうなアヴァンギャルドなものだが、度を超えて肉感的でありピュアであり、むしろ原始的な感じがした。そういう意味ではとても汎用性の高いポップな表現であり、世界的な注目を浴びる所以がわかった。
そして、“天の声”のようなその歌声は、ボーカルというよりはボイスと言ったほうが的確な、シンプルなのに深い響きだった。夜空に溶けてしまいそうなくらいに繊細なのに、愛、孤独、欲望、痛み、そういった強い想いが表現され、同時に非常に鮮烈。エネルギーが溢れる彼女のステージには、心地いいショックを受けたものだ。
彼女の直前にWHITEで観たハドソン・モホークの知的なダンス・ミュージックも、体験できてとても良かった。ドラム、シンセサイザーという2人のサポートとの3人構成だった。
生ドラムによるビートは夜空に響いてよく映えた。「Chimes」では、大陸的なビートがWHITEの特別な解放感と相まって、ハドモーの楽曲にあるレイブ感を特別感じさせた。彼の場合はレイブと言っても仰々しさは一切なくて、どちらかと言うと着実に音が刻まれていく感じの淡々とした音楽だと思うが、どんどんサウンドの軌道が膨らんでいくような上品なダイナミクスがある。1曲1曲の構成も間延びしないポップなもので、彼の音楽こそポップミュージックの最先端にあるのだという最近の評判を証明するようなライブだった。早く、また来日して欲しい。
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