【レビュー+Mailインタビュー】大野愛果、セルフカバー・アルバム完成「坂井泉水さんに顔向けできないような作品は絶対作ってはいけないと」
■大野愛果さんへ、BARKS編集部から8つの質問
「メロディと私のヴォーカルが合わさった響きが活きるサウンド作りを目指しました」
「小学校の頃からピアノを習い始め、楽譜を見て練習することよりも、好きな曲や浮かんでくるメロディを好き勝手に弾くことばかりしていた」という大野愛果。歌を作るソングライターであり、歌を唄うシンガーである。
実に11年ぶりとなるアルバムは、J-POPの歴史を彩ってきたナンバーたちのセルフカバー集であり、再び大野自身のもとで楽曲に新たな息吹が注がれた。気鋭アーティストたちと大野の手によってアレンジが加えられた作品は、聴き手の予想や期待といったものを軽々と超越する完成度の高さを誇り、ある意味ではセルフカバーという肩書きがどうでもいいくらいにオリジナリティに溢れて極まりない。前ページの楽曲解説で触れたとおり、リズムアレンジひとつ取っても原曲の魅力を最大限に活かしたものから、まったく異なる現代的なものまで実にさまざまだ。
“Silent”と“Passage”の狭間でこれら楽曲をとらえたとき、大野愛果というアーティストが浮かび上がりきっとその虜になるに違いない。彼女がこのアルバムに込めた想いをより深く理解するため、BARKSはMailインタビューを試みた。そこには楽曲制作を始めた当時と変わらぬピュアな音楽家、大野愛果の姿がある。
──それではずばり、13曲のセレクト基準と、タイトル『Silent Passage』の意味(このワードに込めた想い)を教えてください。
大野:アルバムの選曲は、まずスタッフさんが用意してくれた提供曲リストから、感覚的にパッパッと……。その中から、オリジナルと大野デモのアレンジの違いが大きかったもの、オリジナルとはひと味違ったアレンジに挑戦してみたいもの、バラードやアップテンポなどリズムやスピードのバランス、自分の声をのせたときにどうなるのか等……を考慮した結果、この13曲になりましたね。
『Silent Passage』というタイトルは、「静かなる通り道」いう意味で、パラレルワールドのように表の世界に対する裏の世界を表す言葉としてSilent、15周年という節目に立つ自分を振り返り、これまで歩んできた道のり、この通過点から未来へと続く道のりに伴う思いや、時間の経過を表す言葉としてPassageを選びました。
──前作から約11年ぶりのアルバムリリースとなります。もちろん、その間も作曲活動を続けてこられたわけですが、作家活動15周年を迎えた今、シンガーとして改めて自身の曲を歌おうと思った原動力とは何だったのでしょう。
大野:アルバム制作の話をいただいたときには、前作からかなり期間があいているということもあり、 正直迷いがありました……。ですが、それが自分自身を振り返るきっかけになり、11年間に様々な経験をして、長い年月がたった今だからこそ表現できるものがあるかもしれない。作曲だけするのとはまた違う、歌という分野を含めた新たな世界観を、今の自分で形にしてみたい。そう思うようになりました。
──アルバムのひとつの聴きどころが、初めてZARDのセルフカバーを収録したというところにあると思います。これまでもファンの方々からZARDカバーへの要望が多数寄せられていたとのことですが、数ある楽曲の中から「Get U're Dream」「かけがえのないもの」「夏を待つセイル(帆)のように」をセレクトした理由と、実際にレコーディングしてみた印象を教えてください。
大野:ZARDさんに提供した曲で特に思い入れがあるのは、初めて提供した「少女の頃に戻ったみたいに」だったのですが、これはあえて外しました。なんと言いますか、思いが強すぎて歌えない感じだったので……。
まず「Get U're Dream」、この曲はシドニーオリンピックのテーマソングで、作った当時のことが色々思い出され、またこれからアルバムを作るうえでのモチベーションをあげてくれる曲でもあり、イメージがブワッと溢れでてきたんです。「かけがえのないもの」「夏を待つセイル(帆)のように」も同じく、当時のことが思い出されたのと同時にイメージが浮かび、またZARDのファンの方々からも人気が高い曲だと聞いていましたので、今回はこの3曲を選びました。
カバーするにあたり、最初は不安の方が大きかったですね。自分がどこまでやれるのかわかりませんでしたし、坂井さんに顔向けできないような作品は絶対作ってはいけないと……。そんな中「Get U're Dream」のアレンジがあがってきて、そのストリングスの音に入りこみ、思いとヴォーカルを重ねていくうちに、自然と不安が消えていきました。そうだ、今自分が出来る精一杯のことをやればいいんだって。アルバム制作で壁にぶち当たった時とか、この曲がすごく励みになりましたね。
──アレンジャーには、池田大介さんや徳永暁人さん、古井弘人さんや岡本仁志さんなど、蒼々たる顔ぶれが並んでいます。原曲をリアレンジする際に大野さんから各アレンジャーへ出した要望などはありましたか? また印象的なやりとりがあれば教えてください。
大野:みなさんには、曲によってそれぞれ、デモの延長線上だったり、また ガラッと雰囲気を変えたものだったり、1曲1曲イメージ&キーワードをお伝えしました。そしてあがってきたアレンジに触発されて新しくアイディアが浮かんでは、手を加えてもらってという作業を繰り返しました。油絵のように色を塗り重ねていく感じですね。
