【インタビュー】スラッシュ「俺は常に俺のままだ」

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2014年9月にリリースされたスラッシュの最新アルバム『ワールド・オン・ファイアー』が素敵だ。べつに目新しい音楽に挑んでいるわけでも、意外性を伴っているわけでもなく、むしろ彼らしいとしか言いようのない作品なのだが、全体を支配するバンド然とした空気は2012年発表の『アポカリプティック・ラヴ』とは比較のしようもないほどだし、アルター・ブリッジのフロントマンでもあるマイルズ・ケネディとのコンビネーションについても、もはや“相性が良い”といった次元ではなくなってきたという印象だ。

◆スラッシュ画像

そんなスラッシュが先頃、プロモーション来日していた。僕が彼と向き合ったのは10月7日の夕刻のこと。目の前にいるのは、スラッシュという名前を聞いたときに誰もが想像する姿に100%忠実な彼。とはいえ、そのオーラは人を寄せ付けない類いのものではない。これまで幾度も彼とは話をしてきたが、目を合わせた途端にニコッと微笑みかけてくれる親しみやすさは、1988年の初来日当時から少しも変わっていない。たくさんの取材を受けてきて疲れているはずだが、この日は僕のインタビューが最後の仕事であるらしい。

――忙しそうですね。きょうはこのインタビューが終わると解放されるそうですが。

スラッシュ:いや、実はこれの後にファンのインタビュー(東京・八重洲にあるギブソン・ショウルームでのファンとの交流イベント)があるんだ。

――いちばん手厳しい人たちと話をするわけですね?(笑)

スラッシュ:いやいや、いちばん気楽なインタビューだよ(笑)。

――今回はニュー・アルバムに関わる取材をたくさん受けてきたはずですけど、おそらく大多数の反応はポジティヴなものですよね?

スラッシュ:うん。なかなかいい感じだよ。そんなふうに訊いてくるってことは…もしかして何かネガティヴなことを言おうとしてる?(笑)

――いえいえ、そんなことは。

スラッシュ:みんなこのアルバムを称賛してくれている。嬉しいことにね。

――あなた自身も満足感をおぼえているはずですけど、その満足感の最大の理由はどこにあるんでしょうか?

スラッシュ:このアルバムについてはいくつかの重要なポイントがあってね。まずは俺たちがバンドとして同じ時間を充分に過ごしてきて、“心地好いゾーン”みたいなものに突入した状態にあるということ。というのも、前作というのはこの顔ぶれで初めて一緒に作ったレコードだから。もちろんあれもいい作品だったと思うし、ついこの前も聴いていたんだ。でも、前作では本当にグレイトという次元にまでは手が届いていなかったように思う。だけどこの作品では…たとえば、自分のギターについて自分で判断するというのも俺にとってすごく重要な作業だ。というのも俺は、サウンドにしろ何にしろ、自分が望んでいるものというのをわかっているからね。そこで重要だったのが今回、エルヴィスと一緒に仕事をしたことだと今では思っている。当初は誰にプロデュースを頼むべきかというのが自分のなかでも定かじゃなかった。でも彼と出会って話をして、とても楽しい会話ができてね。それで一緒にやるようになった。そこで俺が気付いたのは、俺が築き上げようとしてるものを彼が理解しているということだったんだ。つまり、俺が望むことは彼の望むことでもあった。それが何より好都合だったね。

――エルヴィスというのは、プロデューサーのマイケル・バスケットのことですよね?

スラッシュ:うん。エルヴィスが彼のニックネームなんだ。

――それはわかってます(笑)。その理由を知りたいんです。エルヴィス・プレスリーに似てるんですか?

スラッシュ:彼のルックスと関わりがあるとは言っておくよ。あれほど立派なモミアゲはないんだけど、本人いわく、何年か前はもっとそれっぽかったという話でさ(笑)。

――なるほど。とにかく、このバンドが本当にバンドになったこと、そしてそのバンドの理解者を得られたことが、今作の制作においては大きかったわけですね?

スラッシュ:その通り。本当にバントとしての効力を発揮するようになっている。サウンドはブレント(・フィッツ/Dr)とトッド(・カーンズ/B、Vo)のリズムを基盤にして成り立っているし、マイルズとトッドのボーカルがすべての上に乗る。そういった各々の要素が、しかるべきバンド・サウンドというものを成立させるんだ。ギターの音なんて、さほど重要じゃない。

――ええっ?

