【インタビュー】全力の自由人・所ジョージの奇天烈人生訓『JAM CRACKER』Vol.2/4
多趣味・多芸・多才で知られる所ジョージだが、そもそも彼のキャリアのスタートは音楽にあり、れっきとしたシンガーソングライターのひとりである。
創意工夫の人生を全力の自由人として闊歩する人物ゆえ、多面的なタレント人の印象が強いものの、彼の作る音楽には、甘みとしょっぱさとビリっと痺れる毒気がいつもたっぷりと仕込まれている。ふざけた視点と、どうでもいいことをそのまま歌ってしまったような屈託のないテーマが全面に踊り出るが、その目線の切れ味は異様に鋭かったりするから、たちが悪い。
わざわざ自主レーベルを立ち上げてのアルバム発売、しかも2枚同時リリースで、フルアルバムながら1枚700円+税という人を喰った価格設定が敷かれている。この人は何を考えているのか。目的は何なのか…というか目的はあるのか? 音楽が売れないと嘆かれている今、唐突にアルバム2枚をリリースする真意は? 本人に直撃すべく、BARKS編集長自ら世田谷ベースに乗り込んだ。
全4回にわたってお送りする当インタビュー、軽快な語り口調から覗かせる核心のキーワードを存分に楽しんでいただきたい。今回は2回目である。
◆ ◆ ◆
■ギブソン・トリニ・ロペス・モデルと
■フェンダー・スターキャスター
――『JAM CRACKER 1』『JAM CRACKER 2』というアルバム2枚を一気に同時発売というのは何なんですか? それだけ曲ができてしまったっていうことですか?
所ジョージ:鉄砲と同じで、磨き込んだらそれだけできちゃったんですよ。「うわ、20数曲もあるよ!」になっちゃった。初めは14~15曲でまとめて1枚出せばいいかなと思ったんだけど、夢中になるとやめないんですよ。仕事終わって帰ってくると歌作って、早起きして6時に作る。それは無理じゃなくて、遠足に行く前の日と同じで楽しくてしょうがないの。だからもう寝てられないの。「あっ!歌作らなきゃ」って「うわ、面白い」って歌作るでしょ。
――誰か止めてくれる人はいないんですか?
所ジョージ:いないの。だから呪縛みたいなものなの。
――あははは。
所ジョージ:1個のことしかやんないんで、次の何か食いつくものが見つかるまでは、今はずっと鉄砲磨いていると思いますよ。
――そんな生活なのか。
所ジョージ:似たようなジャンルのものをやってるね。今はギターは一切触らない。アルバム作りをやっているときは、ギターしか触ってないし。その時は「あ、このギターはダメ! よし、アメリカから輸入しよう」って言って買ったり「マイクロフォンは昔のリボンマイクだ」ってリボンマイクを手に入れたりとか、すごい夢中になって音を楽しんでるね。
――経費かかってますね(笑)。2800円で発売すべきだなやっぱり。
所ジョージ:今回、全部、昔のRCAのリボンマイクでやってるんですよ。
――「RCA 77DX」という曲でマイクのことを歌っていますね。
所ジョージ:そう、興奮してね。だからRCAでやろうと思ったとたんに、それを見てるだけで、目から入ってくる情報だけで音なんかまだ繋げて聴いてないのに、鳴るか鳴らないかもわからないのに、そいつだけで興奮しちゃってもう歌を作る。ギターもね、フェンダーのボリュームつまみなんかどうでもいいはずなんだけど、アルミニウムのノブじゃなきゃヤダみたいなところに入っていく。
――フェンダーでアルミのノブ…というとテレキャスですか?
所ジョージ:スターキャスターっていうへんちくりんなギター。なんでそれを使ってるかっていうと、トリニ・ロペス・モデルっていうのをギブソンが出しているんですけど、ギブソンのセミアコなのにヘッドがまるでフェンダーなの。するとフェンダー社が文句言うじゃないですか。「ギブソン、何やってんだよ、これはフェンダーのお株じゃないか」と。そのかわりにフェンダーは、まるでギブソンのセミアコみたいなのを作っちゃって「これはフェンダーです」ってやってるのよ。それがスターキャスター。両社がケンカし合って4年ぐらいの間にトリニ・ロペス・モデルとスターキャスターが発売されてね。その両方を使ってるんです。
――そこ?
