【インタビュー】壮絶なカート・コバーンの一生を描いた、映画『COBAIN : モンタージュ・オブ・ヘック』
いよいよ今週土曜日(6月27日)から、日本でもカート・コバーンのドキュメンタリー映画『COBAIN : モンタージュ・オブ・ヘック』が公開される。
◆『COBAIN : モンタージュ・オブ・ヘック』画像
ザ・ローリング・ストーンズのドキュメンタリー『Crossfire Hurricane』を手がけたブレット・モーゲン監督が、カートが遺した200時間以上にもおよぶオーディオ、無数のアート作品、日記、プライベート映像など膨大なアーカイヴを探索し、カート・コバーンの素顔に迫ったこの作品は、これまでになく斬新で私的なドキュメンタリーだと称賛されている。
公開に先駆け来日したモーゲン監督に話を聞いた。
――まず最初にお訊きしたかったのは、あなたはもともとニルヴァーナのファンだったのでしょうか?
ブレット・モーゲン:いや。
――では、何があなたをこのプロジェクトに向かわせたのでしょう?
ブレット・モーゲン:アートだね。カート・コバーンは…僕はこれまで、これほど様々な芸術形態で自分を表現している人に出会ったことなかったし、体験したこともなかった。カート・コバーンは、音とヴィジュアルの両方で作品を生み出してきたアーティストだ。彼には自分の体験をアートで表現したり、独自の方法で歌詞に変えることができる、類まれな才能があった。反抗的なスタイルでね。そして、カートはヴィジュアル・アートを通じても、自分の人生を記録してきたんだって思ったよ。僕にとって、この映画を作るのはこれまでになくユニークな体験だった。
――カートについて初めて知ったのは?
ブレット・モーゲン:ラッキーなことに、僕はニルヴァーナのギグを観る機会が2度あった。最初は1990年、僕が通ってたカレッジのカフェテリアで、確か150人くらいを前にプレイしたときだ。2度目は1993年12月ロサンゼルスでだった。彼らの音楽は好きだった。でも大ファンだったとは言えない。この映画の制作は僕が言い出したことじゃなく、コバーン家から話を持ち掛けられたんだよ。彼らが僕の作品を観て、とくにコートニー(・ラブ)が『The Kid Stays In The Picture』(モーゲン監督の2002年の作品)のファンで、リクルートされたんだ。それが2007年で、いろんなとこから許可を取るのに数年かかった。『Crossfire Hurricane』が完成してからは、これに専念していた。
――この作品を作っていて、一番興味深かったことは?
ブレット・モーゲン:僕にとっては何もかも画期的だった。僕は実際にカートを知っていたわけじゃない。彼が残した素材を通じ、彼に出会った。だから、どのページも発見ばかりだった。
――最も大変だった部分は?
ブレット・モーゲン:多分、この映画について語ることだね。作るのは簡単なんだよ。語るのが難しい。
――この映画は激しく、そして親密、すごく私的でもありますが…
ブレット・モーゲン:確かにそうだね。その親密さはカートのアートがあるからだ。いままで誰も目にしたことがなかったものだ。(映画の中にある)髪の毛を切るところ、あれを観て、“ああ、すごくプライベートなシーンだ”って言うのは簡単だ。でも僕は、カートがトレイシー(当時のガールフレンド)の部屋で、1人でギターを弾いているところ、アニメーションで描いたあのシーンが映画の中で最も私的なシーンだと思っている。観客はカートが1人でいた時間…、1人でいるときに録音したものを聴いているわけだからね。ドキュメンタリーで、その人物が1人でいるとこなんてあるかい? 大抵、その場にはカメラを回している人なんかがいるんだから、すごく稀だよ。カートはレコーダーのスイッチを入れ、ギターを弾いたり、TVを見ているところを録音してた。ギター弾いてるときに電話がかかってきて、その会話が録音されているものもあった。こういったテープによって、1人でいたときの彼に接することができたんだ。それって、ノンフィクション映画の制作者にとってはすごく新鮮なことだった。
――アニメーションを使うというアイディアはどうやって浮かんだんですか?
