【2014年グラミーコラム】さらけ出した「個人のリアルな生き様」 歌詞が秀逸な「年間最優秀楽曲」
「最優秀レコード賞」は演奏者(アーティスト)と制作チームに贈られるもので、「最優秀楽曲賞」は作詞者・作曲者に贈られるもの。同じシングル曲を対象としていながら似て非なる2部門だが、要するに最優秀楽曲賞は「その年最も印象的な良いメロディと良い歌詞を作った人に贈られる」と思っておいて間違いはなさそうだ。とはいえ日本人が普段洋楽を聴く時に歌詞の内容が話題になることはそれほどないので、ここでは歌詞にスポットを当てて、今回のノミネート5曲を紹介してみることにしよう。
まずはピンクfeat.ネイト・ルイス「ジャスト・ギヴ・ミー・ア・リーズン」。テーマは“すれ違う愛情"といった感じで、ファン.のボーカルのネイト・ルイスとの掛け合いで互いの心の中を打ち明けあうという、せつなさ満点のラブソングだ。“私たちは壊れてはいない、ただBENT(曲がる)してるだけ”と歌ったあと、“もう一度愛することを学べるはず”という決め台詞につなぐ展開が秀逸で、歌詞がわかればさらにグッとくるはず。愛についても人生についても常にポジティヴな楽曲を歌い続けてきた、ピンクらしさ全開の楽曲だ。
ブルーノ・マーズ「ロックド・アウト・オブ・ヘヴン」。“天国から閉め出されていた”という表現は何かというと、それは“今、君と一緒に天国にいるみたい”という逆説的な表現で、“君がそう感じさせてくれたんだ”という殺し文句付きの熱烈な求愛ソング。あからさまに“SEX”という言葉が使われているのが特徴で、それでいてどことなく敬虔なムードも感じさせる“愛と性の讃歌”というのは言いすぎか。ブルーノのまっすぐで情熱的な歌い方ゆえ、きわどい歌詞も違和感なく聴けるのがポイントだ。
ケイティ・ペリーが2013年ツイッターで最もフォロワーを獲得しケイティ・ペリー「ロアー」は、日本で「最強ガール宣言!」というサブタイトルと“自分応援ソング”というキャッチコピーがつけられているが、果たしてどうか。“ROAR”の意味は“激しく吠える”で、歌詞の中では“ライオンよりも大きな声で”という比喩と共に使われているが、その前提となるのが冒頭の“今までずっと息をひそめていた”“静かに座ってうなずくだけだった”というくだり。そこから突然“あなたは私を押さえつけたけど、私は立ち上がった”という逆襲宣言が飛び出して、モハメド・アリの有名な台詞を引用しながら“I am a champion”と言い放つ。確かに強烈な自分応援ソングではあるが、押さえつけられていた暗い過去の経験を踏まえているところがミソ。シリアスとユーモアのバランスの取り方がとてもうまい。
そしてロード「Royals」。今回のグラミー賞で最大の話題となっている“恐るべき17歳”が歌うこの曲は“私たちは王族にはなれない”という繰り返しが印象的だが、“Royals”が指しているのはおそらく現代のセレブリティと呼ばれる人々(と、それに憧れる大衆)の浮世場慣れした生活感覚のことで、“ダイヤモンドなんか見たことない”という一行目から、彼らへの静かな反感をむきだしにするロード。そこから“そんなものはほしくない。私がほしいのは違うもの"と歌い、一転して“私をあなたの支配者にさせて”“女王蜂と呼んで"と、セレブたちとは違う価値観の中でリスナーと共にたくましく生きることを歌い上げる。韻の踏み方や表現にラップの影響が見られるので、言葉を額面通りに受け取るより、“こういう生き方もあるのよ”といったニュアンスが正しいだろう。こんなことを堂々と歌って大ヒットを飛ばした17歳。やはりロードは只者ではない。
そして最後はマックルモア&ライアン・ルイスfeat.メアリー・ランバート「Same Love」。以前に最優秀新人賞についてのコラムでも触れたが、彼らの歌詞はどれも着眼点が独特で、特にこの曲は同性愛を真っ向から取り上げて“すべて同じ愛だ”と高らかに歌い上げる歌詞が大いに話題になった。ちなみに「アメリカの音楽シーンは政権交代によって変わる」という考察を以前に聞いたことがあるのだが、きわめて政治的でもある同性愛というテーマの曲が大ヒットを記録したのも、オバマ民主党政権下だからこそという気も確かにする。
今回ノミネートの5曲には、多かれ少なかれ「個人のリアルな生き様」をさらけ出したメッセージ性の強いものが多い。どれが受賞するか?は神のみぞ知るところだが、超大型新人ロードを本命として、もしかしてマックルモア&ライアン・ルイスが受賞するかも…という予想も書き添えておこう。日本人でも歌詞がわかれば洋楽がより楽しめるという意味でも、「最優秀楽曲賞」の行方には大いに注目したい。
Text:宮本英夫/Photo:WireImage
『生中継!第56回グラミー賞授賞式』
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