【インタビュー】人間椅子 鈴木研一「俺らはこれから。ただ25年やってきたわけじゃない」
◆「りんごの泪」は俺が最初に作った「デーモン」って曲の変形。
その「デーモン」を和嶋くんが一般受けするようにアレンジしてくれたんですよ。
――曲はいつ頃から作っていたんですか?
鈴木研一:和嶋くんは高校時代からフォークとかやってましたね。で、ふたりとも浪人したんですけど、僕はどうにか和嶋くんにブラック・サバスを好きになってほしくて、カセットテープを送ったんです。そしたらすっごい食いついてくれて。で、ふたりとも大学に受かって、お互いの大学の学祭に人間椅子として出るようになった。
――和嶋さんをブラック・サバスの道に引きずり込んだのは何故ですか?
人間椅子/鈴木研一(B) |
――「りんごの泪」もその頃にできたんですね?
鈴木研一:「りんごの泪」は俺が最初に作った「デーモン」って曲の変形。
――また、イヤなタイトルだな。
鈴木研一:その「デーモン」を和嶋くんが一般受けするようにアレンジしてくれたんですよ。真ん中ぐらいにあるギターリフは俺が思いつくはずもなく。ハイセンスなメジャー感のあるリフでね、和嶋くんすげぇなと思った。
――ああいう展開があるのがブラック・サバスですよね。
鈴木研一:そうそう。
――あの16ビートのカッティングセンスはどこからきているのかな?
鈴木研一:和嶋くんはもともとはビートルズが神様なんですよね。でもあそこは16ビートだけど、そういうつもりで作ったんじゃなくて、俺のカッティングを聞いてもっとカッコよくしてやろうと思っただけじゃないかな。
――あそこはしびれるポイントですよね。
鈴木研一:あのメジャーの音が肝です。
――あの曲は輝いていますよね、今でも大事な曲でしょう?
鈴木研一:青森出身でりんご、三味線ギターですからね、お客さんも僕らもそれは盛り上がります。しかも初期衝動で作った曲だから、今はできない感じ。自分たちの持っているネタをフルに使い切った感じはありますよね。小さい頃によく耳にしたメロディーを曲に使うことってあるかと思うんですけど、「りんごの泪」のメロディーの一部は地元で流行った曲が元ネタなんです。そういうとっておきを使った曲です。
――子供の頃の鮮烈な思い出も曲に注ぎ込まれているんですね。
鈴木研一:頭から離れないメロディーってあるけど、それは曲にしちゃいますよね。小さい頃からずっとハトの鳴く“トゥートゥトゥトゥトゥー”っていう声が不気味だなと思っていて、あれもそのままリフにした。それが「埋葬蟲の唄」。
――ハトは平和の象徴なんですけど。
鈴木研一:不気味ですよ、あれ、変なメロディーです。
――“トゥートゥトゥトゥトゥー”を音楽と紐付けちゃうなんて。
鈴木研一:何か使いたくなっちゃうメロディーってあるんですよね。『帰ってきたウルトラマン』のタッコング(第1話「怪獣総進撃」、第2話「タッコング大逆襲」)の泣き声もね。それがすげーいいメロディーだなと。
――えー、覚えてないなぁ。
鈴木研一:それは「胎内巡り」という曲で使いました。
――ビデオもない時代ですから、観ているその場で頭に刷り込まれたんですね。
鈴木研一:そのメロディーは耳から離れないですよね。ストーリーは忘れちゃったけど(笑)。
――泣き声があったことすら覚えてない。
鈴木研一:その頃の円谷プロはすごいなと思いましたよ。子供の俺を泣き声だけでノックアウトしているんだから。
――リフとメロディが常に付きまとう、そんな人生を送ってきているんでしょうか。
鈴木研一:ある時期が来ると製作時期に入るでしょ?もう脳みそフル稼働しても浮かばない。そうすると昔聴いたメロディーばっかりが出てくるんですよ。レコーダーに100個ぐらいリフを入れてるんですけど、それを後から聴いて使えそうなものを抜き出して、和嶋くんに聴かせて「それ、いいんじゃないの?」ってなったら、それを膨らましていくって感じですね。
――リフはベースじゃなくてギター?
鈴木研一:リフはだいたいギターで作る。ベースで作るとギターが退屈な曲になっちゃうから。ギターで弾いて響きがいいやつを作っておいて、ベースはあとから。
――鈴木さんにとって、リフ職人アーティストって誰ですか?
鈴木研一:当然トニー・アイオミが1位。あとはグレン・ティプトン(ジューダス・プリースト)かな。
――おお、ジューダス・プリーストを褒めてくれる人がいた!
