【インタビュー】人間椅子 鈴木研一「俺らはこれから。ただ25年やってきたわけじゃない」
ベストアルバム『現世は夢~25周年記念ベストアルバム~』のリリースを経て、1月22日には名古屋 Electric Lady Land、24日には東京 渋谷公会堂にて、<現世は夢~バンド生活二十五年~>を開催する人間椅子から、ベーシスト 鈴木研一のソロインタビューをお届けする。バンド生活25周年を振り返りながら、曲作りの秘密から音楽ルーツ、尊敬してやまないKISSについてから少々マニアックな洋楽話まで……盛りだくさん。人間椅子への愛溢れる頼もしい言葉にも注目を。
◆当時は和嶋くん、すごい美男子だったし。髭もなかった。
最初の頃はマリスミゼルのお客さんとか来てたんですよ
――ベストアルバムのリリースもあったなか、インタビューではなく雑談をしに来ました(笑)。
人間椅子/鈴木研一(B) |
──ついに25周年ですね。25年といえば、ひろし(アニメ『ど根性ガエル』)の町田先生か。
鈴木研一:教師生活25年(笑)。
――子供の時に「25年ってすごいんだな」って思っていました。
鈴木研一:いや、ほんとにそう思いましたね。25年って一生のメインのところをほとんど使うっていうことですよね。観客動員的に言えば、今までの25年全てを足してもどっかのバンドにはかなわないとは思うけど、でも25年は頑張ってこれた。
――濃密な25年でしょう?
鈴木研一:僕らは正統のつもりだけど、一般的にはマニアックなのかもしれないから、限られた人しか呼ばないステージをやってきていますね。
――1989年にイカ天に登場した時、強烈な音楽性と相まってねずみ男の格好も鮮烈でした。ステージングもサウンドも全てコンセプチュアルにステージに立つという精神性は、いわゆるヴィジュアル系と同じだよね。
鈴木研一:そうだよね(笑)。当時は和嶋くん、すごい美男子だったし。髭もなかった。
――じゃ本当にヴィジュアル系の要素が…。
鈴木研一:最初の頃はマリスミゼルのお客さんとか来てたんですよ。
――え?
鈴木研一:いや、ほんとに。アンケートを取ったら“他に観に行くバンド:マリスミゼル”って。「このバンドどういうバンドなの?」「GACKTっていうすごいキレイな男がいる…」「なんで俺らのライブに?」って。俺らヴィジュアル系なんだなって言ってたのを覚えてる。
――マジか(笑)。
鈴木研一:俺もすごい痩せてて、その頃は65kgぐらいでシュッとしてたから。まだちょっと対抗できる要素だけは持ってた。
――GACKTとファンを奪い合った男たち(笑)。人間椅子はトリオバンドですが、こだわってのトリオなんですか?結果的にトリオというだけなのでしょうか。
鈴木研一:結果的にトリオです。もし入れるとしたら、ヴォーカルひとり入れるぐらいの可能性はあったかもしれない。でもギターふたりはなしですよ。和嶋くんが“俺が弾きたい”って言うし、パート分けなんか絶対できないから。
――そうなんですか?
鈴木研一:リフも弾きたいしソロも弾きたいから。
――ワガママだな(笑)。
鈴木研一:ワガママっていうか、自分が楽しくて演っているバンドだから、楽しくなければ意味がない。で、俺も弾きながら歌いたかったんですよ。
――最初から?
鈴木研一:そう。ジーン・シモンズ(KISS)になりたかったから(笑)。
――でも、ベースを弾きながら歌うのって、実はそんなに簡単ではないでしょう?
鈴木研一:そうですね。だから“弾きながら歌えるメロディー”を作りました。
――おお、そういう隠れた工夫があったんですね。
鈴木研一:今でこそ何十回も練習すれば弾きながら歌えるようになるっていうのはあるけど、昔は無理だから弾きながら歌えるようにメロディーを作っていましたね。
――じゃあ歌メロとベースラインは、ある意味同時進行で作っていくんですか?
鈴木研一:僕も和嶋くんも、先にリフを作り最後にメロディーを作ります。だからリフを弾きながら自分の考えたメロが歌えるかどうか確かめるんですよ。で、歌いづらかったら変えちゃうんです、その部分のメロディを。
――メロディーよりもリフ優先なんですね。
鈴木研一:どんなにメロディが良くでもライブでできないとダメだから。
――メロディーが生かされてリフが変わることは?
