【インタビュー】全力の自由人・所ジョージの奇天烈人生訓『JAM CRACKER』Vol.1/4
多趣味・多芸・多才で知られる所ジョージだが、そもそも彼のキャリアのスタートは音楽にあり、れっきとしたシンガーソングライターのひとりである。
創意工夫の人生を全力の自由人として闊歩する人物ゆえ、多面的なタレント人の印象が強いものの、彼の作る音楽には、甘みとしょっぱさとビリっと痺れる毒気がいつもたっぷりと仕込まれている。ふざけた視点と、どうでもいいことをそのまま歌ってしまったような屈託のないテーマが全面に踊り出るが、その目線の切れ味は異様に鋭かったりするから、たちが悪い。
わざわざ自主レーベルを立ち上げてのアルバム発売、しかも2枚同時リリースで、フルアルバムながら1枚700円+税という人を喰った価格設定が敷かれている。この人は何を考えているのか。目的は何なのか…というか目的はあるのか? 音楽が売れないと嘆かれている今、唐突にアルバム2枚をリリースする真意は? 本人に直撃すべく、BARKS編集長自ら世田谷ベースに乗り込んだ。
全4回にわたってお送りする当インタビュー、軽快な語り口調から覗かせる核心のキーワードを存分に楽しんでいただきたい。
◆ ◆ ◆
■頑張れば誰でもできる
■そんなものには興味ない
アルバム2枚全29曲という怒涛の制作意欲、700円という儲かるはずがない価格設定、そもそもレーベルの立ち上げ、半径2mの出来事を綴った曲の意味…と、訊きたいことは山ほどある。さてどこから話を切り出そうかと身構えていると、「ま、今、お茶とコーヒーを入れているから」と、しょっぱなから世間話モードに突入、そのまま雑談が始まった。「所さんは、スマホでどんなアプリ使ってます?」なんて与太話から、次第に音楽サイトとしてのインタビューへ“じわーっとフェイドイン作戦”で取材は幕を開けた。
――アプリ、あんまり使わないんですね?
所ジョージ:なんていうんだろう、ピンとこないんだよね。入れているけど使ったことない。
――必要に迫られていない、ということでしょうか。
所ジョージ:いや、面白味ですよね。理に適ってない遊びはいくら先端だって言われてもなんかピンとこないんだよね。
――初期の頃にあった「ひたすらバナナの皮を剥くだけ」とか(笑)、くだらなすぎて面白いもののほうが…。
所ジョージ:そっちのほうがまだ面白いよね(笑)。でも私はね、ゲームとかに夢中になんないんだよね。
――そうなんですか?
所ジョージ:もともと、人が作ったものを解読していくみたいな作業には意味がない。…みたいな(笑)。
――テニスゲームやブロック崩しなど、テレビゲームの登場は1970年代の社会現象のひとつでしたよね。
所ジョージ:あれもやらないね。
――周りのお友達は?
所ジョージ:やってましたよ。ただ、あれが上手くなってもねぇ。階段昇っていけば誰でも行けるようなところは登らないんだよね、私はそういう性格。「ずーっとやっていけばこなせる」みたいなものには興味がない。だって、それってみんなができるでしょ。
――むしろ「ここは誰も登らないだろう」というところを登り出す?
所ジョージ:そうそう。だから階段のないところのほうが面白い。それは昇り着かないんですけどね。でもやってる行為が面白いんで、そっちに行っちゃいますよねぇ。
――登っている様子を、「あいつバカだなー」って誰かに見られてるんですか?
所ジョージ:見られてもいない(笑)、だから単なる自己満足だったりする。でも、それは「無駄じゃない」んだよね。自分への刺激になるんで、他のものに置き換えられる。
――何かのスキルは溜まりそうですね。
所ジョージ:溜まるんですよ。今も起きて、朝から鉄砲を磨いているんですけど、磨くために1回全部剥離してっていう作業が大変。で、その後平面を出す作業が大変。で、それを1回錆びさせて、錆びさせるとぐしゃぐしゃになっちゃうんだけど、それをまた磨くっていう作業をするんです。
――誰に頼まれてもいないのに(笑)。
所ジョージ:頼まれてないし、商売するつもりもない(笑)。ピカピカしているおもちゃの鉄砲を作るために、すごい遠回りをしているわけ。
――「やっていること、おかしいぞ」って、さとしてくれる大人は周りにいないんですか?