所ジョージ:そこ。ギターの音色とかじゃないのよ(笑)。
――レスポールとストラトでもなく、SGとテレキャスでもなく、トリニ・ロペス・モデルとスターキャスター(笑)。
所ジョージ:「バカだね、こいつら。でっけえ会社なのに何いがみ合っちゃってんの。お互い譲り合えばいいじゃない」っていうところが、くすぐったくて面白いから、それをわざと持ってきて、日の目を見せようと思ってるわけ。
――いちばん痛々しいところが白昼にさらされる感じですね。
所ジョージ:そう。ギブソンとフェンダーとしては「それは使わないでください!」っていう。
――苦笑いだろうな。
所ジョージ:それが面白いんで使ってるんですよ。そのスターキャスターっていうのが、復刻版が出たんですけど、オリジナルはダイヤルがめちゃくちゃカッコいいのに、復刻版はしょぼいのが付いてて「何だよこれ!いちばん大事なところがダメじゃん」って、しょうがないから下町でアルミニウムのダイヤルを特注で作って差し替えた。他にもいろんなところがチープでダメでね、「全然ギターのこと分かってねえなあ」と思って、ストリングガイドからブリッジからトラスロッドのブレットナットも、細かいところをぜーんぶ作って改造した。元のギターよりも高くなっちゃうぐらい。
――力の入れるポイントがおかしい。
所ジョージ:えっそう?(笑)。「何だこれ」と思うと、「もうダメだ、これは私がやり直してあげよう」と思って。フェンダーの人が愛情がないんだろうなと思って、じゃあ俺が愛情を注いであげようっていうことですよね。
――面白いなあ。
所ジョージ:その後のドラマが面白いの。あのさ、TUBEって季節労働者のように夏が忙しくてさ、秋からスタジオ的な仕事になってくんだよね。そうするとTUBEの角野(秀行/B)がうちに遊びに来るじゃん。そこで「お前はギターのプロなんだからこれ修理してこいよ」ってギターを押し付ける。ヤツがギター屋へ持って行って直すの(笑)。
――なんだそれ(笑)。
所ジョージ:TUBEとの夏の電話が面白いの。角野に電話入れて「お前、前田と付き合ってんじゃねえよ、このやろう。うちのギター担当なんだから来いよ!」とか言って(笑)。「前田がひとりでいきり立って歌ってるけど、何が面白いんだ」とか言いながら。
――あははは、それはヒドい(笑)。
所ジョージ:ヒドいの(笑)。で、角野くんに持って行ってもらったり。そのドラマが面白いの。
――今回のレコーディングでは、そのスターキャスターはけっこう使われたわけですか? 手を加えて愛情を注いで。
所ジョージ:レコーディングはスタジオを仕事してる人がいるから、全部その人たちにやってもらう。
――このギター使ってよ、みたいなリクエストは?
所ジョージ:ない。その人たちの持っているギターをみて、そっちに興味がいったり。
――スターキャスター使っていないんだ…もう破綻してるな。
所ジョージ:何がですか?(笑)
――どこに向かうとか、計画立てて生きていくとか、そういうのは?
所ジョージ:ないない。(THE ALFEEの)坂崎(幸之助)と何か出る時なんて何も持って行かないもん。手ぶらですよね、どうせあいつがギター用意してるからとか。で、自分のCDの宣伝に来てるのに人の歌かけたりとか。
――むちゃくちゃだ。
所ジョージ:それはリスナーが絶対これからかけるだろうなと思っているんで、それがイラっとするんですよ。そうすると、似たような違う曲をかけて、イントロが似てるからみんな“あれかな~”なんて思ってると違う人のボーカルが歌いだす…「どうだ!」みたいな(笑)。
――なんともひどい。
所ジョージ:何しに来たんだよっていうところがくすぐったくて面白い。台無しでしょ?
