【インタビュー】究極のエルヴィス・プレスリー・トリビュート。当時の機材で録音環境も再現
── プレイヤーとしてデビューしたSUGARさんがエンジニアも手掛けるようになった理由は?
SUGAR:最初はエンジニアという存在は頭の片隅にちょっとあるかないかくらいで、まったく気にしていなかったんだ。ところがある日、自分の作品をレコーディングする機会が訪れてプロデューサーが付き、エンジニアが付き、その制作の段階で“自分が思い描いている音を形にできない!”という場面に出くわして、非常に衝撃を受けたわけだ。
── それは、ご自分で想像していた音に聴こえなかったということですか?
SUGAR:それもある。そして、そういう音をアレンジメントをして録音しようとしてもプロデューサーに“その音はいらない”と却下されてしまっていたんだ。当時は客観的に作品を判断するということが自分も若くてできなかったから、それに対して純粋な反発心を覚えたが、今振り返ってみると当時のプロデューサーの意見も正しかったと思っている。ただそのことがきっかけとなって自分の思い通りに作るにはどういうことが必要なのかを考え始めたんだよ。まずエンジニアリングを自分で覚えて職業エンジニアと対等に渡り合える技術や知識を身に着けることが必要だと。それを痛感したね。
── プレイヤーとして活動しつつそうした技術も身に着けるというのは相当なこだわりだと感じます。周囲の人はそういう音へのこだわりがあまりないのかな、という気持ちを持ったりしませんでしたか?
SUGAR:自分はそれを苦労と思ったことはないし、情報を得ることが難しいと思ったことはない。それはなぜかというと、海外に住んでいたおかげで英語・フランス語、一部ドイツ語・オランダ語について理解することが、自分にとっては難しくなかったんだ。友達も大勢いたからね。当時はまだインターネットは「パソコン通信」という名前で、電話のモデムでやっていた頃だが、何か欲しい物があったら海外と取引して珍しいものをたくさん買って、自分の音楽のために使っていた。だから自分は自然な流れでそれができると思っていたんだが、周りを見渡してみるとそういうことができる人はほとんどいなかったね。
── そして、徐々にエンジニアの方に重きを置くようになって行ったんでしょうか?
SUGAR:重きを置くようになったというよりは、ミュージシャンとして活動していた頃にバイク事故に遭ってしまったんだ。指をほぼ切断するような事故で、しばらくは鍵盤をまったく弾く事はもちろん、触ることもできなかった。僕はそこでいったんミュージシャンの道をあきらめてしまったんだ。それでやることは何かといったらエンジニア、それと作詞作曲もしていた。自分は将来プロデューサーになるから、今はエンジニアの仕事が来るので勉強になるからやっておこうかなというつもりだったんだ。
── その頃にはエンジニアとしての知識やテクニックは豊潤にあったということですね。
SUGAR:ああ、そうだね。特にヴィンテージ器材に関する知識というのは、当時は1、2を争うものを持っていたはずだよ。
── ミュージシャンをあきらめざるを得ない形でエンジニア仕事をやるようになって、その後ミュージシャンへと復活しつつ現在に至るわけですね。
SUGAR:そういうことになるね。
── 『A TRIBUTE TO ELVIS』は「エルヴィス・プレスリー生誕80周年記念」と謳われていますが、単純にエルヴィスの曲を日本のアーティストが歌うというだけではなく考古学的考察を含めた熱量を感じます。資料を拝見すると2014年秋からレコーディングデータがありますが、いつ頃から企画が動き出していたんでしょうか?
SUGAR:あれは2013年の秋、Bloodest Saxophone(以下ブラサキ)のアルバム『Rhythm and Blues』を山中湖のスタジオで作っていたときに、持ち上がった話なんだ。そのレコーディングで、目指している当時のリアルな50'sのレコードの音がついに再現できたことで、“この技術が手に入った以上、何か作らなければいけない!”と思ったんだ。するとスタッフのひとりが“再来年の2015年はエルヴィスの生誕80周年だ”って言うもんだから、“だったらトリビュートを出そう!”ということになったわけさ。
── では、わりと偶発的な感じではじまったんですか?
SUGAR:いや、そもそもヴィンテージのサウンドで誰かのトリビュート作品を作ろうというアイデア自体はもう20年、30年前から持っていたんだ。ただそれを実行できるまでの技術と音と確証がなかった。それと“この人だったら上手く表現してくれるんじゃないか”という周りのミュージシャンの問題もあったね。『Rhythm and Blues』を録音した時に、すべてが完全にマッチする絵図が頭の中に描かれたんだ。それがエルヴィスの生誕80周年とタイミングが合ったということなんだよ。
── ブラサキをはじめさまざまなミュージシャンが参加していますが、当初からSUGARさんの構想の中には参加ミュージシャンのメンツは固まっていたんでしょうか。
SUGAR:そうだね、だいたい決まってはいた。ただ、本当はもう1名参加してほしかったミュージシャンがいたんだ。YouTubeの動画で「エルヴィスの生まれ変わり」と話題になっていたフランス系カナダ人のデビッド・ティボー(David Thibault)という少年なんだが、彼がエルヴィスの「That's All Right Mama」を歌っているのを聴いたら、エルヴィス本人にしか思えなかった(笑)。僕はフランス語をネイティヴで日本語と同じくらいに喋るから彼とコミュニケーションも取れるし、彼の歌と自分の音で録りたいというイメージはあった。だが今回は残念ながら実現には至らなかった。
── とにかく“変態的”なまでのこだわりがすごいアルバムですが、驚いたのが当時使用されていたアナログテープマシンのみならず、テープ自体も当時のものを使うことで再現を試みたということなんですが。
SUGAR:これはテープレコーダーで録音をやりはじめた頃から分かっていたことなんだが、当時の音は当時のテープじゃないと出せないんだ。残念だが今現在あるもので何をやってもその音にはならないんだよ。
── でも、当時のもので劣化せずに使える状態のテープって現存するものなんですか?
SUGAR:非常に少ないね。だがアメリカというのはすごい国で、戦争で本土を攻撃されていないから全部そういうものがそのまま残っているところがあるんだよ。当時はそうしたテープが大量生産されているから、かつては山のようにあったんだ。ところが昨今、昔の物は良かったという見直しがされる中で消費されて、今はほとんど出てこないね。
── 今回もそうした現存する希少なテープを海外から取り寄せて使っているんですね。
SUGAR:ああ、できる限り使っているよ。
── 当時の音源と聴き比べてみると、このアルバムの方が古いんじゃないかと思うような曲もあります。
SUGAR:そうだね。“しまった! 古すぎた、やりすぎたな”という曲も何曲かあるよ(笑)。1曲目の「GOOD LUCK CHARM」はなんかはやりすぎたね。本物の方はもうちょっとハイファイなんだ。
── でも、SUGARさんとしてはその“やりすぎた”くらいの方が気持ち良いんですよね?
SUGAR:いや、マニア的に言うと“そっくり度”から離れてしまったから、本当はあそこまで行きたくなかったなという気持ちだね。
── できる限り本物に100%再現したかった?
SUGAR:そう、再現したかった。
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