スラッシュ:あはは!


――からかわないでくださいよ(笑)。本当に“バンド”になったなというのは、アルバムを最初に聴いたときに感じさせられましたよ。同時に改めて感じたのはマイルズの存在の大きさ。あなたと対等に渡り合えるボーカリストになんて、なかなか出会えるものじゃないわけで。

スラッシュ:うん。2010年に彼と初めて会って一緒にやったとき、即座にケミストリーが生まれたんだ。それは本当にバンドとして本質的に必要なものさ。俺がどんなにすごいかとか、他の誰かがどんなに卓越しているかではなく、その場で誰かと誰かの間にスパークが起こること。誰もが音楽を作るときに“いい音”を目指すはずだけど、サウンドがどんなに良かろうと、そのスパークがないと何も始まらない。お互いをインスパイアし合うものがないとね。だけどここでは、それが最初の瞬間から起きていたんだ。俺の場合、作曲パートナーを問わないところがある。俺はどんなものでも自分なりに書くからね。だけどマイルズの場合、彼もまた彼なりのメロディを持ってくる。だからこうして作品が多様さを伴ったものになるんだ。俺はさまざまなアイディアを躊躇なくこの場に持ち込めるし、彼も彼でそれに応えてくれる。とてもナイスでクリエイティブな環境だといえるよ。トッドとブレントについても同じことだ。「こんなアイディアがあるんだけど」と言えば、そこに彼らなりに乗ってくる。だからある意味、これは俺にとってイージーなレコードでもあった。確かにハードに作業してきたけど、とても楽しい時間を過ごしてきたよ。この作品を仕上げいく過程で、もがくということは一切なかったな。

――イージーなんて言い切れるのはすごいことですよ。途中で立ち止まる必要もなく、一気に作れてしまったわけですね?

スラッシュ:うん。とても速かったよ。作曲のプロセスはとてもカジュアルだった。俺の場合、ロード中に書くということも長くやってきているからね。ギターを弾きながらリフとか何らかのアイディアが出てきたときは、いつも携帯電話で録音しておく。ツアー中に、ライブを終えて疲れていても、気が向けばいつも携帯に向かってプレイしているわけさ。で、ツアーを終えて家に戻ると、2週間ほどのんびりして、それからツアー中に録音したすべてのアイディアを聴きながらベストなものを引き出していく。よく憶えてるものもあれば、存在を忘れているものもある。で、そのアイディアをもとにしながらブレントやトッドとのジャムが始まるんだ、俺の家でね。大まかなアレンジをしながらデモを録る。すると、マイルズがアルター・ブリッジのツアーを終えて合流する頃には、15~17曲くらい揃っていた。そこでマイルズがボーカル・メロディを変えるものもある。そんなふうにとてもカジュアルに、偶発性を楽しみながら曲作りをしてきたんだ。そして入念にプリプロダクションの作業をする。毎日みんなで、曲をモノにするまで徹底的にリハーサルを重ねていくんだ。だから、いざ本番のスタジオに入ったらそこで一気に爆発させればいい。そんな感じで作ってきたものなんだ。

――これは答えがわかっていて敢えて訊くことなんですけど、近年ではプロトゥールズとかのテクノロジーのおかげで、ジャムやプリプロを入念にしなくても完成度の高いものが作れる時代になっています。だけどそれがあなたを助けてくれるわけじゃないということでしょうか?

スラッシュ:いや、プロトゥールズはグレイトだよ。近年紹介されてきたテクノロジーのいくつかは道具として素晴らしい。ただ、そこに必要以上に依存してしまってはいけない。たとえば今や、プロトゥールズを使えば演奏の仕方を知らなくてもOKというような状況になってきている。勝手に適切なパートを作り出してまとめてくれてしまうからね。俺は、それがいいとは思わない。俺は、バンドが一緒にプレイすることで生じるダイナミックスというものを得られるようでありたんだ。だからこそ徹底的にリハーサルする。それによって、実際のレコーディングのときには3~4回録ってそのなかからベスト・テイクを選べば済むようになる。ロックンロールはそうあるべきだと思うんだ。EDMとかケイティ・ペリー的なポップ・ミュージックの大半についてはそうじゃなくてもいいだろうし、プロトゥールズまかせでもいいだろう。だけどロック・バンド、ブルーズ・バンド、もしくはジャズをやる場合なんかは、ミュージシャン同士の内的干渉というのが欠かせない。そうでないと、しかるべきダイナミックスが生まれてこないからね。