ブレット・モーゲン:こう言おう。僕はアニメを使った。(カートの)アートに息を吹き込んだ。それは、彼の絵を見るだけじゃなく感じて欲しかったからだ。音を聴くんじゃない、感じるんだ。カートをアニメで描きたいとは思っていなかった。でも、映画を作り始めたとき、大量のオーディオを見つけ、それをヴィジュアルでも表現しなきゃならなくなった。カートが(インタビューで)話してきたことは短かったり、それぞれが独立していて、(すでにある)映像だけではつながらないんだ。だから、それを包括するために新たな要素を加えることにした。それで、オランダ人のアニメーターHisko Hulsingを見つけたんだ。彼は『Junkyard』っていう短編のアニメーション作品でたくさんの賞を獲得している。すごく反抗的な視点を持ってるよ。それにHiskoはすごく腕のいい画家でもある。カートのヴィジュアル・アートには感情がいっぱい詰まっている。でも、技術的な面でいえば、彼はピカソじゃない。Hiskoの絵とカートの絵はスタイルが違うから、こちゃまぜになる心配はなかった。カートの発言、彼が話してきたことって1つ1つは短く…、彼をインタビューした人は、その1つを知る機会はあったかもしれない。でも、僕は全てのインタビューを聴いた。カートはすごく気まぐれだった。でも、彼のアートの中には本物の感情がある。恥、罪の意識、反発…、カートの曲にあるのと同じ感情がある。最近、アメリカのメディアのレビューで(この映画について)「あれはデタラメだ。あんなことがあったなんて、どうやってわかるんだ」ってコメントがあった。驚いたよ。これはアートじゃないか、何言ってるんだって。ああ、あったかもしれないし、なかったかもしれない。そんなこと誰にもわからない。アートは事実じゃない。アートは感情とつながるものだ。そこが、カートが天才だったとこだ。彼は自分の感情や視点、経験を音楽や絵、ショート・フィクションで表現し、そして、世代を超えた人々とつながることができた。共感を生んだり、慰めになったり、それは若い人達だけじゃない、50代の人達だってそうだ。僕にとっては、それこそがこの映画で描きたかったことなんだ。アーティストへの賛美だよ。
――あなたがカートに対して最も惹かれた部分が彼のアートだったと?
ブレット・モーゲン:アートと人生って別ものなのかい? カートは多作なアーティストだった。筆を手にしたときから…、3歳のときから何かを創っていた。サウンド・デザイン、ミュージック、あらゆるタイプのものを創ってきた。それを全部一緒にしたとき、ストーリーが語れるんだ。そのストーリーは目撃者の証言だけでは生まれない。
――映画を作り終えたいま、カート・コバーンはあなたにとってどんな意味を持つのでしょうか?
ブレット・モーゲン:うーん…、どんな意味を持つか…。さっきも言ったけど、彼には自分をさらけ出し、オーディエンスとコネクトするという素晴らしい才能があった。だから…、いや、また繰り返すつもりはない。
――あなたは、カートはなぜ自ら命を絶ったのだと思いますか?彼の死は避けられなかったと思いますか?
ブレット・モーゲン:こういう言い方をさせてくれ。カートが抱えていた問題は、コートニーと出会う前からのものだ。ヘロインを始める前から、ニルヴァーナの前からだ。名声を得る前からあったんだ…。後でとやかく言うのは嫌だ。彼はいまここにいないんだから、僕がどんな結論を出したとしても、それは空想の域を超えない。でも僕は……、彼はとても孤独だったんだと思う。ドラッグは距離を生む。自分が抱える問題の根源に直面するのを難しくする。ドラッグは争いを生むと同時にバリアを作るんだ。ドラッグに依存する人が、自分の問題を好転させるのは、ほとんど不可能なんだよ。それに直面できないんだから…。ドラッグを止めるのが難しいって言っているんじゃないんだ。自分の抱える問題が解決できないってことだ。僕が自分の問題を解決したのは40歳前だった。まず、リハビリに行って…。ドラッグをやる人はいっぱいいるが、彼らはなんでドラッグを始めたのかその理由はわかってない。カートははっきり言っていた。逃避だって…。僕は自分の幼少期の問題なんかを解決でき、ずっと押し込めていた感情に触れることができるようになった。それは、僕の人生で大きなターニングポイントだった。
――カートにその機会はなかったと?
ブレット・モーゲン:彼はすごく若かった。27歳になったばかりだったから…。うーん…、こう言っておこうか。僕と君はいまここで、それを推測しているわけだ。この映画は、オーディエンスにもそれについて話す機会を与えることになるんじゃないかな。僕はそれこそが映画の素晴らしいところだと思う。僕はこの映画で、観る人に自分なりの答えを見つけるきっかけを与えた、いや、きっかけを作りそこに招待したんだと思っている。
『COBAIN : モンタージュ・オブ・ヘック』は6月27日から全国の映画館にて1週間限定で上映される。上映される劇場のリストは、オフィシャル・サイトにてご確認を。
Ako Suzuki
『COBAIN:モンタージュ・オブ・ヘック』
2015年/イギリス/HD/5.1ch/カラー/デジタル/144分(内12分は映画館限定映像)
監督・脚本・製作:ブレット・モーゲン
音楽:カート・コバーン&NIRVANA
製作総指揮:フランシス・ビーン・コバーン
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
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◆『COBAIN:モンタージュ・オブ・ヘック』オフィシャルサイト
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