所ジョージ:いない。逆に「お前もやれ」みたいな。
――ひどい(笑)。でも、巻き込まれたスタッフもなんだか嬉しそうで。
所ジョージ:“なんだこれ。これ残業かよ”みたいな。頼んだわけじゃないですよ。「君のものを作りなさい」と渡してあげて、「これは君のものだから、自分のものを作ってみなさい」と。
――一から十まで遊びですね。
所ジョージ:鉄砲磨きをやり出すと、みんなやり出しますよね。で、1回全滅みたいなことにもなるんですよ。こんなに錆びちゃったらもうダメだろう、みたいな。
――時間も浪費しますね。
所ジョージ:する。仕事終わって夜8時から12時までずっと磨いて、朝6時に起きて仕事が始まるまで、ずっと磨いてる。そうやってできあがった鉄砲を適当に並べておくと、どんどんできあがって溜まっていく。その様はアルバムを作ってるのとまったく同じですよね。
――なるほど。
所ジョージ:まったく同じ手順。1回台無しにして磨きこんで輝かせるっていうのは、鉄砲も曲も同じ手順だよね。だから歌を作ってても、詞もメロディもスムーズに終わっちゃうとなんかつまんないよね。スムーズに終わらないものを作って、なんとか皆さんの耳に残る心地悪くない程度のところまで磨き込まなきゃっていう作業ですよね。メロディラインはいちばん磨き込むかな。詞は、もともと変わった表現をしたいとか、変わった言葉、使わないような言葉を持ってきたいっていうのがずっと昔から…デビューした頃からあるんで、もうそこは40年ぐらい培ってるから、そんなに大して磨かなくても出てくるけどね。
──ミュージシャンとしての話がやっと出てきました。
所ジョージ:メロはスムーズに終わっちゃうと「ああ、こんなんじゃもう全然面白くない」みたいな気がするね。1回台無しにして、すごくちぐはぐなものを作って、ちぐはぐでなんとかここが繋がらないのかなって、無理矢理な作業をするんだけど、それはもう磨きこんでいくのとまったく同じ。
■ビジネスとしては完全に破綻している
■だから面白い
――音楽の話になったところで、ひとつずつ整理したいんですが、そもそも今回レーベルを立ち上げたとのことですけど、この期に及んで何故?という素朴な疑問がありまして。
所ジョージ:別に、僕はレーベルは無くてもかまわない、それは別に気にしてないんですよ。このレーベルなんだからみんなも入ってこない?とか…まあ多少そうなってくれば面白いけど、そんなに気にしてないんですよ。とにかくなんていうかね、バカなアプローチというか、とにかく安くCDを出したいっていうところかな。歌なんかこんなもんなんだっていう表現をしたい。
──ほお。
所ジョージ:権利とかセールスを意識して歌を作ったりとか…なんだろうね、やれレコード会社が違うと一緒に演れないとか、そういうのがもう不自由な感じがして。これの前のアルバム(『コケコッコゥ!!~七色の声色~』)に、じゃあ内緒で歌えばいいじゃんっていう大人げないことをやって、○○くんとか□□さんとかに歌ってもらって(註:編集部の独断顧慮により実名を伏せさせていただきました)。でもレコード会社が違うんで名前出せないから、私が歌ってコンピューターで作り直したと嘘ついてっていう大人の形を作って整えて出すわけです。それも面白いアプローチだなと、僕は思っていたんです。「いいじゃん、取っ払いで内緒でやれば」っていう。だから「決まり事があるけど、見て見ぬふりしようぜ、これは」っていうほうが、僕はより大人っぽいと思うんですよ。「決まり事があるけど、来いよ、いいや、やっちゃおうぜ」って。
――現実は、そういうところで世の中は動いていますからね。
所ジョージ:そうなんですよ。それのほうが面白い。だから今回のアルバムもそういうアプローチをしたくて、今回はできるだけ安く売っちまおうと。
――できるだけ安くっていう発想がイカれているなぁ。
所ジョージ:なんだろう…みんな歌を2千円とか3千円でアルバムを売ってて、僕は「価値ねえよ」って思ってるんですよ。
――ひどい(笑)
所ジョージ:「そんな価値ねえよ、お前らに」って(笑)。
――ぷ(笑)
所ジョージ:そうなんですよ(笑)。でも僕は、ベスト10なんか入ってこないのに、自分の歌にはめちゃめちゃ自信があるの。妙な自信があって「他の歌い手さんが俺を仲間に入れないだけだ」って、勝手に思ってんの。俺を仲間に入れちゃうと、音楽業界の順番とかいろんなものが崩れちゃうから、「あいつは入れるのやめようぜ」って言ってるんだと思っている。だから俺のこと、聴いて聴かないふりしてるんだ、と。
――私は、なんと返事をすれば(笑)
所ジョージ:ふ(笑)、ほんとにそう思ってるんですよ(笑)。で、変な自信があるから、すごい歳とって息絶え絶えの時、振り返って「ああ、俺面白かったね」って思いたいんだよね。だからそれの種まきみたいな話だよね。
――あそこであんなアルバム出したっけ、って?