鈴木研一:『ステンドクラス』の「ヒーローズ・エンド」はすごくかっこいいですよね。何回曲を作ってもあの曲は越えられない。
――でも、ジューダス・プリーストも音、良くないですよね(笑)。
鈴木研一:よくないですね。ギブソンとマーシャル使ってなんであの音?ってね(笑)。外人特有のこだわりのなさですかね?頑張って頑張ってあの音なんですかね?
――「これ、いい音だったらすげぇいいのに」って思います。ふたり揃ってダメなんですよねぇ。
鈴木研一:そう。まぁ、ひとり突出していい音出すよりは、ふたり揃ってダメな音出すほうがいいいんだけど(笑)、「ヘリオン」とか「エレクトリック・アイ」(『復讐の叫び』)とかのくだり、すごくいいのに“何かけてんだ?直でいいだろ?”って。
――へんなモジュレーションかかっていますよね。
鈴木研一:リフのセンスはあるんだけど、音選びのセンスがないんですかね。もしかしたらビッグになりすぎて“こうした方がいいですよ”って言ってくれる人がいないのかな。俺、高校生だったけど、アンケートはがきに「カッコいいけど、音が悪いです」ってエピックに出したもん。絶対メンバーに伝わってないと思うけど(笑)。
◆「俺らはこれから」なんですよ。俺はそんな予感があるんです。
どうしても越えられない壁をまだ越えてないから。
――ロックを聴きこんできた人生ですね。
鈴木研一:俺、ネットラジオでハードロック、クラシック・ロック系のものを流して聞いているんですけど、まだまだ全然聴いたことないカッコイイ曲がどんどん流れてくるんですよ。「俺、まだまだだな、もっと聴きたいな」って思いますよね。残りの人生で全部聴きつくして死にたいたいなって思うと、焦りが入ってきている。
――その気持ち、すごくわかります。僕もむさぼるように音楽聞いていますけど、でも今は「高校生のあの時にこの音と出会いたかった」とも思うんですね。
鈴木研一:あの頃は伸びしろが広かったなぁ。だから新宿とか行ったら病気ですよ。なるべく行かないようにしているんですけど、最低2万円ぐらいCDを買っちゃうんですよね。
――どんなものを買っているんですか?
鈴木研一:スーパーと一緒で何も考えずに店に入るんだけど、ジェネシス650円とかだと買いますよね…そんなに好きじゃなくても(笑)。今49歳で69歳ぐらいまでは耳もしっかりしていると思うから、あと20年あれば相当網羅できるんじゃないですかね。プログレも含めて。
――皆が知っているようなアーティストは、ほぼ聴きこんだ感じですか?
鈴木研一:いや、意外と穴があるんですよ。それこそGenesisとか何回聴いても良くなかったりして「なんで皆がいいって言うのに俺にはよくないのかなぁ」と思って。だけど最近、歳を取ってやっと皆がいいっていうかが理由がわかってきた。ストーンズもそうですよ。高校生の頃は「こんなつまんねーバンドねぇな」って思っていたんだけど、今聴くと「ラヴ・イン・ヴェイン(むなしき愛)」とか、アコースティックで単調でつまんなかった曲が今はグッとくるようになっちゃって。そういうふうに走っちゃったから、ブラックメタルとかゴシック・メタルは聴かないですよね。そっちにはいかない方向に進んでますね。
――なるほど。
鈴木研一:どこまでいけばいいのかって思いますけど、1970年代ぐらいまでに限定しておけば、死ぬまでに聴けて心置きなく死ねるかなぁ。プログレもそこらへんまでにしておかないと、イタリア、フランスとかまで行くとねぇ…。
――ヨーロッパにはへんてこなプログレがいっぱいありましたからね。
鈴木研一:全部がいいわけじゃないんだけど、暴力的でカッコいいのがありますよね、もっともっと聴きたいなぁ。
鈴木研一:大丈夫ですよ。それは和嶋くんが色んなところでしてくれているから。相変わらず「宇宙からの色」(新曲)は、他にはない和嶋節でね。俺はどっちかっていうと、相変わらず昔からやってるような曲を作っているけど、和嶋くんは今まで作らなかったような曲を作るというテーマと、もっともっと新しい音楽をっていう考え方で曲を作るから、毎回面白いですね。
――そのあたりのバランスが人間椅子の面白いところで。
鈴木研一:そう思います。偶然ですけどね。
――まだまだこれからが楽しみですよね。僕らが聴いてきた大御所が30周年~40周年を迎えている中、人間椅子も25周年、30周年~40周年が楽しみなバンドだから。
鈴木研一:ストーンズもKISSもピークは昔だけど、「俺らはこれから」なんですよ。俺はそんな予感があるんです。今までよりもグッとカッコイイ曲を作っていけるんじゃないかなという予感がある。「ただ25年やってきたわけじゃない」って気持ちがあるんですよね。そう思ってますよ。
――人間椅子というバンドが疲弊していない…疲れていないんだと思います。
鈴木研一:まだまだもっともっと…まだ満足できてないんですよ、僕も和嶋くんも。まだ出し切ってないし、どうしても越えられない壁をまだ越えてないから。「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のリフ…シンプルだけどカッコいい、それを越えれば安心して死ねるかな(笑)。
――未だ足りていないという、その感覚がいいですね。
鈴木研一:足りてない。もっと時間があればなぁ。
――25年もやってる人が(笑)。
鈴木研一:月日が経つのが早いですよね。1年はこんなに短かったのかって思いますよね。
――1月24日には渋谷公会堂のライブがありますが、どういう内容になりそうですか?