鈴木研一:ないですね。メロディーに合わせてリフを変えたことは一度もないです。
――マジか。あくまでリフありき?
鈴木研一:そうなんですよ。
――ロックに生きる男の発言ですなあ。びっくりするぐらい迷いがない(笑)。
鈴木研一:フォークとか歌謡曲みたいに、ジャカジャカコードを弾いているだけだったらそれはいくらでもできるけど、リフだけはどうしてもね、変えられないですよね。メロディーのリズムがちょっと違うからってリフのリズムを変えるわけにはいかないです。
◆僕はKISSから入ったからKISSですよ。
どこでノイズが入っているかとかも全部頭に入っている。
――でも一生懸命練習して、リフとメロを両立させた曲もあるでしょう?
鈴木研一:そうですね。いちばん難しかったのは「羅生門」。リフを弾きながら「とうりゃんせ とうりゃんせ」と歌うのがすごい難しくて、何時間も練習してやっとできるようになった。今は何の苦労もなくできるんだけど。
――今ではずいぶんスキルアップしているんでしょうね。
鈴木研一:そうですね。ピッキングをダウンじゃなくてアップダウンで弾いたりする工夫もしますし。でもやっぱりギターのリフがベースより複雑だから、俺より和嶋くんは苦労してると思いますよ。
――人間椅子は鈴木さんも和嶋さんも歌いますが、ボーカルの割り振りはどうしているんですか?
鈴木研一:作った人が歌っているんです。一部パート分けすることはありますけど、でもだいだいメロディーを作った人がメインで歌ってます。
――それは暗黙のルールなんですね。KISSとかってどうなんだっけ?
鈴木研一:KISSとかもそうだけど、例えば「ゴッド・オブ・サンダー」とかはポール・スタンレーが作ってジーンが歌っているけど、でもこれはジーンに捧げるっていう意味で作った曲ですからね。ジーンに歌ってほしい曲を作るっていって作った曲で。
――KISSも基本は作った人間が歌っているのか…。
鈴木研一:ピーター・クリスが歌っているのは違ったりしますね。「ブラック・ダイヤモンド」はピーターが作ってないですね。ピーターが作ったのはピーターが歌うんだけど…。
――「ハードラック・ウーマン」は?
『現世は夢~25周年記念ベストアルバム~』 |
――そっか。イーグルスとかってどうなんですかね。
鈴木研一:イーグルス…どうなんですかね?俺、ジョー・ウォルシュが歌っているのだけはわかるけど、あとは誰が歌ってるのかよくわかんないですね(笑)。
――弾きながら歌うという点では、ラッシュのゲディ・リー(Vo、B)はライブ時のことは一切考えずに曲を作り、レコーディングが終わってから猛特訓して歌とベースを両立させるそうです。泣きたくなるような苦行だとか。
鈴木研一:やっぱりそうなんだ。いや、すごい苦労だと思いますよ、あれね。
――あのベースとボーカルを同時に演奏ってとんでもないですもんね。
鈴木研一:でも弾きながら歌うにあたって「俺もできるはずだ」と思って頑張りますよね。ゲディ・リーがなんとかやっているんだから、同じ人間だからできるはず。
――歌をうたうベーシストといえば、フィル・リノットも欠かせないですね。
鈴木研一:亡くなってしまっていちばんもったいないなっていうのは、僕はフィル・リノットなんです。一般的にはジミヘンとかジョン・ボーナムとかジョン・レノンとかだと思うけど、僕にとってはフィル・リノットがいちばん痛い。生きてたらもっともっとやっていただろうし、日本に来ただろうし。シン・リジィはフィル・リノットの歌で聴きたくてしょうがない。
――いちばん聴き込んだアーティスト、アルバム、好きな人はどの辺りですか?
鈴木研一:俺は、KISSから入ったからKISSですよ。レコードの溝がなくなったんじゃないかっていうぐらい聴いたから、どこでノイズが入っているかとかも全部頭に入っている。ギターソロもほぼ全部そらで歌えるし、俺は「このコーラスはエースだな」ってわかるし。ヒーセ(広瀬“HEESEY”洋一)さんの次ぐらいには詳しいっすよ(笑)。
――実際コピーもしたんですか?