印象的な出来事は沢山あるんですが(笑)、特に印象的だった事と言えば、「Get U’re Dream」をオープニング曲にするにあたり、それに相応しい前奏を池田さんに追加でお願いしたのですが、早速、次の日には音があがってきたんです。まさにイメージ通りでさすがだと思いました。このアルバムの幕開けに相応しい曲に仕上がり、凄く満足しています。他、度重なるやり取りで、大野曲至上最大のトラック数になった曲があります(笑)。「beginning dream」、その数なんと219トラック(笑)。アイディア、仕掛けなどたくさん盛り込んでいますので、ぜひ楽しんでいただければと思います。
──たとえば沖縄テイストが色濃い「key to my heart」やシンセビートが印象的な「1000万回のキス」など、新解釈のアレンジが楽曲をより新鮮なものに響かせているという感想を持ちました。これらは、原曲制作時に大野さんご自身が楽曲に抱いていたイメージをそのまま具現化したものなのでしょうか。それとも2013年の今だからこそ鳴らしたいサウンドだったのでしょうか。
大野:「key to my heart」と「1000万回のキス」に関しては、どちらも私が初めに曲が浮かんだ時のイメージを形にしたものですね。曲によっては新たなイメージで制作したものもあります。例えば「君の涙にこんなに恋してる」は、最初大野デモのイメージで進めていましたが、何かしっくりこなくて、急遽アレンジを変更して作り直したんですよ。アレンジャーさん泣かせですね……。
時代やジャンルにとらわれず、耳当たりがよく、メロディと私のヴォーカルが合わさった響きが活きるサウンド作りを目指しました。
──こうして13曲のアルバムが完成した今、作曲家としてのご自身を改めて振り返る機会にもなったと思うのですが、作曲家としてご自身を分析すると?
大野:うーん……分析ですか……自分のことを分析するのは難しいですね……。強いて言うなら 「我が音道を行く」でしょうか?(笑)。 基本、マイペースだと思います。
──今後の展望や2014年の予定などをお教えください。
大野:今回のアルバム制作をきっかけに、今後、よりいっそう貪欲に大野愛果サウンドを追求していきたいですね。
──では最後に、BARKSユーザーへメッセージをお願いいたします。
大野:今回のセルフカバーアルバムは、オープニング「Get U’re Dream」で始まり、「key to my heart」~「かけがえのないもの」が第一幕、「beginning dream」~「don't stop music」が第二幕、そして、エンディング「夏を待つセイル(帆)のように」で締めくくる構成になっています。第一幕はスタンダードな歌い方の大野さん、第二幕は冒険した歌い方のいろんな大野さんが登場します。1曲1曲にSTORY性を持たせ、様々な色の音楽が楽しめる作品になっておりますので、ぜひそのサウンドに触れてみて下さい。
構成・文◎BARKS編集部
■セルフカバー・アルバム『Silent Passage』
2013年12月25日発売
GZCA-5259 ¥3150(税込)
01.Get U’ re Dream <original:ZARD>
lyrics 坂井泉水 arrange 池田大介
02.key to my heart <original:倉木麻衣>
lyrics 倉木麻衣 arrange 麻井寛史 [Sensation]
03.笑顔でいようよ <original:三枝夕夏 IN db>
lyrics 三枝夕夏 arrange 岡本仁志 [ex GARNET CROW]
04.Time after time ~花舞う街で~ <original:倉木麻衣>
lyrics 倉木麻衣 arrange 古井弘人 [ex GARNET CROW]
05.静かなるメロディー <original:竹井詩織里>
lyrics AZUKI七 arrange 大楠雄蔵 [Sensation]
06.かけがえのないもの <original:ZARD>
lyrics 坂井泉水 arrange 西村広文 [アカシアオルケスタ]
07.beginning dream <original:菅崎 茜>
lyrics 菅崎茜 arrange 城大輔
08.君去りし誘惑 <original:上木彩矢>
lyrics 上木彩矢 arrange 鶴澤夢人 [BackPagez]
09.1000万回のキス <original:倉木麻衣>
lyrics 倉木麻衣 arrange 鶴澤夢人 [BackPagez]
10.Forever You ~永遠に君と~ <original:愛内里菜>
lyrics 愛内里菜 arrange 徳永暁人 [doa]
11.君の涙にこんなに恋してる <original:なついろ>
lyrics 奥野夏夕 arrange 安部智樹
12.don’t stop music <original:the★tambourines>
lyrics 松永安未 arrange 大浦史記 [Loe]
13.夏を待つセイル(帆)のように <original:ZARD>
lyrics 坂井泉水 arrange 大賀好修[Sensation]
◆大野愛果 オフィシャルサイト
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