【イベントレポート】ピーター・バラカン×吉岡正晴、ジェームス・ブラウンを語る
ジェームス・ブラウンの姿を描いた『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』がまもなく公開となることを記念し、5月27日(水)東京・代官山蔦屋書店にて、ピーター・バラカンと音楽評論家吉岡正晴によるトークイベントが開催された。映画についてはもちろん、JBが活躍した頃の社会情勢や音楽業界、そして自身がかつてJBにインタビューした際のエピソードなどが語られ、大きな盛り上がりを見せた。
◆『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』画像
ピーター・バラカンは、映画の中でもレコーディングの様子が描かれる名曲「「プリーズ・プリーズ・プリーズ Please, Please, Please」のライヴ音源に触れ、吉岡正晴は「当時のキング・レコードの社長のシド・ネーサンはレコーディングを見て『何だこりゃ?楽曲になってない!“プリーズ”しか言ってない。ダメだこれは』って言うんです。確かに、デモテープのようにサビだけある感じ」と解説する。ピーター・バラカンは「映画の中にも出てくるけど面白い!確かに当時の概念で言うと曲になってない。それはものすごい画期的なこと」といかにJBが当時の常識を打ち破る凄まじい感性を持っていたかを語る。
また2人は、JBが音楽的な才能だけでなくビジネスマンとしても優れていたと力説する。当時R&Bを聴くのは低所得の黒人が中心で、売り上げはアルバムではなくシングルがほとんどだったが、JBはライヴアルバムのリリースを主張するのだ。「JBは自分がライヴアルバムを作れば売れると確信していた」(ピーター・バラカン)、「自分のパフォーマンスに客は熱狂する。No.1ライヴミュージシャンだという自負があった」(吉岡正晴)と市場の流れさえも変えてしまう才能であったと語る。また吉岡正晴はその“人たらし”ともいうべき側面にも言及し「彼は全米各地のラジオ局のDJの名前を憶えてて、プロモーションで各局を回る時もちゃんと名前で呼んでくれるんです。そういう人心掌握術がすごい」と明かし、ピーター・バラカンも「映画を見ても思ったけど、相当なビジネス手腕があった」とうなずく。
JBは黒人ミュージシャンの地位向上を念頭に、常に周囲に自身をファーストネームでなく敬意を持たせるべく「Mr.ブラウン」と呼ばせ、自らも周りの人間を「Mr.」を付けて呼んでいた。吉岡正晴もピーター・バラカンもJBへのインタビュー経験があるが、ピーター・バラカンはそうした“ルール”を知らず「1度だけ1980年代にインタビューした時、知らずに“ジェームス”と呼んだら本人に「Mr.ブラウンだ」と言われて「失礼しました」と謝った経験がある(苦笑)」と述懐、吉岡正晴も「1979年に初めてライヴ後の楽屋でインタビューする際に、マネージャーから必ず“Mr.”と呼ぶようにと言われました」と明かした。
吉岡正晴はその後、アメリカの彼の自宅に呼ばれてインタビューをしたこともあったが、その豪邸について「門をくぐると“James Brown boulevard”(=ジェームス・ブラウン大通り)という看板が掲げられていた。すごい車がたくさん並んでて「パーティでもあるのか?」と聞いたら、全部彼の車だった」といったエピソードを披露。そのインタビューでは、JBから彼の娘がレコードを出す際の日本でのレコード会社を探してほしいと頼まれたそうで「聴いてみたらこれがしょぼかったんですが…(苦笑)、彼はなかなかの親バカでしたね」と意外な一面も明かし、会場は笑いに包まれた。
そんな生のJBを知る2人だが、共に映画でJBを演じたチャドウィック・ボーズマンを大絶賛している。ピーター・バラカンは「JBが憑依してる。JBの喋り方や動き方を知ってる人が見たら気持ち悪いと感じるほどそっくり」と語り、吉岡正晴も「南部独特の喋り方もそうだし、ダンスもすごいです」と感嘆した。吉岡正晴はまた、チャドウィック・ボーズマンが本作の前の『42 ~世界を変えた男~』では初の黒人メジャーリーガーのジャッキー・ロビンソンをこれまた見事に演じていることに触れ「ロビンソンをやったので、次は自伝じゃない作品をやりたいと思っていたけど、(プロデュースを務めた)ミック・ジャガーらにも説得されて、JB役を引き受けたそうです。ジャッキー・ロビンソンとJBという2人の偉人を演じるというプレッシャーをものともせずにやり遂げたのはすごい」と惜しみない称賛を送っていた。
既にピーター・バラカンは2回、吉岡正晴に至っては4回も本作を鑑賞したという。日本での劇場公開を前に「本当に素晴らしいのでぜひ見てほしい」と呼びかけていた。
『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』は5月30日(土)より公開となる。
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