【FUJI ROCK'15 ロングレポート】邦楽の増加&オレンジ・コートの廃止にも揺るがなかった夏フェス王者の風格
レポートは、まだまだ続きます。フジロックというフェスは、どこでどう時間を過ごしても楽しい。無計画でも楽しいのがフジロックだ。たとえば、GREENからWHITEまでの移動中にある丘から、移動者に向かって「みなさーん、熱中症には気をつけてくださーい! だけど、フジロックには熱中してくださーい! それでは聴いてください、「熱中症」──」と叫ぶ人がいた。突然呼びかけてダジャレを言ってオリジナルソングをはじめても(意外にも凄くフォーキーだった!)、ほとんどの人が許してくれる。幸せな気持ちが、つまらないことを考えなくさせるのだろうか……。
仕事や日々の生活という日常から離れ、山奥の大自然の中で音楽と過ごすというアウトドアの快感は、やっぱり特別なものだ(というか、手元にPCがないという状態に大きな解放感を抱いてしまうのがこのご時世なのかもしれない)。今年のフジロックだって直前まで台風が直撃することも危ぶまれていたし、自然の脅威とすぐ隣り合わせにあるという振り切れた環境にある。だからこそ参加者同士に連帯感も与えるし、広くて自由なこの場所で自分で選択して自分の足で歩いて行くというタフな気持ちも芽生えさせる。今年は、会場内の森の中に設置された全長約2kmのボード・ウォークを歩いていても、正直、炎天下の中で普通にハイキングしているような気分だった(笑)。もちろん、アーティストのサインやイラストで彩られた素朴な木板の上を進む感覚は、フジロックでしか味わえない記念的な一歩一歩なのだが。
がんじがらめになっている日常から離れることで、「こっちが本当の生活、生き方なのかもしれない」などと哲学めいた深いところまで潜ってしまうのがフジロックなのである。1年のあいだ、フジロックを心の拠り所にしているフジロックファンは、決して少なくない。フジロックに毎年参加するというのは、ひとつのライフスタイルのあり方だとも言える。実際に、ミニ・メリーゴーランドまであるKIDS LANDでは、フジロックで出会った友達同士が家庭を持ってからはここで年に一度の再会を果たすという話もある。すてきじゃないか。
フジロックが海外の参加者に驚かれることのひとつに、10万人規模のフェスらしからぬクリーンさがあるという。確かに、ゴミが落ちていない。この素晴らしいフジロックに見合う自分でいようという、フジロック参加者ならではの誇りみたいなものも芽生えてくるからなのだろうか。フジロックには、特定のアーティストや音楽ジャンルではなく、フジロック自体に対するファンが多い。それは、これまでの出演者のバランスと比べ邦楽が目立った2015年度でもまったく揺るぎないものだった。フジロックに行けば素晴らしい音楽体験ができるという確信と安心感が、参加者側にはあるのだろう。
では、なんでそんなにフジロックは愛されるのか。その理由のひとつは、フジロックが豪勢に人々を迎えるからだ。そのおもてなしの態勢には、一度行けば虜になる。でも決して過保護なコーディネイトはしない。で、それが凄くいい。「はい、どうぞ! あとは自由に楽しんで!」という、たくましいあの感じ。たとえば、入場無料で22:30から翌朝5:00まで開いているエリア、「THE PALACE OF WONDER」。今年の入り口は、スカルだった。
あちこちに意味がわからないオブジェが置いてある、ちょっと危険な香りがしてわくわくする空間だ。たまたまここで、3日間とも深夜にそれぞれ3回まわしをした狂気のサーカス集団「THE CIRCUS OF HORRORS」を見かけて、大好きになった。3回も観た。1995年にグラストンベリー・フェスティバルでデビューし世界で活躍している人達で、フジロックは2001年に出て以来、今回が14年ぶりの登場だそう。子どもが瞳を輝かせながら観るようなファンタジーさはまったくなくて、危険で下世話で、いろんな冷や汗が出てくる彼らの芸は最高に刺激的だった。見ちゃいけないものを見るのは楽しいなぁと。
他にもこのエリアは、非現実的な気持ちを味わえる出し物でいっぱいだ。麗しい雰囲気ただよう移動式テント「CRYSTAL PALACE TENT」の中は、時代も国もワープできるロマンチックなライブ&バー空間が広がり、ROOKIE A GO-GOの場所もここにあって、“チェックしておくと後々いい”若手のミュージシャンが毎年競うようにライブをする。日中あれだけ動いたのに寝たくなかった。フジロックのあいだは不死身になりたい。
いればいるだけ、いつ、どこででも、楽しめるのがフジロックだ。深夜のところ天国の横で、寅さんを上映最中のアウトドア・シアター「富士映劇」にも遭遇した。
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