――このインタビューも台無しかな。これ、何の話でしたっけ…
所ジョージ:いやいや、ちゃんとレーベルのオーナーとしてはどうなんだって話をしています。逸脱してないよ、何も。
――それは気付かなかった(笑)。
所ジョージ:そこですよ。お茶飲みましょう。
■その喜怒哀楽以外のこと、
■やめてください
所ジョージ:楽しいんだよね。だからね、どんなに間違ったことでも…もちろん犯罪になっちゃダメだけど、間違ってるなってわかっているけど、そこからのドラマを期待しちゃうんですよ、いつも。面白いから。
――所イズムが形成された、おおもとのきっかけみたいなものってあるんでしょうか。
所ジョージ:たぶん、そういう歌を作っちゃったんで、その歌に左右されてるんだと思うんですよ。
――それは若い時から?
所ジョージ:うん。例えばデビュー前に“雪だるまってまんまるい”っていう歌(「組曲 冬の情景」)を作ってね。そんなのがいいわけないし、本来もうちょっといろんな物語にしないと歌として成立しないよっていうのがどっかにあるんだけど、でもね、“雪だるまができるぐらいの季節になりましたね”という感情がそこにこもっていれば、詞にする必要なんかないやって思う。そうして不要なものを端折っていくと、「雪だるまってまんまるい」っていうことになっちゃうよっていう。
――そこに行き着くわけですね。
所ジョージ:僕の中ではね。だから、その気持ちで出してるんだけど、聴く側にはそんな気持ちなんか受け取っているわけないじゃん?そこは大人としては分かっているけど、そこは自分がくすぐったいところなんだよね。大笑いするとかじゃなくて、なんかくすぐったい。「やめてください、そういうのやるの」って感じ。なんとも喜怒哀楽の中に混ぜられないんで「その喜怒哀楽以外のこと、やめてください」っていう(笑)。そこが面白いからねぇ(笑)。
――あははは、面白い。やめてください(笑)。
所ジョージ:ずーっと、それが面白くてやっちゃってるんで、その作品に左右されちゃうね。
――今回、アルバム2枚分という多作となったわけですが、メロディを作る、詞を書く、アレンジをする中での苦労や産みの苦しみというものは?
所ジョージ:何もないよ、産みの苦しみなんて。だってもう夢中だもん。だから遠足と同じだから。遠足に苦労なんかないじゃん?遠足行く子供たちは“どう楽しもうか”としか思ってないでしょ?
――どこでこのおやつを食べようかな、とか。
所ジョージ:お小遣いを500円余計に持っていこうかなとか。先生に見つからないようにどこに隠そうかなとか。もう、そういうことですよ。
――すべての曲は自然にできあがっていったんですか?
所ジョージ:そう。その後も余韻が残ってるから、レコーディングが終わった後も、まだ次の鉄砲を磨く作業と交差する間に4曲ぐらいできちゃった。だからね、次のアルバム『JAM CRACKER 3』ではこの4曲をアレンジして、音をたくさんくっつけて1曲を飽きない程度の10分強ぐらいにして、4曲で7千円ぐらいで売ろうかなと思って。
――は?
所ジョージ:「700円じゃないの? 10倍なの?」って言われたい。
――既に楽しんでますね(笑)。
所ジョージ:こうなったらタイトルは『10倍』(笑)。
――実際の曲作りは、詞先・曲先どちらなんですか?
所ジョージ:何でも初めの出だしは、口から出てきたその時の気分とニュアンスで、詞とメロディが決まりますよね。例えば「な~んだろな~」って言ったら「タ~ンタララ~」という曲になるし、その時の感情で「なんだろなっ!」だったら「タンダダダッ!」という歌になるよね。
――動物ですね(笑)。
所ジョージ:え、何が?
