【インタビュー】カスタムIEMから軍事用モニターまで、Westoneの55年間
カスタムIEM(カスタム・インイヤーモニター:イヤモニ)のWestone ES60が、世界的に高い評価を受けている。過去においてはユニバーサルイヤホンの傑作Westone4が、「究極の普通」という最大級の賛辞をもってリスペクトを受けていたWestoneのイヤホンだが、ES60においてもその「音楽を聞くことを邪魔しないWestoneの美学」は貫かれている。自らの個性は影を潜め、入力される音楽信号を最高品質のサウンドとしてただただ素直に再生することだけに全勢力を注いでいる、そんな印象だ。
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重い音楽は重く、軽快な音楽は軽快に、明るいサウンドは明瞭に、ダークなトーンはそのまま沈み込むように再生するキャパシティの大きさは、ミュージシャンのステージモニタとして最高の相棒の座をほしいままにしているようだ。最高レベルの遮音性を誇るフレックスカナルの機能性も大きなアドバンテージとなっている。
高い評価を得るに至ったES60、その勝因はどこにあったのか。アジアパシフィック・セールスマネージャーのハンク・ネザートンから話を聞く機会を得た。
──頻繁に来日されていますよね?世界中を飛び回っているんですか?
ハンク・ネザートン:年に2~3回ずつアジアとオーストラリアに行っていますね。
──世界のマーケットにおいてWestoneはどのような状況にありますか?
ハンク・ネザートン:全体的にすごくいいですね。南米とヨーロッパはスタートしたばかりなのでこれから伸びていくエリアだと思います。
──日本のマーケットはどのように捉えていますか?
ハンク・ネザートン:日本のコンシューマは品質をとても重視しますから、その点で良い評価を頂いています。日本国内のメーカーさんもカスタムIEMが増えてきていますので、そういうところを見ていると、Westoneの職人による手作りの技が日本でも認められているポイントと感じています。他の国と比べても、高品質で高音質な製品を求めている人が多いのが日本ですね。音楽を好きな人がダントツに多いとも感じています。
──ES60が発表されて半年が経ちますが、アーティストからの反応はいかがですか?
ハンク・ネザートン:とても好評です。個人の好みはあると思いますが、それまでES50を使用していたアーティストがみんなES60に換えてくれと言ってきます(笑)。評判が評判を呼んでくる感じですね。
──ES60は「ES50よりもいいものを」というコンセプトだったんですか?
ハンク・ネザートン:ES50とES60との大きな違いは、ES50には低域用として大きなドライバーがひとつ入っている点です。ES60を作る理由になったのは、低域のドライバー用に小さなドライバーを2つ使ったほうがもっとレスポンスが速いものが作れることがわかったのがきっかけでした。そこから開発がスタートしたんです。
──そしたら思惑通りいいものができた?
ハンク・ネザートン:低域用の2ドライバーができて、そこからWestoneらしいサウンドを生み出すために、ネットワーク調整を本当に丹念にやって、やっとこれだったらWestoneの音として自信を持って発売できるところに到達できたので発売することにしました。
──なるほど、アスリートが自らの記録に挑戦するような感じか。
ハンク・ネザートン:サウンドは、ドライバーのようなハードウエアよりネットワーク次第です。Westoneらしい音にできるかどうかがポイントです。
──日本ではLOUDNESSの二井原実が公認アーティストとなりましたね。
ハンク・ネザートン:はい。いろんなアーティストの方に使っていただきたいですね。ミュージシャンにとってステージ上で使っていただくのにベストなツールだと思っていますし、そういう方々に使っていただくことでWestoneの名前が広まれば大変光栄です。
──海外においてはWestoneはすでに長い歴史を持っていますよね?
ハンク・ネザートン:そうですね、一番最初にカスタムIEMを作ったアーティストはラッシュとデフ・レパードでした。その後にエディ・ヴァン・ヘイレン、エアロスミスにも作りました。新しいミュージシャンとの出会いも楽しいのですが、アーティストだけではなく、『ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ』(アメリカのダンスリアリティ番組)にも提供したりしているんですよ。つい最近は、ワンリパブリックのイヤモニを作りましたね。彼らはコロラドのアーティスト…Westoneの地元と同じなんですよ。
──タペストリーにピーター・フランプトンが描かれていますが、彼はES30を使っているようですね。今でもES30愛用者って多いんですか?
