【ライブレポート】acid android、「new song」が示した確実に新たなサウンドの正体

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L'Arc~en~Cielのドラマーyukihiroのソロプロジェクト、acid androidによる2013年初ライヴ<acid android live 2013>が4月20日、リキッドルーム恵比寿で開催された。

◆acid android 画像

2012年、acid androidには進化とも転換とも呼べるような変化があった。まずは、geek sleep sheepのシークレットライヴも行われた8月の<acid android in an alcove vol.5>でのことだ。この日のステージにはyukihiroとドラマーのみという2人編成で登場。yukihiro自身がギターを手にしたオープニングナンバー「unsaid」があったものの、その後演奏された「daze」などのナンバーは、すべてギターレスによるアレンジが施されていた。シンベのリズムとシンセ音が強調されたサウンドは、その時点ですでに新たなacid androidを象徴するように先鋭的だった。

翌月となる9月22日、<BUCK-TICK FEST 2012 ON PARADE>に参加したacid androidは、yukihiroに加えてギタリストとドラマーという3人編成でステージに登場した。これまでとは異なるメンバーを従えたサウンドは、acid android のさらなる発展を感じさせるものだった。そして11月の<acid android live 2012>。東名阪を廻ったこのツアーでは、全公演でPeople In The Boxの山口大吾がドラムを務め、大阪と名古屋公演ではLillies and RemainsのKENT、東京公演ではTHE NOVEMBERSの小林祐介がギタリストとして参加するものとなった。新進アーティストの起用はacid androidに鋭さと生身の躍動感を加え、しかし同時に、acid androidはyukihiroという奇才が思い描いた音の欠片をカタチにする場所であり、編成やメンバーは異なれど、yukihiro自身がacid androidそのものである、という事実を色濃く浮かび上げたのだった。

4月20日、2013年初となるライヴ<acid android live 2013>が開催された。定刻通り18時に場内が暗転すると山口大吾とKENTがステージに姿を現した。次いで、yukihiroの登場によって場内に嬌声が上がり、超満員のフロアが前へ前へと押し寄せる。そして鳴らされた第一音は山口大吾のバスドラによるものだ。その音圧は凄まじく、会場全体がブルっと振るえるような重低音が響き渡る。オープニングナンバーは「i.w.o.m.f.p.p just an android」。KENTによるソリッドで肉感的なギターリフが場内の温度を一気に高めていく。

続く「balancing doll」「clockwork dance」も前曲同様、エレクトリックビートを前面に押し出したトラック処理が施され、原曲が持つメタリックギターのイメージとは異なるアレンジが構築されていた。こう記すと、acid androidサウンドがエレクトロ寄りに変化したという印象を与えてしまうかもしれないが、そうではない。エッジの効いたギターサウンドが、暴力的なシンセベースに取って代わる瞬間があり、楽曲を興奮とも恐怖ともつかない高揚感に襲われるボディミュージックに昇華する。空間をねじ曲げるようなウネリが身体のなかを駆け巡り、脳を激しく揺らすのだ。

アルバム『13:day:dream』収録曲を中心に構成された序盤から、中盤は初期のアルバム『acid android』や、『purification』収録曲からのナンバーを披露。「defunct」も含め「mode inversion」などはもともとメロディラインがフィーチャーされた楽曲だが、とりわけ「unsaid」にはヴォーカリストyukihiroの存在感が際立つ。寄せては返す振り子のような永久運動を繰り返すシンセフレーズのなかで、わずかワンフレーズの旋律を歌い続けるyukihiroの声は、痛々しいほどの切なさを静かに浄化するように響いた。

その静寂を切り裂くように吹き荒れるギターのノイズ。地の底から響き渡るような重低音と、唸りにも似たヴォーカルが迫りくる「double dare」や「pause in end」は会場に緊迫感を与える。また、大々的なピアノアレンジが施された「purification」は荒涼としていながらも厳かな世界が繰り広げられ、ストリングスの音色が感情に訴えかけるようにドラマティックだ。

そしてハネたギターリフが鳴り響くと同時に客席が一斉にジャンプした怒濤の後半、「imagining noises」で会場の温度が一気に上昇するのを肌で感じた。「egotistic ideal」ではクラウドサーフがフロアのそこかしこに見受けられ、そのインターでは山口の生ドラムが小気味よく鳴り響く。英語バージョンで披露された「violator」はyukihiroのステップも一層激しく、時にしゃがみこんで歌う姿にフロアから多くの手が伸びて、あまりにも美しい光景が広がった。

注目は、このあと披露された新曲にある。「new song」とセットリストに記されたこのナンバーは、acid androidの現在形を象徴すると言っていいだろう。透明感を持ちながらも密度の濃い音空間、冷たく無機質なビート、ドラマティックなシンセサウンド、インターでKENTが響かせたE-Bowによるストリングス的なアプローチ、そしてメロディアスなヴォーカルラインが聴く者を満たしていく。ある意味では、yukihiro的解釈のニューウェイヴともいえるサウンドプロダクションが印象的な仕上がりだ。インダストリアルな肌触り、エッジの尖った歪み、叩きつけるビート、と完成美まで至った感があるacid androidサウンドは、今、確実に新たなベクトルを指し示していると感じられた。

ラストナンバーは「let's dance」だった。いつものように、マイクを投げ捨てたyukihiroがステージをあとにすると、全17曲を一気に駆け抜けた濃密な時間が終了した。

このライヴでみせたのは、エレクトリックノイズでも、インダストリアルでもない新境地。メロディの美しさに加えて、身体が思わず反応するような変わらぬビートがあった。止まるところを知らないyukihiroの創造力と感性は、今までのacid androidとも、もちろんgeek sleep sheepとも違う新しいサウンドをみせてくれた。現在、acid androidは音源制作を行なっているそうだ。しかもその手法はこれまでとは異なるという。ループやコラージュを駆使したニューウェイヴ的な方法論や、どんな編成でもできてしまう制約のなさ、そこからacid android=yukihiroがどんなサウンドを生むのかを想像しながら、音源の到着を待つのも悪くない。

取材・文◎BARKS編集部 梶原靖夫 撮影◎岡田貴之

<acid android live 2013>
2013.4.20(sat) liquidroom ebisu set list
1 i.w.o.m.f.p.p just an android
2 balancing doll
3 clockwork dance
4 gamble
5 intertwine
6 defunct
7 mode inversion
8 unsaid
9 double dare
10 pause in end
11 purification
12 swallowtail
13 imagining noises
14 egotistic ideal
15 violator
16 (new song)
17 let's dance

◆acid android オフィシャルサイト
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