――曲の生まれ方が(笑)。詞も曲も渾然一体となって出てくるんですね。
所ジョージ:そう。原宿にチョコレートを買いに行った時に、10時ちょっと前だったからまだ売ってくれないっていう、洒落たチョコレート屋がありやがって。
――開店前ですから、それは普通の話で(笑)。
所ジョージ:いやいや、ビルは10時前からもう開いてるのよ。その1Fの扉のところにチョコレート屋があるの。ビルは開いているんだから同じにしろよと思うわけ。扉は開いているのに「10時からでございます」なんてしゃちほこばったスーツ着てるヤツが言ってくるわけ。「お客様、皆さまそちらでお待ちになっておりますから、おコーヒーを飲んでお待ちください」みたいなこと言いやがって(笑)。
――もう並んでるんですね。
所ジョージ:ただチョコレート買いに行っただけなのに“ふざけんなよ”って思っちゃって、「いらねーや、バカ!」って、帰ってくる時に“チョコレート買いに行ったのに! チョコレート買いに行ったのに!”って思うでしょ。
――すごい欲しがってるじゃないですか(笑)。
所ジョージ:欲しがってるんだけど腹が立ったから帰るじゃないですか。首都高を飛ばしながら「チョコレート買いに、チョコレート買いに」って言ってたら、もう「チョコレートを買いに」っていう音とメロになっちゃって、首都高を用賀で降りる頃には1曲できあがっちゃってる(『DISH』6曲目)。
――チョコレートよりもいいものを手に入れましたね。
所ジョージ:そういうこと。そういうことですよ(笑)。
――そこで普通にチョコレートを買っていたら、よっぽど美味しくない限りそんなパワフルな曲は生まれなかったでしょうね。
所ジョージ:そうね、自分が動けば何か物語があるから歌はできますよ。たくさん暮らしてれば、たくさん歌ができるよね。
――所さんに限らず、普通の人もそうやって曲は作れるのかな?アウトプットの仕方がわかってないだけで。
所ジョージ:みんなは階段を登って…例えば音大に行ったり、自分独自の階段を見つけると、それに頼ってそれを登っていくじゃないですか。だから行き詰まるんじゃないですか?
――世の中では、それが正当な道筋だということですけど。
所ジョージ:みんなが階段を登っているから、みんなで集まってちゃんと音楽業界が成り立っているんだよね。だけど私のところは違う…だから、うちがやっているのは音楽のジャンルじゃないんじゃないの?カミさん曰く「あんたの詞は歌にする必要ないんじゃないの?」って言うもん。
――やっぱり女性は冷静に見てますね(笑)。
所ジョージ:ほんとですよ(笑)。「それは何なの?」って。「だからこれをわざわざ詞にしてるから、歌にしてるから面白いんじゃないかよ。くすぐったいんだよ、これが」って言いながらやってますけどね。
――そして「はいはい」って軽くあしらわれる。
所ジョージ:そうそう。「はいはい、はい、わかりました、どうぞどうぞ」って(笑)。「これ、700円で売るんだよ」って言ったら、「えぇ?700円で売るの? あげるんじゃないの?」って言ってた。「あげりゃいいじゃん、こんなの」って(笑)。
――女性の生命力って凄いなあ(笑)。
所ジョージ:うん(笑)。「そう言われりゃそうだな、あげてもよかったかな…んな、ふざけんなバカヤロー」って。
――あははは。
所ジョージ:でも、レコーディングしてる時のスタジオはほんとに楽しい。僕は家族がいるから夕飯食べに家に戻ってきたりするのね。スタジオににずっといたいのに、夕飯食べに帰らなきゃなって言ってやっているんで、生活っぽくて楽しいね。スタジオってよくみんなでこもってやったりするじゃん?あんなもん楽しくないよ。こもりたいし、朝までだってできるけど、いやいや、夕飯食べに帰るんだよ、という毎日の生活がすごく楽しいんだよ。
続く
取材・文・撮影:BARKS編集長 烏丸哲也
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