【訊いてみた・後編】佐藤P、小林幸子で「<SXSW>とか出ようと考えている」

ポスト

今、ニコニコ動画で最も注目されているアーティストのひとり、小林幸子。

BARKSの独占インタビュー前編『【訊いてみた・前編】小林幸子、ラスボスと呼ばれることは「気持ちがいいですよ!」』では、ニコニコ動画での盛り上がりや“ラスボス”と呼ばれていることについての率直な心境などを紹介した。この後編では、2013年から小林幸子をプロデュースしている佐藤剛プロデューサーとともに、小林が9月にニコニコ動画に初投稿した“歌ってみた”動画の裏話や、ニコ動での盛り上がりがほかにも波及していった仰天エピソード、そして今後の展開について語ってもらっている。

  ◆  ◆  ◆

ニコニコ動画から始まった“幸子ムーブメント”は、違うところにも波及し始めている。彼女のファンクラブにも若い世代の入会申し込みが激増。コンサートにもニコ動経由で小林幸子を知ったであろう、演歌ファンとは明らかに違う、若い世代の観客が増えているのだという。さらに、10代のリスナーをターゲットにしているNHKラジオ第1『wktkラヂオ学園』(パーソナリティ:三浦祐太朗、福田彩乃)にて、現在、月イチで10代からのお悩み相談に応えている小林。同番組への抜擢された経緯には、本人もスタッフも驚いたという。

「私、今、NHKのラジオ(NHKラジオ第1『wktkラヂオ学園』)で、月に一回、10代の男の子、女の子たちのお悩み相談やっていて。それも最初、番組でリスナーの子たちに「誰からお悩み相談を受けたいか?」ってアンケートをとったら“小林幸子”っていう回答が多かったらしく。「えーっ!?」って。ありえないじゃないですか。「私……ですか?」って。そしたらNHKさんから「小林幸子さんダントツだったんで、お願いします。」って言われて。」

こんなエピソードもあって、番組のお悩み相談コーナーを引き受けることになったそうだが、そこには、相手が多感な10代の子どもたちだからこその苦労があるという。

「10代の子たちからの悩み相談って、どんな内容か見当つかなかったのもあってすごい心配だったんですよ。で、14歳の子からの悩みが「相手の目を見てしゃべれません。どうしたらいいですか? 幸子さん教えてください。」という世界で。でもそれって「そんなもん大人になればしゃべれるようになるわよ。」っていう大人の会話じゃ通用しないんですよね。だから、14歳の子に答えを出すために、みんなで集まって真剣に討論会をしました。「どうやって答えたらいいんだろうか?」って。」

「きっと、(目を見れない)相手は好きな子なのかもしれませんね。でも「大丈夫、大丈夫。一過性のものだから」なんて言ったら大問題になっちゃう。だからものすっごい言葉を選んじゃって。でもそれも新しい発見でしたね。これが30代、40代、50代の人が相手なら、きちんとその人にあった言葉で対応できるんですけど、13歳、14歳はものすごく大変。だけどものすごく楽しいし、刺激になる。」

これまでの演歌歌手としての活動だけでは決して得ることができなかった、新しい刺激。そんな刺激は、彼女の音楽活動のほうにも生まれ、そして変化をもたらしている。たとえば、最初に紹介した“歌ってみた”動画『【初投稿】ぼくとわたしとニコニコ動画を夏感満載で歌ってみた【幸子】』がそうだ。

2013年からプロデューサーの立場で小林幸子に携わっている佐藤剛は、「小林幸子の新しいソングライターは、ニコ動のボカロPとかに絶対いると思っていて。あの曲はヒャダインくんの作品だし、トライしてもらった。」と、この曲を取り上げた経緯を話す。もっとも、小林幸子がこの曲を聴いた最初の感想は「ななな、なんだこの曲は?」だったそうだ。