所ジョージ:そうそう。700円のアルバムなんて多分誰にもできないんで。そういうのを作りたかったんですよね。
――要するに、儲けるつもりは微塵もないんですね。
所ジョージ:うん(笑)。それ、3千円で売ったらもうとっくに儲かってますよ。
――「俺は700円で出したい」というアーティストの自己表現は理解できるんですけど、レーベルオーナーとしてはそれはナシでしょ? 矛盾してますよね。
所ジョージ:ああ、そうですね。うん(笑)。
――ビジネスマンとミュージシャン、それぞれの顔で語っていただくとすると…。
所ジョージ:後が楽しいんですよ。「あ!これ、一応はビジネスなんじゃん」って気付いた時、「これじゃ成立しないじゃん!」って、後で言うのが面白いわけ。
――それはひどい(笑)
所ジョージ:「成立してないじゃん。出だし間違ってんじゃん」って(笑)。「やっぱり3千円で売らないと利益って出ないね」なんて言っているのが面白いよね。それはお金に代えられないんですよ。例えば1万枚~2万枚売れて3千円で売っていれば3千万円~6千万円の売上がありました、と。で、車を2台買いましたと。…そんなの大したことないじゃん。
――普通のビジネスですかね。
所ジョージ:普通のビジネスで刺激がない。
――何を求めてやっているんでしょうか。
所ジョージ:例えば入ってきた2千万円というお金は、結局使うわけでしょ?でもね、2千万円~3千万円じゃ、こんな面白いことはできないよ。
――なるほど、そういうことか。
所ジョージ:だから(お金は)使っている感じがするんですよ。例えば、うちに北野(武)さんが遊びに来るっていうのは、言い方変えれば北野さんに来てもらって1日拘束するわけだよね。僕が知り合いじゃなかったら500万円ぐらいかかると思うと、500万円使った気持ちになれる。僕はね。
――ほう。
所ジョージ:だから年間に何億円も使っていると思えるよね。ただ知り合いだからそれが無料になってるだけで、知り合いじゃなかったら何億円も使っているわけだし。歩道橋を渡っただけでも、誰も渡ってなければ国が俺の為に何億も使ってこれを作ってくれたって思えるからね。
――それはいいな(笑)。
所ジョージ:みんながその歩道橋を使っているんだったらそうじゃないけど、みんな使わないからさ。あれは階段を登りたくないんだろうね。
――そこで、わざと登るタイプ?
所ジョージ:そうですね。誰も使ってないから、俺の為に国が作ったことになる。で、「もうみんな使っていいよ、俺はもうこれをほっとく」っていう気持ちで歩道橋から去れるっていう。それだけでも楽しいよ。みんなね、お金が手元に来ないと儲かった感じがしないし、それを使った時にお金を使ったっていうんでしょ? いやいやいや、お金がなくてもそう思えるから。
――いい話ですね。幸せを得られるヒントがありそうな気がします。
所ジョージ:いや、ほんとにそうですよ。お金がなければ楽しくないっていうのはだいたい皆さん思っていることで、確かにそれもあるんだろうけど、価値観というのは自分のいる状況次第だからね。いつどこ行っても同じ価値観で暮らしてるから、皆さん不幸になっちゃう。例えばね、アラブに行ってぽっつりひとりになっちゃった時に「あ、水が飲みたい」となったら、水がいちばんの価値観になるわけじゃないですか。溺れてる人にとっちゃ「水どうぞ」って言われたってバカヤローと思うわけでしょ? それぐらい水に差があるわけじゃない?
──確かに。
所ジョージ:お金があったって砂漠じゃ使えないし。社会があってお金が動いているんだから、社会を乱してお金を儲けてどうするんだっていう。社会がなかったらお金に意味はないんだから、社会を乱す行為はお金の価値観をなくすことだよね。どこ行っても同じ価値観なんで、みんな不幸になっていっちゃうんじゃないかなと思う。僕なんかは朝起きた時からずっと幸せですよ。
――とてもいいお話ですが、僕が聞きたかったことってこういう話なんでしたっけ…
所ジョージ:うひひひ(笑)。レーベルビジネスなのに、なんでそのビジネスをちゃんとやらないんだってことでしょ? みんなで企画会議して「これはやっぱり2400円だ、いくら安くても…」とかね。それはしないほうが面白いってこと。700円って、これでも考えたんだよ。はじめ500円って言ってたんだもん。「ダメだよ、送料とかあるんだから」とか、いろいろ考えてじゃあ700円だなと。
――やっと出たレーベルオーナー発言?(笑)
所ジョージ:ただね、消費税がつくっていうのを忘れててね。「ありゃ、56円もつくのか、半端だなぁ」って。
――8パーセントって大きいですよね。
所ジョージ:で、その56円がね、国の方が僕より利益があるってのが、これまた面白い(笑)。それでいいのか?っていう。
――あはははは。それでいいんでしょうか。どうなんですかね。いいはずないですよね。
所ジョージ:だから思うんですよね。八百屋さんがたくさん買ってもらった時に「きゅうり2本、おまけだよ」ってあるでしょ?この700円のCDなんて、もうおまけのようなものですよ。そのおまけに消費税つけんなよって思うね。
――確かに所さんの売り上げではなく利益の部分に消費税を付けてほしいですね。
所ジョージ:そう、全体の値段に消費税つけるんじゃねえよっていう、ヒドいよね。ヒドい(笑)。大人なんだからわかるだろっていう(笑)。利益につけろよとか思う、ほんとに。利益の半分を持っていかれるんだったら、もうそれでもいいですよ。ほんとに、面白いわ。
――ビジネスとしては完全に破綻していると。
所ジョージ:だから面白いじゃないの(笑)。
続く
取材・文・撮影:BARKS編集長 烏丸哲也
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