ベルリンの壁崩壊直後、1990年代ベルリン・カルチャーシーンを捉えた映画『ベルリナイズド』

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ドイツ・ベルリンのカルチャーシーンは、今なお熱い。そこには、イギリスで言えば1970年代末にラフ・トレード・レコードから個性的なアーティストが続々登場してきたような、日本で言えば1980年代初頭から、JAGATARAなどのバンドが登場してきたような、自由な空気がある。しかし、1990年代のベルリンは「もっと熱かった」らしい。

◆映画『ベルリナイズド』画像

ベルリンからレポートしている魅力的なアーティストたち、イッツ・ア・ミュージカル、マーシャ・クレラ、リーケ・シューベルト(Rike Schubert)、ハンス・レーマン(Hanns Lehmann)、コントリーヴァやシュナイダーTMたちは、1990年代、ベルリンの壁が崩壊した前後から、ベルリンで音楽活動を開始した。その当時のベルリンでは、プレンツラウアーベルクやクロイツベルクを中心に、普通のアパートを多少改造した狭苦しいクラブや地下室などで、アンダーグラウンド的なファッションショー、詩人の朗読会や、様々なインディーズバンドのライブがゲリラ的に行われたらしい。

だが、ベルリンの壁崩壊から20年以上の年月が過ぎたいま、ベルリンを訪れても、その「何か新しい文化が、今まさに生まれようとしている瞬間」を目の当たりにするのはちょっと困難だ。「プレンツラウアーは、1990年代の雰囲気と比べると、今ちょっとオシャレになりすぎてしまった」とその時代に音楽活動を開始したマーシャやシュナイダーTMらは、口を揃えて語る。

でも、「1990年代の本当にベルリンが熱かったころの雰囲気が知りたい」「当時の雰囲気を追体験してみたい」というかたに、打ってつけのドキュメンタリー映画がある。ルシアン・ブッセ(Lusian Busse)監督による2012年に上映を開始された映画、『ベルリナイズド(原題:Berlinized Sexy an Eis)』がそれだ。

このドキュメンタリー映画は、当時のベルリンで活動を開始した、DJ、ミュージシャン、画家、デザイナーなどなど様々なアーティストの歴史的証言としてのインタビューと、ブッセ監督によって当時撮影された映像を織り交ぜながら、1990年代のベルリンのカルチャーシーンを見事に描いている。伝説的なイベント・スポット、ギャラリー・ベルリン東京(galerie berlintokyo)が結成に至った経緯や、1990年末ごろのミーナ(Mina:マーシャ・クレラ、ノーマン・ニッチェ、ハンス・レーマンが在籍)のライヴ風景は貴重極まりない映像で、これだけでも見る価値がある。サウンドトラックも発売されており、舞台『ファウスト』(参照:https://www.barks.jp/news/?id=1000086477)などの音楽監督を行っているマルチ・ミュージシャン、クリストファー・ウーエ(Christopher Uhe)が作曲を行っている。

ブッセ監督は、1980年代にベルリンに暮らし始め、1990年代ベルリンの壁崩壊前後の時代にalien tvというビデオ・ショーを行い始めた。「その時代にたくさんのアーティストのイベントを撮影しました。それを編集して『ベルリナイズド』にしたのです」とブッセ監督。「壁の崩壊直後、東ベルリンの多くのアパートが無秩序状態で、家賃もとても安かったのです。家賃がかからず、水光熱費だけ払えばいい、というケースもありました」。こういった特殊な経済的な背景が、ベルリン1990年代のカルチャーシーンの自由な雰囲気に与えた影響は大きいのだろう。その時代、インターネットよりもチラシで人々は面白いイベントやコンサートが行われるという情報をキャッチしたという。「すべてがテンポラリーで、融通が利いて、ニッチだったと思う」と現在と1990年代の大きな違いを彼は語る。

興味深い1990年代のベルリンの光景が浮き彫りにされる。だが、単なる過去への回想映画に『ベルリナイズド』は留まっていない。ブッセ監督は、「現代のベルリンの風景も、テンポラリー(一時的)な断面に過ぎなくて、そしてその現代自体が大きな作品であること、そしてそのなかに未来へのいくつもの可能性が秘められていること、をこの映画で伝えたいのです」と語る。確かに1990年代のベルリンの“混沌”が現代のベルリン文化に刻印したものは計り知れなく、それを土台としているからこそ、ベルリンのカルチャーシーンは今もなお面白いのだろう。

『ベルリナイズド』。ドイツのミュージック・シーンに興味があるならば必見の映画だ!

文:Masataka Koduka, Berlin

◆『ベルリナイズド』オフィシャルサイト
◆Alien TV
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