「私が東京オリンピックの年から歌ってきて50年、出会ったことのないメロディーと詞でしょ? だって「最強の暇つぶし」なんて言葉が歌詞になるなんて。ビックリしましたもん(笑)。あと、音頭モノとかいろんな曲を聴いたり歌ったりしてきたんですけど、どうも「音頭」ってタイトルなのに、音頭モノじゃないんですよね。河内音頭や琉球モノっぽいけど、違うなぁ。1拍3拍でもリズムが取れない、2拍4拍でも無理……って剛さんに言ったら「4つ打っちゃえばいいの」って。いろんなリズムが出てきて、伴奏もまたリズムが違って。さらに和楽器の伴奏で、こう、“すくう”テンポだから、みんな合わないんですよ(笑)。」

小林をはじめとして、演歌・歌謡曲の歌手の多くは譜面をもとに歌入れをする。ところがこの曲は、上記のような理由もあって、まず譜面に起こすことができなかったという。難なくサラッと歌っているように聴こえる『【初投稿】ぼくとわたしとニコニコ動画を夏感満載で歌ってみた【幸子】』だったが、その裏で小林は、従来通りの歌入れのやり方を捨て、まずオケを聴き込み、そして歌詞を読み込み、自分なりの解釈で考えて歌うというバンドのボーカリスト的なやり方をとった。そしてこの時、佐藤プロデューサーは、小林幸子は「バンドと一緒に音楽活動ができる」と、確信したという。

11月1日、<50th Anniversary 小林幸子&ソノダバンド LIVE ~岩谷時子を歌う>と題したライブイベントで、小林幸子はソノダバンドとともにステージに立つ。小林幸子のバックバンドではない、いわゆる“バンド”とセッションする形のライブは、彼女自身、初の試みだという。「今、ソノダバンドと一緒にリハーサルやっているんですけど、彼らが考えてきたアレンジも、時には「この曲は違う」って、一旦白紙に戻して、(小林も含めて)ゼロから一緒になって、みんなでアレンジを考えなおしたりして作ってます。」と、佐藤プロデューサー。なお、小林幸子のFacebookには、スタジオでソノダバンドのメンバーと一緒にリハーサルしている写真などが掲載されている。

「でもソノダバンドって、みんなすっごい演奏上手いんですよ。20代なのに。彼らは上手い。」

これまでの演歌歌手としての活動では経験したことがなかったというバンドとのセッション。ソノダバンドとのリハーサルはすごく刺激的だと目を輝かせる小林幸子。では最後に、そんな刺激に満ちあふれている彼女は、今後、どんな活動を行なっていくのだろう。佐藤プロデューサーの口からは、これまた刺激的なワードを聞くことができた。

「ひとつはボカロPのような新しいクリエイターとの出会いで、奇跡的な化学反応を起こしたい。もうひとつは、リアルなバンドと、アレンジからスタジオに入って作品を作りたい。そして夢を言うと、世界に出たい。着々と計画しています。日本のシンガーとして<SXSW>(※1)とか出ようと真面目に思っています。」

※1:SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト):アメリカで開催される世界最大のミュージックコンベンション

<ニコニコ町会議>のような日本の隅々を回るイベントと、アジア、そして世界というグローバルな活動。この両軸で、小林幸子というシンガーの存在をあらためて広く伝えていきたい。そして小林幸子は世界にも通用するシンガーであることを証明したい。これが、佐藤プロデューサーが描く小林幸子の未来だという。

一方、これまで「演歌、歌謡曲は形がこう」という作られたイメージ、守られた枠組みの中で活動してきたという小林幸子。ところが芸能生活50周年を前に、環境等々の変化もあってこの枠を取っ払ってみたところ、一気に視界が広がり、そして同時に、周りが新しいことを次々に小林に提案してきたそうだ。

「私も面白がるほうですから(笑)。躊躇しなくてわりとスッと入っていく性格なもんですから、大スベリするかもしれなかったんですけど、やっていったことが受け入れていただけたのかなって思います。とりあえずやってみる、というのが、今回の新しいことに全部つながっていった感じですね。」

  ◆  ◆  ◆

芸能生活50周年からの“やってみた”。ニコニコ動画に流れるスピリッツとも相通じるこの柔軟性とノリの良さこそ、小林幸子がニコニコ動画ユーザーにウケている理由なのだろう。


text by ytsuji a.k.a.編集部(つ)

◆BARKSインタビュー
◆小林幸子 オフィシャルサイト
この記事をポスト

この記事の関連情報