鈴木研一:そうですね、筋少ちゃん祭りで橘高くんとやったり、あと、ルーク(篁)さんとやったり、時々KISS好きが遊びでやる時にジーンをやらせてもらって(笑)。
――ジーンということは、やっぱり弾きながら歌うっていうことですね。
鈴木研一:だいたい「ゴッド・オブ・サンダー」ですけどね(笑)。
――ジーンも弾きながら歌うという点では苦労してきたんでしょうか。
鈴木研一:確かにすごいけど、でもライブを聴く限り、レコードと同じには弾いてないですよね。でも、弾きながら歌うという点では、もともとギターでポール・スタンレーと路上ライブを演っていたふたりだからね。だからジーンは、ギターみたいにベースを弾きますよね。
――ポールとジーンが路上で?コブクロみたいに?
鈴木研一:そうそうそう。ザ・ビートルズを歌っていたって。
――へぇ、そんなエピソードがあるんですね。
鈴木研一:うん。まあ、ジーン・シモンズのベースの音は全然良くないですけど。
――ぷ。あれはなんであんなにサステインがないんでしょうかね。
鈴木研一:なんですかね、こだわりがあってやっているんだろうけど、結果的に全然良くないですよね(笑)。アンペグ使っているって言っているんだけど、全然アンペグの良さが出てない。
――言っちゃえば、昔のKISSのアルバムってギターの音も全然良くないですよね。
鈴木研一:良くない。まあでも俺はマニアだから、あの良くないのがいいんですけど。
――あはは(笑)。
鈴木研一:俺としては、ボストンみたいな音で演られてもKISSじゃないなと思う。なんだろう…俺は3枚目(『地獄への接吻』)のギターの音が特に好き。「ルーム・サーヴィス」のジャジャジャ…あんなバカなフレーズはいい音で弾かないほうがいいんですよ。ロックンロールの安臭い音だからいい感じが出てると思うんですよね。KISSはあれでいいんですよ。
――もう好き過ぎて、言っていることが変態ですな。
鈴木研一:いやいや(笑)。ジーンもそのギターに対してあのベースだからいいのかな。ジーン・シモンズも時期で持ってるベースが全然違っててこだわりないですよね。最初ギブソンのリッパーとかグラバーとか使ってたのが、今は何がなんだかわからないベース使って。
――何らかのこだわりがあるんでしょうね。斧ベースとかエンターテイメント性が一番でしょうから。
鈴木研一:確かにホールでやると、どんなにいい楽器をアンプで弾いたって、あんな音はみんなの耳には届かないですよね。ハードロックはせいぜい中野サンプラザぐらいにしておかないと、それ以上大きい会場だと音が全然良くない。武道館もロックバンドの聖地だとかいうけど、あんまり音良くない。2階なんかもう…。
――そういう意味では、新宿厚生年金会館も音は良かったですね。
鈴木研一:いい思い出はだいたいサンプラザと厚生年金会館だったですね。ドームでメタリカ観た時は、みんなこれでノレるのかな?って俺は疑問に思ってたんですよ。この音でどうやってノレるんだろうと思って。
――厳しいなあ。
鈴木研一:俺はベースが効いてないとノレないけど、さすがにあのベキベキっていう音だけ出されてもちょっと(笑)…アイアン・メイデンもハイのほうしか聴こえないベースはどうなのよ?と思いますよね…なんだかマニアックな話になった(笑)。
――スティーブ・ハリスはベーシストが花型となったHR/HM界の先駆けですね。
鈴木研一:なんだかんだ言って、俺らはアイアン・メイデンからはすごく影響受けてますよ。
――人間椅子も展開が激しかったりするし?
鈴木研一:そこはブラック・サバスの影響ですよね。むしろアイアン・メイデンもブラック・サバスの影響でああなったと思うんですよ。3rd『マスター・オブ・リアリティ』とか、唐突な展開の瞬間がかっこよくてゾッとするんです。人をハッとさせる展開がいいんですよね。
――あの唐突な展開は、ブラック・サバスが先駆けか。
鈴木研一:ザ・ビートルズは絶対にやらないですしね。レッド・ツェッペリンもね。最初びっくりしました。ツェッペリンとかディープ・パープルとは一流な感じがしたけど、サバスは「一流どころとはちょっと違うな、この唐突な感じは何なんだ?」と思ったんです。けど、だんだん中毒になっていって、「これが実はいいんじゃないか?」ってなったんですよね。
――それは、バンドはまだ演っていない頃?
鈴木研一:バンドは演ってないけどベ―スはやっていて、曲を作るようになっていた頃かな。
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