――機械で勝手に繋ぎ合わされた音楽が、もしかすると量的には主流になっているのかもしれません。今はまだいいのかもしれないけれど、いつかそうした音楽の作り手がロックンロールの殿堂入りでもすることになったら、確かにちょっと嫌かも。

スラッシュ:ああ、確かに。起こり得ることだよね。まあ、それ自体はクールなんだ。俺だって家でプロトゥールズは使う。デモを作る場合なんかはね。録音のあり方をシンプルに、イージーにしてくれるわけでさ。同じ場所で同時にセッションできないときは、それを使って録ったものをみんなに送ればいいわけだから。だけどレコーディング本番ではリアルさを求めたいし、むしろテープに録ることを選びたいんだ。で、クールだなと思うのは、いまどきの若いやつらの多くがアナログ・サウンドの良さを再発見しているということさ。だからまたテープが生産されるようになってくる。なにしろヴァイナル盤が売れるようになっているんだからね。それは大切なことだよ、若い世代にそうしたテイストを受け継いでいくうえで。この業界で良くないなと思うのは、どんな方向に向かうんであれ、ひとたび世の中的な方向性が定まってしまうと、そのやり方だけになってしまいがちな傾向があること。古いやり方にも素晴らしいものがあるなら、それをないがしろにする必要はないだろ? キッズが歴史を遡りながら、素晴らしいサウンド・クオリティをもたらす録音方法を学んだり、素晴らしいクオリティのアーティストを知ることというのは歓迎すべきことだよ。実際、彼らが聴いて育ってきた過去25年ほどのコマーシャル・ミュージックというのは、そんなにもグレイトなものばかりではないからね。


――テープという言葉が出ましたけど、今回のアルバムは実際、テープで録られたんですよね? ちょっと驚きでもあったんですが。

スラッシュ:だろ?(笑) 重要なプロセスだった。ベースもドラムもアナログで録ったほうが音がいい。より温かな音になるんだ。ギターについてもそれは同じ。それがテープを使う最大の理由だな。同時にそれは、儀式的なものでもある。スタジオでプレイして、それをテープに録るってことは、つまり細かい編集はできないってこと。自分のパフォーマンスがそのまま録られる。演奏のできるミュージシャンであれば、それを堂々とやれるラインに達していたいと思うはずだ。「俺は駄目な野郎でろくにプレイできないから手直ししておいて」と言い残して家に帰るんじゃなくてさ(笑)。

――テープで録ったほうが温かみがある。よく聞く言葉ですけど、デジタルとアナログの音の差って、曖昧な言葉で形容されがちだと思うんですよ。温かみとか奥行きとかオーガニックさとか。実際、具体的に明らかな違いというのを確信しているんですか?

スラッシュ:そうだな……。まず俺は、デジタルのクオリティというものは信じているんだ。デジタルの音というのはある意味どこか金属的で、パキッとしている。それがデジタル・ミュージックの特徴だと思う。だけど、たとえば古いローリング・ストーンズのレコードをiPodで聴くと、そりゃあ酷いもんなんだ。それが、デジタルがどういうものかを示してると思う。テープで聴くと、よりリアリスティックというか、マイクロフォンを通じて録られた音そのものがスピーカーから聴こえてくる感じなんだ。しかもアンビエンスを取り込みながらね。技術的な意味においてどういった具体的な差が生じてるのかを言うのは俺には難しいけど、とにかくテープ、アナログのほうが、自然なサウンドが録れるんだよ。最近ではプラグインでアナログ的な音を模造するという手法もあるじゃないか。おかしな話だよね。このままでいくと、いつか誰もがデジタルの手法でアナログ的な音を録るようになる(笑)。だからべつに、俺がテープで録ったのはレトロなことではないんだ。それを目指したわけじゃない。レトロな音を目指したわけじゃなく、ナチュラルなサウンドを欲してたからこそなんだ。楽器本来の、あるべき音で録りたかった。オーケストラとかについても同じことだと思う。ヴァイオリンにしろチェロにしろ、やっぱりテープで録ったほうがその楽器本来の音で録れるはずだよ。

――仮に将来、誰が弾いてもあなたと同じ音になる“スラッシュ”というプラグインが開発された場合、それでも誰にも真似できない部分があるとすればどこだと思いますか?

