【インタビュー】KAMIJO、全7楽章の長編交響曲完成「音楽に国境はないと言いますけど、あるんです」
■一種の歴史“if”として明らかな矛盾は持たせたくなかったんです
■原作が出来上がった時点で、僕の中に曲はできてました
──それにしても今回の『Symphony of The Vampire』は組曲形式で、全7楽章28分超というボリュームに驚きました。
KAMIJO:もう少し短い予定だったのが、王様になるまでを描いたら長くなっちゃいました(笑)。第一楽章は史実からこの物語に続く大きな意味での粗筋で、第二楽章では幽閉されていたタンプル塔から連れ出される瞬間、母・アントワネットの処刑を目撃してしまうシーンを。第三楽章ではヴェルサイユやトリアノン宮で暮らしていた頃の思い出に耽るルイを描いています。そして第三楽章と第四楽章の間にヴァンパイアへの目覚めがあるんですが、その部分にあたるのがソロ第一弾作「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」なんですよ。こちらのミュージックビデオにManaさん(MALICE MIZERのリーダー)が登場していて、彼によってヴァンパイアにされるという設定です。
──つまり、一連の物語からヴァンパイアへの目覚めのシーンを抜き出して先行シングルとし、その前後の物語が『Symphony of The Vampire』で描かれているというわけですね。
KAMIJO:そうです。で、第四楽章はヴァンパイアになって青年になったルイが、自分をコントロールできずに人間を狩り続ける日々。第五楽章はもう一人のルイ=Ludwigとの物語になっていて、彼の正体は第四楽章の最後に入っている心臓に見立てたバスドラの音に続くフレーズや、物語をよく読んでもらえればピンとくるかと。
──この時代に生きている、とある実在の音楽家ですよね。
KAMIJO:はい。で、Ludwigはヴァンパイアであるのに、人間を愛してしまったがために血を吸わず、人間を愛した罰としてなのか?聴覚を失うんです。彼が語っている通り、“美しい旋律は血の代わりとなる”ので、人間を愛さないでさえいれば自分の奏でるメロディによって永遠に生きていられるのに……それが『Symphony of The Vampire』ということですね。
──第六楽章では、自分こそルイをタンプル塔から連れ出した人間であるとLudwigが告白し、第七楽章が物語の結末となりますが、そこでルイの選んだ行動があまりにも悲しいもので……。
KAMIJO:ただ、おかげでフランス王家の墓所であるサンドニ大聖堂で、歴代の王に並べたわけですから。それに、本当に悲劇的なエンディングかどうか? 物語をよく読んでいただければ、隠れたメッセージにも気づいていただけると思います。
──そのへんは各自で想像していただくとして。これだけの長さのシンフォニーを書くとなると、いかに壮大な楽曲を得意とするKAMIJOさんとはいえ、かなり時間がかかったのでは?
KAMIJO:それが全く時間かからなかったんですよ。ストーリーやキャラクターが明確だったので、それを音楽にすること自体は簡単だったんです。歌入れも普段よりスムーズで、1テイクで終わることも多かったですね。ただ、そこに到るまでの原作作りには時間がかかりました。文献を調べたり年表を書いたりした上で、物語と史実との整合性を取るのが大変で(笑)。重要なモチーフとなるルイ17世の心臓が置かれていた場所も、200年の間にコロコロ移動してますからね。もちろんヴァンパイアが出て来る時点でフィクションなんですけど、一種の歴史ifとして明らかな矛盾は持たせたくなかったんです。だから原作が出来上がった時点で、僕の中に曲はできてました。冒頭から登場するテーマメロディも、歌詞を付けて歌うのは第7合唱のクライマックスだけとか、そこはこだわりましたね。
──それにしてもサウンド的にはメタルを軸に、これだけシンフォニックかつテクニカルな楽曲が28分ぶっ続けとなると、さすがに演奏される楽器陣は大変だったでしょうね。
KAMIJO:いや、それをサラッとこなしてしまうメンバーだったんですよ。山崎(慶)くんはDEAD ENDでも叩いている若手No.1ですし、ベースのJu-kenさんもVAMPSで物凄くアグレッシヴなステージをされている。摩天楼オペラのAnziに関しては元々レーベルメイトなんですが、彼のギターはオーケストレーションとの混ざり方が本当に綺麗なんですね。しかも28分もあるので譜面もメチャクチャ長いし、実質7曲分なので、普通なら数日かけてレコーディングするところですが、全員1日で録ってもらいました。やっぱり、あくまでも一つの曲なんで、音を変えたくなかったんです。
──日を分けて録ると、どうしても音の肌触りが変わってしまいますもんね。
KAMIJO:そんな注文も難なくこなしてくれて、流石だと思いました。生ストリングスのチームの方々も、譜面が長すぎて事前に全てをお渡しすることができなかったので、物凄い速弾きを初見で弾くような状態だったんですよ。それが完璧なテイクですから、本当にヤバかったですね。
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