鈴木研一:まだ曲目は決まっていないですけど、そこで相当意見が分かれる。俺は古い曲をヒストリー的にやりたい。和嶋くんはせっかくベストが出たからベストの曲を中心にやりたいと言っている。どうでしょうかね。
――どっちにしても楽しみですね。パフォーマンス的にはどうですか?会場が大きいと変わりますか?
鈴木研一:動きは変わりませんよ。いつもどおり。沸き出る動きだったらいいけど、サービスしよう的な動きは無理があるよね。あんまり離れるとドラムの生音が聴こえなくてよくない。ドラムが視界に入ってないと、一緒にやっている感がないから。後でもいいですよ、後ろからドラムの気配を感じていたほうが一緒にやっている感があるんですよね。自分がライブに行ったときは、自分の席が端だったりすると“もっとこっち来いよ”とか思いますけどね(笑)。渋公だからって特別じゃないですよ。緊張しちゃうとろくなことないから、緊張しないことが成功の半分ぐらいを締めますよ。
取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也
人間椅子 ワンマンツアー<現世は夢~バンド生活二十五年~>
開場: 16:30 / 開演: 17:30
前売: 4,000円 / 当日4,500円 (全席指定)
[3歳以上チケット必要になります]
■チケットに関して
プレイガイドでの前売り販売は既に終了
【当日券のお知らせ】
料金:全席指定 ¥4,500(税込)
販売/引換:公演当日15:30より受付予定
電話予約:1/22(木)12:00より受付開始
ディスクガレージ当日券電話:03-5791-3011(12:00~16:00)
※専用電話ではございませんので『1月24日人間椅子のチケット希望です』とオペレーターにお伝えください。
※当日券は若干枚数のみの販売となります。
電話予約で規定枚数に達した場合は受付を終了させて頂き、当日は予約済のお客様への販売/引換のみの対応とさせて頂きます。
※座席は連番でのご用意ができない可能性がございます。予めご了承ください。
※おひとり様4枚まで
Best Album『現世は夢~25周年記念ベストアルバム~』
ジャケ写・収録曲は、初回・通常共通
()内は収録されているアルバムタイトル
[初回限定盤]CD2枚組+人間椅子25周年記念手ぬぐい
TKCA-74167 ¥5,000(税込)※応募チラシ付き
[通常盤]CD2枚組
TKCA-74171 ¥3,900(税込)
■DISC1
1.針の山(『人間失格』)
2.りんごの泪 (『人間失格』)
3.天国に結ぶ恋 (『人間失格』)
4.賽の河原 (『人間失格』)
5.人面瘡 (『ペテン師と空気男・20周年ベスト』)
6.ダイナマイト (『踊る一寸法師』)
7.地獄 (『無限の住人』)
8.黒猫 (『無限の住人』)
9.幽霊列車 (『二十世紀葬送曲』)
10.地獄風景 (『怪人二十面相』)
11.死神の饗宴 (『見知らぬ世界』)
12.相剋の家 (『修羅囃子』)
13.品川心中 (『瘋痴狂』)
14.陰獣 (インディーズ盤『人間椅子』収録)
15.神経症I LOVE YOU (インディーズ盤『人間椅子』収録)
■DISC2
1.どっとはらい(『真夏の夜の夢』)
2.冥土喫茶 (『未来浪漫派』)
3.深淵 (『未来浪漫派』)
4.今昔聖 (『此岸礼讃』)
5.蜘蛛の糸 (『萬燈籠』)
6.ねぷたのもんどりこ (『萬燈籠』)
7.新調きゅらきゅきゅ節 (『萬燈籠』)
8.地獄の料理人 (『無頼豊饒』)
9.なまはげ (『無頼豊饒』)
10.地獄への招待状(新曲)
11.悪徳の栄え(新曲)
12.悲しき図書館員(新曲)
13.宇宙からの色(新曲)
◆人間椅子オフィシャルサイト
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