スラッシュ:いや、もう似たようなものがあるんだよ。プラグインのモデラーでスラッシュ・ヴァージョンを作れるようなのがね。とはいえ、そういった触れこみほどまったく同じ音になるわけでもない。まあ、それが俺をウンザリさせることはないよ。俺は技術者じゃない。エンジニアでもないし、学校で学んできたわけでもない。すべては経験から来てるものなんだ。大事なのはそこだよ。長年にわたって自分で聴いて、たくさん弾いて、身に付いてきたものだ。デジタルの有用性は認めるけど、そうやって誰かが身に付けてきたものを完全にコピーすることはできないはずさ。プラグインというのは、たとえばレスポールを本物のマーシャル・アンプに繋いで鳴らすとどういう音になるのかを知らない人たちとかには参考になるだろう。それをプラグインで試すことによって、頭に描ききれなかったものを想像することができるんだからね。だけどロック・ミュージックを志している人たち、自分自身の音楽を確立させようとしているミュージシャンたちは、そういう道具を使う前に、自分のトーンを見つけることに専念すべきだと思う。なんでもショートカットすればいいってものじゃないと思うんだ。

――入門者や初級者がヒントを見つけるうえでは文明の利器を使ってショートカットするのもいいだろうけど、それで個性が確立されるわけじゃないということですよね。

スラッシュ:練習するにはいい道具だ。だけどそこに頼っていては自分の音が確立できないよ。たとえばナイン・インチ・ネイルズのようにシンセティックな音、生の楽器のリアルな音でやることが必然じゃない音楽をやりたい場合は、話が違ってくる。だけどアンプを鳴らして自分の音を出したいと思うなら、自分の依存できる楽器や道具についてはできるだけシンプルな選択をすべきだと思う。結局、何にでも表と裏があると思うんだ。いい面を見ようとすれば、とにかく便利に手っ取り早く、それらしい音で録音することができる。それが作業を円滑にしてくれることもあるはずだよね。だけどその裏側を見てみると、誰もがその便利さに依存するようになると、ホンモノのミュージシャンとして自分のサウンドを確立することの重要さが忘れ去られてしまうという危険性を孕んでいたりもする。それは、独力でなんとかして手に入れるべきものだ。それがすべてのリアルなミュージシャンにとって重要だと思う。

――その通りだと思います。そして実際、このアルバムはリアル・ミュージシャンたちが作ったものだというのがわかる作品だし、それが若い世代にも伝わるはずだと思います。

スラッシュ:ありがとう。とはいえ俺は「おまえはこうすべきだ。おまえはそっちじゃなくこっちを目指せ」みたいなことを言いうような立場ではありたくない(笑)。だけどこれは、確かにそういう昔ながらの方法で録られたアルバムだし、それを聴いて気に入ってくれるキッズがいてくれるなら嬉しいよ。こういった話は最近よく出てくるんだ。デイヴ・グロールとも似たような話をしたばかりだよ。レコーディングのプロセスというものが近年は目まぐるしく変わってきている。そこで音のクオリティにどんな差が生じているのかということについて、俺たちみたいな人間は確証を持てなければならない。そこは各々のミュージシャンがジャッジできなければならない部分だからね。


――ええ。ところで冒頭でちょっと話にも出ましたが、この後あなたは幸運なファンたちと交流の場を持つことになるわけですよね。ファンと話をするのってどんな気分ですか?