ハンク・ネザートン:ピーター・フランプトンのイヤモニを作った当時は、まだES50もなかった時なんです。その時のフラッグシップがES30でした。その後ES50が発売された時もES60が発表された時も「アップグレードはいかがですか?」と聞いたんですが「ES30で十分ハッピーだからいい」って。ES30が好きな人も今でもたくさんいますよ。
──そうなんですね。
ハンク・ネザートン:もし彼が片っ方なくしたら、最新機種にアップグレードしてもらいましょう(笑)。
──でも、ES30で十分だなんて素敵な話ですね。
ハンク・ネザートン:彼自身、最新のものをガツガツ欲しがるタイプじゃないというのもあるんでしょうね。
──もともとWestoneはヒヤリングケアの会社でもありますから、Westoneのイヤモニは音楽用途に限らないんですよね?
ハンク・ネザートン:アーティストもカントリーミュージックからヴァン・ヘイレンまで多岐にわたりますし、『ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ』のような番組やショービジネスなどいろんなところでWestoneが使われているので、それを見た人が興味を持ってWestoneを使いたいと言ってくれる人が出てきます。フットボールや野球のハーフタイムショーで使われているのを見て「あのイヤモニはどこのだ?」という問い合わせを受けて作ることもありますね。
──一方で、Westoneは軍事用にも使われているんですよね?
ハンク・ネザートン:そうなんです。例えばジェット機のコックピットというのは本当にうるさくて120dbくらいのノイズがあるんです。それでパイロットの耳がやられてしまう。そもそも管制塔とのコミュニケーションも取れませんし、そんな状況に耳をさらしていることはとても危険です。アメリカ空軍の研究所がWestoneのラボに来て、そのような状況なんだと相談に来たのが軍事用プロダクトのスタートのきっかけです。
──日常では考えられない過酷な状況なんですね。
ハンク・ネザートン:カスタムのイヤーピースは遮音性と密閉感が優れているので、それを採用して直接コックピットに直挿しできるようなイヤホンを作りました。それによってクリアに管制塔とも会話ができるようになりましたし、耳も守れるようになりました。現在戦闘機のコックピットに使われているイヤホンの90%以上はWestone製なんですよ。
──それはすごい。普通のイヤホンではなくコネクタも専用なんでしょうね。
ハンク・ネザートン:そうですね。オーディオ用の3.5mmとは全然違います。ドライバーだけではなくマイクもついていますから。しかもヘリコプターと戦闘機ではまた違いますし、飛行機の種類によってコネクターもそれぞれ違うので、各々に合わせて作っているんです。
──まさしく専用機器ですね。そもそもそれで音楽聞く人はいないか。
ハンク・ネザートン:そうですね、それで音楽を聞くとは思えないですね(笑)。管制塔で音楽を流したら聞こえますけど(笑)。イヤホンとしてはフルレンジのシングルドライバーなので、家に持って帰れば使えることは使えるかもしれないですね。
──そういったMIL規格に応える開発ノウハウが、音楽用のイヤホン開発に活かされることはあるんですか?
ハンク・ネザートン:Westoneには55年の歴史がありますので、補聴器もミリタリーも音楽用も作ってきたそれぞれの経験は、お互いに影響しあっているのは間違いないですね。それぞれのカテゴリーで相当数のイヤーピースを作ってきた製作技術は、すべての経験が礎となったものです。ステージ上はすごくうるさいしコックピットもすごくうるさい…それをどう解決するかという意味では、同じような問題を解決してきたと思っています。
──今後のWestoneはどういうロードマップを描いているんですか?
ハンク・ネザートン:現時点でアナウンスできるものはありませんが、アイディアはいっぱいあります。マーケットの声を聞いてそれを社内で検討して製品化するかどうかを決めていきます。そのためのフィードバックもたくさんあります。逆に、意見があればお聞かせください。
──Westoneの音を聞くと、もうこれ以上は欲しいとは思わないんですよね。十分に完成度が高いので、次どう行くのか想像もつかない。ハイブリッドとか他ドライバーとかを発表するとも思えないし。
ハンク・ネザートン:単純にドライバーを足すことがいい製品になるとも思っていませんし、だからなかなか新製品も出てこないですよね。ハイブリッドも検討の余地はありますけど、そうすることによってどれだけ音が良くなるのかは現状ではよく分からない。
──日本でもWestoneの興味を持っているミュージシャンはたくさんいますので、今後の展開も楽しみにしています。ありがとうございました。
取材・文・撮影:BARKS編集長 烏丸哲也
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