【インタビュー】木村カエラ、「大人になってきてるし、自分より大切なものもすでにあるし。もう怖くない、そんな感じです」
木村カエラの1年2カ月ぶりとなるニューアルバム『Sync』(シンク)が12月19日にリリースされた。軽快なクラップが印象的な先行シングル「マミレル」から、ディズニー映画『フランケンウィニー』インスパイアソング「WONDER Volt」まで、自然と身体が動くポップな楽曲が揃っている。しかし、聴き終えた後、これまでの作品とは何かが違う余韻を残すのだ。その理由は何なのか? 代表曲となった「Butterfly」の反響が木村カエラにもたらしたもの、そこから見つけ出した自身の答えとは? 『Sync』の木村カエラは、過去最高に自然体だ。
◆それまでとは表現方法が違う「Butterfly」が受け入れられたことによって、
自分の感覚がすごくゴチャゴチャになってた。
――オリジナルアルバムとしては7枚目となる『Sync』ですが、いままでのアルバムとは違う、切ない余韻を残す作品だなという印象を受けました。
カエラ:切なさとか、淋しさとか、そういうことがけっこう入ってるんですけど、人が前を向いて歩き始める前の段階の部分というか。すごく当たり前のこと、日常的にふと思うことがけっこう歌詞の中に入っていて、そこから見える希望だったり、やさしさだったり。私にとっては、かなりナチュラルな、新しいアルバムになったなぁと思ってます。
――曲は書き溜めていたものの中から選んでいったんですか?
カエラ:全部アルバムのために曲選びをしました。「マミレル」(2012年5月発売シングル)から作りはじめたんですけど、そこからアルバムを作っていった感じですね。
――アルバムのテーマもその頃から決まっていたんですか?
カエラ:歌詞の内容のテーマとして決まっていたものはそれほどなかったんですけど。音づくりの上でテーマにしていたことは最初からあって。いろんな方に書いてもらって、いろんな自分を引き出したいっていう思いがまずあったのと、すべての曲、どんな曲があったとしても、リズムがちゃんと目立つ音というか。リズムをキーワードにして全曲作っていこうということがありましたね。言葉の捉え方って様々で “頑張って”の一言をかけたとしても、その“頑張って”っていう言葉で頑張れる人と、“もう頑張ってるよ”“もう頑張れないよ”って、その言葉が逆に重みに思う方もいるかもしれない。じゃあ、人によって捉え方が違う中で、全員一致しているものって何だろう?って考えたときに、心臓が動いていてリズムを刻んでいるっていう、みんなが持ってるもの。それをリズムとして曲に立たせて作っていくことによって、何かしらの共通点が生まれるんじゃないかなって思って。それで最初からリズムを意識して、音を作っていこうって。
――リズムの種類ではなく、リズムそのものを立たせるという。
カエラ:そう。たとえば「マミレル」だったらクラップだし、「Hello Goodbye」だったらいろんな打楽器のリズムを重ねたり、「WONDER●Volt」は打ち込みのドラムだけではなくて、雷の音や実験のポコポコっていう音や犬の声でリズムが作ってあったり。優しい曲でもミディアムテンポの曲でも、ハードなものでも、身体が揺れるような、リズムを感じる音楽にしたいなと思っていたんです。
(※編集部注:「WONDER●Volt」の●=稲妻マークが入ります)
――音楽や言葉って、そもそもリズムから生まれたものですからね。
カエラ:そうですね。音楽はやっぱり、人の心を揺るがすものだったり、音楽に包まれる気持ちよさを感じるし。自分も他のアーティストの曲を聴いたときに、元気になる曲は、やっぱり共感できる、力になるものが音楽だよなぁって。ほんとに原点に戻った考え方をするようになっていて。1stアルバム『KAELA』(2004年12月発売)以降、自分がいろんなことに挑戦したいから、いろんな方に曲を作ってもらってきたんです。そうすると、作ってくれる人たちがすごくパンチがあって個性的な方が多いから(笑)、そこに負けないようにって奇抜な歌詞を書いたり、いかに歌が目立ってくるかとか、楽曲に負けないようにして。そのぶつかり合いから出てくる面白さみたいなものを、作品として作っていくことがすごく多かった。でも今回は、歌も歌詞も含め、ひとつの音楽というか。とってもナチュラルに、スムーズに聴こえる……ある意味、引っかかりがないくらいの。そういうことを意識して、いつもだったら言葉を多めに入れてみたり、ちょっとリズムをずらしてはめてみたりしていたところを、全部オンのリズムで歌を歌ってみたり。そういうふうに、歌も含め、音楽に包まれる、人の心が解放されたり、ナチュラルになっていくのがいいなぁと思って作っていましたね。
――ボーカルも、声を張ったものよりもナチュラルに発声している印象です。
カエラ:そうなんです。それも音の一部にしたいなぁっていう思いがあって。いままでは、負けたくないから声を張ってみるとか、変な戦いをしてたり。でもそういう次元じゃないんだな、今回はって。声も音になって包まれてるっていう意識でいたら、こういう声になったっていう感じですね。
――なるほど。で、歌詞がいつも以上に自然体というか、赤裸々な言葉で表現されているなぁと。
カエラ:たしかに。いま言われてみて、そうだなって思いました。私にとっては当たり前の普段考えていることなんだけど、いままで書いてきた歌詞は、そこを何かに例えたり、面白い言葉で自分の感情を歌ったり、ちょっと誤魔化して面白くしてた部分もどっかにあったから。そういった意味では、それが分かりやすくなると、かなりリアルさを増すのかも(笑)。
――驚きました。
カエラ:でも、自分の感覚的には、ちょっと1stに戻った感じがするというか。ここからまたスタートのような、自分にとって節目のアルバムになっている感じなんです。もともと私は、表現方法もちょっと奇抜だったりするから、そういう私のことを好きな人もいるし、嫌いな方もいるっていう意識が自分の中にいっつもどこかにあったんです。でも、「Butterfly」(2009年6月発売アルバム『HOCUS POCUS』収録)で自分の素直な気持ちを歌ったときに、すごくたくさんの人があの曲を受け入れてくれて、すごくたくさんの人が聴いてくれた。あれもものすごくナチュラルなことだったんだけど、それまで自分が表現してきた自分の世界観とはまた別のベクトルで、曲が一人歩きをし始めたんですよね。そのときに、やっぱりそもそも歌を歌ってる理由として、人を勇気づけたいとか元気づけたいとか、そういう思いがある中で、表現方法が違う「Butterfly」が受け入れられたことによって、自分の感覚がすごくゴチャゴチャになってきて。
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