スラッシュ:ある時代よりはずっとファンとの交流を持ちやすくなってるよね。それはありがたいことだと思っているよ。関係性を保ちやすくなっている。ツイッターとかのソーシャルメディアを通じてメッセージをダイレクトに発信して、それをファンに知らせることも簡単にできる。それはすごくクールなことだ。だけど、ときにはファンと直接会える機会というのも持ちたいんだ。敷居の高い感じじゃなくてね。昔はミュージシャンに関することなんて、雑誌の記事やポートレートでしか知ることができなかった。だけど自分の好きなミュージシャンがどんな人間かという部分に触れられる機会があるというのは、とても貴重だと思う。

――演奏するんであればともかく、話をするとなるとある種のぎこちなさが生じたりする場合もあるんじゃないですか? というのも、ファンのなかにはあなたに関する特定のイメージというのがあるし、それをある程度以上は守らなければならなかったりするわけで。

スラッシュ:言いたいことはわかる。普段の俺がやるのは、せいぜいショウの後でサインする程度のことだからね。だけど…俺は俺だからどうしようもないよ(笑)。他の誰かになりきることなんてできないし、本当の自分を偽ることもできない。俺は常に俺のままだ。ステージ上でプレイしてるのも俺だし、そこが最重要な唯一の部分でもある。ファンが俺のことをどんなミュージシャンだと捉えていようとね。だけどステージを降りたときの自分はさらに自分らしくあるべきだし、そこに線引きみたいなものを設けているつもりはない。自分のイメージを築き上げようとする必要はないんだ。ロックスターたちがかつてそうしたようにね。

――誰もがかつてそうしていたように?

スラッシュ:そうそう(笑)。いまどきはいろんなことが変わってきている。尊大なイメージ、近寄りがたいイメージを作り上げようとしたり、それを維持しようとすることは、もはやほぼ不可能になっている。誰もが簡単にどこにでもアクセスできて、驚くほど速く情報を手に入れられるようになっているからね。べつにじっくり調べ上げる必要もないんだ。クリックひとつで何もかもすぐにわかる。だけどとにかく俺は、正直であることがいちばん大事だと思っている。ファンの前でもね。

――ただ、あなたの場合、一音であなただとわかるギター・サウンドを持っているのと同時に、一目でスラッシュだとわかるルックスの持ち主でもある。そこでイメージのことを考えると、ちょっと違う恰好がしづらかったり、気分を変えて髪型を変えることができなかったりという不自由さみたいなものもあるのでは?

スラッシュ:いや、あの、俺は…多分こうじゃないと居心地悪くなると思う(笑)。

――ギターを抱えずにステージに立つのと同じことだ、と?

スラッシュ:それ、あり得ないよ(笑)。ステージに立つときにギターが必要なのと同じようにこのハットなんかも必要なんだ。人前に出て何かをするときの俺として、それが不可欠なんだよ。だから俺がシンガーをやるのは無理だな。目を閉じたまま、それをサングラスと目深に被った帽子で隠してプレイすると、ステージ上のエネルギーは感じられるけど、オーディエンスを見ることはできないから。ギタリストならともかく、シンガーの場合はそういうわけにいかないだろ?(笑)

――ええ。つまり帽子とかそういったものは、戦闘モードになるための鎧のようなものじゃなく、あなたがあなた自身であるために必要なもの、ということなんですね。

スラッシュ:うん。そういうことだ。闘うためのものじゃない(笑)。自分が心地好くあれるようにしているだけだ。


――よくわかりました。さて、今回のプロモーション来日でひとつだけ残念なのは、ライブの機会がないこと。11月にはヨーロッパ・ツアーも始まるようですけど、当然ながら、この素晴らしいアルバムに伴うジャパン・ツアーというのも計画されているんですよね?

スラッシュ:もちろん戻ってくるよ。2月に帰って来られるのをとても心待ちにしているんだ。というのも、これまでツアー然としたツアーというのを日本ではやってこなかったからね。だから次回はフェスとかではなく、きちんとツアーできることを楽しみにしているんだ。

――僕も楽しみにしています。そして最後に、“本物のミュージシャン”を志している人たちに向けて、何か激励の言葉をいただけませんか?

スラッシュ:いちばん大事なのは、ロックスターになりたいんであれ、将来アルバムを出したいんであれ、成功を手に入れたいんであれ、そのための特定の方法はないということ。とにかく自分の楽器の音を知り、練習し、いろんな音楽に触れて自分が本当に好きなものを見付けること、そして、それに忠実な方向に進むことが大切だと思う。あとは、多くの機会に関わろうとすること。それって楽しいことじゃないか。俺は、そういった動機を持ったすべての人たちを激励するよ。

取材・文:増田勇一
撮影:烏丸哲也




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